2nd Stg第27話「TSD6」
サラが推測したとおり、宮殿では出撃の体制が整えられていた。もちろん、フォイオン陸軍102部隊だ。今回ばかりは裏切り者はいないはずだ。ベンはそう願っていた。
『一体、彼らはどうやってわが軍や警察の者たちを、自分たちの味方に寝返らせることができるのか・・・。』ベンは次の作戦展開のシナリオを描きながら、そんな事も考えていた。
金の力だとしたら、敵はかなり「はぶり」がいい連中に違いない。
ストライカー装甲車の内部で、あわただしく各種通信装置、ネットワーク情報システムのチェックをしているオスカーがいた。
「情報RMAの最先端って感じだな。オスカー」ベンはそこで昼夜問わず働いてくれているオスカーに声をかけた。
情報RMA (Revolution in Military Affairs)とは、情報通信技術いわゆるコンピューターを軍事組織に適用させることで、戦力の円滑・効率的な運用を行うことできる一種の軍事革命である。全軍の動きがコンピューターにより一つに統制統御されることにより、無駄な戦力投入を防ぎ、誤情報による味方への攻撃などを回避することができるのだ。
「先行する偵察部隊からの情報は、これで全部の車両に個別に送信されます。全般的に、高いレベルでの情報管理・統合運用能力を持たせましたので、組織戦闘としてはハイグレードです。」
オスカーは自信を持ってそうベンに伝えた。そこへパブロも現れた。
「ベン・・・ストライカーには、言われたようにMK19 自動擲弾銃を装備させた。」
ベンは大きくうなづいた。
「奴らはフォイオン国の王を拉致したんだ。相当の御礼をしないとな・・・」
パブロとオスカーは、久しぶりの真剣なベンの表情に顔を見合わせ苦笑いをした。今回の件を一番苦々しく思っているのは、まさしくこのベンジャミン・ゴードン中尉だということは言うまでもない。
クライブは与えられた自分の部屋に戻り、救急箱を冷たい床に放り投げた。この部屋もやはりむき出しのコンクリートが周りを固め、そっけない医療用のベッドが置いてあるだけだった。
クライブは、サラのことを思い出していた。なんとなく不思議な気分だ・・。
『ただ、あの男アンドレに、この女性を渡したくない』そう感じていた。彼はベッドに座ってぼうっと床の一点を注視していた。
「・・・・・俺は・・一体何をしてるんだ?・・なぜ、この国の王を攫う必要がある?それに・・・・」
ドアがノックする音が聞こえてきた。こういうときにいつも邪魔をするのはあの男に違いない。そう思った矢先、そのとおり、ハンスが返事を待たずにドアを開けた。
「クライブ、例のコンテナが届いたそうだ・・」ひげをチョイチョイと触りながら彼はズカスカと部屋に入ってきた。
「もう必要ないだろう。王はこっちの手の内にある。いまさら補給調達は無意味だ」
「今、宮殿内じゃ相当の兵を挙げているらしいぞ。プレゼントはもらっておいて損はしないと思うが・・・」
「わかったよ・・ハンス・・でエージェントはいつ?」
「今夜、直接ここへ来ると聞いている。奴らに王を渡せば、俺たちの任務は終わりだ。その後はどうするんだ?」
「・・・しばし、この国に残りたい・・・」彼のその台詞にハンスは動きが止まった。
「おいおい、まさか、あの女に本気なんじゃないだろうな?さっきマシューとジョルジュが言ってたぜ、Bossが一目ぼれしたみたいだって」クライブは少しにやけて笑った。
「まさか・・・そういって、やつらを引き上げさせただけだ。盛りのついた犬みたいだったからな」
「だったらいいが・・・。アンドレ王はあの女にぞっこんらしいからな。もし、王に恨みがあるのなら、あの女を十分楽しませてやればいい・・・そうしたら3Xは簡単に譲ってくれるかもしれん。」
その言葉はクライブの思っている核心を見事についていた。
『そうか・・。俺はもしかしてアンドレに嫌がらせをしたい一心で、あの女を・・・。でも、なぜ知らない男にこんなにも嫉妬しなければならないのだ??』
「ハンス・・質問がある・・・・俺は・・・お前といっしょに組んでいた諜報員仲間だったのか?」
「・・・・どうしてまた?・・・」
「この国に来てから、時々激しい頭痛に襲われている・・なにかおかしな気分なんだ・・」
ハンスはベッドに座っているクライブの前まで来ると、軽く肩に手を置いて言った。
「・・・・・・・クライブ・・俺とお前は秘密諜報員課程の同期、ずっといっしょにやってきた仲間なんだ。写真見ただろ?あ・・今は無理に思い出せなくてもいい・・・」
「ああ・・そうだったな。・・」
「同期は仲間・・いや家族みたいなもんだ。家族はいつも一緒だ。あの時、お前が工作員から撃たれて瀕死の重傷を負ったときも、仲間は毎日お前の病院に看病に行ってたんだ。お前は立派に回復して、またこうやって一緒に助け合っていける・・・」
「ああ・・」
「少し寝たほうがいい・・・きっと疲れているんだ。それに・・・ドクターからもらった薬はちゃんと飲んでいるのか?」
「もちろんだ」ハンスは上着のポケットからMP3を取り出した。
「ほらよ・・お前の好きなモーツアルト、ダウンロードしておいたぞ。それと、これは俺様の秘蔵の睡眠薬だ。一番軽くて目覚めも悪くない。部屋を暗くして少し休め。」
「Thanks」薬とMP3を受け取ると、カプセルを破き薬を口に運んだ。近くにあったペットボトルの水をそのまま口に流し込み、ゆっくりベッドに横になってみせた。
ハンスはそんなクライブを確認すると、部屋の電気を消し出て行った。
クライブはMP3のイヤホンを耳にかけ、深いため息をつくとそのままゆっくりと目を閉じた。ハンスの言ったことを思い出す・・・。
『同期は仲間・・いや家族みたいなもんだ。家族はいつも一緒だ。』そしてサラの言った台詞も思い出した。『家族のいない私には・・・戦友や同期が唯一の家族だったから・・』
「家族・・・」
そんなころ、昼間の高い日差しを浴びたベンが、宮殿の前にある噴水近くを歩いていたときに、胸元の携帯電話がなった。携帯のディスプレイにはホウィの名前が表示されていた。
「ホウィ、大丈夫か?」電話の向こうからは能天気な声が聞こえてきた。
「俺は問題な〜し!しかし例のコンテナ・・・見つかりましたよ。中には武器がごっそり!!驚かないでくださいよ・・・全部アメリカ製です。」
「アメリカ?なんで奴らがそんな真似をする必要がある?」
「俺にわかるわけないっしょ。とりあえず、行き先を掴むため、小型の発信機を混ぜてきました。」
「奴らの引き上げダイバーは来たか?」
「ええ、10人ほど・・・。あれだけの量のコンテナだ。1日やそっとじゃ引き上げできないでしょう。」
「奴らを付けてくれ・・マシューとジョルジュのいる場所に運び込まれる可能性がある。俺のカンが正しければ、そこは・・アンドレ王のいるところかもしれん」
「Affarmative」ホウィはおどけてそういって返した。ベンは笑った。
「ホウィ、お前は軍人ではない。無茶するなよ。」
「Merci」そういって電話が切れた。そこへメイドが宮殿内から、固定電話の子機を持って駆けつけてきた。息を切らしながら彼女は子機を差し出しこういった・・・。
「アメリカ大使館からお電話です。」なんとも奇妙な一致だった。ホウィが見つけたコンテナ内にはアメリカ製の武器が密輸されていた。今度は大使館がなにを??
「・・・・・はい」さっきまでのホウィとのジョーク交じりの会話とは一変し、彼は神妙な顔つきで電話に出た。そんなベンの目の前には、噴水から流れあふれる水の音だけが聞こえてきていた。
ストライカー装甲車誕生秘話
ストライカー (Stryker) は、アメリカ陸軍が進めている再編計画の一環として生まれた装輪式装甲車。
この再編計画では、今までのように韓国や日本に軍を駐留するのではなく、グアムに蓄えておいた物的戦力を、迅速に現地に派遣できることを念頭に置き、ストライカー旅団戦闘団の構想が実現した。
スピード展開、配置を重要視するため、今までの装甲車が使用していたカタパルトを外し、強化タイヤ8本を装備している。最高速度100キロで走行できる機動性の優れた装甲車である。
余談だが、沖縄や韓国をはじめ米軍はグアムに移転を開始しているのはご存知だろう。
米軍が引っ込むからといって北朝鮮は程よく喜べないのが実情である。
その理由としてこのグアムに常駐する旅団戦闘団は、海軍港に停泊している大型タンカー(HSV-X1ジョイントベンチャー)に、戦闘に必要な物資(食料から弾薬まで)を五万と蓄え、いつでも派遣準備が整っているからである。
しかもこの船は時速70キロで航行が可能という高速船である。人間は輸送機で直接現地入りし、物資は程よく近いグアムから運ばれるシステムになっている。
スマトラ沖地震での災害救助活動に、アメリカはこのシステムの一部をテスト運用した。ここでは災害として起きた惨事であったが、別の意味では、いざ紛争が起きればアメリカ軍がこのようにいつでも早急に戦力を展開することができると世界にアピールしたのである。
その目論見の先には「不安定の弧」と呼ばれる、いわゆる戦争やテロ活動が起きやすい、中東から北東アジアまでの諸国に対して、その意図を十分に見せ付けたことは間違いない。
面白かったらここをクリック♪
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。