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青色吐息 作者:かいとーこ
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17話 神子と悪魔3



 聖良には子供の頃は父も母もいた。会えるものなら会いたい。
 だから生きているなら、リーザには再会させてやりたいと思っていた。
 これは聖良だけではなく、家族に恵まれなかった全員の願いだ。
 そのため、獣人が目の前に現れた瞬間、聖良達は彼を一斉に見た。見た目は人間だが、エスカが「フラク」とアスベレーグから聞いていた名を呼びかけたのだ。
「似てるような気がします」
 目や髪の色は同じだ。顔立ちは野性味のあり、リーザの顔立ちは母親に似ているところがあるので、顔立ちはあまり似ていない。ただ、髪質がよく似ていた。
「しかし、同じ種族。外見的特徴が似ているのは当たり前です」
 竜ばかり集めたら、わぁ、みんな似ているねって事になるのと同じだ。
 ネルフィアぐらい逞しければ見分けはつくが、同じ色で揃えられれば、竜であるアディスですら見分けがつかないのである。
「手っ取り早く、あの一家の関係者か聞いてみましょうか」
「誰が?」
「もちろんアーネスよ。一番目上でしょ」
 聖良とフレアに見上げられ、彼はユイへと視線を向けた。
「しかしこの件に私はあまり関係ありません。ここはユイが聞くべきでしょう」
「そうだね」
 ユイはこくと頷き進み出た。
「あなたがフラクさんですか」
「え……はい」
 彼は駆け寄ったエスカを抱き上げ、きょとんとしてユイを見た。
「単刀直入に聞きますが、あなたにアルティーサという奥さんはいますか」
 彼は抱き上げたばかりのエスカを床に立たせた。
「アスから話は聞いている。確かに、アルティーサは俺の妻だ」
「そうですか」
 本当にいた。
 いたはいいが、夫が神子の支配を受けていると知って、父が神子の支配を受けていると知って、彼らはどのような反応をするか……。
「三人とも、待ってたんですよ。神子に支配を受けていたとはいえ、なぜ何も知らせを出さなかったんですか?」
「探したが、どこかに移動したらしくてどこにもいなかった。この二人を置いて、あまり長くグリーディアにはいられなかったから諦めたが、あいつらは一体どこに?」
「ディルニス山脈の麓の森に」
「確かに森の入り口近くに下ろしたが」
「入り口どころか、かなり奥の方に住んでますよ」
「…………」
 彼は額を押さえた。広大な森の中から、たった三人を探し出すのは至難だ。
「まあエルフは森の民だから、かなり順応して普通に暮らしていました」
「……迷った……のか?」
 彼女なら迷いそうだ。アルテもまだ子供で、迷ってしまうのは仕方がない。
「あんな危なっかしい女性を、しっかりした息子が一緒とはいえあんな所に置き去りにするのが悪いんですよ。この前はお子さん達が熱を出して死にかけてましたよ」
「す、すまない」
 フラクは肩を落とした。夫として、父として、思うところがあるらしい。
「しかし、あんた達はなんでそんなところに住んでいるアルティーサ達と知り合ったんだ?」
 ユイは振り返ってアディスを見る。
「彼女たちが竜の巣の側に住んでいたからですよ。
 手の届くところに竜がいる。しかも子供が生まれるらしい。
 魔術師ならば好奇心から出かけて当然です」
 本当は誘拐されてきたくせに、格好いい理由になっていて聖良は悔しかった。
 誘拐を画策しておいて、自分が誘拐されたクセにと言いのを、喉元で飲み込む。
「まさか……」
 アスベレーグが聖良を見た。聖良は近くにいたユイに隠れる。彼はそれ以上は何も言わず、ふぅと息をついた。
「よかったね、フラク。アーネスに案内してもらえば、迎えにいってあげられるね」
 エスカが純粋に祝福した。
 しかし彼が迎えに来るのはまずい。かといって一緒に暮らさせるのも大きな問題がある。
 アルテはともかく、アルティーサには口止めをするだけ無駄なのだ。
「彼女達なら、ここまで私達が送ってきましょう。一度来た場所なら、往復は難しくありません」
「ちょっと、それって私がやるんでしょ。難しいわよ。勝手に簡単にしないでちょうだい」
 フレアがアディスの横暴に声を上げた。
「やれないのですか?」
「やれるわよ」
 やれないとは言えない気の強いフレアは、むっとして肯定する。これがエリオットなら他の反応が出来たが、彼はフレアだ。
「なら何の問題が?」
「もう……勝手なんだから!」
 アディスはふっと意地悪く笑う。
 アディスとエリオットの時はあれだけベタベタしているというのに、変装一つでまったく違う関係になるのだ。
「モリィ、アーネス、話がすんだならこっちだ」
 マデリオが逸る気持ちを抑えられず、先に歩き出して大きく手招きする。
「焦らなくても時間はいくらでもありますよ。一体どこに連れて行ってくれるんですか?」
「おれ達の屋敷」
 ──屋敷。
 彼らは自分の屋敷を持っているのだ。
「おやつの準備がしてあるの」
「おやつですか。よかったですね、モリィ」
 アディスに言われる前から、反射的にこの国のおやつは美味しいだろうかと思ってしまった聖良は自己嫌悪した。
「どうしました。不服そうな顔をして。またダイエットですか」
「またとか言わないでください。乙女は永遠にダイエットなんです」
 女の宿命。諦めない限りは、決して終わる事なき苦悩である。
「ダイエット? 痩せてるのになんで?」
「気を抜いたらダメなんです」
「大人みたいな事言うな」
「子供だからって、油断してたら、ぶくぶく太っちゃうんですよ」
 マデリオは悪魔で男の子だからダイエットとはまったく縁がないのだ。彼には一生理解する事は出来ない。するとしたら、エスカだ。
「きっと、エスカちゃんも同じ気持ちになります」
「そうなの?」
「そうです。数年以内には必ず」
 それが女の子というものだ。そう、女の子は甘い誘惑に弱く、後悔をする事になる。



 それから聖良は、二人に連れられた立派な離れの屋敷で出された菓子を、好奇心のままに食べた。
 屋敷の外観は青い屋根やら噴水やらと綺麗だったが、食い気には敵わない。
「これふわふわで美味しい。どうやって作るんですか。このジュースも美味しい。なんの果物ですか。この木の実も美味しい。カシューナッツみたい。美味しい」
「お嬢ちゃん、太る理由はそれだろ」
 フラクに突っ込まれ、はたと我に返った聖良は手を止める。
「モリィにとって唯一の趣味ですからね」
「ゆ、唯一って……そんなことないです」
「勉強している時も、縫い物をしている時も、傍らに食べ物があるでしょう」
「うぅぅぅぅ………」
「拗ねない拗ねない」
 床の上で膝を抱えた聖良の頭を、アディスが軽く撫でる。
 床の上だ。
 この国は家の中では靴を脱いで生活する習慣があった。聖良にとってはとても居心地が良く、他人の家だがくつろげた。
 他の面々も肝が据わっているので、いつもようにくつろいでいた。緊張し続けているのはハーティだけで、ここに来てからほとんど口をきいていない。
 聖良がハーティを見ていると、アディスが隣に座る彼女に話しかけた。
「ハーティ、美味しいですよ」
「あ、はい。頂きます」
 彼女は菓子を口にするが、あまり味わえてはいないようだった。神子に怯えているのか、悪魔に怯えているのか。
 アディスは苦笑してハーティの頭を撫でた。
「なあアーネス。その女、何? 人間じゃないよな」
「おや、分かりますか」
「あったり前だ」
 アディスの事が分からないのは、人間に化けているから竜独特の何かが消えているのだろうかと聖良は首をかしげた。
 彼はまだ子供だからか、匂いとは別の物で見分けているのか、それともまったく別の判別方法があるのか、聖良には分からない。
 しかしアディスの事は分からないのかなどとは聞けないから、どう聞き出そうかと悩んで、フレアを見た。
「フレアさんにはそういう感覚ってありますか?」
「言われてみればってレベルよ。化けられるとさっぱり分からない。たぶん伯父様にも分からないわ」
「そうなんですか」
 双灰の悪魔に分からないなら、子供の悪魔には分からない。完璧だ。
「化けるって何に化けるんだ?」
「魔術用語です。もう少し大人になって、魔女を大量に抱えるようなろくでなしになっていなければ教えましょう」
 アディスはクスクスと笑いながら答えた。
「な、なるわけないだろ。浮気って言うんだぞ、それ」
 その言葉を聞いて、フレアが息を飲んだ。
「ああ、クソオヤジに、爪の垢を煎じて飲ませたい」
 こんな小さな子ですら持っている常識を、フレアの父親には一欠片もないのだ。
「お前の父は浮気者なのか?」
「そうよ。見境なく誘惑して二百人は魔女がいる最悪の男よ。魔女としての才能がなかったらポイ捨てのクズの中のクズよ。そんな風になったら絶対にダメよ」
 マデリオは何度も頷いた。
 女の子であるエスカの方が主だから、そのような暴挙は難しいだろうが、本人が自発的にしないならそれに越した事はない。
 常識と理性は大切だ。
「で、結局、その女は何なんだ」
「それが自分で分かるようになったら一人前ですね」
「種族当てか。面白そうだな」
 マデリオは腕を組んで考え始める。
 聖良は気付けばつられてお菓子を口にしていて自己嫌悪する。無意識が恐ろしかった。
「悪魔じゃないし、鱗人でもないし、獣人でもないから、竜だ!」
 彼が知っている魔物を口にしていっただけだ。それで当たるのだから、皮肉である。
 アディスは思わずといった感じで噴き出した。
「違うのか?」
「それを答えてしまったら、自分で分かるようになった、とは言いませんからね。ただ思いつく種族を並べるのは、推理でしかありません」
「だって、知らない物は分からないだろ」
「そうですね」
 アディスは笑いながらハーティを見る。
「確かに、彼女は竜です。覚えましたか」
「え、本当に竜なのか?」
「私の竜です」
 ハーティは赤くなってこくこくと頷く。『私の』発言が気に入ったのだ。
 恋する乙女の気持ちは、聖良には理解できない。聖良は所有物扱いをされると腹が立つ人間だ。
「アーネスの恋人なの?」
 エスカが好奇心を隠さずに問う。
「弟子です」
「竜なのに弟子なの? 魔術が使えるの?」
「魔力と知識があれば、誰にだって使えます。
 竜は不器用だが魔力は無駄にあるから、それで強引にまとめる事が出来ます。
 経験を積んで人並みの制御を身につけたら、悪魔にも匹敵する魔力の使い手になるでしょう。
 強い肉体もあわさって、最強の生き物になるかも知れない」
 それはアディスにも言える事だ。自分磨きと、他人磨き。どちらもアディスの趣味だった。
「面白いでしょう」
「面白い!」
 マデリオは興奮して頷いた。
「悪魔のほとんどは契約者から知識や経験を与えられ、それを我が物として他者に分け与えます。
 しかしそれで優れた魔術師を育てられるわけではありません。
 己で考え、己で動き、分からない事があれば尋ねてくる向上心を持ち、ともに考え、人に正しく教えられる事が必要です。
 それを悪魔達はしません。
 悪魔達を分かりやすく表現するら『知識のある馬鹿』です」
「らしいな」
 マデリオは訳知り顔で頷いた。
「マデリオはそんな馬鹿にならぬよう、己がよい生徒となり、よい教師に教わる事が大切です。
 脆弱な人間ですら知恵で力を底上げできます。悪魔なら尚のこと。
 君は育ち方によって、他の大悪魔以上の力を持つ事になるでしょう」
「本当か?」
「それは努力次第です。幸い、君は好奇心旺盛なようです。好奇心は楽しく学ぶのに必要なものです」
 アディスは聖良の頭を撫でながら言う。
 彼は彼なりに緊張しており、これが彼なりに落ち着く行動だった。
 人が無意識に髪を弄ったり、ペン回しをするようなものだ。
「それは同時に私にとっても学ぶ機会となります。人は一生涯学び続ける生き物ですから」
 アディスは知性や冷たさを感じさせる笑みを深くする。少し怖い、含んだ笑みだった。
「私の専門分野だけで良ければ、私も君達の教師となりましょう。よく学び、よく考えなさい」
「わかった」
 マデリオは瞳を輝かせて頷いた。
「エスカはユイからも学びなさい。神子として、最低限知るべき事はたくさんあります」
「はい」
「いい返事ですね。
 これを食べたら、早速始めましょう。
 とりあえず、今回の所は一週間だけしかいられません」
「どうして?」
「私にも立場があるので。
 次に来る時はこれに送らせるから、すぐに来られます。そう寂しがる事はありません」
 定期的に通って育てるつもりのようだ。
 子供を教育するのは彼の趣味であり、己の為でもある。
 堕落のウルを牽制する為に、彼らを早く完成させるのだ。狙われる可能性が最も高いアディスにとって、協力できる相手というのは心強い。

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