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青色吐息 作者:かいとーこ
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14話 空からの訪問者 6



 晩餐会はたくさんの招待客で賑わっていた。
 中には知人もいる。
 お城の料理長、青の箱庭の幹部とその連れ。
 どこに行ったかと思えば、ディアスとハーティはこんな所に招かれていたようだ。
「あんなの呼んで、どうするつもりなんでしょう。アディス、知ってました?」
「知りませんが、目的は分かります。
 王室以外での知識の最高峰です。表向きはバーだったり、商家だったりしますから。しかし魔導具関係の会社はジェイに任せているのに、なんであいつが来ているのか。
 それとも魔薬が目当てでしょうか」
 顔を寄せて囁き合い、こちらを見ようとしてディアス──ディに妨害されているハーティを見る。
 ディはニヤニヤと笑い、上機嫌だった。
「魔薬って、麻薬とは違うんですか」
「ただの薬ですよ。ただし、魔術師が植物に宿る魔力に合わせて調合するんです。人間の魔力に個体差があるように、植物にだってあります。それを見分けて調合するには、道具と知識と才能が必要です。扱える者はこの国にも滅多にいないんですよ」
「アディスは出来ないんですか?」
「出来ますよ。うち子達は、程度の差はあれど全員出来ます。一番上手いのはディアスですが」
 だからディアスに任せているのだ。
 うちの子とは、箱庭の魔術師も含まれている。ディはほとんど夜しか現れないから、組織を支えているのは他の魔術師達だ。
「いかがですか、セーラさん。食が進んでいないようですが」
 いきなり声を掛けられ、聖良は驚いて飛び上がりそうになった。
「とても美味しいですよ、レンファさん」
 前菜はスモークサーモンのような物と、香辛料を絡めた貝入りおひたしに、魚醤のかかった豆入り浅漬けとチーズ。
 言葉だけで表すと地味だが、飾り付けはとても綺麗で、とても美味しい。
「味付けがとても美味しいです。昼に食べたのとはまた違う分かりやすい味ですね。あまり好き嫌いもされない、初めて食べるには無難な料理だと思います」
「ええ。さすがはセーラさん。慣れぬ異国の料理ばかりは苦痛です。癖があれば、美味いと感じるまでには経験が必要になります」
 エンザの料理は、聖良にとっては多国籍料理、和洋折衷だ。魚のダシが効いていて、バターやミルクも使われていて、先ほど食べた中華の材料になるようなものもある。
「エンザは食材の豊かな素晴らしい国ですね」
「そう言っていただけると光栄です。なにせ世界中から集まりますから、我が国は世界一の美食の国と言われています。
 次の料理はこの大陸には生息しないダル豚の最高級の肉を使用した料理です」
 給仕が新たに運んできた料理は、綺麗に並べられているが、男の人なら一口で食べられそうなちまっとした料理だった。白いソースの上に並べられ、上に緑色のソースがかけられているから、見た目はフランス料理のようだった。
 使われた材料など細かな説明が書かれていて勉強になる献立表は、目録部分に十品もあるので、これぐらいの量でなければデザートまでたどり着けないのだ。
「こんなに品が多いと、料理人は大変ですね」
「ええ。ですから、このようなコースは本当に重要な客様をお迎えする時にしか行わないものです。とくにこれだけの人数の場合、多くて七種が一般的となっていますが、今回は様々な味を知って頂き、どんな物がこの国の好みであるか教えていただくのが目的ですので奮発いたしました」
 聖良はそれを聞いて納得した。これは贅沢の中の贅沢なのだ。繋がりたい相手の胃袋を掴み、系列のレストランに通わせれば商談もしやすくなる。
「これから簡単な音楽と舞の見世物もあります。存分にお楽しみ下さい」
「ありがとうございます」
 彼が次に声を掛けた中年男性は、聖良を不気味そうに見ながら、身元を尋ねていた。
「切るか?」
 男の言葉を聞き、今までユイに見張られて行儀よく食べていたミラが動こうとするので、全員で睨み付けた。
「食べて下さい。ミラさん」
「そうです。食べて下さい。飲んで下さい」
「帰りにデザートも買ってあげるから」
 ミラはこくと頷いた。
 今日はドレスを着て口紅もしているから、女性らしくてとても綺麗だ。最近は聖良の手で肌も髪も磨かれて艶やかだ。じっとしていれば、男性はころりと騙されてしまうだろう。そんな彼女を、絶対に暴れさせてはいけない。
 その綺麗なミラはしばらく料理に夢中になっていたが、突然フォークを置いて口を開いた。
「トイレに行きたい」
 ユイは迷いを見せた。
 女性のトイレについていくのは、男として終わっている。しかし一人で行かせるのは不安しかない。
 仕方が無いので聖良も食器を置いた。
「私がついていきましょうか。そうしたら無茶しないでしょうし」
 ミラが立ち上がり、聖良がその手を取ってトイレに向かう。
 トイレには晩餐が始まる前に一度行ったので場所は分かっていた。綺麗な水洗トイレだ。レンファはこの国の水道事情、とくにトイレに感動したと言っていた。グリーディアの国民は、少なくとも都市部に住んでいると清潔好きになる。
 ミラが個室に入って、聖良はトイレの外で待つ。
 その間にバッグから百均の鏡を取り出して髪の乱れを直す。
 レンファにもらったものを付けてきたのだが、自分ではいじれないので最低限だけ触れた。下手に触れると乱れはひどくなる。
「あの、お嬢さん」
 男の人に声を掛けられた。
 大きなホテルでシーツを入れるようなカートを押した、この国の人種ではない男性だ。レンファ達よりも濃い顔つきなので、聖良が知らない国の出身なのだろうな、と予想した。
「なんでしょうか」
「失礼いたします」
 ハンカチで口を押さえられた。
 これは、誘拐の手口。眠り薬を嗅がせ、誘拐するつもりなのだ。
 幸い、聖良はアディスのせいで下手な薬は効かない。
「ぐっ……ぬぐぐぐぐっふぁ!」
 口を開いて指を噛み、手を払ってその場を飛び退く。
「っつぅ。なぜっ!?」
 男はケロリとしている聖良を見て、手を押さえながら驚愕の声を上げた。
「私に薬は効きません。ミラさん、ミラさん、また誘拐魔です! 変質者ですっ!」
 ミラがトイレから出てくる。きっちり手を洗ったらしく、手が濡れていた。聖良が清潔にするよう叩き込んだ結果である。
「誘拐魔……悪人……切っていい。殺す。うん」
 うっかり、ミラの虐殺心に火をつけてしまったことに、聖良はようやく気付いた。
 もちろん、時既に遅し、である。
 誘拐魔だからと、それがいきなり切っていいという発想になるのが恐ろしい。
 しかしミラに下手な制限をつけると、人の命に関わっても動けなくなってしまうほど、彼女には柔軟性がない。分かっているからユイも下手に制限を出来ず、悪人は切っていいことになっている。
 だからミラは、ドレスの下に隠し持っていた剣を抜き、斬り捨てる。
 聖良は犯人が死んでしまったと身構えたが、誘拐犯は意外にも生きていて走って逃げた。
 しかし聖良は床に落ちた切り落とされた腕を見て、甲高い悲鳴を上げた。
 腕だ。腕。人間の腕!
 血が飛び散って、生々しい腕だ。身体から離れた腕など、映画の中の作り物でしか見た事のない聖良が飛び上がらない方がどうにかしている。
 片足を浮かせた状態で硬直していると、ミラが追うのを許してしまった。
 スカートだからか、おしとやかにしているように命令されたせいか、動きがいつもに比べてかなり鈍いが、それでも聖良では追いつけそうにもない。聖良もワイルドな生活のおかげで人並み以上に体力はあるが、プロのような誘拐犯と悪魔呼ばわりされる女に追いつけるほどの体力はない。しかも聖良の方がひらひらしたドレスを着ている。
「あ、アディスっ」
 聖良は素直に助けを求めて声を上げた。
 人の腕が切れて、悪魔と呼ばれる女が追ってしまったのだ。これはつまり、人の命が掛かっているということだ。固まっている場合ではない。
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