2nd Stg第13話「First Night」
宮殿会議室にある大きなテーブルの上に、いきなり大きな紙を広げたのはベンだった。
彼とサラ、ホウィ、オスカーの4人は、まるで長旅の疲れを感じることもなく、そこに広げられた宮殿敷地の地図に注目した。
アンドレ王はメイドに付き添われ、部屋から出て行くとき、チラッとサラの様子を見たが、彼女はまったくアンドレの視線を感じることなく、食い入るように地図を眺めていた。
「これがこの宮殿敷地内の全建物の配置図だ。それと、こっちがこの宮殿の間取り図・・・。そしてここが3X発掘現場。どのように防御配備したらいいか、みなの忌憚のない意見を聞きたい。」
久しぶりの軍隊モードだった。
「まずはオスカーと俺で、この敷地内にやばいカメラや盗聴マイクなど取り付けられていないか、検査することが先決だろう。」
ここでは真面目な顔つきで、一番に発言したのはホウィだった。
「時間はどれくらいかかる?」
「広い敷地内だからな・・・」
彼はそういってオスカーをチラッと見た。黙って腕組みをしていた天才肌のオスカーは、メガネの奥にその配置図を焼き付けながら静かに答えた。
「24時間くれ」
「わかった。」
「夜間の警備はどうなってる?」サラは警衛所と敷地内のポスト(警備分所)を指差しながら言った。
「1時間おきに動哨が回っている。」動哨とは、警衛の指揮所でもある警衛所を指定された時間に出発して、各ポストと呼ばれる分所を回り、動きながら警戒に当たる警衛隊員のことを言う。
「このあたりには動物は出るの?」
「昔、切りだった岩山を砕いて作られた要塞を、今こうして宮殿として使っているのでな、高さ6メートルの壁が敷地を取り囲んでいる。よって鳥以外の動物の侵入する可能性はゼロだ。」
「セントリーガンの設置を希望するわ、3Xが発見された裏庭は全部それに任せて、各ポストと動哨での警戒は中止。宮殿の全従業員にも裏庭へは立ち入り禁止!問答無用でハチの巣になることを伝えて。」
「賛成だ。さっそく調達を・・」セントリーガンとは、自動追尾式マシンガンのことだ。オートにセットすると、銃に搭載された小型カメラに写った動くもの全部を、勝手に連射しだす。敵味方を判別することはなく、まさしく問答無用で相手を撃ち殺すことになる。マニュアルセットでは、監視室などからカメラが捕らえた映像を、人間が識別する作業をすることになる。サラの言葉はまだ続いた。
「外壁にはカメラを取り付け、モニター監視を。ゲートに生体認証セキュリティ対応システムの導入を・・・今から12時間以内に王室の従業員全員、指紋及び声紋を取らせて。これでかなりの率で不審者の侵入は防げるはず。その他、業者の入門はどうなっている?」
白熱した会議が夜遅くまで続いた。やっと終了した頃には、時計の針は夜中の1時を当に過ぎていた。
会議が終わりメイドに案内され、部屋まで続く廊下を歩いている間、サラはジェットラグによる疲れを少しずつ感じ始めていたのか、時折大きく首を回してみたりしていた。
メイドは大きな白いドアをノックすると、そのドアをゆっくり開けた。何気なしに入室すると、まるで目もくらむような美しい部屋が彼女を迎えた。
『これが私の部屋??』そう思った瞬間、隣と続きになっている部屋からアンドレが現れた。サラは言葉に詰まった・・・・。メイドはそそくさと部屋を出て行ってしまい、二人きりになった国王の寝室で、サラはぽかんと口をあけて突っ立ったままだ。
「おかえりなさい・・会議は終わりましたか?」よく見るとサラの荷物が航空タッグをつけられたまま、ソファの隣に置いてある。
「あ・・まだ・・起きていたんですか?」
「なかなか寝付けなくて・・・。今日は本当にありがとうございました。どうぞこちらへ・・」
そういうと、アンドレは目の前にあるソファに座るように手をかざした。しかしサラはこの状況を理解するのと、あまりに唐突なことの運びに驚いたまま動こうとはしなかった。
「どうかしましたか?」
「・・・王・・・いえ、ウィル・・・私は・・・」
『この人は、マジで私を婚約者だと思ってるの??』
そんなサラの状況を見て、アンドレは静かにこう告げた。
「・・・あなたの今の心境はわかります。あまりにも突然なことなので戸惑うのは当然です。ベンからあなたの事を聞いて、勝手に好きになってしまったのは私ですから。」
サラは彼から言われたその言葉が、長旅の疲れた頭の中でぐるぐる回っていくように感じた。
「サラからの直接・・返事は、まだ聞いていませんし・・・・」
『返事・・・?』
「わ・・・私は軍隊のことしかわからないし、なによりあなたを守るという重要なMissionを遂行しなければなりません。それに、私にはこんな生活は無理です。生まれたときからずっと戦火にいた私には、きらびやか過ぎて・・・。」
その時、アンドレの透き通るような青い眼が、少し曇ったようなまなざしに変わった。
「あ・・でも・・・ベンの命令どおり、表向きはフィアンセとして王の近くにいますから・・・」
言葉がきつかったのか??サラは慌ててそう言って取り繕った。アンドレは悲しそうな表情をしたが、すぐに微笑んでサラに近づくと彼女の右手を両手で取り、自分の胸前でそうっと握り優しくこういった・・・。
「・・・少し、淋しく感じますが・・・わかりました。私と3Xの安全が確証されるまでの間、よろしくお願いします。」
サラは今にも心臓が爆発しそうだった。世の中で一番苦手な分野なのかもしれない・・・。何で急にこんな展開に??そう思ったら、急に疲れが出てきた。
そのはず、アメリカからおよそ24時間飛行機の中で過ごし、フォイオンに到着するなりいきなりの危機。ここはゆっくりとベッドで寝たいところだが・・・。
アンドレはサラの頬にキスをすると、ゆっくりと続きになっている隣の部屋のベッドに向かって歩いていった。
サラの目の前に広がる部屋には、中央にゴージャスなソファとテーブルが置かれ、その部屋だけでもサラがオハイオで過ごしていた家くらい広かった。彼女は崩れるようにソファに寝転がると、どこからともなくアンドレの声が聞こえてきた。
「明日、もうひとつベッドを用意させましょう・・・おやすみなさい」
彼の部屋の電気が消えた。サラは何も答えず、そのまま眼を閉じた。
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