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青色吐息 作者:かいとーこ
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12話 恋する乙女6





「ただいま」
 フレアに手を引かれて戻ってきた、モリィに化けたセーラの姿を見て、アディスは脱力した。
 連れ出されたと聞いた時は血の気が引いたが、無事だし、普通にアメやら色々と買ってもらったらしい。髪型も弄られている。
「何を考えて、また彼女を連れ出した」
 あまり口外してほしくない秘密を知られているので、セーラは素直に従っていたのだ。フレアなら危害を加えてこないと。分かっているが問わずにはいられなかった。
「何って、可愛いからよ。あと、アーネスがどれだけ非道い男かたっぷりと聞かせておいたから」
「私は女性に対しては紳士です。
 まあいい。話があるから付いてきて下さい」
 アディスは身を翻して奥へと向かう。地下のアジトではなく、店の個室だ。こんな男を下には入れられない。ここを知っているだけで胸くそ悪いのだ。
 彼の兄がいつからこの街にいたかを思えば、ここを知っていて当然で、場所を移っても同じ事になる可能性がある。
 だったら直接口を封じておく方がいい。
「ああ、モリィ、手伝って下さい」
 ハーティとフレアだけを先に部屋に入れ、部屋のドアを閉める。密談用の部屋なので、普通にしゃべる分には中に会話の内容は漏れない。
「何か言われましたか」
「セーラが生贄として召喚された事に気付いてて、モリィの血を飲んだと思っています。アーネスは竜の血を飲んでいないと思ってて、アディスのことはすごくよく思われてます。だからお母さんに誘拐されて一緒に住むことになったって言っておきました」
「どうして生贄のことを……」
「古い本を読んだそうです。あと、アディスの方が安全なのに、どうしてアーネスと一緒にいるんだって。子供っぽく分かりませんで通しておいたけど」
「分かりました」
 アディスはバーに戻り、用意されていた飲み物を持った。聖良は菓子が盛られた皿を抱えて、個室に入る。
「ハーティ、喉が渇いたでしょう」
「あ、はい」
 彼女はアーネスの姿の方が好きらしく、いつも以上に緊張していた。憧れの長なのだから当然だ。
「しかし、お前が何を考えて私の可愛いモリィを連れ回したんですか。散々怖がらせておいて、まだ足りないのですか」
「怖がったのはあなたでしょ?」
「この子も怖がっていましたよ。よくもぬけぬけと」
 アディスはハーティに温かいお茶を出す。仕方がないから、フレアにも。
「何が目的です」
「目的なんてないわよ。モリィの事がちょっと心配だっただけ。あんたみたいなロリコンで有名な男に連れ回させるなんて」
「何もしませんよ。貴方の兄と同じように見ないで下さい。知識の苑である青の箱庭では、誘拐などの一般的な犯罪は禁じられています。知識の探求を阻む者を排除した結果、必要な物を手に入れるために手段を選ばなかった結果が、たまたま違法である場合を含んでいるだけです」
 そこがマフィアとは違う点だ。基本的に自分達以外には興味がないのである。
「お兄様は、綺麗な花を手折っている感覚なのよ。長く生きると命は花と同じほどの価値になるみたいよ」
 フレアはまだ若いらしい。だから人間の命は尊重している。竜はしていなかったが、今はしているだろう。少なくとも、モリィという少女の姿をした竜は。
「それに、人間となれ合ったって、そのうち辛い思いをするだけだわ。みんな死んでしまうんですもの」
 だから人間であるアーネスは、モリィに相応しくないと言いたいのだ。
「その心配には及びません。竜は他にいて、私も血を飲んでいます。竜の里には、子供が他にもいるんですよ」
 アディスは自らの手の甲にナイフを当て、証拠を見せてやった。
「…………そう」
 フレアは眼を細めて手の甲を見る。
「アディスも?」
「ええ」
「そう……」
「アディスが死んだら、セーラを手に入れられるとでも思っていましたか? 愚かな」
「そんなことないわ。アディスとセーラはお似合いだもの」
 意外な言葉に驚いた。邪魔者扱いならともかく、お似合いとは予想もしていなかった。お似合いだと言われたのに、当のセーラはちっとも気にしている様子がない。彼女が気にしなければ、誰に何を言われても同じだ。
「それでモリィを狙ってきたんですか。気の多い男ですね」
 セーラも呆れているだろう。驚いていないという事は、彼女は似たようなことを言われ済みなのだ。
 同じ言葉遣いで同じ性格。それは見た目で判断していないという意味にもなる。セーラの中身が気に入っているのだから。
 セーラの方はそれに気付いているのか、気付いた上で呆れているのか。
 フレアに惹かれでもしない限りは、どうでもいいことだが。
「なぜアディスの肩は持つんですか。接点などないでしょう」
「いいじゃない。あなたと違って普通にいい男だもの」
 彼も見た目に騙されるミーハーのようだ。
 普段は働いていると言った。ひょっとしたら、普段はまともな格好をしているのではと想像する。女装さえしなければ、綺麗な男だろう。化粧で大人びて見えるが、まだ少年なのかもしれない。どこかで接点があって、アディスを間近で見た可能性はある。
 予測しても意味のないことはどうでもいい。セーラの話から出てきた疑問を解決しなければならない。
「ところで、お前はどうやって竜の捕らえ方など知ったのですか? あれは千年前に行われていた狩りです。資料もそこらにあるものではない」
 フレアの目が一瞬泳ぐ。
 あの資料はハーネスの遺産だ。ハーネスの時代には、竜は人を恐れて手出しの出来ない場所に移動していたため、不可能だった方法。あの資料以外では忘れられている方法。
 アディスはこっそりと侵入できる立場にいるが、フレアがそんな事を知っているのはおかしいのだ。
「そ、そちらこそどこで知ったの?」
「人を使えば方法はいくらでもある。しかしお前は人間を動かせるような立場にはない。私と違って半悪魔なんですから」
「私は……半悪魔だもの。壁抜けぐらいできるわ」
「侵入者が入ると、どんな方法でも警報がなるはずなんですがね」
 アディスは管理する側だ。悪用しているが、そうと分かるようなやり方はしない。
 しかし半悪魔には常識は通用しない。正規の手順さえ踏めば、警報は鳴らないが、どこか抜け道があったのかもしれない。
 アディスが睨み付けていると、フレアは急に余裕たっぷりといった顔をして笑う。強がりだ。最近、自分がその調子だから、彼の内心はなんとなく読める。今、必死で探している。
「…………フレア、お前は普段男の格好をしていますか?」
「な……なんでそんなこと?」
「男、と思ってみると、どこかで見たことがあるような無いような」
「あるわけないでしょ。あんたなんか見たらすぐに分かるもの」
 ひょっとしたら、変装して城に出入りしている可能性がある。顔の傷を消せるような化粧品も売られているのだ。今でも分かりにくい半悪魔の模様は、本気で化粧でもすればまったく分からない可能性はある。
「ああ、だからアディスと接点が。
 本気でアディスのことが好きなんだ……」
 ハーティが呟いた。
 好き、とは何だろうか。好きとは。しかも本気で好きとは何なんだ。
「そういえばどうしてハトラはここにいるの? アディス達と一緒じゃなかったの?」
「え…………」
 フレアの言葉に、ハーティが固まった。フレアは首をかしげて、あら、と呟いた。
「よく見たら、毛色が違うわね。声も違う気がする」
 ハーティの顔が引きつっている。
 顔立ちは似ていないのに、どんな目をしているのだろうか。雰囲気だけで見分けているのか知らないが、ここで慌てたら怪しまれるだけだ。
「別人ですよ。どこをどう見たら同一人物に見えるんですか」
「ハトラじゃないの? でも、さっきハーティって言ってたじゃない。それに昨日、ハトラに話したことどうして知ってるの?」
 ハトラとハーティ。確かに似ている名だが、目が悪いにしても、なぜ同一人物だと思うのだ。
 ハトラを連れてきたのは昨日が初めてで、アディスが見ていたところでは、ハーティなどと呼んでいない。
 ちらとセーラを見ると、眼球がせわしなく動いている。心当たりがあるようだ。見ていなかったのは、子供達と一緒に遊ばせていた時しかない。あそこは魔術師専用の図書室の前。一般人では入れない。
「フレアさん、ちょっと目をつぶって下さい」
 セーラがモリィの大きな瞳でフレアを見上げた。
「え、何?」
「耳も塞いで下さい」
「ど、どうして?」
「だめですか?」
「なんでっ!?」
「いいから!」
 セーラはフレアの膝の上に乗り、頭部に触れた。
「え、ちょ」
 髪を乱し、脇に流されて固められていた長い前髪を前に垂らし、後ろの髪は首の後ろに束ねる。
 アディスはその姿を見て首をかしげる。
 見たことがある気がした。
 ある気がするのだが、分からない。
「あっ」
 ハーティが声を上げた。
「眼鏡の俯いてた人っ」
 眼鏡の俯いて……………………………………
 アディスの知り合いには一人しかいない。
 そして、言われてみれば、顎のラインやら体格やら、誤魔化せない部分が…………。
 思考が停止する。
「え…………エリオット!?」
 アディスは考えるよりも先に、そう叫んでいた。

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