2nd Stg第17話「Sara's Request」
サラの視線は、頬に傷を持つ配送人を完全にロックオンしていた。奴を倒すことが先決か、アンドレことウィルを保護するほうが先決か・・・。
サラは、その男に近づいていった・・・。突如、その男はサラが近づいてくることを知ってか、振りむくなりニヤリを笑って見せた。そして親指のない右手をゆっくりポケットに挿入した・・・。
サラはアンドレに向かって走った!!
「!!ウィル!!」その声にアンドレが振り向くと同時に、彼女は彼とマリアに飛び掛りその場に伏せさせた。その瞬間、ホテルの駐車場にあった車が爆発し、続いてホテル内のコインロッカーが・・・。そして客が置き去りにしたスーツケースが爆発した!そのコンクリートが粉砕した小さなブロックの塊が、会場内にも飛散してくる・・・。
あたりはパニックになり、地面に倒れた男女から悲鳴にも似た叫びが聞こえた。
サラはアンドレの上にかぶさりながら、頭を持ち上げあたりを確認した・・・。幸い、会場での爆発はなかった。その理由は後から知ることになるのだが・・・。
ホテルでは大きな爆音と共に、火災が発生していた。どこからともなく消防車のサイレンがけたたましく聞こえてくる。
「・・・サラ!」アンドレは彼女の名前を呼んだ。
「大丈夫?怪我はない??」彼はゆっくりうなずいて見せた。ほっとしたのもつかの間、例の頬傷男が辺りの人間を蹴散らせながら、会場から逃走しようとする姿が見えた。
ベンの無線機に、オスカーの声がこだまする・・・。
「奴はホテルの南側に移動中!」
彼の逃走劇の一部始終が、ICCトラック内のスクリーンに捉えられていた。
ホテルの南側には、あの能天気男ホウィが配置していた。いや、彼が意図してそこにいたわけではない。好みの女の子を見つけ、たわいないおしゃべりしていただけのことだった。そんなホウィも、この爆発音には驚いた。そして彼の耳に取り付けられた無線から届いたオスカーの声に、たちまち表情が変わり四周を警戒しだした。
ふと見ると、ホテルの南側にはこれ以上先にいけないよう、高いコンクリートの壁が張り巡らされているのが見える。
「オスカー!!この向こうは何があるんだ!」
ICCトラックではホウィの姿もスクリーンで確認できていた。
『全くこいつは・・・。だから民間人は困る。無線でこの向こうといわれても、どっちの方角かわからないだろうが!!おっと・・・かくゆう俺も民間人か・・・』彼はホウィが気にしている方向にカメラを向けた。その向こうにある場所が、別の地図パネル上に同座標としてインジケートした。
「I-12ハイウェイだ!そこに不審な車が停まっている。・・・逃がすな!ん?これは・・・」
ホテルとは全く違う場所が、突如点滅しだした。大急ぎで詳細を確認するオスカー。スクリーンを拡大させ、そこに現れた建物名はフォイオン警察留置所と表示した。
「警察の留置場でも爆破を確認!」無線にベンの声が飛び込んできた。
「何?オスカー!警察無線を傍受しろ!マシューとジョルジュに関する確認を急げ!」
ホウィは自分に向かって走ってくる男を見つけた。彼はとっさに身構えると、頬傷男は彼のいる通路から、ジャンプして1メートルほど下にある通路に舞い降りた。
「待て!!」ホウィは叫んだが、男はそのままI-12ハイウェイにまっすぐ向かっていく。その男の後ろを追いかけるホウィは、彼が俊敏な動きでホテルを囲っている高さ1.3メートルほどのコンクリート壁を飛び越えたのが見えた。
「飛び越えやがった!!」
ホテルとハイウェイを区分するその壁に阻まれたホウィが、奴が飛び降りたその下に走るハイウェイを見下ろすと、なんととんでもないほど高さがあることにビビッてしまった。
思わずごくりと生唾を飲み込む彼だったが、とてもそこを飛び降りる勇気は湧いては来なかった・・・。ハイウェイでは、奴が少し足を痛めたのか・・・右足を引きずりながらも、違法駐車した空の車に向かっていくのが見える。
「奴は逃走用の車を用意している!!」慌てて警察車両が彼を追いかけるが、とても間に合いそうにもない・・・。ふと気づくと、道路左手からオープンルーフのスポーツカーがものすごいスピードで走ってくるのが見えた。
運転席横から黒光りしたライフルが顔を出し、いきなり頬傷男が乗り込もうとしていた車に向かって射撃をした。タイヤがパンクし、車は沈んで見せた。
スポーツカーは、大きなブレーキ音をたてて車線を塞ぐように止まると、ドアが開き巨漢な色黒男がマシンガンを持って現れた。
「ありゃ、パブロ!!パブロじゃねえか!!おい、そいつを捕らえろ!」そう叫んだホウィのいる壁際に、ベンも駆けつけてきた。
「任せておけ!」逃げ場を失った男は、急に背広を脱ぎ捨て自分の体に巻きつけた爆薬を見せつけた。彼の目は充血し、まるで狂った猛獣のような様相で、パブロに向かって走ってきた。
「パブロ!奴は爆死する気だ!!」ベンがそう叫ぶと同時に、パブロの持つマシンガンが火を噴く。体中に弾丸を受けても、まだ彼は一歩でも1センチでもパブロに近づこうと必死にその足を繰り出した・・。しかし無情にも爆破物はパブロにたどり着く前に爆発する・・・。とっさに車の陰に隠れるパブロだったが、あたり一面は彼の血しぶきが飛び散り、粉々になった肉片が彼に向かってきた・・・。
「フン・・・ここでもアフガンと同じ事をしている奴がいるとはな」体に付着した赤い鮮血を気にする様子もなく、パブロはそう答えた・・・。
その様子を高台になっている壁の向こうから見ていたホウィは、唖然としたままなんにも言葉も出てこない様子だった。しかしベンは彼の右耳に入っているイヤホンを指で押えながら、一言つぶやいた。
「セレブの集まるパーティ会場を爆破すると同時に、マシューらがいる留置場も爆破。現場を混乱させ脱走を企てたって訳か・・・・」
その後、宮殿に帰ってきたサラ達は、アンドレの部屋のドアをいきなり開け、そこに配置されたベッドに近づいていった。そこにいたメイド達は、この日初めて見る筋肉質な大男パブロの衣服に付いた生血に、驚いて逃げていってしまった。
オスカーは持ってきた金属探知機を使って、マットレスの上を調べながらこう言った。
「宮殿に爆弾を抱え込んだってのは、ホウィだけでなく、実物もだったとはな・・」
「まさかあのジョーダンが本当になるとは思わなかったぜ・・・」こんなときに気の利いたJokeを言うオスカーにホウィは苦笑いをした。
オスカーがある一点に機械をあてがったとき、かん高い警告音が聞こえてきた。サラがドレスの下の太ももに隠し持っていたナイフを取り出し、マットレスのその部分を切り裂いた。黒く光る装置が取り出される・・・・。
「地雷型の爆破物・・・。この部分に体重がかかり、離れると爆破する仕組みだわ。」
「ベン、あの男の持っていた爆破キットは、俺がいたアフガニスタンで使われている自爆テロと同じものだ。参考になるかどうかはわからんが、アフガンでは自爆テロする人間は、組織の一員ではないケースがほとんどで、組織から多額の金が、家族に払われることになる。」さすが軍事オタクのパブロだ。こういった情報なら彼の右に出るものはいないだろう。
ベンは取り出された機械を見ながら、静かに言った。
「ホウィ、頬傷男の家族を洗え」
「了解」
この日の夜は一段と静かだった。さっきまで自爆だのテロだのと、およそ宮殿に似つかわしくない言葉が飛び回っていたのが嘘のようだった。サラはいつもどおりソファに寝転がり、アンドレの居室にある時計から、カチカチッと音が聞こえるのをずっと数えていた。
『彼はもう寝ただろうか・・・』不意に彼女の耳にテラスへと続くガラスドアが開く音が聞こえてきた。サラは起き上がると、彼の部屋を覗き込んだ。
彼はテラスで星を眺めていた。どことなく寂しそうな表情をしていたのが、サラは気になって仕方がなかった。『如何したらいのか・・・』彼女はためらいながらも、そうっと彼に近づいた。
「私の、父を失った悲しみなんかよりも、サラの孤独のほうがよっぽどか悲しいのでしょうね」
「ウィル・・・」彼はサラに気づいてそう語りだした。いつもの彼の雰囲気とは違っていたことが、サラを余計に心配させた・・・。
「私はいつも、あの星とあの星を両親だと思って、話しかけているのです。私も、サラ同様・・・、天涯孤独の身ですから・・・」夜空に輝く星を見上げたアンドレの横顔は、実に寂しそうだった・・・。彼が家族を失って一年しか経っていない・・・。心の傷はまだ癒えていないのも当然だろう。
「サラ、来週にでもわが父と母のお墓にいこうと思っています。是非一緒に来てください。両親にあなたを紹介したい」
「・・・・新しい、ボディガードと?」
「・・・いいえ。・・私のフィアンセとして・・」その台詞にサラはと惑った。
「一方通行ですけど・・・」彼はそう言って微笑んだ。サラもほっとしたのかうつむき加減に笑って見せた。
『今夜は本当に星空がきれい。華麗に踊ってみせる憧れの国王が、今、自分の目の前にいて、・・・そしてこんな私を好きでいてくれるなんて・・・』
彼女はアンドレが美しく舞うダンス姿を思い出していた。
「せっかく注文したベッドが壊されてしまいましたね。明日また注文しなくては・・・」
「あの・・ボディガードは、昼夜ずっと一緒じゃないといけないんですってね。」
アンドレはサラのその言葉に驚いた。
「あ・・・よかったら・・・」
「・・よか・・・ったら・・何ですか?」
「その・・・・」サラは言葉に詰まった。もどかしいほど、次の台詞が出てこない・・・。
彼の透き通る瞳を見つめた・・・・。
「・・・・・・ダンス、教えてくれない?・・またあんなことがあると困るから・・・」
二人の間に、海岸から吹き込む風が心地よく通り過ぎていった。一瞬の沈黙の後、彼は微笑んでみせた。
「・・・・・・はい。喜んで。My Princess」
そう言うと、すっと彼の右手がサラの前に伸びてきた。しなやかなその動きに似合わず、サラはぎこちなくその手をとる。
アンドレはサラの体を引き寄せると、軽快にワルツをリードした。サラは緊張して何度もステップを間違えたが、そのたびに彼は優しく微笑んでくれた。月夜の光の中で、二人は世界がまるで二人だけのような・・そんな時間が過ぎていった。
どれだけの時間がたったのか、解らない・・・。気が付くと二人はアンドレのベッドで熟睡していた・・・。
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