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  Mission!! 作者:Rach
3rd Stg第35話「Ring」
「ここは宮殿内の建物から出る汚水を全部集め、前庭ある噴水経由でここへ流れ落ちている。だから、この真上を掘り進めば、建物前にある庭に出ることができるってわけだ。」
地下下水道にいるマシューとジョルジュは、目の前に広がる宮殿からの排水溝を見ていた。
暗いその場所にライトで映し出されたその場所は、標高の高い場所に位置する宮殿から、一気に流れ落ちるように作られた、太古の技術そのものだった。
「どれだけ掘ればいいんだい?」
「宮殿は山の中腹だからな。だいたい50メートルってところか?」
その言葉にジョルジュは驚いた。
「え?そんなに!!」
「心配するな。ちゃんと手は打ってある。明日の夜、掘削機を運び入れる。それと金で雇った作業員もだ。」
「いっそ、バンカーバスターでもぶっ放したらどうだ?」
「それはいいアイデアかもな・・・。機械で彫るのは昼間のみだ。夜は人間の手作業だけですすめる。なぜなら夜は振動や音が響き渡り、感づかれる恐れがあるからな。ちょうど宮殿じゃ建物の拡張工事の真っ最中らしいから、こちらの作業音は漏れないで済む。見てろよ・・今度こそ掻っ攫って、3Xの発掘権をもぎ取ってやる。」
そう言ってマシューはにやりと笑った。
バンカーバスターとは地中貫通爆弾のことだ。硬化目標や地下の目標を破壊するための特殊な爆弾で、6メートルものコンクリートや盛土を貫通したのちに炸裂する恐ろしい兵器である。この名前を世界に知らしめたのは、ナインイレブン以降、米軍がアフガニスタンに潜むビンラーディンに止めを刺すために使われ、連日ニュースを騒がせたことで有名だ。

サラが目を覚ましたその翌日、ベッドに寝たままの彼女に医者のジーが傷口の手当をしてくれていた。そんな彼女の隣りを、アンドレはご機嫌な様子で鼻歌を歌いながら、見慣れないT-シャツ短パン姿で部屋を出て行った。サラはため息をついた。
『まさか、本当に傭兵になるつもりじゃ・・・。』多分そこまでは考えてはいないだろうとサラは思っていた。一国の国王が他国の軍隊に・・・しかも傭兵になるなんてことは到底考えられなかったからだ。
傷の手当が終わったサラは、ネグリジェ姿のままベッドから這い出てテラスに出た。3日ぶりの太陽の光は、ことのほか眩しい。前庭にある噴水の水が輝いているその場所に現れたアンドレは、そこで筋肉馬鹿のパブロと交わした会話にまた頭を抱えた。
「よーし!では駆け足からはじめようか!そのあと格闘術と銃の分解結合だ!」
筋肉を見せびらかすように、パブロがアンドレ王の前で仁王立ちしていた。
「はー・・・本当にはじめるつもり?」そこへベンがテラスに入ってきた。
「もう大丈夫か?」その声に振り向いたサラは、とっさに右手にはめられたリングを悟られまいとBodyの後ろに手を回した。
「ああ、ベン・・・心配かけたわね・・・もう大丈夫」
「ちょっと一緒に来てくれ」
「ええ・・・着替えたらすぐに部屋に行くわ・・・」チラッと前庭の二人を見ると、パブロとアンドレの姿はすでにそこにはいなかった。

ベン専用の執務室のドアを開けたサラは、普段どおりのジーンズにT−シャツという飾り気のない格好をして、髪を後ろに一つに束ねた姿で現れた。部屋のソファにはオスカーとホウイがすでに座って待っていた。それを見て自分の右手の指輪を悟られまいと、ポケットの中に手を差し込んだ。
「よー!サラ!!もう大丈夫か?」能天気なホウィが最初に声をかけた。
「みんな、お見舞いありがとう。」サラはそういいながらソファに向かってきた。
「気に入っていただけたかな?」メガネをかけなおしながらオスカーが、にこやかにそう聞いた。なぜか緊張を隠せないサラは、普段どおりの答えを出すことができなかった。
「え・・ええ、もちろんよ。とても素敵だわ・・かわいいじゃない・・・」
そんな彼女の台詞にホウィとオスカーはきょとんとした表情のまま、サラを見つめた。
サラはなにか自分が間違ったことを言ったのかと、ドギマギし始めた・・・。
「ほほーーー、昔のサラだったらこんなの私の趣味じゃない・・・とか言って突っ返されただろうに・。まー、ずいぶんと優しくなっちゃったみたいねー。」
「ホ・・・ホウィ、あんた私を怒らす気?」
「・・・で、王子様からのプレゼントは、なんだったの?!」
「え?」いきなりの質問にサラは飛び上がって驚いた。急に顔が紅潮しだし、こんなサラを見たのはそこにいた全員がはじめてであっただろう。ホウィはそんな彼女に畳み掛けるように同じ質問を続けた。
「あの小箱の中身、何だったのー?」そう言ってまるで猫のようにサラに擦り寄ってきた。サラはクールなオスカーが助けてくれるかと、彼を見たが・・・。
「俺も知りたい」彼から出た言葉に、はかない希望は消えてしまった。執務室がシーンとなり、気が付くとベンも腕組みをして、サラの答えを待っている様子だった・・・。
「ちょっと・・・何よ。ベンまで・・」
「おんなじ部屋で寝泊りしてるんだからさー、もういい加減意地張ってないで、こうLove Loveしちゃったらー?」自分で自分の体を抱きしめキスする真似をするホウィだった。
「で、やっちゃったの?どうだった?」この台詞にサラは一気にはじけ飛んだ。いきなりホウィの胸倉を掴み、怒鳴った。
「お前!ぶっ殺す!!」そういって右手で思い切り、ホウィの顔をぶん殴った・・・。
「だー!!痛―!!」彼の体はソファにのけぞって倒れた。いつものサラだったらこんなことはしない。軽くクールに受け流すだけだっただろう。
ホウィは殴られた左頬を押さえた。右手でなぞると少し血が出ていることに驚いた。
「あ・・・」サラはやっと我に返った・・・。こぶしを握った自分の右手薬指の突起した指輪が、ホウィの頬を傷つけてしまったのだ。
「おいおい、大丈夫か?ホウィ」隣にいたオスカーが声をかけた。
「ご・・・ごめんホウィ・・・大丈夫?・・」サラは指輪が光る右手を、そうっとホウィの頬に近づけた。ホウィはそれを見て大笑いした。
「あはは!大丈夫!今回のフォイオン国、王室内流血大事件は気にしないでねー。なーるほど。そういうことなのねーうひひ!!」サラは顔が真っ赤になった。
「素敵じゃないか、サラ。」『何よ・・・オスカーまで・・・』
「ウホン!」
ベンの咳払いが聞こえた。全員が彼に注目した。
「さて、集まってもらったのは実は・・今朝、数人の宿直メイドと料理人が突然俺のところにやってきて、敷地内の教会あたりで、不思議な人間の声にも似た音が聞こえたというのだ。」
「人間の声?」サラは不思議なその話を、興味深げに聞きながらソファに腰掛けた。
「時間は2時から3時ごろだそうだ・・。」
「げ?心霊現象?」ホウィは恐ろしそうに両手を胸前でクロスして、両腕をさすった。ベンは一冊の本を手に取りソファテーブルに差し出した。
「・・俺のカンだが・・。この本には、昔ここがフォートフォイオンと呼ばれていた軍事要塞だったころの記述が書かれてある。排水通路からの敵侵入を察知するため、随所に策を施してあるらしい。そこで発生する敵兵士の話し声や、特に当時の兵士が着ていた金属製のよろいが接触するときに発生する音を、事前に察知できたと記されてある。」
「だとしたら、ものすごいセキュリティシステムね。」
「残念ながら、どういう小細工で声や雑音が察知できたのか、そこまでこの本には記載されていない。軍事機密だったのだろう。まさか、そんな昔の策が、現代にまで生きているとは考えにくいが、・・・。そこで、ホウィとオスカーには、宮殿内をもう一度よく調べてもらいたい。」
そう言って本を二人に手渡した。
「この本は、宮殿外には持ち出し禁止だ、よろしく頼む。それとサラはアンドレ王の側を引き続き警護しろ。」
「了解」
「それに、マシューとジョルジュのことだ。このまま簡単にあきらめることはないだろう。もしかしたら、坑道作戦に転じているかも知れん。俺は水道局に行ってくる。」
「じゃ、可愛いメイドさんたちにまず、お話を聞いてみますか。オスカーは料理人をよろしく」
真っ先に席を立って、いそいそと歩き出したホウィに、オスカーはため息混じりにこう言いながら後を追った。
「なんで、お前はいつもそうやって、女ばかり・・」二人はドアを開け出て行った。
「・・・あ、ベン」そこに残ったサラは、鞄に書類をつめているベンに声をかけた。
「どうした?」
「前から聞こうと思っていたんだけど、この仕事の件で、なぜ私の事をウィルに話したの?」
「急遽、ボディガードを雇うって話があってな。それで君の事を思い出し、話をしてみた。」
「ボディガードだけならまだしも・・婚約者だなんて・・」
「建前上のな」その言葉にサラはリングを回しながら否定して見せた。
「建前なんかじゃない。ウィルは私がこの王室に入らないんだったら、自分が傭兵になるって言ってるわ。もうめちゃくちゃにもほどがある。・・あなたからきちんと言ってくれない?人間にはそれ相応の身分があるって」
「俺は他人の恋愛には口を挟まない主義だ」
「でも、彼は普通の他人じゃないでしょう?」ベンはサラの顔をじっと見た。
「・・・まあな。・・・・・・サラ、君は傭兵部隊での任期終了時こう言ったな。少しは人間らしい普通の生活をしたいってね。なぜ、急にそう思うようになったのか知らんが、」
「・・・・・・だから、あなたと新しい人生を見つけようと」
「新しい家も買い、新しいカーテンも買った・・・でも新しい生活は始まらなかった。どうしてだかわかるか?」サラはふとベンの執務室に飾られたカーテンが、昔一緒に買ったものだと気づき、そうっと深緑のカーテンを手にとった。
「わからないわ・・・あなたから一方的に婚約を破棄されて・・私は・・・そのままウクライナへ・・・」
「それは俺が軍人だからだ。軍人のこの俺とでは、君は新しい生活を始めることはできないと俺は判断した。それに君は、自分のせいで俺の右足を負傷させてしまったと思い込んでいる。その罪滅ぼしに俺と生きることを決めた。そんな茶番劇にはとても付き合っていられなかった。」
「そんな・・」
「だから、今度は俺が茶番劇を作る番だ。」
「Missionはちゃんと遂行するわ。でも、婚約者の話は・・・」
「安心しろ。俺はアンドレ王の恋のキューピットではない。でも、王がお前のことを真剣に考えているのは本当だ。どちらにも加担するつもりはない。ひとつだけ言わせてもらえば、・・・・」
そう言ってサラの肩に手をやった。
「今はこのMissionのことだけを考えろ。アンドレ王を守れるのは、この俺たちだけだ」
「ベン・・」
「俺はいつだって、強制するつもりはない。」鞄を持ちドアに向かって歩を進めた。
「おっと。それと・・もうひとつ。指輪をするのは左手薬指だ。」そういい残し、ドアを開け出て行ってしまった。サラは自分の右手の指輪をじっと見ると、深いため息をついた。
「強制してるじゃない・・・」そこへ地響きが鳴り響いた。爆撃かとびっくりするサラだったが、深緑のカーテンがかかった窓から、3Xの発掘現場で続けられている作業を見下ろしながら、先の音がそこから出たのだと判断した・・・。
「・・・でも、ウィルは嫌いじゃない・・・。本当にやり直せるなら、軍人とではなく・・・彼と?」
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