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青色吐息 作者:かいとーこ
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18話 教育と躾け2

2

「わぁ、さすがトロアさん。力強いですね」
 セーラは鍋を振るトロアを煽てていた。
 トロアも気分を良くして鍋を振っている。
 セーラには大きすぎて持ち上げるのも一苦労する鉄鍋の存在意義に疑問を感じていたラゼスだが、別の誰かが振ればいいのだと納得した。
「男の人はいいなぁ」
「子供の格好だから余計に力がないだけだろ」
「腕力に関してはあまり差はありませんよ。人間の女の子はか弱いんです」
 セーラは頬を膨らませる。女の子は些細なことを気にするが、人間の女の子は逞しすぎるのは好まないのをラゼスは思い出した。
 セーラはこの国の女の子、モリィに化けている。トロアは全く気にしていないが、セーラのことを慕ってるアディスが気にしているので、そろそろ戻って欲しいものだと思い腕を組んだ。
 彼女の胸が邪魔というのも、ラゼスには理解できない苦痛のため、強く出ることも出来ない。
 落ち込んだアディスはまだ生まれて一年もたたないのに、自分磨きを始めている。
 何とかして慰めたいのが親心だが、ラゼスには手詰まりだった。
 文化的な家を出て、翼を広げて崖の上の原始的な巣穴へと戻る。
 そこでは息子が唸りながら力んでいる。
 ラゼス達のように、魔術に頼らず人の姿になりたいと、隠れて練習をしているのだ。
 隠さなくてもいいと思うのだが、中途半端な変化が不気味だから、好きな相手には見られたくないらしい。
 好きだと明確な愛を持つことが出来る彼は、誰に似たのか分からない。
 ラゼスはネルフィアのことが好きなのか嫌いなのか怖いだけなのか、この長いつき合いがあってもよく分かっていない。
 彼女に対して一番愛情を持てるのは、寝ている時だと言い切れるほど、横暴で乱暴だと思っている事だけはっきりしていた。
 その乱暴で短気なネルフィアが、賢い息子に教えているつもりになって監修している。
 アディスはそれを上手くあしらいながら、言われたとおりに特訓している。
 彼はネルフィアの扱いが上手い。適度に煽てて、適度に甘えて、適度に自立して、ネルフィアを良い気分にさせながら自分の好きなことをしているのだ。
「あの要領の良さは誰に似たのか……」
 見ている限り、特訓はあまり上手くいっていないのだが。
 数少ない子供らしい様子に、ラゼスは思わず笑みをこぼした。
 彼はネルフィアに対する感情は分からなかったが、自分によく似た息子は可愛くて仕方がなかった。
 少なくとも、容姿はネルフィアよりはラゼスに似ている。自分の息子だと実感できるため、可愛くて仕方がない。
「アディス、もうすぐ昼食のようだよ。セーラがトロアに鍋を振らせていた」
「あ、はい」
 アディスは中途半端な変化を解いて、翼を広げ伸びをする。あの姿を見られたくないという男心がいじらしい。
「少しは上手くなった?」
「少しは。セーラに見せられるほどになるのは、いつになるやら分かりませんが」
 親に了解も得ず、人間の方法でとはいえ結婚してしまった息子は、早く大人になろうとがむしゃらだ。
 その妻の方は、アディスが本気であると最近になって理解し、少し距離を置こうとしている。
 子供が相手なので仕方がない。ラゼスだって、産まれたばかりの子供と結婚などしてしまったら、きっと戸惑うはずだ。
 だがアディスが今よりも大人になれば、彼女も受け入れやすくなるだろう。
 その頃までは力もゆっくり付けていけばいいのだが、大人になりたいばかりの子供にその理屈は通用しない。
「あまり急がない方がいいよ。子供の成長の早さには大人はいつも驚かされる。セーラだって驚いてしまう」
 セーラが驚かないよう、少しずつ変わるべきだ。
 可愛い可愛いと子供として世話した竜が、男として迫ってきては戸惑いは一入だ。
「セーラはしっかりしているけど、やっぱり子供だからね」
 大人になりきれていない少女だ。食べ物が一番好きで、食べ物のこととなると目の色を変えて、夢中になる。
 ネルフィアよりもずっと女の子らしくて可愛い。
「おしゃべりしていないでとっとといくよ」
 ネルフィアが鼻で優しくアディスを押す。あれがラゼスだったら巣穴から叩き出される勢いのはずだ。女というのは子を産むと変わると言うが、ネルフィアも少しは母親らしく変わっているようだった。
 皆で下に降り、人の姿へと化ける。竜の姿でぞろぞろ入ると手狭なのだ。セーラに言われるので、手を洗ってから小屋の中に入る。
 人間らしい温かい部屋に、温かみのある装飾の室内。手作りの人形が棚に座り、手作りの小物入れが並んでいる。
 そこに芳ばしい香りが広がっていた。ラゼスには何の香りなのか分からなかったが、空腹を覚えた。
「お帰りなさい。手、洗ってきてくださいね」
「洗ってきました」
 セーラの言うことは毎回同じだ。
「あ、そうそう、フレアさんからお手紙来ましたよ」
「手紙?」
「気付いたらテーブルの上に置いてありました」
「使い魔ですかね」
 アディスは手紙を開封した。
 手紙を開くと花が開くように香りが広がった。
 冬のこの時期に嗅ぐと、竜達は思わず春を思い出して呆けた。山の竜は春がとにかく好きなのだ。
 人間は凝ったことをするとラゼスは感心し、ネルフィアが取って食べそうな勢いで手紙の香りを嗅いだ。一人、まだ子供のアディスだけがそんな成竜を見て首をかしげた。
「お母さん、ちょっと手紙読みたいんで」
 アディスはネルフィアを翼で押して、手紙を庇った。
「んー……今夜迎えに来るそうです」
「迎えに?」
「あちらから早く来いと急かされているそうですよ。使い魔の妖精をやったんでしょうね」
 アディスは用が無くなった手紙をネルフィアに渡す。彼女が紙を食べてしまわないか心配になってラゼスは構えたが、さすがに匂いを嗅ぐだけだった。
「それで今夜ですか? 遠くに行くんですから、もっと事前に連絡してくれればいいのに。リーザだって心の準備が必要ですし」
 セーラは料理を置くと、大変大変と、旅行鞄を引っ張り出した。リーザの心の準備より先に、荷物の準備がされてしまそうだった。
「セーラ、いつでも戻れるんですから、むしろ自分達で森を出るよりも気楽でしょう。
 着替えも必要最低限でいいですよ。むしろ向こうで揃えた方が、気候に合っています」
「そ、そうですね」
「先に食事にしましょう」
「はい。支度とお土産の準備をしなくちゃいけませんし、早く食べましょう」
 ラゼスはちらりとネルフィアを見た。
 同じ女という括りなのに、なぜこうも違うのかという疑問が頭の中を一周し、嫁にするなら、セーラの方がいいなと思った。
 アディスは竜としては間違っているが、男としては正しいのだろう。





 夜中に出かけ、皆が寝ているという理由で翌朝の朝食にて、親子は再会を果たした。
「アルティーサ、アルテ、リーザっ」
 父親の方は、妻子を目の前にして涙を流した。
「お久し振りねぇ」
「お久し振りです」
「…………」
 対する妻子はとても冷静だった。
 マイペースなアルティーサと、実の親子ではないアルテは普通に挨拶をし、顔も覚えていないリーザはアルテの後ろで警戒していた。
「リーザさん、お父さんですよ。ご挨拶した方がいいです」
「うん」
 モリィ姿の聖良が促すと、彼女は頷いた。
「おはようございます」
 硬い表情で、硬い挨拶。
 アーネス姿のアディスが、ふっと笑い肩をすくめる。
「そんなものでしょう。私だって記憶にもない実の父親と対面したら、こんなものです」
 記憶にあるのとないのでは、実感が違うのだ。
 聖良には両親の記憶がある。生きていたら泣いて、泣いて、泣きまくる。感動の再会となるはずだ。
 しかし彼らは向かい合うだけ。アルテが心配して、母の背を押すが、母は息子が何をしたいのか気付かない。
「…………」
 聖良は間が持たず、風呂敷に包まれたお土産をテーブルに置いた。袋が簡単に手に入らないこの世界で出した結論は、風呂敷だった。
 風呂敷は結んで袋状にする事も出来る、とても便利なものである。便利だからこそ、今でも廃れずに残る習慣なのだ。
「あの、これ、つまらない物ですが」
 聖良が作った刺し子の風呂敷を、王妃のフラッセカが不思議そうに見つめた。
「素敵な刺繍ね。変わっているわ」
「布だけだと寂しいんで、自分でやったんです」
 風呂敷を外して、陶器の入れ物を差し出し、風呂敷は畳んで膝の上に置く。
「その布はいただけないの?」
「いえ、素人の趣味で作った物ですから、人様に差し上げられるような品では……」
 この国にも刺繍は存在するのだ。目の肥えた王族に、よく見れば歪んでいる刺し子を渡すことは出来ない。
「それよりも、お菓子を作ってきたんです」
 縫い物よりは自信がある。
 その国には存在しない菓子なら、ある程度の見栄えがあれば比べる対象もない。
「お菓子っ!」
 横から手を伸ばしてきたので、その手をぴしゃと叩いた。
「マデリオ君、はしたないです。
 いきなり飛びついてどうするんですか。せめて家長の許可をもらってください」
 マデリオは不服そうに私を見る。
「だっていいって言うもん」
「いいですか。結果が予想できるからって、省いてはいけない手順があるんです」
 マデリオは唇を尖らせて不服を表した。
 王も妃も止めずに見守っているため、聖良はこの国に特殊な慣例が無いと判断して続けた。
「この国の礼儀作法は知りませんが、いいと言うまで手を出しちゃいけません。
 マデリオ君は悪魔なんです。他の人なら不愉快に思っても口に出せませんよ。
 マデリオ君は自分が気づかないうちに人を不愉快にさせても平気なんですか? そんな風に不機嫌そうにすると、気軽に指摘してくれる事がいなくなっちゃいますよ」
「う……うぅ」
 人を不快にさせるのは良くないという常識はある。甘やかさないで叱ることが大切だ。
「それに、もしもエスカちゃんが真似したらどうするんですか。
 偉い人の口に入る物は、毒味とかが必要なんです。
 人間は簡単に死んでしまう生き物ですからね」
「モリィは毒なんて入れないだろ」
「入れるかもしれないじゃないですか。どうして入れないと思うんです? マデリオ君はエスカちゃんを守るのが仕事なんですから、少しは疑わないとダメです。
 私の事なんて、名前以外はほとんど知らないんですからね。
 それとも、マデリオ君は毒物が入っているか分かりますか?」
「わ、わかんない」
「じゃあ、大人のやり方を見て覚えましょう」
「わかった」
 聖良は満足してマデリオを撫でた。いけないことをしたら叱り、反省したら褒める。
 飴と鞭は教育の基本だ。
「マリス様、どうしたらいいんだ?」
「そうだな。こういう時はフラッセカに任せればいい」
 フラッセカは陶器の蓋を持ち上げ、中身を確認する。
「これは何かしら」
「アップルパイです」
 リンゴのような果物のパイ。
「小麦粉とバターたっぷりの生地でリンゴを挟んで焼きました。さくさくした生地とリンゴの甘みと酸味が美味しいお菓子です」
 デニッシュ生地は作り方が独特なので珍しいものである。元の世界でも、歴史の浅い生地のはずだ。
「今食べたい」
「これから朝食ですよ。冷やしておけば腐りませんからね。
 それに我慢するほど、楽しみが大きくなります。力の使い方の練習を終えてから食べましょう。
 君はご褒美がある方が身に入りますからね」
 マデリオがぐっと呻き、諦めて下がってくれた。
「マデリオ君はえらいですね」
「え、えらいって……」
「朝食を頂きましょう。給仕の方がずっと待っています」
「うん」
 子供は素直で可愛いと聖良は満足した。
「エスカ、飯だぞ。いつまで遊んでるんだ」
「だって、ララと久しぶりなんだもん」
 エスカはララと遊んでいた。抱きしめて、ごろごろ鳴かせ、可愛らしい。
「エスカちゃん、動物に触った手はどうしても汚れますから、手を洗ってから食事にしないといけませんよ」
「でも、ララはとってもいい匂い」
 手を洗えというのが気にくわなかったのか、ララを抱きしめてふくれる。
「私が毎日手入れしていたからですよ。ララはきれい好きですから。
 でも、その生き物には平気でも、人間には命に関わる病気があるんです。
 とくにララは魔物ですから何があるか分かりません。
 一緒に生活するなら節度ある距離が大切なんですよ」
「病気?」
「例えば、草むらに顔を突っ込んだりして、人間には害のある病気をお腹のなかに持っている犬もいるんです。
 そういう子と一緒に寝たり口を舐められると、それが人間に移ることもあります。
 神子にとって、一番の天敵は病気だそうですよ?」
 聖良はけっして目を逸らさず、ひたとエスカの目を見続けた。
 彼女は気まずそうに目を逸らす。
「後でお世話の仕方を教えますね。
 エスカちゃんに見せるために、面白い芸も覚えたんですよ」
「本当に? 楽しみ!」
「手を洗って、朝食を食べましょう。食べ終わったら、お外でお勉強だそうです」
「お外で?」
「はい。ララも慣らすためにつれて行きましょう」
 エスカも素直に納得し、聖良はほっとする。相手を納得させるのは難しいから、安心した。
 彼女と話をしていると、妹が出来た気分になって楽しかった。
 そんな子に嫌われるのは聖良も避けたい。避けたいからと、言わないでいるのは良くない。誰のためにもならない。
 教育はバランスが大切だ。
 子供達に好かれる教え上手な教師は偉大だ。





「お座り」
 ララは聖良の前にちょんと座った。
「お手」
 ララは聖良の手に、手を載せる。
「おかわり」
 ララは聖良の手に、先ほどとは反対の手を載せる。
 これが珍しいらしく、グリーディアにいた時にはユイとミラもララを躾けて遊んでいたため、誰に言われても手を出すようになった。
「いい子ね、ララ」
 ご褒美のジャーキーを与える。大袈裟に撫でると、猫のように鳴く。
「伏せ」
 ララは命令通り伏せて、聖良はその目の前にジャーキーを置いた。
「待て……………………よしっ」
 ジャーキーを一瞬で平らげるララ。
 まるで犬のようだ。
 上手に出来たララに、ユイ達が拍手を送り、エスカが興奮して声を上げた。
「すごい、とってもおりこうさんねっ!」
「噛まないようにも躾けたけど、変な事すると噛むかもしれないから、噛まれないように気をつけてください。
 柱で爪研ぎするんで、爪研ぎ用の角材とかが必要ですね。まだ小さいけど、大きくなったら大変です」
 ロヴァンは野生なので、一度叱られれば外に出て爪を研いでいた。ララもそれに倣い、外で爪を研いでいたが、宮殿には森ほど木がない。
「エスカちゃんもやってください。これはご褒美のジャーキーです」
「うん、やる!」
 エスカは面白がってお手をさせ、ご褒美をやる。
 最後には、フレアに力の使い方を教えてもらっていたマデリオが、我慢できずにやってきて、自分もやりたいと我が儘を言い出した。
「なんでちゃんと見てないんだ」
「瞬間移動する子供をどう見てろって言うの。一回やらせたら満足するんじゃないかしら」
 フレアに反論されると、アディスは歩きながら腕を組み、目を細めた。
 男の子は強くなる方に興味があると思っていた聖良は、仕方なく彼にもジャーキーを渡し、お手を教える。
 それが終わると、ララは腹がふくれたのか、温かい日差しが嬉しいのか、丸くなって寝てしまった。その姿は猫のようだ。
「寝ちゃった。可愛い」
「今まで寒い国にいたから、温かい所が嬉しいんですよ。寝かせておいてあげましょう。
 もうマデリオ君が気を散らさないように、見学でもしましょうか。
 エスカちゃんがマデリオ君の力を知らなかったら意味がありません」
「うん」
 聖良はエスカと手をつなぎ、ユイ達と彼女の護衛達を引き連れて、少し離れた所で的当てをしているマデリオ達の近くにあるベンチまでやって来た。
 彼らは小さな力を、的に当てる訓練をしているようだ。
「あんな弱っちい力で何の練習になるの?」
「力任せにすると、制御力が身に付かないからよ」
 エスカの疑問に答えたのはハーティだった。
「グリーディアでは、ああやって制御力を高めるの。
 破壊力だけ落として、速く正確に術を放たないと、結果が分かりにくいから。
 力が強いのに、ちゃんと狙って当てられなくて実戦になると弱い人がたまにいるの。
 それを矯正するための訓練」
「へぇ」
 アディスの教育を受けているだけあり、ハーティは詳しかった。ユイ達も知らなかったらしく、感心している。ミラは肉体強化に特化して、あのような術は使わない。
「でも、マデリオは下手ねぇ」
「持っている力が大きいと、それだけ制御が大変なの。今まで力づくで力を使っていたみたいだし、仕方がない事だからそんな風に言わないであげてね。
 私はもっと下手だったし……」
 ハーティは遠い目をして最後の方は呟いていた。竜は魔力の操作を苦手とする、力押しで大ざっぱな種族だから、彼女は苦労したのだ。
「なんでお前のはまっすぐ飛ぶんだっ!?」
「年季の違いよっ!」
 マデリオは悔しがって魔力を放つ。呪文は唱えない。ひょろひょろ玉というほど悪くはないが、不安定で的にはかすりもしない。
 フレアも同じやり方で的に力を当てる。
 聖良は二人に近づき、アディスに止められる。
「邪魔をしてはいけません」
「邪魔じゃないの。フレアさんのが回転してるのかなぁって」
「回転?」
 聖良もそれほど目がいいわけではないので、そこまではっきりとは見えないのだ。
「回転……言われてみればしてるような気がしますねぇ。それが?」
「回転してるのが大切じゃないですか。回転させると安定して真っ直ぐ飛ぶんですよ?」
「安定?」
 アディスが理解してくれないため、聖良は腕を組んだ。
 回転させればいいという事を、どう説明すればいいのか分からなかった。
 同じ世界の人間相手なら、野球のストレートで説明すればいい。魔術にも同じ事が言えるのかは分からないが、ボールはジャイロ効果で安定して飛ぶ。聖良はそれを常識として知っているが、この世界では常識ではない。
 回って安定することを説明しやすい常識。
「独楽ってこの世界にあります?」
「ありますよ」
「独楽って回転させると立ちますよね」
「まあ、そうですね」
「回転が弱くなると安定が悪くなって、最後には倒れますよね」
「はい」
 聖良は腕を組む。
「独楽同士がぶつかっても倒れませんよね。同じ条件の独楽だったら、回転が遅い方が弾かれると思うんですよ」
「へぇ」
 アディスの反応に、聖良はため息をついた。彼は自分の専門分野以外には反応が薄い。
「俺は知ってるぞ」
 そういう独楽遊びがあるのか、マデリオが食い付いた。先ほどまで訓練をしていたのに、再び飽きたのだ。成果が見えないと飽きるのは当然である。
 聖良は難しい言葉を使わず、どうやったら理解できるのか悩んだ。
「つまり、速く回転させると安定するんですよ。回転したての独楽は、強そうでしょう?」
「そんな気がする!」
 マデリオが頷いた。気がすればいいのだと聖良は満足した。学者に話しているのではないのだから、細かいことはどうでもいい。気がすれば十分なのだ。
「ボールを回転させて投げると、真っ直ぐ綺麗に飛ぶんです」
「本当に?」
「はい。少なくともボールだと、回転をかけるのとかけないのでは違いが出ます。回転させた方が遠くまでまっすぐ綺麗に飛びます。回転のさせ方によっては、ボールは曲がって飛んだりして格好いいです。魔術でも曲がるかどうかは知りませんけど」
「へぇ。やってみる!」
 マデリオは新しい遊び方を得て、瞬間移動で的の前に出た。
 子供は素直で可愛いと、快くその背中を見つめた。
「わたし、退屈」
 聖良が不安に思いながら見つめていると、エスカに髪を引っ張られた。
「じゃあ、遊ぶついでに授業をしましょう」
 アディスの提案に、エスカはうんと頷いた。
 アディスはアーネスの冷たさを感じる顔に、ふっと柔らかな笑みを浮かべた。
 普段は冷笑を浮かべる彼が幼い少女に微笑む。
 それは他人が見れば微笑ましく、聖良から見ればいやらしい。
 男の子も可愛いが、女の子の方が可愛い。それがアディスだ。
 変態すぎて理解できない。
 それから結局、皆で影踏みやらかくれんぼをした。
 少しは父親に対してリーザの警戒心が解け、こういった遊びをするのは初めてだというミラとハーティが、存外はしゃいでいたのが聖良の印象に残った。

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