2nd Stg第28話「TSD7」
電話を終えたベンは、静かに携帯を胸にしまった。そこにある噴水から流れ出てくる水をじっと見ながら、アメリカ大使館からの電話内容をもう一度確かめていた。
『今の俺の判断は、もしかしたら越権行為かもしれないな・・・。しかし国王が拉致された国家の一大事、あの大国がどう出るか、確かめてみたい・・・。』
宮殿内の会議室では、急遽集まったVIP達が重苦しい表情を並べて席についていた。ベンの不在間、そこには第2秘書側近のフランツが、緊張した面持ちで座っていた。
「今夜から3日間は夜間の外出は禁止になり、特別許可を受けたもの以外は出歩かないようニュースで放送しています。」警察官の制服に、大きな肩章や勲章等をやたらとつけた白髪混じりの男がそういった。その隣りの統合幕僚長(陸海空軍のトップ)であるジェネラルがその台詞の後に続く。
「陸海空軍、治安出動スタンバイOKです。」その報告を聞いて、内閣総理大臣が黙ってうなづいた。
後ろのドアが静かに開きベンの姿が見えると、フランツは飛び上がってうれしそうな顔をした。まるで長年会ってなかった家族に会えたときの子供のようだった。
そんなフランツと眼が合ってしまったベンは、少し笑って見せた。
『相変わらず、感情が表に出やすい男だ』
フランツは純粋で嘘がつけない男だ。彼の家族がマシューとジュルジュに捕まったときも、もっとうまく嘘をつく方法がないのかといいたくなるくらい、こいつが何を考えているのかわかってしまう。
「・・・外務省から先ほど届いた情報なのですが、アメリカ合衆国から秘密裏に、テロリストの捕獲に協力したいとの申し出がありました。」
いつもの席へ向かうベンは、彼の言葉にぴくっとした。
『俺も嘘はあまり上手ではないが・・・』
「一国の王が連れ去られたこの事件、アメリカの国益にもなにか絡んでいるのかね?」
「彼らの意図は何なのか、はっきりしていませんが、ただひとつ言えることは、アメリカも3Xをめぐるこのテロリストとの攻防に苛立ちを感じていることです。」
「やつらに任せるわけにはいかん!どうせ、王を助けてその見返りを得る魂胆は見え見えだ!」
「しかし・・・アメリカ軍がこの窮地を救ったとなれば、他の国のテロリストもアメリカを敵には廻したくないと考えるだろう。これは良い歯止めにもなるのでは?」
「やっぱり大国にお世話にならんといけないのか?」
ベンはフランツと交代して席へ付くと、いきなり首相が彼の意見を聞こうとじっと睨んできた。
「自国の危機を他国に任せるわけにもいかん・・・どう思うかね?ベンジャミン君」
「我々の情報では、ここから一番近い米軍基地からC-130が飛び立ったのは、今から3時間前・・・・こちらの返事を待つ気はないということだ。しかも、海底で見つかったコンテナの中の武器は、全部米国製・・・」
「その武器は、前もって米軍が用意していたということか?」ベンはうなづいて見せた。
「だとしたら、ずいぶん早くから予定が組まれた計画だと思いませんか?・・・しかし、まだ断定はできない。アンドレ王を攫ったグループにいるマシューとジョルジュは密輸のプロだ。彼らによる単独武器調達ということも考えられる。どっちにしろ・・・・・・・米軍が来る前に、王を我われの手で確保したい。そして、米軍の出方を待ちたいと思うが・・・どうかな・・・」
「では決行は・・・」軍人である男がゆっくり問うた・・・。
「予定を早めて、1800・・・」
「了解した。」
サラはそこにある小さな窓から、しきりに窓の外をのぞいていた。夕暮れの空以外何も見えはしないのに、一体何をしているのだろう・・。
「どうかしましたか?」アンドレは聞いてみた。
「太陽が昇ったのはこっちの方向・・そして今、徐々に西に傾いてきている。昨晩の風の向きは、こう・・・今は、それの逆・・・っていうことは、東西南北こういう方向ね。」
彼女はそういって指で十字に切って見せた。
「夜寝静まっても、海の音は聞こえない。時折鳥の泣く声・・・昼のほうが風は幾分強く感じ・・・ということは山の斜面・・。」アンドレはその独り言から位置を特定しているのだとわかった。
「この場所が判るのですか?」
「完璧じゃないけど・・・通常、昼間には太陽の熱を浴びて陸地は急速に暖まり、海面はなかなか暖まらない。だから、陸上では上昇気流が発生しやすく、それを補うように海から空気が流れ込む。これが海風。夜はその逆よ。多少コリオリ効果でずれるけどね。」
サラは傷を負った左腕をさすりながらそう答えた。時々傷がうずくのか、痛みをこらえている表情をする・・。アンドレはそんな彼女の腕に手をあてがいながらそうっと肩を抱いた。
「なるほど・・・ということはここは少なくとも海側ではなく、山側ということに・・・このフォイオンでは山岳地帯は、島の北側に面しています。多くはありませんが少し住民も住んでいますので、奥地まで車で到達できます。」
「その山々の北側はまた海?」
「はい。切りだった山の向こうには、急斜面の崖から海に突入しています。そこには誰も近寄りません。」
「要塞化するのは好都合ね。間違いないでしょう。ここは島の北側山岳部」
アンドレは驚いた。これが軍人というものなのか・・・?ほんの少しの情報でここまで状況判断ができるとは・・・。感心して見せたアンドレだった。そこに急にドアが開いた。
またあのマシューらかと思い、そこに現れた男を睨んで見せたが・・、そこにいたのはなんとも人のよさそうな、グレーの制服をきちっと着こなした紳士3人だった。
「おお、アンドレ国王・・・よくご無事で・・・あなたをお迎えに来ました。」
グレースーツはそう言ってアンドレに近づいてきた。
『流暢なネイティブイングリッシュ。背広の下には拳銃保持・・・。3人のうち一人はドアで警戒している・・・』サラはその男たちを分析していた。
鉄格子のドアを開けようと、前ががみになった黒スーツ男のインナーに防弾チョッキが見えた。アンドレは一体何事かと、サラの表情を確認したが、彼女は何も語ろうとはしなかった。
「テロリストと無事契約は終わり、あなたの身の安全は保障されました。さあ、宮殿へ帰りましょう。」
「え?・・・あなたたちは?」アンドレはいぶかしげに質問した。
「私たちはアメリカ合衆国のエージェントです。心配しないでください。ちゃんと依頼を受けて救出に来ました・・これが契約書です。」そう言ってグレースーツが用紙を見せた。そこにはフォイオン国の内閣総理大臣の名前がサインしてあった。
「まさか、国王・・。もうストックホルム症候群にかかってしまったわけではありませんよね?ははは!!」黒スーツがそう言って笑った。
サラは、この男たちを不審に思っていたことは確かだ。彼らと一定の距離を保ったまま、決して近づこうとはしなかった。
「国王を助けるために、アメリカに依頼した?・・・ってことなの?」
「そのとおりです。ブルックナー軍曹・・・」彼の返事にいっそう不信感を持ったサラは、そのままうつむいた。
「クライブ達は・?」アンドレの次の質問に彼らは即座に答えた。
「奴らなら、もうとっくに金を握って逃走しましたよ。しかし我々はそんなにアマちゃんじゃない・・やつらにもきちんと手は打ってありますがね。さ、説明はあとで・・・」
そういってアンドレの両脇に2人の男が引っ付いた。サラを無視して鉄格子の小さなドアを潜り抜けた・・。そのまま国王のみ連れて部屋を出て行こうとする男たちに、アンドレはその足を止めた。
「サラは?」男たちは無言だった。
「彼女は私のフィアンセだ。彼女も一緒に・・・」
「残念ですが、契約ではあなただけ助けることになっています。」アンドレは自分の腕をとっている男の腕を振り払った。
「だったら、私はいかない!!」その直後、まだ鉄格子の向こうにいるサラが静かに言った。
「逃げてウィル・・・今度こそ私の言うことを聞いて」
「サラ!!」アンドレはサラに近づこうと鉄格子を抜け、元いたところまで戻ろうとした。しかし、サラのほうからゆっくりと鉄格子を抜け出てきて、手前の部屋までくるとアンドレに抱きついた。
「大丈夫・・海風と一緒に走ればまた会えるわ・・・」耳元でささやいた・・・。
「Sir!王をよろしく!」サラはアンドレを力強く押し出すと、そこにあったパイプ椅子にふてぶてしく座った。エージェント3人は王を強引に誘導するかのように、廊下に彼を突っつき出したかと思えば、なぜかドアの鍵をかけそして急ぐかのように歩き出した。
まるで彼を逃さないかのように脇を固められている・・・。
『おかしい・・・。クライブ達がもうここにはいないのなら、なぜサラも一緒に助けようとはしない??また鍵をかけて閉じ込めたのはなぜ・・・。』
アンドレは前を歩く男の靴が、単純な紳士用のビジネス靴でないことに気づいた。底が厚く、しかも相当磨り減っている・・・。パブロがよく履いている靴と同じだ・・。
『海風・・・昼、陸では空気が温められ、空気は上昇気流に・・そのため海からの陸に向かって風が流れ込む・・・。そうか、逃げて北側の斜面に登れというんだな・・・」
久しぶりに外に出ると、夕焼け空が迫ってきていた。そこへコンテナを積まれたトラックが到着した。重そうに山の傾斜を登ってきたトラック荷台には、なにか資材が詰め込まれているはず・・・全員が逃げたというのに、なぜこんなものが到着する??
アンドレは確信した。『わが国が、サラを捨て私だけを解放することなんてありえない・・・。』
そんなアンドレの姿を双眼鏡で見えている男たちがいた。顔に緑の塗料を施し、全身を偽装した二人組みの男だった。
「アンドレ王、確認・・。3人のスーツに付き添われています。サラの姿はありません。」
フォイオン軍全無線に入った斥候偵察からの無線連絡の後、ホウィの声が飛び込んできた。
「ベン!Bingo!やっぱり密輸コンテナはここに到着だ。」
その報告の後、ベンの号令が響いた。
「榴弾砲撃て!」
感想いただけると幸いです。
rachsmission@yahoo.co.jp
面白かったらここをクリック♪
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。