4th Stg第47話「The Sullen Tones-1」
よく晴れた日の朝、フォイオン国ではごく普通の時間が流れていた。スーツ姿にハイヒールを履いた女性が、サンドウィッチを購入しようとビジネス街にあるお店に飛び込んでいった。そんなお店のテーブルに座っていた初老の男性が読んでいる新聞記事には、ヘリコプターが宮殿を襲った一連のテロ活動に関する記事が載せられていたが、典型的な日和見国民・・・ある意味平和ボケというのかもしれないが、国民のそのほとんどはそれを国家の一大事件とは感じていないようだった。
そんな街の道路を、警察のオートバイに先導された3台の高級車が颯爽と走り去っていった。
とある中学校の校門前では、校長とその付随者が、ソワソワした様子で誰かを待っていた。ふと見ると、当たり周辺には私服の警官など含め、かなりの数の人間が警備に当たっている様子が伺えた。
「そろそろ・・・ですな・・」ネクタイを締めなおしながら、少し頭の毛が薄い校長が時計を見て一言ボソッと言い放った。その瞬間、時間通りに先ほどの3台の車が道路の彼方から現れた。校長とその付随者たちは、生唾をゴクリと鳴らし緊張か一気に高まった様子だ。校門前でその車列が停まると、後方座席のドアが開きアンドレ王が出てきた。
「これはこれは・・・アンドレ王。ようこそわが中学校へ・・・私は校長のバラキレフといいます。」
「わざわざ、お出迎えしていただきありがとうございます。」
「いいえ、お忙しい中我が校の創立30周年記念行事に来ていただけるなんて、私ども感無量でございます。では是非、こちらへ・・・」
そういうと校長は、いそいそと彼を誘うように校内に入っていった。アンドレが出てきた後部座席の反対側から、遅れてひょっこり顔を出したのはサラだった。
「中はもちろん、チェック済みよね?」今日のサラはどことなくけだるそうだ。別の車から出てきたベンにそう尋ねながら、飾り気のない上着の奥に吊るした拳銃用のホルスターを確認して、ジャケットのトップボタンを開けた。
「もちろんだ。行くのか?」
「なんだか気が乗らないけど・・・ちょっと付き合ってくる・・・」
嫌々ながらアンドレの後を追うサラに、ベンは笑いながら声をかけた。
「子供には優しくな。」
「一番、苦手なんだよ・・・」
頭をくしゃくしゃとかきむしるサラだった。ふと前方を歩くアンドレが、近くにサラがいないことに気づき、不意に後ろを振り返った。
「サラ?どうかされましたか?」
「ああ・・・今行く・・・」少し小走りになって後ろを追いかけてくるサラだった。その様子を見たバラキレフ校長がアンドレに声をかけた。
「あの方が・・・サラ嬢ですかな?」
「ええ、まあ」
「なかなか健康そうな、たくましいフィアンセですな。」
「はい、それはもう・・・」そういって苦笑いするアンドレだったが、その話を耳にしたサラの表情は余計に無愛想になった。
『まったく・・。少しは行事を減らせないのかしら??』
宮殿にヘリコプターまで繰り出して襲ってきた事件から、まだ幾日も経っていないというのに、こんな中学校の行事になんか出席するべきではないと意見具申をしてみたが、その意見は聞き入れてもらえなかった。
おかげで相当数の警察による警護と、交通統制、爆破物等の事前チェックなどなど・・・どれだけのマンアワーがかかっているか計り知れない・・・。
学校にある大きな体育館には、全校生徒が集められていた。創立30周年記念行事に際して文化祭も開かれる今日、アンドレ王の母校でもあるこの中学校に、わざわざ彼が来てくれることを知った生徒達・・特に女子生徒はこの日を心待ちにしていたことには違いない。アンドレはこの中学校に通っていたのだが、兄のロイはここでは学んではいなかった。王家の正式な継承者であるロイには、セレブが通う名門中学校に通わされていた。
しかしながら、学校での成績は自由奔放な毎日を送っていたアンドレのほうが、断然優秀だった。そのため、ロイは父親から幾度となく叱責されこの頃から少しずつ、その窮屈な生活に不満を抱き始めていたらしい。
体育館にアンドレが姿をあらわすと同時に、女子生徒の悲鳴のような声が彼を迎えた。
「・・・・・・」それにはアンドレ自身も相当驚いた様子だった。
「こら!静かにしなさい!!」近くにいた先生や警察に、生徒たちがパニックにならないよう落ち着かせると、アンドレはゆっくりステージに向かって歩き始めた。
「まるで、どっかのアイドル歌手みたいじゃない?」隣にいたサラは彼に皮肉って見せた。
「少しはやきもちでも焼いてくれますか?」
彼の言葉にサラは髪の毛を後ろで縛りなおしながら、全く気にしていない様子でこういった。
「だって・・・・中学生でしょ?別に・・・」アンドレはそんなサラに微笑んで見せた。
近所の公園に駐車中のICCトラックの周辺にも、多くの警察官の姿が見えた。
「オスカー、知ってる?このニュース・・・」
「何?」屋外では物々しい警備中の様子だが、トラック内ではのんきに新聞を広げ、椅子にふんぞり返っているホウィの姿があった。そんな彼の態度とは別に、オスカーはしきりにモニター画面を注視していた。
「3日前にエレオ市にあるカジノで、女性が大暴動起こしたんだって。理由が大負けしたからってやけくそになって、回りのマシンを壊しまくったって話・・・おっかねー。」
「その壊したマシン代、弁償するためにまたカジノに行くんだろうね。」
「こういうギャンブル狂は困ったもんだね。遊び程度ならいいけど、必要な生活費まで手を出しちゃう人も多いみたいだから」
「そういうお前も、ナンパ狂じゃないか・・あんまり人のことは言えんぞ」
「なんだってー。俺は違うぞ。周りの女性が俺を放っておかないだけさ・・・どれどれ・・この女性の名はヤン・スンニ 35歳。・・・」
そんなホウィを無視するかのようにモニター画面を見ているオスカーだったが、その表情が一瞬にして厳しくなった。
「これは・・・。今全員生徒たちは体育館に入っているはずだが、校舎裏庭に一人子供が残っている。」モニターに映し出された長い黒髪の少女が、座って地面に何か落書きをしている様子が映し出されていた。
オスカーは先日の宮殿を襲ったヘリの件から、いっそう四周監視には気を使っていた。2度と同じミスはしないと心に決めた様子だった。しかし能天気なホウィは、まだ新聞から視線をそらすこともなく、こういって見せた。
「それは絶対サボりだな。まさか子供のテロリストなんていやしないよ。ここは平和なフォイオンですよ〜〜」そこへ無線から飛び込んできたサラの声が、ICCトラック内に響き渡った。
「子供も立派にテロ活動をしている国もあるわよ。確認してくる。ベン、10分ほど離れるわ。」
「了解」
サラは無線機に帰ってきたベンの声を聞くと同時に、急ぎ足でアンドレの元を離れていった。体育館の上方に位置する狭い通路に立っていたベンは、サラがその場から離れていくのを確認すると、双眼鏡を取り出し生徒たちの様子を監視し始めた。
サラは急いで校舎の裏に向かった。そこには女の子が一人、地面に座って木の棒で地面に何かを書いている姿が見えた。サラはその女の子に近づいていくと、服もボロボロで小汚い格好をしていることに気づく。
「ここで何をしてるの?」
「・・・・別に」サラは精一杯優しく聞いてみたが、彼女からの返事はそっけないものだった。
「あ・・・ほかのみんなは体育館に入ってるわよ・・・」
「そのみんなに・・お前は来るなって言われたの。私は臭いし・・・汚いから・・アンドレ王が不快になるって」
「そんなこと・・・。名前はなんていうの?」サラは腰を下ろしそうっと彼女の目を見て質問すると、女の子は小さな声で答えた。
「・・・ソニン」
「OK、ソニン。私の名前はサラ・・・ご両親は?」
ソニンは急に両親の話になると、うつむいて黙ってしまった。
「あ・・言いたくないのなら無理にはいいわ。あ・・私も子供のころはものすごく汚い環境で育ったのよ。なんていうのかな・・砂漠の中の掘っ立て小屋みたいなところにいたの。」
「・・・なんで私にそんなこというの?・・みんな私のことを嫌っているのに、急に目の前に現れてそんな事いうのはおかしいよ。あ、もしかして・・・私を攫おうとしてる?」
「攫う?」ソニンは急に立ち上がり、持っていた木の枝でサラを勢いよく指差した。
「借金取りから頼まれたの?そんなことをしても無駄よ・・お母さんに払えるお金なんてないから!」そう言うと、木の棒をサラに投げつけ走っていってしまう。
「ソニン!!」ふと見ると彼女のポケットにはフルートが入っていることに気づく。そこに能天気なホウィの声が、無線に飛び込んできた。
「北朝鮮の工作員だった?」
「まさか!ホウィ、ちょっと調べてくれる?名前はソニン。この学校の生徒のこと。」
「おいおい。テロリストじゃなきゃ別にほうっておけばいいじゃねえか?」
「そうなんだけどね・・・・どうせ新聞読んで暇なんでしょ?ここはひとつ頼むわ」
ICCトラックにいたホウィが新聞を降ろして、飛び上がって驚いた。
「げ?俺、見られてた?」
「ほら!仕事、仕事!!」オスカーがそう言って彼をトラックからつまみ出した。
「俺は大人の女性しか調べないよ!!・・・もー!!」
まだこの時には、これから徐々に姿を現す恐ろしい悪魔の集団が、ここに潜んでいようとは誰も思ってはいなかった。
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