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青色吐息 作者:かいとーこ
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18話 教育と躾け1



 久々の我が家は温かかった。
 明かりを付けるとコタツに入ったエルフ一家がもぞもぞと起き出す。
 すっかり温かい家に慣れた彼らは、相変わらずこの家に住み着いていた。
 ベッドで寝ているのが悪いような気になるほど、皆はカーペットと毛皮を敷いた床で寝ている。
 それが聖良の小さな悩みだ。
「おかえりなさぁい」
 すっかり堕落的な生活に染まった彼らは、コタツから出ることなく目をこすりながら迎えてくれた。
 毛皮の上で丸くなっていたロヴァンは伸びをしてから立ち上がり、聖良へと駆け寄ろうとし、ララと目が合い固まった。
「ロヴァン、ララです。面倒を見てあげて下さいね。トイレとか」
 ロヴァンは「キャウ」と返事をする。
「いい子。長い間留守にしてごめんなさいね」
 聖良はロヴァンの首を撫でる。最近はブラッシングしていないので少しごわごわしていた。
 アディスは荷物を置いて、部屋で竜の姿に戻って出てきた。
「トロアさんがいた形跡はありますね。私はお母さん達に挨拶をしてきますが、セーラはどうしますか」
「なんか散らかってるから片づけます」
「わかりました」
 アディスは外に出て飛び立った。
「私も帰るわ。夜中に戻ってたけど、そろそろ昼間に姿を見せない事を怪しまれるかもしれないし」
 フレアは荷物から上着を取り出しながら言う。
「まだ明るいですよ。どうやって戻るんですか?」
「お兄さまの様子も見ないと。寂しがって人形が数体増えてたりしないか心配だし」
「ああ…………たっぷりと慰めあげて下さい」
「ええ。じゃ、セーラ、また遊びに来るわ」
「はい」
 フレアは手を振って姿を消した。
 残された聖良達は、とりあえず荷物を片付ける事にした。
「ロヴァン、お魚買ってきたんだよ。新鮮な生魚。海の生魚なんて初めてだよね」
 ひたすらララに匂いをかがれまくり、動けないでいるロヴァンに話しかけた。なんとなく言葉は分かるらしく、嬉しそうにしっぽを振る。
「親子みたいで可愛いです」
 聖良が二匹を見て胸をときめかせていると、コタツに潜り込んだミラが顔を出す。
「可愛い? ロヴァン、大きいのに?」
「ちょっと困ってるロヴァンが可愛いです。ミラさんは小さくないと可愛くないんですか?」
 ミラは首をかしげた。
「セーラが可愛い」
「いや……ミラさん」
 ため息が漏れる。
「たまに、ミラさんが女性でよかったと思います」
「なぜ?」
「男の人なら殴りたくなってたと思うんで」
 ミラは首をかしげた。
 無自覚でこんな事を言う情けない男は好きではない。誰にでも言う奴も好きではない。ろくでもない。
「私、女。セーラ女の方が好き?」
「言葉というのは、発言する人の性別によって、意味が違ってくるんです」
 ミラは不思議そうに聖良を見て、答えを求めるようにユイを見た。
「ミラが男だったら、洒落にならないぐらい大変だったって意味だよ」
「なぜ」
「アディスは男の人がセーラにベタベタするのを嫌がるよね」
「フレアは?」
「…………諦めてるんじゃないかな。男の人っぽくないし」
「フレアはなぜ女の服を着る?」
「そういう趣味なんだよ。ミラも男物の方が好きだろ」
「動きやすい。フレアは動きにくい服好き?」
「あれは動きやすめだと思うけど……まあ、人それぞれだから」
 人それぞれでそれを終わらせるユイ。女装の上、窮屈な服が好きな物好きに仕立て上げるのはどうかと聖良は思った。
「セーラは着替えない?」
 聖良は自分の姿、モリィの身体を見た。
「んー……この姿の方が楽なんですよねぇ。こっちに慣れちゃうと戻りたくないというか。憂鬱になります」
「なぜ?」
「…………若いから」
 肩こりとは縁がない、走っても気にならない、飛んでも痛かったりとかしない、若々しい身体に慣れてしまい、元に戻るのが億劫だった。
 若いというのは素晴らしい。胸がないのは本当に楽だ。
 筋肉も適量ついていて、胸もほどほどにしかないミラには理解できない悩みのためか、彼女は首をかしげる。
 竜のハーティにはもっと理解できないはずだ。
「あ、アーネスの格好ならもっと楽です」
 力が強く、背も高く、聖良よりも何でも出来てしまう立派な身体だ。
「そ、それだけはっ」
 ハーティに半泣きで止められた。好きな男の姿を、女が取っているなど耐えられないらしい。
 乙女心を傷つけないよう、聖良はこの姿のままで掃除と洗濯をする事にした。





 聖良は鼻歌交じりに枯れ木を拾う。
 足下をララが元気についてくる。
 勝手にどこかに行こうとすると、ロヴァンがくわえて連れ戻す。すっかり兄気分だった。
 枯れ木を薪の上に乗せて、着火用の木くずに火を乗せて、それを木の枝に乗せる。
 こうやってお風呂の湯を沸かすのだ。
「あの……セーラ」
「はい?」
 人間の姿のアディスが寄ってくる。
「なんでずっとモリィのままなんですか?」
 聖良は首をかしげた。
「え、楽だからですけど」
 ずっとといっても、旅行していた期間と併せてもまだ十日だ。
「また向こうに行くんですから、やめません?」
「え、何でです? ひょっとして魔力使ってます?」
「魔力は関係ないんですが、モリィの姿に違和感が……」
 ロリコンのくせに我が儘な男だと思いながら聖良は腕を組んだ。
「幼女には家事をさせたくないとか言うんですか」
「いや、そうじゃありません。家事をする女の子は可愛いですよ。そうじゃなくて、なんていうか……」
「唇尖らせないで下さい。可愛くないです」
 わけの分からない態度を取るアディスに聖良は苛立った。
 ロヴァンがそっと聖良の隣に寄りそう。
「ロヴァンはあっちにいってなさい」
 アディスが睨むと、ロヴァンは不服そうに立ち上がり、ララを連れて去っていく。動物は強者に従うのだ。
「ララを洗おうと思ったんですけど」
「まだ子供の内はやめておいた方がいいですよ。抵抗されたら怪我をします。ロヴァンが甲斐甲斐しく手入れしているから、それほど汚れていませんし。蚤も薬が効いていないでしょう。
 まさか、ベッドに連れ込むつもりですか?」
 聖良は見抜かれた事が悔しくて頬を膨らませた。
 子猫な時期を過ぎてしまったら、一緒に寝るのも難しいのだ。
「私がいるのに、浮気者ですね」
「竜の体温低くて冷たいから、冬場は嫌なんです」
「だからこの姿で寝てるんじゃないですか。本当は竜の姿の方が楽なんですよ」
 一人で寝ればいいのに、聖良が寂しがるからと言って一緒に寝たがるのだ。
 いくらなんでも、隣の部屋の気配がある場所で寂しさなど覚えない。
 失礼な発想だが、何度も繰り返した問答なので、無駄な事はせずにただため息をついた。
「お風呂なら私と入りますか?」
「ララを入れようと思ったんです」
 セクハラ発言をするアディスを睨み付ける。
「私を入れてください」
「自分で入って下さい」
「翼とか、自分では綺麗に洗えないんですよ」
 彼も夏場は湖で身体を洗っていて、聖良もそれを手伝っていた。今は水が冷たい上に表面は凍っているのでそれも出来ない。多少の冷たい水は平気らしいが、さすがに凍った湖に入る気にはならないらしく、人の姿で風呂に入って我慢している。
「でも、翼なんて広げたら、お風呂無理じゃないですか」
「お風呂が狭すぎるんです」
「三人も入れるんですよ、このお風呂。まあいいです。汚れたままなのはよくないですから、翼は洗ってあげます。タオルとか持ってくるので、元の姿に戻って待っていてください」
 聖良は家に戻り、安物の石鹸とブラシとタオルを持って戻る。アディスは元の姿に戻っていた。彼は最近、戻るだけなら自力で出来るようになっていた。
 服を畳もせずに薪の上に置いただけというのが、世話され慣れたアディスらしい。シワにはならない置き方だったので、そのままにしてタオルを湯につけた。ちょうど良い温度だ。
「セーラ、その格好で?」
「汚れてもいい服ですよ」
 安物の子供服だ。古着なので掃除する時にいい。
「いや、セーラの姿の方が多少は背も高くていいんじゃないかと」
 聖良は顔をしかめた。アディスが理解できない。
「この姿の方が好みでしょうに、なんで元の姿に戻したがるんです?」
「何を言ってるんです。私はセーラの姿の方が好きですよ」
 アディスが可愛く首をかしげた。
 聖良も首をかしげた。
「意味が分かりません」
「こんなに毎日愛していると言っているのに」
「ロリペドの変態野郎がわけの分からない事を」
「セーラ、人の事を何だと思ってるんですか」
 アディスは翼を畳んでずりずりと寄ってきた。いつものように擦り寄り、下から顔を覗き込んでくる。
「だから、私はセーラが好きなんです。この姿も可愛いですけど、もう十日もセーラを抱っこしたりしてないんですよ」
 聖良は反対側に首をかしげた。
「これだけ主張しているのに、本当に信じてくれてなかったんですか?
 可愛いセーラ。昔がどうであれ、今の私は貴女を一番可愛く思っていますよ」
 可愛い顔で、可愛い目で。
「私は冗談で妻など娶りません。結婚に夢を持たないほど擦れていませんから」
 頬をぺろりと舐められた。
 いつもやられている事だ。
 聖良が思考停止して固まっていると、アディスは調子に乗って擦り寄ってくる。
「私はまだ子供だから何も出来ませんが、大人になったら」
 アディスは聖良を優しく抱きしめる。
「本当の夫婦になりましょうね」
 恐怖とも何ともつかない焦りが胸に走った。
 頬をすり寄せられ、逃げようともがいても逃してくれない。
「逃がしません」
「な、何で」
 逃げると分かっていたから抱きしめたのだ。優しいが、聖良がふりほどけるほど弱くはない力で。
「セーラは何でも簡単に流すでしょう。
 ようやく信じてもらえそうなのに、流されたら悲しいです。
 泣いてしまいますよ? 子供には優しくしてくれないと」
「子供じゃないじゃないですか」
「じゃあ、私の愛の告白を真剣に考えてください。私があなたと本当の夫婦になれるまでは、まだ時間がありますから」
 いつもと似た事を言われているのに、逃げたくてたまらなかった。
「赤くなって可愛い」
 言われて初めて頭に血が上っているのに気付いた。
「からかわないでください」
「セーラは世界一可愛いと心から思っています」
 竜の姿だから頬を寄せるだけ。
「可愛い可愛い。可愛いセーラ、約束通り、ちゃんと翼を洗ってくださいね」
 聖良は一瞬言葉に詰まる。
 人間のアディスの姿であったらむしろよかった。適当にあしらえた。
 可愛い竜の姿はどうにも人間の時よりも誠実に見えるのだ。
「ね?」
 アディスは可愛くねだる。
「はい」
 可愛くおねだりされると断れない性分の聖良は、自分はだめだと、つくづく思った。





 あの日から、味を占めたのかアディスの『可愛い』『愛している』攻撃がひどくなった。
 あのミラに『繁殖期か?』と問われるほどの熱烈振りだ。
 そのアディスは現在お昼寝中。彼の身体は子供なので、昼寝を必要としていた。
「もう元の姿に戻ってあげない? そろそろアディス様が可哀相で」
「それはそれで身の危険を感じます」
 ハーティのお願いに聖良は首を振った。
「子供のする事だから、大目に見てあげたら? トロアと違って力加減は出来る子だし、セーラは母親よりも母親だから、寂しいんだよ、きっと」
 ユイが信じ切って、可愛らしい誤解をする。
「何をされるわけではないと分かっていても、何となく嫌なんです」
 ユイとハノはくすくすと笑った。
 ハーティは元気がない。ハーティにあのような説得をさせるような態度を取るのだから、アディスは残酷な男だ。
「恥ずかしいんですね」
 ハノが言う。聖良は否定しようとして、少し考えてから頷く。
「は、恥ずかしいですよ」
 ハノはにこにこ笑いながら言うので、聖良はふくれて答えた。
「恥ずかしがるセーラが珍しいから、面白がるんですよ」
 彼女は最近、羞恥という物を忘れかけていた。
 それを思い出した姿が、面白かったのだろう。
「でもそろそろ包み隠さない好意に慣れてあげないと、アディスが可哀相ですよ。
 大人の知識を持っていても、中身はやはり子供ですから」
「そうねぇ。アディスはまだ小さいものねぇ」
 二児の母親であるアルティーサも同意した。
 すっかり騙されている皆に、聖良はため息しか出てこない。
 アルティーサはどこまでものんびりとコタツで柑橘系の甘い果物の皮を剥いている。
 聖良が自分のために買ってきた物だ。
「でも……」
 あのアディスだ。たまに忘れそうになるが、中身は小さな愛人を何人も囲っている変態。
 落ち込んでいたハーティが顔を上げて呟いた。
「でも今までも甘い事は言っていたのに、何で今更こんな事に?」
 聖良は目を逸らす。
 皆の視線が集まり、頭をかいた。
「……ちょっと、ませた事を言い出して」
「今までだって十分ませてた気がするけど」
「あれはごっこ遊びですから」
 ませているというのは、人間の姿の時の行いだ。
 王宮に出入りし、秘密結社のボスになりと、本格的なお遊びだ。
 彼を竜だと知る者にとっては。
「本格的すぎるよね、あのごっこ遊びは」
「本当に同一人物とは思えませんでした。口調は似ているのに、話し方の雰囲気が全く違いますからね」
 人事なので談笑するユイとハノ。
「いつものアディスとはそんなに違うの?」
 アーネスを見たことのないアルテが問う。
「いかにも悪の親玉って感じだったよ。笑い方とか大人っぽくて、同じ姿になってもあんな演技は出来ないだろうなぁ。
 中身は子供なのに色っぽいというか……」
 ユイが羨ましそうに語り、自分の腕を見てため息をついた。
 彼は彼なりに自分の華奢な身体を気にしているのだ。
「次は……いつ行くの?」
 アルテはユイを真っ直ぐ見て問う。
 父親の事はもう話してある。話してから彼がそれに近いところに触れたのは、これが初めてだった。
「あの子の躾が終わったら」
 庭でロヴァンと一緒に遊んでいるララが、ちゃんと言う事を聞くようになってから。
 ミラは立ち上がると、窓を開けて外を覗き、すぐに閉めてコタツに戻る。
「あと数日で火を吐くようになる」
 あと数日で身につけられる物なのかと聖良は驚いた。
「火を吐くんですか!?」
「ん」
 魔物というだけはあるようだ。
「そっか……子供の成長って本当に早いものなんだねぇ」
 アルテはアディスを見て呟く。
「アディスは規格外の魔術師食べちゃったからですよ。
 ララは普通の魔物なのに凄いですね」
「まあそうだけど……そんな人間を攫ってくるネルフィアさんもネルフィアさんっていうか……」
 アルテは規格外中の規格外の行動を思い出し、呆れて肩をすくめた。
「情報収集したそうですよ。どうしてそんなに賢い子供が欲しかったのか理解できません」
 そんな理由でラゼスを襲ったほどだ。よほど賢い子供が欲しかったに違いない。
「そういえばハーティ、竜の貞操観念ってどうなってるんです? 気に入った相手を襲うなんてよくあるんですか?」
 ハーティはきょとんとして聖良を見ていたが、やがて言葉を理解したのか顔を赤く染めた。
「ななな、ないです、そんなっ」
「ネルフィアさんだからこその暴挙って事でいいですよね?」
「わ、私の知る限りは。あの方は少し変わった方だから……その、竜の中ではミラさんみたいな変わり者、かな?」
 もじもじしながら語るハーティ。
 聖良は腕を組んで頷いた。
 ミラは人間の中では変わり者という限度を超えている。
「アディスとお母さんどっちが変です?」
「それはネルフィアさん」
「変じゃなくて、珍しいのは?」
「まあ、アディス様です。ネルフィアさんみたいな方は今までいたかもしれないけど、アディス様のような方はいなかったと思うので」
「……そっか」
 聖良は、すよすよと眠るアディスを見た。
 基本は子供。竜の姿だとよく寝る子だ。
「寝てる姿は可愛いのに……」
 尻尾を撫でる。竜の姿でないと存在しない尻尾と翼は、人の姿の時に身体を洗ってもあまり綺麗にならないというので、つい先日洗ってあげたばかりだが、引き摺るので既に汚れている。
 拭いてから家に上がることにしているが、汚れが落ちきっていないので、布巾で拭いてやることにした。
「ん……」
 汚れを落としていると、ぴくりと尻尾と翼が動いた。
「ふぁ……」
 アディスはあくびをして目を開き、むくりと起き上がる。ぼーっとしている姿は子供のようで愛らしい。
「おはようございます、セーラ」
「おはよう、アディス」
 アディスは立ち上がり、窓を開けて外の様子を見る。部屋に冷たい風が吹き込み、窓が閉められる。
「もうすぐですね。あの子達に会うのが楽しみです」
「アディスは二人が気に入ったんだ。一番年が近いしね」
「ええ、二人とも可愛いですし」
 ユイの無邪気な発言に、アディスは誤解しか生まない返答をした。もちろん、いい方向で誤解される言葉だ。
「もう少し信頼を築いて、彼女の容量を埋めたらもっと親しくなれるのですが」
 アディスはくあっとあくびをする。
 竜だから、本当の意味で神子と親しくなるのは難しい。支配される可能性に対する恐怖は、聖良には理解することは出来ないが、想像する事は出来た。
「大丈夫だよ。彼女に君を支配する余力はないから。
 マデリオはウルの悪魔よりも力が強いからね。
 保険の意味でもう少し待った方が良いと思うけど」
「ウルの悪魔よりも強い、ですか。それはいい悪魔を捕まえましたね」
 アディスは感心して言う。
「力が強さというわけではないから。基礎と経験の差で、生まれ持った力なんて簡単に覆る」
「なるほど」
 魔力が強くても、ろくに扱えなければ意味がない。
 エリオットのように魔力が強くても、人間の頃のアディスのように何でも器用にこなすタイプの魔術師に負けてしまうのだと、エリオット本人が言った。
 もちろん人間の範囲で力を使った場合で、半悪魔としての全力では分からない。分からないが、大人になった竜のアディスには負けそうで寂しいそうだ。
 今なら勝てると言いたげだった。
「経験のない悪魔よりも、力は劣るけど経験のある悪魔の方がはるかに強いよ。
 だから悪魔は人間の知識を得るために、不老を餌に契約を結ぶんだ。
 他の悪魔からマデリオを守ることも重要になるね」
 出る杭は打たれる。
 自分よりも強くなりそうなら、潰してしまえと思う悪魔がいても不思議ではない。
 強くて面白がりやな悪魔が、グリーディアを守ったように動けば別だが、目立てば始末されるのかもしれない。
 人事とは思えず、聖良は動揺した。
「竜といい、どうして他人から知識を取り込むんでしょうねぇ。
 だから技術や文化を発展させようという気にならないんですよ。マデリオはきっちりと自分の力で覚えさせなければ」
「正論だけど、自分がそれで頭が良くなったの忘れてるよね……」
「私は自分の意志じゃありません。自分の子には自分で教えます。ねぇ、セーラ」
 みかんを食べようと、テーブルに置いたザルに手を伸ばしていた聖良は顔をしかめてアディスを見た。
「どこから拾ってくるんですか?」
「…………」
 アディスはぷいと顔を逸らし、背を向けて寝っ転がった。
 身体が子供だと、心も子供になるのかと聖良はうんざりした。
「セーラ、子供相手なんだから」
 ユイがアディスには聞こえないよう、聖良の耳に口を寄せて囁いた。
「でも無理でしょう」
「夢を持たせてあげないと。なまじ人の姿のことが多いし」
「本当に試してみようとしたらどうするんですか」
「…………」
 人の好奇心という物を考えれば、可能性はある。
「元々が好奇心旺盛な大人の男性なんですから、刺激しないで下さい。
 母親はあのネルフィアさんですよ。倫理観ゼロですよ。
 本人は秘密結社のボスだったりするんですよ」
「…………ご、ごめん」
「日々、深く悩んでいるんです」
 アディスは子供だ。だから彼も大人になったらと言った。
 考えるだけで汗が出てくる。
 アディスは本気なのかと疑い、アディスのようなハーレム持ちの男には大した事ではないのを思い出して汗をかく。
 これが何の汗なのか聖良にはよく分からない。
 教育が必要なのはアディスの方だ。
「セーラ、今夜何?」
 聖良が悩んでいると、空腹を覚えたミラが問う。
「今夜は鳥鍋です。昆布と節のお出汁が利いた和風鍋です。アクセントに、エンザでもらった調味料を混ぜるんです。きっと美味しいと思います」
 野菜は室の中にある。人参、大根、白菜っぽい野菜達に、冷凍してあるキノコとネギ。お味噌を溶いたらとても美味。唐辛子のようなスパイスを入れても美味しいに違いない。
「よく分からないが楽しみ」
「みんなでお鍋を囲ってつつくんです」
 そのうちおでんも作る予定だ。
 白身の魚を手に入れて、練り物を作る。薩摩揚げぐらいなら作ったことがある聖良は、創作意欲に燃えていた。
 先の不安よりも、今の幸せを考えることにしたのだ。食べていると嫌なことは忘れられるのである。
「で、セーラ、俺はいつまでこれ踏んでればいいの?」
 お鍋のシメ、うどんを踏んでもらっていたトロアの事を、聖良はすっかり忘れていた。
「もういいですよ。じゃあ、夕飯の準備をしましょうか。室から野菜取ってきてください」
「ああ、いいよ」
 外に出たくない聖良は再びトロアにお願いし、コタツから出て台所に立った。
「嫌なことは作って食べて忘れるに限ります」
「嫌な事って、セーラひどい……」
 アディスが何か言っているが、聖良は無視してダシを取り始めた。


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