挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
青色吐息 作者:かいとーこ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

82/110

16話 エンザ8

8

 聖良達はようやく縄を外す事に成功した。
 本当のところは、イーリンに成功してもらったというのが正しい。聖良は握力がなくて、縄をほどけなかったのだ。
 ようやく口の布を取って、口の中の布を吐いて、ぜいぜいと息をする。
 こんな事をしてくれた連中など、全員死ぬほど後悔させてやると心に決めようとして、本当にミラが殺してしまいそうで怖くなった。とにかく捕まえる必要は在るだろう。
 聖良は縄をほどいてくれたイーリンの口を塞ぐ布を取り、縄に手を掛ける。後ろ向きだと聖良の握力では硬くてほどけなかったが、向き合うとなんとかゆるめる事が出来そうだった。
「イーリンさんはどうしてここに?」
「あなたがいなくなったって聞いて、こっちの方に用があったから、空き部屋を確認してたの。鍵も持ってたし」
「ここ、どこなんですか?」
「地下の牢屋のすぐそばにある、使われていない牢番の部屋よ。管理していたおじいさんが亡くなって、ここを知らない人も多いから」
 聖良は目を丸くした。
「イーリンさんはどうしてここを?」
「管理人のおじいさんがよくしてくれたの。普段、ここはお客が少ないから、見張りだけは暇だからって、言葉を教えてくれたの。私は見回りについて回って、物の名前を教えてもらっていたから、たまたまここを知っていたの」
 思い出深い場所のようだ。
 聖良は縄を解くと立ち上がる。
 ここから脱出する必要がある。
「えっと……あった」
 懐を探ると、ミラにもらった伸びる棒がちゃんと入っていた。
 武器はあるに越したことはない。
「とにかく、そんなところなら助けも期待できないんで、頑張って自力で逃げましょう」
「ええっ、レンファ様ならきっと探しに来てくれると思うわよ。あの方だけは私がここに出入りしていたのを知っているし」
「甘いですよ。男どもは信用なりません。女は捕まっているだけじゃダメです。さっきはちょっと油断してましたけど、今度は油断しません。準備万端にして行きます。ミラさんやエリオット君に色々と教わりました」
 聖良は息を吐いて、呪文を思い出す。
「たしか……」
 聖良は丸暗記した呪文を唱えた。すると聖良が持つ棒に、光が入り込む。意味は分からなくても、アディスが近くにいて、呪文と結果さえ分かっていればいい。
「よし」
「よしって……今のが魔術? あれでいいの? 変な発音の棒読みだったけど」
「あの棒読みがいいらしいです。アディス達は巻き舌とか多用する言語だから、私から見れば格好いい呪文を唱えるんですけど、正しい発音ではないから、かなり遠回りになるって言ってました」
「呪文を唱えられれば魔術は使えるの?」
「イーリンさんには無理です。魔力がないですから」
「セーラには……魔力があるの?」
 同じ世界の出身なのに、魔力の有る者と無い者がいたら不服に思うのは当然だ。誰だって使ってみたい力だ。
「私にもないですよ。でもアディスが電池代わりになってるんです。私は彼の口代わりですから」
「それで結婚を? まさか利用されて?」
「利用はお互い様ですよ。それにしても、別に結婚する必要はありませんでしたし。あの人は優秀みたいですけど、すごく変わり者なんですよ。
 レンファさんもかなり変わり者ですけどね」
 何を隠して何を隠していないのか、読みづらい所のある男だ。人妻に対して、旦那の前で口説くような所があったり、読めない。
 イーリンもレンファの事を変わり者だと思っているのか、複雑そうに唸った。
「でも、イーリンさんがちょっと羨ましいです」
「ど、どうして? 言葉にも困ってないし、あんな格好いい旦那がいるのにっ」
「まあ、格好いい旦那はいますけど……あれは特殊というか。
 イーリンさんはレンファさんの事が好きって感じで。私は何となくアディスと一緒にいるだけですから。
 だから恋に恋するって感じがして、羨ましいです」
 どこにその感覚を置いてきたのか。
 チビ、デブ、ドジ。その他色々言われすぎて、あまり他人は好きではなくなった。基本的にどうでもいい。いい子ではないから、殺人鬼を野放しにするアディスにも、何も言わない。正義感の強い子なら、どうにかすべきだと無責任に言っているだろう。自分では何も出来ないのに。
 そういう我が儘は嫌だ。
「イーリンさんは自立して恋をしているから、羨ましいです」
 依存関係は好きではない。互いが必要で、お互い様だとしても。
 しかも、いつかアディスには聖良は必要がなくなるし、繋がりはせいぜい血だけだ。
「でも、愛されてる方がよっぽど」
「愛とかはないですよ。愛人とかいるし」
 ついぼやいてしまう。
 愛があったら、普通に引き合わせるようなことはない。愛がなくとも、普通は隠す。引き合わせるなど、ありえない。
 ロリコンの変態男の考える事は聖良には分からない。
「とりあえず、使えそうな物はないですかね」
 聖良は光をかざして周囲を見回す。
 牢番室は狭かった。狭い中に色々と荷物が置いてある。木箱や、布で包まれた何か。一つ一つは小さくて、聖良でも持てそうなサイズだった。
「何これ」
 イーリンが驚いて置いてあった袋に触れた。
「何でこんな所に、こんな物が」
「何ですか、それ」
 イーリンが袋の口をほどき、中に手を入れる。
 塩のような何か、透明で細かい結晶。聖良が作った小さな光を受けてキラキラと輝く。
「光の通る壁があったでしょう。あれの壁材の一つ」
「そんな物が何でこんな所に?」
 聖良は袋の中身を覗き込んで言った。
「これは許可無く国外に持ち出してはいけない、エンザの企業秘密なの。持ち出す時も、混ぜてから、職人付きでないとダメなの」
「じゃあ、誘拐した人たちが密輸しようと?」
「きっとそうね。ほこりは積もっていないから、それほど経ってないわ。頻繁に出入りさせているか、最近使い始めたのか……。
 とにかく、レンファ様にお知らせしなくちゃ」
 イーリンは使命を帯びた者の顔で呟く。
 巻き込んでしまった罪悪感は必要なさそうだった。
「じゃあ、イーリンさんにも魔術をかけますね」
「私に?」
「そうです。術者以外が触ると痺れる術です」
「スタンガンを着る感じ?」
「ああ、そうですそうです。威力もだいたいそんなものです」
 大した威力はないが、とても触れられないから誘拐されるのを防ぐにはちょうどいいのだ。
「効果は十分ぐらいですけど、ここってそんなに脱出しにくいところじゃないですよね?」
「大丈夫。上は予備の客室になってて、人はあまり来ないけど、階段を上ればすぐに人目につくところに出られるから、そこまでのほんの少しの距離よ」
 では、さきほどイーリンを殴り倒した見張りさえどうにかすればいいのだ。
「イーリンさんが来た時、人はいましたか?」
「誰もいないように見えたけど、奥に隠れられそうなところがあるの。
 このドアは外開きだから、向こうから見ると開いたらすぐら分かるし、こちらからはドアを開くと向こう側が見えないから、さっき後ろからやられたんだと思う」
 ドアは外開き。階段に向かって知らずに歩いたら背後から襲われる。ドアから顔を出して見張りを確認しようと思ったら、そのときにはもう目の前にいる、という事もあるだろう。
 聖良一人では、うっかり外に出て、再び殴り倒されていたはずだ。イーリンには悪いが、少しだけ運がよかった。
 いつも、少しだけ運がいい。死なない程度には運がいい。
 だから結局、アディスの所に戻る事になる。
「そうですか。じゃあ、術の用意をして構えているから、イーリンさんは巻き添えになりにくいように気をつけながら、ドアを開けるってことでどうですか?」
「そこまで用心すれば大丈夫そうね」
 イーリンは心なしか楽しそうに笑う。
 聖良も少しだけ楽しくなってきた。
 相手は人間だ。人間を超越した存在ではない。ちょっと強いだけで、ただの人間なのだ。
 半悪魔の殺人鬼や、悪魔に誘拐されてきた聖良が怯えるなど、今更だ。
 慌てたアディスの所に、たまには自力で帰って脅かそう。
 助けに行こうと思ってたのにと、騒ぐ彼の姿が目に浮かぶ。それはなかなか愉快だった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ