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Mission!!
作:Rach



3rd Stg第45話「Oscar Rabindranath-2」


話はかれこれ、数年前にさかのぼる。日本の首都東京にある名門大学に通う、留学生のオスカーは、一日のほとんどの時間を学業に費やしていた。この日も、専門であるIT関連の講義とは別に、自ら進んで近代日本史の授業に参加していた。
講堂内では終了のチャイムが鳴ると同時に、学生たちは次々と席を立ち、廊下へ飛び出していった。その教壇に立っていた老いた教授も本を取りまとめると、ヨロヨロしながら教室を去っていった。
オスカーは、その白髪交じりの年老いた教授を引き止めた。
「三上教授、すみません。お引止めして・・・。この日本語はどういう意味なのでしょうか?」
オスカーは日本史の教科書を開くと、一点を指差し質問した。しかし老眼鏡をカバンの中にしまっていた三上教授は、オスカーの持っていたテキストの小さい文字を読むことができず、じっと眼を凝らして覗き込んだ。
「ああ、ラビンドラナード君。どこかね?」
「ここです、ゴゼンカイギ・・っていうところなのですが、午前中ばかりに会議をするのは何か理由があってのことなのでしょうか?」インドからの留学生が、真面目な顔をして[御前会議]の意味を聞いてきたのだ。三上教授は突然笑い出した。
「あははは!!過去にも君と同じ間違いをした人がいるよ。太平洋戦争中、日本軍の暗号解析に成功したアメリカ軍だ!!君はとっても英語と日本語が上手だ。でもやはり漢字のトリックには手を焼いているようじゃね?」
「アメリカ軍も?」オスカーはきょとんとした様子で教授の言葉に耳を傾けた。
「しかし、当時はカタカナ表記ばかりだったから、午前中に会議が行われたと誤訳するのは無理もない。でもよく見てごらん。御前会議という漢字が使われておる。これは天皇が臨席し、国の重要な政策を閣僚・元老と共に決定するために開催される会議という意味なんだ。」
「御前・・・。」オスカーはその話を聞いて、黙り込んでしまった。深くその言葉の意味を理解できたわけではないが、なかなか日本語のトリックは難解だと感じていたようだ。
彼の専攻しているコンピューターIT系ならまだしも・・・。

三上教授は彼が自分の生徒ではないことを知っていたが、あえて教室から追い払うことはしなかった。彼の勤勉さには心から感服していたし、何より他国の文化を知ることは、すばらしいことだと思っていたからだ。二人はいっしょに廊下を歩き出した。
「君はIT関連の・・・いわゆる理数系の学生なのに、近代日本史の授業に出ているのは何故なんだね?」
「あ・・・それは・・」
「まあ、私の授業は多くの学生に解放しているから、誰が聞いてくれてもかまわないのだが。まあ、せっかくインドから日本にきたので、わが国の歴史や慣習を知ることも喜ばしいことだがね。それとも、君にとっては理数系の授業は優しすぎて、暇をもてあましているとか?」
「いえ、そんなことはありません。ただ、私のおじいさんが日本軍人で、終戦だというのに日本に帰らずインドネシアに残って、オランダとの独立戦争を戦ったと聞いていたので・・・。なぜ、他国の戦争に加担したのか知りたいと思ったからです。」

「君の・・・おじいさんが?」その話を聞いて、三上教授は足を止めた。
「ええ、名前は重森和幸。階級は少佐だったと聞いています。」
「・・・・・・・」教授はじっとオスカーを見つめた。なにかおかしなことを言ったのかとオスカーは心配になった。
「教授?」教授はうつむいた。
「その答えを探しているというのかね?」
「ええ・・・なにか日本国にとって、そうしなければならなかった理由でもあったのでしょうか?特別な命令を受けていたのでは?インドネシアがオランダの植民地になることを、日本国は望んではいなかった・・・そう考えるほうが妥当です。だとしたらなぜ、彼らは日本国軍籍を捨てなければならなかったのか・・・ひどいことをすると思いませんか!?」
三上教授はうつむきながら静かに答えた。
「・・・その答えは、とても一言では説明できんな・・・。そうだ。今週の日曜日、君は何をしている?」
「日曜日は・・特に何も・・・」
「サッカーは好きか?よかったら見に行かないか?ちょっとやそっとじゃ手に入らない国際戦親善試合のチケットが一枚あまっておる。」
「ええ?本当ですか?行きます!!」オスカーの表情は一転して喜んだ。日本に来て以来、遊びに出かけたという記憶がない。暇さえあればLABで勉強するか、アパートでコンピューターと戯れている。それが彼の日常だった。
「じゃ、待ち合わせ場所はまた後で連絡するよ・・」
教授はそう言ってオスカーに別れを告げると、また廊下をゆっくり歩いていった。

その日曜日は、新聞もテレビニュースもサッカーの国際試合の話で持ちきりだった。多くのサッカーファンが競技場につめかけ、スタンドを大きく揺らしていた。
そんな会場にたどり着く一台のタクシーが、こともあろうに会場中央のVIP用ゲートに車を止めてしまった。三上教授とオスカーはそのタクシーから降りると、いきなり背広を着た数人のスタッフに迎え入れられた。
「ようこそいらっしゃいました、三上教授。どうぞこちらへ・・」
「ありがとう」彼らは丁寧に挨拶をすると、ふたりを競技場に案内しだした。
オスカーはとまどって、その後ろをソロソロと付いて行きながら、なぜに教授がこんな待遇を受けているのかわからないといった表情だった。
「・・・?あの・・教授・・・これはどういうことですか?」
「くだらないことはあまり気にせんでいい。しっかり試合を観戦して、楽しんでくれ。」
「はあ・・・」
案内された特別VIP席に座ると、オスカーは落ち着かない様子で周りを見回した。
「今日の試合は新生日本U-23若手チームと、ヨーロッパに移籍した元Jリーグサッカーの日本人監督が率いるチームとの親善試合だ。あそこにいるイケメンが女ったらしのジーナ・プロイセン。名前くらいなら聞いたことがあるだろう。」
「え・・ええ。そんな選手が、国の代表に?」
「監督は何を考えているか知らんがね。」
試合が開始されると会場はいっせいに盛り上がり、拍手や応援の声が響き渡った。広いサッカー場に右へ左へと走り回る選手たちに、各局のテレビカメラも彼らを追跡していた。
試合結果は圧倒的に日本が優勢で、3−0で日本の勝ちだった。試合終了のホイッスルがなると、観客は大喜びして席から両チームに拍手を送った。
オスカーは三上教授の顔を覗き込んだ。
「あれじゃ、まったく練習不足もはなはだしい。日本もこんなチームと親善試合なんて、馬鹿げている!さてでは行こうか」そう言って席を立ち上がり、歩き出した。
「え?行くってこれからまたどこかへ?」
「選手に一言、文句言ってやらんとな。」そういうと案内の男性は、これから行く先をわかっているかのように、二人の行く前を歩き出した。オスカーは何がなんだかわからずに、教授に答えを求めようと口を開いた瞬間、彼は大きく振り返ってオスカーに聞いた。
「おい。重森!!ついてくるのか?こないのか!!?」
「行きます!!行きますとも!!・・・重森って・・なんでまた、ミドルネームで突然呼ぶんだ?」
教授の後を慌てて追うオスカーだったが、なぜこのような試合をわざわざ見せたのか、教授はサッカー界とはどういう関係なのか、頭脳明晰な彼でもその答えはなかなか見出せない様子だった。







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