エピローグ
ここまで読まれた読者の方は既にお気付きでしょう。
これは安登蔵基樹の手記と塚本香織の会話記録を、内容を変更しないように気を付けながら私が編集し直したものです。
読者の方が思われている通り、安登蔵さんから白髪の男と呼ばれていたのが私です。
少しご説明を致しましょう。
安登蔵さんは腹部に複数の刺し傷を作り、救急車で病院へ運ばれました。
その際に運ばれたのはこの病院ではありません。警察の森田さんが付き添われました。
最初に血塗れの安登倉さんを発見したのが森田さんのようです。
安登蔵さんが搬送された際、森田さんは自殺を図ったとおっしゃったそうです。
それから安登蔵さんは危険な状態で四日間程昏睡状態だったそうです。
四日目の4月17日、目を覚ましたのは安登蔵さんではありませんでした。
自分のことを塚本香織と名乗ったそうです。
そこで私の所へ来ることになったのです。
私も森田さんとはお話をしました。安登蔵さんには虚言癖があるかもしれない、彼は私にそう言いました。
そこで私は森田さんから塚本香織のことを聞きました。
昏睡状態から目覚めて名乗った名前と同じで驚きました。
安登蔵さんは搬送される一週間程前から、メールで塚本香織と名乗る女性から脅迫をされていると訴えていたことも聞きました。
森田さんは安登蔵さんのPCを調べた際に、塚本香織から送られた時間に安登蔵さんのPCにログイン履歴が残っていたことに気付かれたそうです。
つまり自分で自分のアドレスへメールを送り、送信先を偽装した脅迫メールが来たと安登蔵さんが嘘をついていると思われていました。
しかし安登蔵さんは実際には嘘をついていませんし、メールが送信された時間帯は確かに寝てらっしゃったと思われます。
安登蔵基樹さんは解離性障害を有していました。
つまり安登蔵基樹の頭の中には、塚本香織という別の人格が形成されていました。
夜中に起きて安登蔵さんにメールを送っていたのはこの塚本香織の人格でした。
何がきっかけかは分かりませんが、ここへ来て塚本香織が目を覚ます頻度が格段に多くなったようです。
ここへ来て安登蔵さんが眠り続けていた間、代わりに塚本香織が私たちと会話をしました。
塚本香織は今までほとんど人前に出てきたことはなかったと話しています。
目が覚めるといつも決まって夜中だったようです。
塚本香織は自分を夜中だけの担当として当初は納得をしていたようです。
しかしいつの間にか、日中に自由に行動できる安登蔵さんを憎らしく思うようになり、今回の件を思いついたようです。
私が安登蔵さんとお話をして以来、安登蔵さんは目を覚ましていません。
あれ以来、中枢人格は塚本香織になってしまったようです。
その後に森田さんと笹木さんと言われる方が面会に訪れましたが、私がお断わりを差し上げました。
これからは今までの生活を捨て、塚本香織として、生活をしていくのでしょう。
*
私は長く続く、一本の道をただひたすら歩きました。
私は一人です。
ついに突き止めたのです。
やがて真っ白い家が見えてきました。
『貴方が塚本香織さんですか?』
安登蔵さんはそう言いました。
『えぇ。初めましてですね』
私は以前から安登蔵さんのことは知っていました。
知らなかったのは安登蔵さんだけ。
『どうぞ、お入り下さい』
『私がここへ来た理由はお分りですね?』
安登蔵さんはゆっくりと頷きました。
私は持ってきたナイフを取り出しました。ナイフの先はきらきらと光っていました。
『苦しまないようにしてあげますね』
私はそのナイフで安登蔵さんの心臓を一突き。
安登蔵さんはゆっくりと倒れ、床に崩れ落ちました。
真っ赤な噴水が真っ白い部屋に吹き出し、私も真っ赤に染まりました。
私は真っ赤にデコレーションされた部屋を後にしました。
外の光がとても眩しすぎました。
私はこれから一人で生きていきます。
さようなら、安登蔵基樹さん。 |