「ッキャー!! 食人よおー!!」
かん高いギャルの悲鳴が響いた。
「フン! 今どき食人なんてあるものか。コレだからメディアに毒されたヤング供は……」
俺はまったりと午後のアフタヌーンティーを飲み干すと、前髪を美しくかき上げつつ悲鳴の出どころをみやった。
するとそこには、
流れる金髪、輝くばかりに美しい美少女が、ミニスカ女子高生を頭から丸飲みにしていた……。
「………うっそぉん……」 俺はゴシゴシ目をこすってみた。駄目だ。俺の目は今日も正常運転間違いなし。えっと、どうしよう、とりあえず、写メ撮っとこう。
そうしてる間にも美少女はごっくんと女子高生を飲み込み、続いて隣のイケメン彼氏をたいらげ、次の獲物探しにとりかかった模様。
「ひぃー、お助けぇ〜!」
逃げまどう人々。
丸飲み美少女は腰を抜かして動けないハゲオヤジを一蔑し、よいしょと飛び越してまっすぐ俺の方角に欽ちゃん走り。
いやいやいや無いな、コレはないな、こんだけ人間がいるのに、よりによって俺に狙いを定めるなんて猫の鼻にメンソレータム塗るくらい有り得ないな。ってか欽ちゃん走りもかなり有り得ないな。
いやはやしかし悲しいかな、どうやら美少女は俺にロックオンだったらしい。何故ならばぐわしっと俺の肩が掴まれたからだ。
ヤバい、写メなんて撮ってる場合じゃなかったよ〜。って俺、マジで食われる5秒前?
俺の目の前で美少女が可愛らしくにっこり笑い、そして……。
「ちょっ、タンマ、美少女さん、俺、美青年は美青年でも毒を含んだ美青年だからきっと美味しくないよ……?」
――バクッ!
「ピギャー!」
俺の全身はははなんか湿っぽい暗闇に包まれギュムギュム吸い込まれていった。 ……ああ、俺はこんなわけわからん死に方で17才ピチピチ童貞で死ぬんかい…日本人のカメラ好きDNAよ、許さん…!
☆☆☆
「うう、全身シェイプアップー………んぉう? 俺、生きてる…!? ここどこ?」
キョロキョロ辺りを見回してみても、何処までもうすぼんやりした闇の世界が広がっているばかり。
「は〜い〜! ここはぁ〜、私のお腹の中でぇっすぅ〜!」
「ああ〜、そっか〜、あなたの腹ん中ですか〜、ってギャー!!」
し、食人美少女、さっき俺を食った食人美少女が目の前にいるー!!!
「ギャアアアア寄るな見るな触るなあー!! 食われるー! 食われた先でまた食われるー! うわっ! エンドレスに食われる俺ェー!」
「お、落ち着いてくださぃ〜、私は〜YOUにお願いがあって…〜食べるつもりは毛ほどもないんですぅ〜……信じて下さい〜!」
「ギュムギュム食ってたじゃねーか!!! 出せー! この変な空間から出してくれー!」
困惑しきりの美少女そっちのけで俺はわめき散らした。
「あぁあ暴れないで下さ……わ、私のお願いを聞いてくれたら元の世界に吐き出……ゲフン、返してあげマスから〜だからぁ〜、あのっ、あのあの、あー……人の話を聞けコノヤロウ!」
じゅっ
奇妙な液体が地面からにじみ出て俺の靴底が溶けた
「………お兄さん猛烈に落ち着いたよ。君のお話が聞きたいな〜。」
「はぅ! 本当ですかぁ〜! よかったぁ〜!」
人食い美少女がパッと顔をほころばせてピョコンと飛び、謎の液体が数滴跳ねた。
悲しいことに、こんな状況でも美少女は美少女、とっても可愛いらしかった。
「ひと目惚れなんですぅ。」
「は?」
「私ぃ〜エリザって言います、え〜と人間の言う、…鬼? みたいな一族なんですけどぉ、あ、普段はチベットの奥深くにひっそり暮らしてま〜す。デモ、」
あぁっ! と美少女エリザはピシャッとおでこに手を当てた。
「私、あんなド田舎でピチピチハチキレムンムンのボディ持て余して一生終えたくない!! ロマンス求めて日本キマシター。」
「なんでまた日本に…」
「フジヤマ、スシとってもビューテホー。イエローモンキーみな優しカッタ。」
ほうっ、とため息がエリザの唇から漏れる
「意味わかって言ってねぇだろ…」
「さっき、私にカメラを向けてるYOUを見てビビッと来たんですぅ〜、ああ、私はYOUと結ばれる運命だなってビビビッ!」
待って、どこら辺で? どこら辺で運命を感じろと?
「私の種族、強い愛を感じた相手はとりあえず食べちゃうんです。人間、よく、食べちゃいたいくらい好きっ、て言いますよね〜? ソレをマジでやってるんでーす。」
「わかった、もうおまえら絶滅しろ、頼むから。」
エリザは俺の哀願をまったく無視してうっとり夢見心地に話を続けた。
「意中の人を体内に取り込んで愛の告白……、はぁあん、ロマンティックですぅ〜! 乙女の憧れですぅ〜!」
謝れ、全国の乙女の憧れに憧れる男達に泣いて謝れ。土下座しろ、と言う俺の力いっぱいの心の叫びは届かなかった。
「ねっ? 私、YOUに愛の告白がしたかっただけなんですぅ。取って食べちゃう恐〜い鬼さんって訳じゃないんですよ〜!」
そう言うと美少女エリザは長い金髪をフワッとなびかせ、きゅるんっと急接近して上目使いに俺を見つめ微笑んだ。物凄〜く可愛く、不覚にも思わず胸が高鳴ってしまう。さすが、これが人外の者の魔力なのだろうか?
「あ、あの、じゃあ君が最初に食った女子高生とその彼氏もここに居るの…?」
「あ、あれは〜私のお昼ごはんですう〜、いゃだあ、そんな、気にしないで下さい〜。もぅ消化しちゃったんでここには居ないですから〜。2人っきり、で・す・よぉ☆」
かつて無いほど嫌な2人きり!!!!!!
「うふふ、ドキドキしますねぇ〜」
いや、別の意味でものっそいドキドキの非常事態だから。素っ裸のターミネーターに服よこせ言われた時くらいの非常事態。
俺が石の様に固まってしまったので、エリザも流石にドン引きされている事に薄々気付いたらしい。
「あぅ……あの、…やっぱり……駄目ですか……? 私の事、嫌いですか……??」
眉をきゅっと下げ、エリザの悲しそうな顔がドアップで迫ってきた。ウルウル揺れる瞳の端にはしっかり女の武器がスタンバイ。
「う…っ」
かっ、可愛い……な、なんだ!? この押し寄せる時代の波のような愛しさは……?
いやいやまてまてまて俺、相手はアレだ、人食い鬼だぞ!? ……でも可愛いな……、お昼ごはんに二人ぺろりだぞ!? まるで魔人ブウだ! 魔人ブウと恋愛とか絶対成立しねぇだろ! ……でも可愛いな……。
「ううううう……だぁっ! やっぱ無理無理!! 魔人ブウ無理! うん、人間見た目より中身が大事だよね!!!」
「はぅうっ……!! ……そんな……酷い!」
「酷くねぇ!! 大体君ねぇ、見た目と中身のギャップ甚だしすぎ!! もっとこう……メガネ学級委員なのに実はドジとか、そういうの俺の理想なわけ!! わかる? わかんないかな〜」
おぉ、我ながら一部の特殊な人にしか分からん例え。
「……ど〜しても駄目ですか?」
「ど〜しても駄目!! ダメダメダメ―! 無理! 不可! ……うぉ」
慌てて俺は言葉を切った。エリザがポロポロ泣き出したのだ。
「………な、泣いてもダメだぞー……」
「……ぅっ、わ、私が、人間じゃ無いからですか……?」
「い、いや、そういう訳じゃ……ん? そういう訳なのかなー?」
「うわ―――――――んっ!!」
「あぁっ!ゴメン、ゴメン、よぉ〜しよーしよしよしよっしゃしゃしゃ……」
ヤバい、このままでは乙女の涙パワーで押し切られてしまう。一刻も早く泣きやんでもらわねば。
俺はエリザの頭をムツゴロウさんもビックリの激しさでいーこいーこした。すごい摩擦熱でエリザの髪がちょっと焦げてしまったが。
「うぁ…ひっく……うぅ……良いんです、突然、無理を言った私が悪いんですぅ……」
良かった、どうやら納得して頂けたようだ。
「いやいや、俺もちょっとツッコミがキツすぎたわ、ゴメン……。あの、そろそろこっから出してくれないかなー?」
「……残念ですけど……もう晩御飯の時間なんです…」
美少女は涙を拭いながら言った。
「はぁ。」
「わたし、あなたに愛される事は諦めます……ひっく……でも、私は貴方を愛してる、この気持はヘヴィーですぅ。アッチッチですぅ。誰にもとめられません〜」
「……はぁ。」
あれ? なんかいやな予感。普通の会話なのにそこはかとなく漂うこの緊張感はなんだろう。
「こうなったら消化せずにはいられません〜」
じゅわ。
謎の液体、再び。……コレってまさか……まさか消化液?
「うぉっちょっ、待て待て待て待て! 俺今めっさデンジャー? てか死ぬぅ!! 死んじゃう!!」
「あなたは私の血となり骨となって生きていくんですね……! はぁあん、愛する人を吸収するなんて、これはこれで超ロマ〜ンティックですぅ〜溶ろけますぅ〜」
「微塵もロマンティックじゃNEEEEE――――!!間違ってる、あんたのロマンティックはバブル時代の金銭感覚くらい間違ってる!!!」
じゅわじゅわ。
「うあ熱ぢぢぢっ!足が溶けるーっ! ゴメンナサイ神様、溶ろける様な恋がしたいとか思ってゴメンナサイもういいです!!!」
「ふふ、逃げても無駄ですよぉ〜」
う……、このままでは本当に死ぬ……死んでしまう……。
―――いいじゃないか。
ふ、と心の中に声が響く。
いいじゃないか……こんな死に方でも……。こんな世界にも、俺なんかを好きって言ってくれるヤツがいたんだ……。
俺は抵抗を止めた。目を閉じる。このまま死ぬのも良いさ……、と、その時…。
どこからか、聞こえた。俺の、生きる目的…。
――冗談じゃない、今日はガンダムSEEDの再放送がある日じゃないか―――!!
「うぉお俺はまだ死ねねえ―っ!!!」
俺は渾身の力を込めてエリザに突進した。
ドガッ!!
「ウバッ!!」
見事に腹に決まってしまった。不意を突かれたエリザがペシャッと水溜まりに尻餅をつき、うずくまる。見た目は可愛い女の子だけに心が痛むが、その100倍くらい防御本能が働いたのでは仕方ない。
「あいだだだ…っ、ふにゃあ…おぷ、お腹いたひよぅ〜……うえ。」
よっぽど効いたらしく、腹を抱えて痛そうに痙攣し始めた。な、何だか様子が変だぞ。
「お、おい、だいじょうぶか……? ……!!?」
ドクン
ドクン
な、なんとエリザの痙攣と同じ間隔で、空間が波打っている。
「……気持ち悪いですぅ…―――ぅオエ」
「おっ!? わわわ!!!」
ざざざざざざざざざざざざざざざざざ
文字通り世界が揺れ、ものすごい勢いで地面が揺らぎ波うち、トランポリンのように俺の体はあっちゃこっちゃポンポン跳ね飛ばされた。
ずごごごごごごごごごご…………
間髪入れずこれまた凄まじい風が吹き、俺の体は木の葉のようにくるくると虚空へ吸い込まれていった。
「しぃぇぇぇぇぇ―――――っ!!! 2時間かけてセットした髪型がぁぁぁぁぁぁ……」
☆☆☆
「げほっ、げほげほ……ぅあううえ……にゃ。」
「……た、助かった……のか?」
ヘアスタイルはサイヤ人みたいになっちゃったけど。
おお、なにやらわからんが元の世界に戻れたらしい。夕暮れお日様が目にしみる。
はっ!!
うかうかしてられん。さっさと帰ってガンダム見ねば。
「ま、待って……」
子猫のような弱弱しい声が聞こえた。
う。
「いや無理! 大丈夫! 君の事は一生忘れないから! てか、一生忘れられないから!!!」
「お願い……待って下さ……あなた無しじゃ私生きてけない……」
うう。
「大丈夫! 君は俺の思い出したくもない思い出ナンバー1として生き続けられるから!!!」
振り返るな。きっとまた泣いてるぞ。振り返らずに、行くんだ……。
俺は足を速める。
「………………待っ……て……。」
行け。
「……待って……。」
だんだん声が遠くなっていく。
行くんだ。
「………待って…ぇ…………」
畜生バッキャロウ、大好き、だぁぁーーーーーーーーっ!!!!!
俺はへたりこむエリザへと猛ダッシュした。
いつの間にか集まってきたギャラリーの拍手喝采を背中に浴ながら…
☆☆☆
「はう……戻ってきてくれたんですねぇ……嬉しい。」
涙と鼻水とその他もろもろの液体でぐちゃぐちゃで、でも本当にうれしそうな顔をするエリザ。
「まあ、なんだ、運命感じちゃったしな……運命感じちゃったら逆らえないよなー。もうワンマン社長の会議での発言くらい逆らえねーよな。」
「ふふ。」
おずおず手を取り合い、夕暮れの町を歩いた。
エリザの手は冷たくて、暖かかった。
断層くらい価値観がズレてる彼女。でも可愛い彼女。愛の伝え方が猫に芸を教えようとする人くらい見当違いな彼女。でも一生懸命な彼女。
運命の手にかかれば楽しい異文化コミニケーションに早変わりだ。
その日、俺は結局ガンダムは見れなくて、でも、もっと大切なものを手に入れた確信があった。
そうそれはディスティニー。
ガンダムSEEDディスティニー。
いや、別に関係ないけど。言ってみただけ。
それが俺と彼女の、衝撃的な出会い。
子どもには絶対話せない。
あ、ちなみに今では町一番のラブラブカップルです。
終わっとけ |