3rd Stg第33話「Family-3」
「こっちだ!!早く!!」後ろからナギーブが叫ぶ声が聞こえた。隣の建物の窓から顔を出し手招きするナギーブに、二人は慌てて窓から窓へ移動した。そこへミサイルが爆発し、またそこにあった弾薬等に引火して2重の爆発をおこした。
「ごほごほ!!」埃にむせたサラがその瞳をゆっくり開けると、そこには血だらけになったカークが倒れていた。サラは驚いて彼の体に駆けつけた。
「Kirk Are you alright? (カーク?大丈夫?)」カークは何も言わなかった。ただうめくような声を上げただけだった・・・。ふと見るとその背中には無数のミサイルの破片が刺さっていた。サラはそれを見て叫んだ。
「Kirk!!(カーク!!)」その破片をとっさにとろうとするサラだった。
「I am OK ・・・・you should go to a safe place. (俺はいいから・・早く安全な場所へ・・・)」
「No!! We will go together! I will try to take out the splinter.( だめ!!一緒に逃げるの!!今、この破片をとるから・・・)」そういって背中に刺さった破片を思い切り抜くと、そこから大量の血があふれ出てきた。
「・・・・・No!!No!!No!!Stop!」おもわずその傷を両手で押さえたサラだった。ナギーブもそこへ駆けつけた。
「Non stop bleeding! What should we do! (血が止まらないよ!!・・・どうしよう!!・・)」
「We should not take out? (抜かないほうが良かったの!?)」
「But I think we should take it out. Because the splinter will kill him. (抜かなきゃ治らないよ!!)」子供たちは、彼の背中に刺さった無数もの破片を取り除けば、彼は大丈夫かと思った。しかし本来なら除去することは大量失血の恐れがある。そんな医療知識など子供たちが持ち合わせているはずもなかった。カークは薄れいく意識の中で言った。
「Sara you should go. (サラ・・・早く逃げろ・・・)」
「No Kirk NO!! You told me you will stay with me forever!!(いやよ!!ずっと一緒にいるって言ってくれたでしょ!!)」
「・・・・ I will stay with you ・・・・in your heart.(ずっと・・・一緒にいるよ・・・君の心の中に・・)」意識が朦朧としていくカークだった。彼の周りにはあの男のように、 大量の血があふれ出ていく・・・。サラも体中血だらけだった。
「No! you wrong! We are family! Family has to stay together! You said we will back to England together someday!!(ちがう!!そんなんじゃない!!私たち、家族なんでしょ!家族はずっと側にいてくれるんでしょ!!一緒にイギリスへ帰るって言ったじゃない!!)」
「・・・・Sara I’m sorry, you will be happy someday. (サラ・ごめん・・きっと幸せに・・・)」そういうと全身から力が抜けたように、冷たい床に伏して動かなくなった。
「Kirk!!(カーク!!)」
そこへまたヘリの音が近づいてきた。ナギーブはサラの腕を取ってそこから離れるように引っ張った。
「Hurry up! Come here!!(早く!こっちへ!!)」
「No(いやー!!)」サラはカークの体にしがみついた。まだ彼の体は温かかった・・。
「Sara! Kirk is dead!! (サラ!!)Look at Kirk! (カークは死んだんだ!!よく見ろ!!・・・・)Is his body moving? Is he talking with you as always? Is he smiling for you? You should be more strong! (ここにある死体が動いているのか!?いつものように喋っているか?!君の眼を見て微笑んでいるか!?しっかりしろ!!)」ナギーブも成長した男のように、サラの目をしっかり見てそう叫んだ。彼の目もサラと同じように泣いているようだった。
「・But・・(でも・・でも・・)」サラの顔は涙でぐちゃぐちゃだった。そんな彼女にナギーブはわざとゆっくり、諭すように語った・・・。
「We saw a lot of dead bodies in here. The body is same as other’s one. Kirk is not here!! (よくある死体のひとつと一緒なんだ・・・カークはもうここにはいない!!)」
彼はサラの手を引っ張り、隣の建物へ逃げるべくドアからドアへ走り移っていった。それでもヘリコプターからの無差別攻撃は終ることはなかった・・・。容赦なく辺りを破壊しつづけた。
この日の攻撃は大きな人的、精神的破壊をもたらした。誰も何も語らないサバイバー達は、この町を捨て隣町へ行き兵力を結集することになった。夕日を浴びながら、悲しみと戦いながら、砂漠地帯を歩いて移動する彼らの進行方向から、いつか見たジープが砂煙を上げながら走ってくるのが見えた。
「・・・There must be a reporter as same as before when they came.(前に来た・・・記者たちだ)・・・」ナギーブがサラにそうっと耳打ちした。
「・・Oh well Queen Elizabeth. They must not be able to imagine such a terrible life. (ああ・・・例の・・・エリザベス女王ね・・王家の人たちにはこんなひどい生活は、想像もつかないんでしょうね・・・きっと)」サラは特別気にする様子もなく、バンダナを顔に巻き、重い銃をものともせず無言で歩み続けた。王族と私たちは住む世界が違う・・そう言いたげだった。
ジープが彼らを発見すると、赤いブレーキ灯をつけスピードがゆるくなった。乗車していたエリーがそこを歩いていたサラ達に叫んだ。
「Hey, Excuse me!! Somebody understand English?(ちょっと!!ちょっとすみません!!誰か英語わかる人、いますか?)」彼女の言葉に誰も反応することはなかった。サラは彼女の言葉を無視して、もくもくと歩いていた・・・。
「・・・Mr. Khayyam is here? (ハイヤームさんはいますか?)」赤ん坊を抱えた女性が手振り身振りで、彼は死んだことを伝えた。ナギーブはサラに耳打ちした。
「Are you sure? (いいのか?サラ)」
「I don’t know them.(関係ないわ)」
「Kirk Hageman! Sara Bruckner! If you are here, let me know! (カーク・ヘーグマン!!サラ・ブルックナー!!いたら返事をして!!)」エリーも必死だった。スクープだからではない・・。助けたい・・そういう思いで彼女はもう一回叫んだ。すこしだけサラの周りがざわめきだした・・。みんながチラチラとサラのほうを見ている。
「Kirk, I found your father in England, I want you back to your father’s place! (カーク!!イギリスであなたのお父さんを発見したわ!!あなたを本当の父親のところへ帰してあげたいの!!)」その台詞にサラの足が止まった。エリーがバンダナを巻いた少女に気付き、ジープから降りてきた。
「Sara? (サラ?)」そう訊ねると、サラの隣にいたナギーブが首を縦に振った。エリーは彼女のバンダナに隠れた顔を覗くと、そこに現れた青い眼の彼女を確認し、そうっと抱きしめて見せた。
「・・・・Kirk was dead. ・・・Just one week ago, he was attacked by a missile from a helicopter. ・・・・He was injured with so many missile’s splinter in his back. He bleed a lot・・・ and died.
(カークは死んだよ・・・つい1週間前のことだ・・。ヘリからミサイルを撃たれ、その破片を背中に受けて・・・たくさん血を流して死んでいったよ・・・」
小さな体から発せられたその言葉に、エリーはショックを受けた。
「Why did you not come earlier? (なんで、もっと早く来てくれなかったの?)」
まだあどけない少女の瞳から、大粒の涙が頬をつたった・・・。エリーはなんと声をかけたら言いかわからず、またサラをぎゅっと抱きしめ、そして彼女も泣いた。
「・・・・Sara, it is time for good bye. (サラ、お別れだね)」その様子を見ていたナギーブが二人にそうっと声をかけた。
「Naguib・・・Someday, I will be more strong, and come back. But I hope this war will be finished at that time. ・・・・Thank you. (ナギーブ・・・いつかもっと強くなって帰ってくる・・・でも本心は・・・戦争が終わっていることを願っている・・・ありがとう)」
「I will make this a happy country. ・・・. (僕の国は、僕達で必ず幸せな国にしてみせる・・・)」
「Yes, you can. (うん)」そういうとナギーブはサラと握手を交わし、隣町に移動するみんなに混ざって去っていった。そんな彼の姿をじっと見つめるサラに、エリーは尋ねた。
「Your friend?(お友達?)」
「No, he is a fellow soldier. He is really my best brother in arms.(いや、戦友だ・・・。何にも換えがたい無二の仲間だ)」エリーは無言だった。幼い子がこんなことを言うなんて・・。しかしサラの言葉はまだ続いた。
「I want to tell Kirk’s stupid father that he was real brave, and how much he is considerate of comrades, and how he died. His parents threw away him for some reason. But Kirk never gave up on us even in this hard situation. That’s why I will back to England. (どんな理由があってカークを捨てたかわからないが、そんな馬鹿親に、彼がどれほど勇敢で、仲間や戦友を思いやって、過酷な状況にも決して仲間を捨てたりしなかったか・・・。そしてどう・・死んでいったかを伝えたい。だから・・・私はイギリスへ帰る)」
そういって自らジープに乗り込むと、しっかりとした目を見開き前方を直視していた。
時は現在。フォイオンの昼間の太陽が、優しく窓から入り込むアンドレの部屋には、サラはベッドで寝かされ、その傍らには医者らしき人物が、彼女の腕に注射をしていた。
「カーク・・ナギーブ・・・」うなされているサラの手を優しくとるアンドレは、心配そうにサラの様子を見ていた。
「Zee、サラは大丈夫でしょうか?もう3日も目を覚ましていません。」
「今になって例の麻酔銃の後遺症と、左腕の傷口から菌が体内に侵入してそれが大暴れ・・・。体中で菌と白血球の戦争状態じゃよ・・・こうやって体温を高くして、菌を全滅させようとしているんじゃ・・・でもあんまり高熱になると、脳が破壊されてしまうからな・・・だから、今解熱剤を打っておいたよ・・・」アンドレはじっとサラを見つめた・・。
あの古びた病院跡地からの脱出劇。もっと自分がしっかりしていれば、こんなことには・・・。アンドレは自分を責めた。
「応急手当してもらった分、幾分マシだったがな・・相当傷口は深かったからのー」真っ白な髪をした老人の医者は、サラの腕の包帯をとり、傷跡を消毒し始めた。
部屋の奥にはパブロもいた。ソファに腰掛け、腕組みをしながらこういった。
「マシューとジョルジュめ、ひどいことをする・・・通常麻酔銃なんてものは、皮膚の厚い巨大動物が暴れて人間を襲ったときくらいしか使わないんだ・・・それを人間に使うなんて・・・」彼の目の前のテーブルには、彼に似合わないピンクのリボンがかかったフルーツバスケットが置いてあった。
「サラは・・・大丈夫か?」そう言いながら手に花を持って部屋に入ってきたのはホウィだった。
「フォイオンイチの名医のこのZee様が診てるんだ。大丈夫じゃよ・・・。」白髪老人の医者はそう言って笑った。
「へえーー、このじいさんが?」ホウィは疑い深い眼をしながら笑った。
「ふふふ、Zeeは本当に名医なんですよ。私の家族全員ずっとお世話になっているんです」
そんなアンドレの声と同時に、オスカーも入室してきた。
「それは心強いな・・・ゆっくり寝かせてあげてください。そうとうお疲れでしょうから・・」
大きなテディベアのぬいぐるみを持ってきて、寝ているサラの隣に置くオスカーだった。
しばし沈黙した状態が続き、そして・・・。
「あはははは!!」大笑いする声が彼女とアンドレの寝室に響いた。そこにいたZeeだけがきょとんとしてほうけていた様子だ。一番大笑いしたホウィが腹を押さえながら叫んだ。
「ははは!花に、果物に・・・テディベアなんて、サラに似合うわけないっしょ!!!なんでみんな・・」
「はは!!なんとなく!いいかなって思ってさ!!」とオスカー。
「俺もだ!!」大笑いしているみんなのところに、とどめの一発が来た。別室から出てきたベンだった。
「じゃ、これは?」日本製のハローキティ目覚まし時計を出し、サラの枕元においた。
「うひゃひゃひゃひゃ!!!かわいすぎ!おかしーー!!」彼女の生い立ちや性格を知っているからこそ、余計に笑えるジョークだった。アンドレは胸のポケットから小箱を取り出した。
「私も・・・目を覚ましたら、びっくりさせようと思って・・・彼女が私の腕時計を見て言ったんです。プレゼントっていいもんだなって・・・」みんなは一斉にそれがなんなのか確かめたく、アンドレに近づいた。
「でも・・・・みんなには見せません。サラがあとで目を覚ましたら・・渡します。」
「ケチーー!みせてくれたっていいだろ」知りたがりな情報屋のホウィは、アンドレに詰め寄った。そんなホウィを止めたのはオスカーだった。
「まあまあ、そういうなよホウィ!」
「さて、あんまり寝ているサラをからかってはいかんな。では私たちはこれで・・・」
ベンはそういいながら、仲間たちを誘うようにドアに向かって歩いていった。
アンドレは最後に歩いて出て行こうとするベンを引き止めた。
「あ・・ベン・・。」
「はい、何でしょう」
「さっき、サラがうわごとで言った・・・カークとナギーブというのは・・・」
「・・あ・・それは・・・彼女がまだ6歳のころ、アフガニスタンで共に戦った戦友です。7歳だったカークはサラと同様、イギリスの同じ孤児院の仲間でした。二人はそこで売買され、アフガンに渡り一緒に戦いました。当時8歳だったナギーブとはそこで知り合ったそうです。・・・・3人はまるで家族同然のように助け合っていたそうですが・・・カークは残念ながらミサイルの破片を背中に受け死に、ナギーブはそのまま戦場に残ったと聞いています。」
「そんなことが・・・」
「・・・・では・・・」そういってアンドレと医者のZeeを残し、全員が部屋を出て行った。すると突然Zeeは何かを思い出したように、別室へ逃げていった。気を利かしたつもりなのか、特別何か用事があったわけではなかった・・・。
アンドレは、サラの寝ているベッドにひざまづいて、そうっと彼女の手を握った。
「サラ・・・・・あなたの家族はここにいますよ。」彼女のもとに届けられた、家族のお見舞い品を見渡しながら、アンドレは静かにそう言ってキスをした。
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