2nd Stg第29話「TSD8」
アンドレの瞳が捉えたその風景は、まるで廃墟と化した古い病院が、山の中腹を切り崩して作られた古い城のように映った。裏手には岩山がそびえ、どちらかというと美しい山のイメージはまったくない。3階建てのそっけない作りで、各部屋には鉄格子がはめられている。サラのいる部屋はあのあたりだろうか・・・。
振り返ったアンドレを急がせる男たちは、そこにあった車のドアを開いた。
その時、どこからともなく花火のような音が聞こえてきた。そこにいた全員が、不思議そうに空を見たとき、建物に何かがはじけ大きな音を出し爆発した。
「まだ、攻撃予定は早いぞ!どうなってるんだ!!」身構えたエージェントの一人がそう叫んだ。
「攻撃・・・予定?」その言葉にアンドレは驚くと同時に、推測が確信に変わった瞬間だった。
『やはり・・・。』2発目の砲撃が病院裏の山に当たった。大きな山が崩れ出したとき、アンドレはいきなりひとりのエージェントを突き飛ばし、山側に向かって走り出した。
「王!!どこへ!?」そこへまた榴弾砲が裏手の山に打ち込まれ、バラバラと音を立てて、岩や石が降りかかってくる。
「うぬ・・・やつを追うんだ!!」男たちは顔つきが変わった・・・。そればかりではない。彼を「奴呼ばわり」し、必死になって捕獲しようとしているテロリストに豹変していた。
その様子を斥候偵察要員の二人がカメラを回し、鮮明な映像が攻撃開始したフォイオン軍全兵に送られていた。もちろん砲撃の着弾点も、どれだけ成果があったかも同時生中継で放送されていた。
斥候偵察要員の一人が無線に向かって怒鳴った。
「国王は北側の斜面を登っていきます!!」
古い建物内はコンクリートが破壊され、細かい埃となって白く充満していた。クライブは寝心地の悪いベッドで眼が覚めると、あたりを見渡した。
「一体・・なんだ??ハンス!!」彼はドアを開け廊下に出た。そこには慌てふためいて逃げようとするマシューとジョルジュがちょうど通りかかった。
「マシュー!ジョルジュ!フォイオン軍の攻撃か?!」彼の質問に、二人は足を止めた。
「そのようです!どうしてここがわかったのか・・・」
「王はまだあの場所にいるのか!?」
「・・・さっき、エージェントらしき人が、王だけを連れて行きましたぜ」
マシューが静かにそういった。その台詞にクライブの顔つきが変わった・・・。
「なに?・・・・・・予定では今夜のはずだ・・・」建物がまたぐらついた。裏山の岩が崩れ、この建物にぶつかっているようだ。一発で壊すなら簡単なのに、なぜこんなまどろこしい真似を・・・。
「それよりか、ここを撤退しないとやばいですぜBoss!」マシューは撤退を勧めた。
「・・・なにかがおかしい・・・。サラ!!」彼は急に走り始めた。それもサラがいる部屋に向かって・・・。マシューが彼の背中に向かって叫んだ。
「Boss!あんな女ほっといて、ここは早く!」クライブは振り返って言った。
「お前達は早く逃げろ!」今にも崩れそうな廊下を走っていくクライブをみて、二人はしばし呆然としていた。
「・・・・マジ?本気になっちまったのか?」
窓の外を見ると、ストライカーが近づいてくるのが見えた。多くのフォイオン軍兵士が建物に侵入を試みているようだ。
「この山のふもとにはプッツン切れたフォイオン軍がいるはずだ。逃げるには山越えするしかねえ!!」
「って、この山の向こうには何があるんだ??まさか絶壁ではないだろうな??」
「捕まるよりマシだ!!」二人は廊下を走って外へ出た。それと同時に山に向かって走り出した。
サラは鍵がかけられたドアを壊そうと、そこにあったパイプ椅子で思い切りドアをたたいていた。渾身の力をこめて思い切り振りかぶった瞬間、鍵がはずれドアが開いた。
「!!」サラはそこにいたクライブに、もう少しでパイプ椅子をぶつけるところだった。
「クライブ?」『そのまま殴ったほうがよかったのか・・それとも・・』サラは埃っぽい部屋の中で一種の戸惑いを感じた。
「無事か?」彼はなぜかそう言って見せた。呆然としているサラに、天井のコンクリートが崩れ、大きな塊が襲い掛かってきた。クライブはとっさにサラを抱きしめかばうと、コンクリートの破片がクライブの背中に音を立てた当たった・・・。
「・・・・・」サラは驚いた。この人は一体・・・。自分の胸元にいるサラに、そうっと言葉をかけた。
「お前には無関係だからな・・・アンドレの拉致だけが俺のMissionだ。・・・」
「彼は、不審な男達に連れ去られたわ。聞いてる?」
「・・・・・知らない・・・いや、正確には知らされていなかった・・。」サラは彼から離れると、じっと彼の目を見て言った。
「あなたもだまされているかもしれない。とてつもない大きな組織に、利用されているのかも・・・」
「クライブ!!」廊下で彼を呼ぶ声が聞こえた。あのむさくるしい男、ハンスだ。彼はそこにいたサラを見つけると、いきなり拳銃を撃ってきた。近くの壁に撥ね、とっさに二人は壁に隠れた。
「やめろ!!ハンス!この女は関係ない!」
「クライブ!こっちへ!救助ヘリが山の向こうにくる!マシューとジョルジュもそっちへ向かった!お前も急げ!」壁に隠れたクライブとサラは、互いに見つめあった。サラはこのときどうしても確かめてみたいことがあった。
『あなたの本当の名はロイではないの??』
「・・・・・サラ、逃げろ」クライブはいきなりサラの左頬にキスをした。そしてハンスのいる方向へと歩き出した。
「・・・・・・・ロイ!」サラは何気なくそう叫んだ・・・。彼の足はふと動きを止め、急に頭を抱えて壁にもたれて苦しみだす・・・。
「うう・・・」その様子を見ていたハンスは、早く撤退したい一心でまた彼を呼んだ。
「クライブ!何をしている!急げ!!」
そこにいたクライブの顔がみるみる恐ろしい顔になっていく。サラは驚いた・・・。
「ロイ?あなたは・・・ロイ・スタインベック・・・」
その台詞をきっかけにクライブはまるで狂人のように、頭をかきむしり壁にこぶしをぶつけ血を流して見せた・・・。
「・・・・うわー!!やめろ!!!やめてくれ!!また俺を苦しめるつもりか!!もう嫌だ!!俺はこんな生活はもうたくさんだ!!」
半狂乱といった状態が一番近いのかもしれない。その豹変振りに驚愕の面持ちのまま、そこに立ち尽くしたサラは、ふと我に返り彼の近くに歩み寄った。そこへ一発の威嚇射撃を受け、とっさに引っ込むサラだった。
射撃をしたのはハンスだ。彼はクライブに近づき肩に手を当てたが、やはりここでも正常な状態ではない様子で、今にも彼に殴りかかろうかという雰囲気だった。
ハンスはクライブの目をじっと見つめた。まるで視点があっていない・・・。
「クライブ!いかん・・・また・・・」
胸のポケットからケース式の注射器を取り出し、クライブの太ももに注入した。
「うう・・・・」ハンスは沈静化したクライブの体を担ぎ上げると、サラのほうをじっと睨んだ。
そのままハンスは背を向け、廊下を歩き出した。
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