3rd Stg第32話「Family-2」
それから1年が過ぎた。乾燥した砂漠の町で、焚き火を前に硬いパンをほおばるカークとサラは、またひとつ大人に近づいていた。そこにいたハイヤームは、地面に寝そべりぶっきらぼうにこういった。
「お前ら、明日は建物から絶対に出るなよ。これは命令だ」
「なぜ?」
「出るなと言ったら出るな。わかったな」
「はい、わかりました。」カークはサラと顔を見合わせうなずいた。命令という奴は絶対だ。幼いながらに身についてしまった悪しき習慣だった。翌日に何が起こるのかも全く予想できないまま、二人は翌日言われたとおり建物内にこもっていた。
2台のジープが砂煙を立てながら街に近づいてくると、子供たちがもの珍しそうにジープと共に走っていく姿が見えた。中には片足しかない子供が必死になってジープに追いつこうとしているその光景を、ジープに乗っている欧米諸国からの記者やカメラマンは驚きの表情で見ていた。ジープが案内されるがまま、ある場所に停車しそこに乗っていた西洋人は我先に車から飛び降りた。もういささかお疲れ気味のようで、座り心地のよくないジープから開放されて、大きく伸びをする姿がうかがえた。
そんな彼らにハイヤームは近づき、女性リポーターの前で歩みを止めた。
「Welcome to the desert of ruins, ・・・ this tired town is not a good sightseeing trip for your hobby. (ようこそ、このくたびれた街へ・・・観光旅行にしては趣味が悪いですな)」
「Mr. Khayyam? I’m reporter of BAC in England. My name is Elizabeth Chadwick. Please call me Ellie. (ハイヤームさん?私はBACのレポーターのエリザベス・チャドウィックです。どうぞ、エリーと呼んで下さい。」
ハイヤームはいつもサラとカークと話している英語でここでも流暢に会話をしだした。
肩までの長さの髪を後ろに束ね、深く帽子をかぶったエリーはそう言って握手を交わした。なかなか仕事のできそうなやり手のリポーターといった様子だ。
「OK Ellie. So What can I do for you?(では・・・エリー。なにをお見せしたらよろしいですかな?」そういわれると、エリーはぐるっとあたりを見渡した。
「Well so ・・・Oh Yes, I want to watch the first aid station.(ああ・・・そうね。では救護所を・・・」
「Sure. But we have just gather injured people to one place, we just call first this an aid station. There is no doctor in there. The common man take care of them by watching other people.(わかりました・・・救護所と言ってもただ負傷者を一括に集めたってだけの話でして・・特に医者がいるわけでもありません。この町の住民が、見よう見まねで手当てをしているだけです)」二人は救護所とは名ばかりの建物に向かって歩き始めた。
ひとりのカメラマンがその様子を録画しながら、一歩彼らの先を歩いていく。そんな彼らに興味があるのか、大勢の子供たちが彼らを取り囲んでいた。
「There is no doctor in the station?(医者がいない救護所?)」
「Yes. We have just used our first aid kit in our house. The medicine won’t suffice for the injured. (ええ。薬も適当に各家庭から間に合わせているだけで・・・絶対数はありません。)We were attacked 10 times in 2 years by random shooting of enemy’s helicopter. So our population decreased 1/3, in contrast before they attacked. (この街はこの2年間でおよそ10回、ヘリによる敵の無差別攻撃にあい、その死者は攻撃が始まる前に比べて、およそ3分の1にのぼります。)」エリーはその悲惨な状況と、ソ連軍による非人道的な殺戮に気分を害し、顔をゆがませて見せた。
彼女の周りにたむろした子供たちが、そんな彼女をものめずらしそうに取り巻き、こういった。
「ああ、あのお姉さん。サラに似てるね。」現地の言葉で話し出す子供たちだった・・・。
「同じ顔してる。」彼らにとってみれば、西洋人の顔は誰も似たようなもので、サラに似てると思うのも無理はない。
「・・・近づくな!さがってろ!!Look there, There is a grave of massacre victims.(あ・・あっちを見てください。虐殺によって死んだものたちの墓地です。)」
「Oh, No ・・・a lot ・・・terrible.(あんなに・・・ひどい・・)」
「They were fine because we could buried them, Sadly we gathered corpse to one place, and burn them.(埋めることができた者はまだいいほうです。遺体を1箇所にまとめて火を放ち燃やしたこともあります。)」
「Recording tape OK ? Please record the grave too.(テープ、回してる?墓地のほうも写しておいて・・・。)」
「サラやカークみたいに英語喋ってる」
「お前、これが英語ってよくわかるな?」また違う子供たちがエリーのそばに寄ってきた。
エリーはここで初めて子供たちのセリフに足を止め、腰を下ろして子供たちに微笑みかけた。
「・・Mr. Khayyam? What did they said? (ハイヤームさん?今なんていったの?・・・彼らはいまなんて?)」
ハイヤームは言葉に詰まった。
「Well You are so beautiful. You know They saw western lady for the first time.(ああ・・・エリーがとてもきれいな人だと・・この辺りじゃ始めての外国人ですからね)」
「Oh thank you.(そう。ありがと!)」そういって子供たちに笑顔を見せた。
「おい!あまりベラベラ喋ると、あとで容赦しないぞ!」そういうと子供たちは、おどおどしてその場から離れていってしまった。
夕暮れ時になると、彼女たちは荷物をジープに載せ、ハイヤームと握手をしてこの町を離れていった。ジープがまた砂煙を上げて去っていく。
カークとサラが暗い部屋の中で、ただ時間が過ぎるのだけを待っていた。そこへアフガニスタン人の友達ナギーブが入ってきた。色黒で頭に赤い布を巻いたこの男の子は、屈託のない笑顔をみせ、そこにいたカークとサラの隣りにどかっと座った。
「今、エリザベスっていう女の人が来たよ。知ってる?」
「エリザベス?エリザベス女王のこと?」
「やっぱり知ってるんだ!!そう思ったよ!サラとよく似てたよ!英語を喋ってた!!」
「女王がここに?まさか・・・」サラはカークを見据えた。カークは笑いながらこう答えた。
「同じ名前の別の女性だよ。どこかのレポーターかなんかだろう・・・だから俺たちの存在がばれるとやばいから・・・今日は一日ここにいろと命令されたんだ・・・」
「・・・・・・・」サラはその答えに納得したが、まだ英語がおぼつかないナギーブはそう思わなかったようだ。カークとサラ以外に見た初めての外国人に、まだ興奮している様子だった。彼がそう思うのは無理もなかった。こんな戦争なんか早く終わって、外国で英語を習いたい・・・そう思っていたからだ。
「ねえねえ、エリザベスって人、サラのお母さんなんじゃない?」
「やめてよ・・だとしたら、私を捨てたとんでもない母親よ。」
「でも、まだ生きているんでしょ?」
「・・まあね。たぶん」
「だったら、いいじゃん!!・・・僕のお母さんはヘリに撃たれて死んだ。奴らはなんにも悪いことをしていない、優しい僕のお母さんを、まるで狩を楽しんでいるように、撃って殺した。」
その言葉にサラは言葉に詰まった。どう答えたらいいのかわからなかった。
「・・・僕はそのとき、ヘリの中で笑っている男達の顔を見たんだ・・」そう言って彼はうつむいた・・・。カークは静かに立ち上がり、彼のそばに近づくとそうっと肩に手を回して言った。
「ナギーブ・・僕達がいるよ。何があっても僕たちはずっと一緒だ。頑張って生きていこう」
「カーク・・・もっと英語を教えてよ。いつかイギリスやアメリカに行って勉強したい。」
「ああ、もちろんさ!!」
それから数年が経過した。半分大人の仲間入りしたカークは機関銃を背負い、ひたすら砂漠の砂の上を走っていた。その後ろを同じく銃を担いだサラとナギーブが続いた。彼らが追っていたのは大空に舞う、アメリカ軍の輸送機だ。ハッチが開きそこからパラシュートを付けた箱が投下された。3人はようやく投下地点にたどり着いた。
地面に落下した箱を嬉しそうに運び出した。まるでクリスマスプレゼントを開ける前の子供のようだったが、箱の中身はそんな子供向けのおもちゃなどではなかった・・・。
「スティンガーだ!!アメリカからの支援だぜ!!説明書が全部英語だ・・・・」ナギーブは興奮して叫んだ。
「これを使えば、ヘリを撃ち落せる!」
「早くみんなのところへ持って行きましょう!!」
「OK!」3人は箱を担いで、もと来た道を戻っていった。
その頃、イギリスでは連日のようにアフガニスタンでの紛争の様子を放送していた。いたるところで流れているニュースは、アメリカが密かにアフガニスタン側に支援をしていることを立て続けに報道し、2大大国の戦争の行く末を見守っている様子だった。
ロンドンのビジネス街にあるBACテレビ局の長い廊下を、高級なスーツで身を包んだエリーが、ツカツカと急ぎ足で歩いていた。そんな彼女の目の前には、ちょっといかした男性が立ち話の途中、彼女に話しかけてきた。
「よお!エリー!!この前の取材、良かったよ。視聴率うなぎのぼりだ・・・で、また中東に行くのかい?」
「ええ、まあね・・・今度はアメリカが支援し始めてるっていうから、どんな様子なのか見てくるわ。」
「何も、君が行かなくたって良さそうなものなのに・・・。」
「・・・ちょっと他に気になることがあってね・・・」
「気になること?って何?」
「実は・・・あなただけに話すけど・・・私が過去に訪れた町に英語を話す子供がいるらしいの・・・。」
「とある町って・・・あの国にか?」
「昔のテープを久しぶりに見ていたら、現地の言葉に詳しい友人が、急に子供たちがこんなこと話してるって言うのよ。カークと一緒の英語喋ってる・・・私のことをサラに似てるね・・・って」
その台詞にハンサムな男の表情が曇った。
「・・・・人身売買?」
「それも・・・カークっていう男の子と、サラっていう女の子は、今から5年前に消息不明扱いになっていて、当時まで彼らが住んでいた孤児院を調べてみたら、里親手続きの偽造文書が残っていたの。・・・当時の神父はその後病気で亡くなったので、詳しいことはわからないけど、これは確かめてみる必要があると思って」
「もしそれが本当だったら、スクープ間違いなし!!」エリーは苦笑いした。スクープ?確かにそうだけど、今の私の気持ちはスクープというより、彼らを助けたい気持ちのほうが強い。彼女はハンサム男に別れを告げると、胸元からカークとサラの写真を取り出し眺めた。
この日、ヘリが来るのは久しぶりだった。カークとサラは必死になって弾薬を運んだ。射撃をしている男から罵声が飛ぶ。それと同時に逃げ回る女性たちの声が、あちらこちらでこだました。
サラの顔は砂まみれだった。ナギーブがしていたように、バンダナを顔に巻き少しでも日焼けと砂から守ろうとしていた・・。彼女の中には女性であることの意味が、少しずつでも芽生えていたことには違いない。そんな彼女の瞳は、日々たくましくなっていくカークを捕らえていた。いつも自分を助けてくれて、励ましてくれているカークに、なにか特別な感情を抱き始めたのはこの頃だった。二人はやっとの思いで射撃ポジションにいる場所に弾薬を運び込んだ。しかしそこにいた男は、体中から血を流し息絶えていた。
見慣れた光景ではあったが、サラはその男の胸のポケットから飛び出していた家族の写真を見つけると、胸が痛くなる思いがした。
「俺がやる・・・」そんなサラの隣りでカークが言った。ヘリは縦横無尽に飛び回っているのをじっと見つめながら、そこにあるスティンガーを抱き起こした。
「カーク、できるの?」
「ずっと見てきた。きっとできる・・・」そういって重たいスティンガーを肩に背負うと、 ヘリのいる方向に向け射撃した。ヘリに吸い込まれるようにミサイルが近づき大爆発をおこす。
「やった!!」しかしその直後、別のヘリがカークとサラのいる場所へ姿を現した。
「早く逃げよう!!」カークはスティンガーを投げ捨て、サラと共に走ってその場から逃げた。建物の隙間を斜めに走り、最後には木製のドアを蹴り破り中に飛び込んだ。
二人は震えながら抱き合った。ヘリの音がいったん遠ざかっていくのを感じると、二人は恐る恐る辺りを見回した。そこには弾薬や銃などがぎっしりおいてある。
『ここは戦場・・。あのヘリをやっつけないと殺される・・・』無言で二人は銃を担ぎ上げると、窓の隙間から外の様子をのぞいた。さっきのヘリからミサイルが発射され、かん高い音が自分達のいる建物のほうへ向かってきた。
「ミサイル!!」それにはさすがにカークも驚いた。こんな銃じゃ対処できない!!
二人は息を飲んだ・・・・。
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