2nd Stg第26話「TSD5」
フォイオンの首都では、アンドレ国王が拉致されたニュースを知るものはなく、ごく普通の生活が続いていた。しかし街の様子は普段と違う点がいくつかあった。なによりも警察官の数が馬鹿みたいに多い・・・。なにか事件があったのかと、通勤途中のドライバーが窓の外を不思議そうに眺めているが、特別これといって気にしている様子でもなかった。
そんな海岸通りの通りを走っていると、また検問が行われていた。白いバンの運転者はイライラし始めていた。
「ねえねえ、白い車だけ念入りに調べられてるような感じがするんだけど、・・・もうかんべんしてくんない?出勤途中に3回も止められたんじゃ、完璧会社遅刻だよ。」
「すみません、ご協力お願いします。」
重点的に停車を求められているのは、あの時アンドレとサラを乗せ走り去った白いバンだ。
オスカーがその状況を録画しておいた画像から、その白いバンのナンバープレートを特定できたにもかかわらず、そのナンバーは実に巧妙に作られたニセモノだということが判明した。
検問が行われている2車線道路の一番左側の通行帯を、フォイオンガバメントのプレートをつけたワゴンカーが、海軍のダイバー3人とホウィを乗せ、しかもご丁寧に警察車両に誘導され通り過ぎていくのが見えた。
「やってるやってる・・・」車の中からホウィが検問の様子を見て苦笑いした。
彼らの車が向かったのは、半島の先にある海だ。舗装道路になっていたのは半島の先にたどり着く手前800メートル手前までで、ホウィは重い酸素ボンベなどと一緒に、車から引き釣り降ろされてしまった。
「ひえ〜〜、疲れた〜〜。道路がないなんて、信じられない。」やっと海岸にたどり着いたホウィは、荷物をどさっと砂浜に投げ捨てて座り込んでしまった。白いT-シャツが汗ばんでいる。
「道路は半島の先から800メートル、奥まっているところまでしか来てないんですよ。このあたりは地盤が崩れやすいですからね」海軍ダイバーチームのリーダーは、疲れなど知らずといった様子でホウィに話しかけてきた。
「俺も、体力付けておかなくっちゃ・・・大変・・」その一言にチーム全員が笑いを見せた。
「さ、いきましょう!ホウィ。あなたの推測が本当だったとしたら、この場所に密輸品を陸揚げする悪いダイバー達も、ここへ来るはずです。」
ホウィはイヤイヤながら立ち上がり、装具を取り付け始めた。お互い装備を確認すると、朝日の輝く眩しい海に向かって歩いていった。最後の一人は海岸に残ったみんなの足跡を消し、そこに誰かいた形跡を消しながら、海に消えていった。
クライブは手に救急箱を持って、薄暗い廊下を歩いてきた。彼の靴音が廊下中に響き渡っているようだった。
朝の光が壁の高い位置にある小さな窓から入り込んでくる。ふとまたドアが開いた。
「クライブ・・」彼はポケットから鍵を出し、彼らのいる鉄格子のドアを開け中に入ってきた。無言のまま救急箱を開け、消毒液を取り出した。アンドレとサラは驚いていた。まさか私たちを捕らえた輩のボスが、本当に手当てをしてくれるとは思ってもみなかったからだ。しかもボスといわれている本人自らが・・・
クライブはサラの左腕を強引に引っ張った。サラはまだ痛むのか、少し顔を引きつらせた・・・。傷口までのブラウスを切り裂くと、2センチほど開いた注射筒の刺さった痕に、コットンに染み込ませた消毒液を塗った。
サラの顔がもっと苦しそうな表情を見せた。アンドレはサラの肩を抱き、そして言った。
「少し、我慢してください・・・」
「遅くなってすまない・・・。」クライブは傷口の消毒液を塗り終わると包帯を取り出した。
「ありがとうございます。クライブ・・・あなたは本当はやさしい人なんですね・・。」
アンドレの声を無視して包帯をきつく巻き終えると、右手でそうっと彼女の顎を下から添え、彼女の顔を真正面からじっとみつめた。
「あ・・・ありがとう・・・」クライブの瞳にサラの表情が写っているのが解るほど、二人は至近距離でみつめあった。彼の視線は続いてサラの破れたブラウスの胸元に移った。白い下着姿が見える。サラはあわてて彼の腕を払いのけた。するとクライブは勢いよく立ち上がった。
「俺の女だからな・・・美しくとっておきたいだけだ」アンドレはサラを守るかのように肩を抱いた。
そんな二人をじっと見ると、彼は身を翻した。
「じゃあな、ウィル」
そう言って鉄格子のドアに鍵をかけ、部屋から出て行った。そこに残った二人は、その状況を把握するのに時間がかかった・・。彼は今なんて??
アンドレはまた二人きりになったその部屋で、言葉を続けた。
「説明しなければなりませんね・・・兄のことを・・・」
「おおよそ、私たちが考えていることは同じのようね・・・まだ推測の域を出ないけれど。よかったら聞かせてくれない?」
「ええ、・・・兄ロイは、宮内庁法典のルールにより次の王継承者として、厳しい教育を受けてきました。ついに父の熱心な教育としつけに嫌気がさし、半分ノイローゼ状態で、違法バーに出入りするようになり、そこで賭博にくれました。きっとそんな毎日から逃げ出したかったのでしょう・・・確かにあの時の父の兄に対する態度は厳しかったですから・・・」
「・・・そんなことが・・」二人は冷たいコンクリートの上に座って語りだした。
「でも父の気持ちもわかります・・・病魔に冒され、あと幾ばくもない命だったのですからね、若くしてこの国の王となるロイに、すべてを注いでおきたい・・そう願うのは当然だと思います。」
「で、罪を犯したロイは、王家を破門されアメリカに渡り・・・そこで事故死・・・それが3Xの発見が噂されたころと同じ・・・」
「・・・・・なにか引っかかるのですか?・・」
「いや。なんでもない・・・」
「ふふふ、私たち・・育った環境は全く違いますが・・・よく似てるとは思いませんか?」
「え?」
「戦友や同期を家族同様に愛し、固い絆で結ばれた仲間をもつサラ。王家を破門されてこの世を去った兄ロイを、王家の墓地に迎える私・・・やっぱり独りになると、家族という暖かさを求めてしまうものですね。」
「家族か・・・」サラは自分にはない家族というものを思い描いてみた。
「サラ・・・お願いがあります。・・・」アンドレはサラの目をじっと見て言った。
「2度と・・・ボディガードの換わりは、他にもいるなんて・・・言わないでください。」
「あ・・」
「確かにそのとおりですが、サラ・ルーシー・ブルックナーの換わりはいません」
「・・・ウィル・・・」アンドレはそうっとサラの体を引き寄せた。サラの心臓はドキドキしていたが、抱きしめられたこの胸から聞こえてくる彼の心臓も、サラと同じように激しく鼓動していた。
『この冷たいコンクリートの上でも、暖かく感じるのはなぜ・・・。家族ってこういう感じなのかな・・・』サラはガラにもなく、今ここにある暖かさに酔ってしまいそうな気分だった。『だめだ・・・。ここから出る手段を考えなくては。それが今の私のMission!!』
サラはアンドレの体から少し離れ、そして口を開いた。
「あ・・・ところで、あなたのことをウィルと呼ぶのは、家族だけだったわね・・・」
「・・・そうです。実は・・私も・・気になっていました。」そういいながらアンドレは腕時計で今の時間を確認した。サラはそのとき、アンドレの左手首にはめられた時計を見て、静かに微笑んで見せた。
「ふふふ・・・プレゼントっていいもんね・・」
「サラ?・・・」アンドレは自分の時計にGPS機能が付いていることなんて、夢にも思っていない。
「やるとしたら・・・今夜」
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