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青色吐息 作者:かいとーこ
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12話 恋する乙女3


 ハーティは眠い目をこすり、朝食を食べた。
 卵に生クリームを入れてオムレツにしたらしい。パンも美味しい。
 朝、ハーティが起きた時には、ベッドの真ん中にいたセーラがいなくて、アディスにのし掛かられて驚いた。そこに悟りきった顔をしたセーラが来て殴り起こしたのにも驚いた。
 思い出して顔を赤くしながら、朝食を終え、テーブルの上を片付けた。
 他の皆は、それぞれ食料や薪を集めるの仕事があるので、小屋から出て行く。
だからこの小屋に残ったのは、ハーティとセーラだけだ。
 テーブルは片付いたので、セーラは食器の入ったカゴを抱えて裏の水場へ行く。ハーティは床を雑巾掛けし、別の雑巾で棚を拭く。
 洗い物を手伝えればいいのだが、割れ物に触れるのは怖いのだ。
 掃除が終わった頃に、セーラがカゴを抱えて戻ってきた。
「そろそろ誰か戻ってきそうですし、お茶でも飲みましょうか。今日は冷えますからね」
 そう言ってセーラはストーブの上に置いたヤカンの湯で、お茶を淹れ始める。
 人間は寒さに弱いから、水の冷たさが堪えるらしい。肌も弱いのですぐに荒れてしまう。竜は爬虫類と同じで寒さに弱いと思われているらしいが、そんな種族は山の上で暮らしたりしない。むしろ熱さを苦手とする竜の方が多い。
「聖都で買ってきたんですけど、いい匂いなんですよ」
 セーラは小さな身体でテキパキ動き、赤くなった手をカップで温める。小さくて可愛いのに、彼女はよく働く。
「あのセーラ、昨夜はごめんなさい」
「え?」
「朝早いのに、起こしてしまって」
「ああ……別にハーティのせいじゃないですよ。早く起きてるのは習慣です」
「それに……」
 アディスがハーティにかまうのを、本当は不愉快に思っているのではないかと恐れた。
「ハーティは気にしすぎですよ。気にしなさ過ぎるミラさんみたいな人もどうかと思いますけど」
 気にしすぎているのだろうかとハーティは悩む。
「でもあんまりアディスのことを気にしてちゃダメですよ。人を振り回すタイプですから。
 気負っているより、少し力を抜いた方がいいです」
「力を抜く……ですか?」
 セーラはカップを両手で握りしめたまま笑いながら頷く。彼女は冷静な女性だが、笑うと本当に小さな子供のようで可愛い。
「ハーティは私から見ても、アディスに尽くそうって気負いが見えるから。
 寝ぼけてたからあんまり覚えてませんけど、アディスが昨日言いたかった事も遠回しにそういう事ですよ」
「え?」
 竜の姿になってもいいという事だと思っていた。
「ハーティは自分の里では竜の姿でしょう? ここではずっと人の姿だから、他所様ってくくりが出来ているって感じです。それが寂しいんですよ。アディスは親がいないから、他人である家族に囲まれて過ごしたでしょう。だからすごく寂しがり屋なんですよ。アディスが欲しいのは、恋人よりも家族ですから。
 ハーティが部下と上司を続けたいならこのままでもいいですけど、なんだかすれ違っている気がするんで」
 気付かなかったハーティは肩を落とした。よく考えれば、まさしく彼女の言うとおりだった。
「ど、どうすればいいんでしょうか……」
「普通にしたらどうですか? ハーティは実家の方やデデルさん達には普通に話していたから、今の堅苦しいのは普通じゃないんでしょう?
 ハーティの方がアディスよりも年上なんだから、その力んだ丁寧語をやめればいいと思います」
「……り、力んでますか?」
「かなりガチガチです。アディスなんてロリコンの変態で、大きくなったら捨てる生きる価値も無い最低のクズ野郎です。敬ってやる必要など在りません」
「そ、そこまで……」
 ここまで言っても許されるのは、彼女だからだ。これが身内の気安さなのだ。
「アディスには難しいかも知れないけど、せめて私やミラさんには普通にしていたらどうでしょう。そういう警戒は、ミラさんの側にいると危ないですよ。うっかり切られます」
「ええっ!?」
 うっかり切られるとは何だろうか。うっかりとは。
「ミラさんはそういう気配に敏感らしいです。万が一後ろから驚かせてやろうなんて思ったら、離れていても気配を察知して痛い目にあいますよ。アディスが一回やりました」
 悪意ではなく軽い悪戯心でも、優れた剣士は感づくのだ。ハーティはミラを思い出し、恐怖で身を竦めた。
「ハーティはなんでか居着いているミラさん達と違って、招かれて来たんだから堂々としてればいいんですよ。食っちゃ寝してたら嫌われるでしょうけど、やる事をやったら普通にしていればいいんです。
 それともやっぱりアディスがいると緊張しますか?」
 少し悩んで小さく頷いた。
 アディスにそれが他人行儀ととられるなら、直さないといけない。
「私はハーティのそういう真面目なところ好きですし、アディスも好意的に思ってますよ」
「本当に、そうでしようか」
「逆に考えると、アディスがハーティを嫌う理由がありません。可愛い女の子だから好かれていますよ。
 例えばですけど、可愛がっているペットに警戒されてたら寂しいでしょう」
 ペットといえば、たまにくる魔物だ。撫でようとしたら、毛を逆立てて警戒された。それが少し寂しくて、落ち込んだものだ。
「拾ってきた野生の動物ならともかく、元々自分のところにいた子だと、もっと寂しいですよ。
 まあ、何をされてもいいって態度も、可愛いと思いますけど」
 可愛い人間に可愛いと言われて、ハーティは戸惑う。女の子は何にでも可愛いと言うのを知っているが、それでも焦りは募る。
「いきなりは無理でも、だらだらしてればそのうち自然になってきますよ」
「なれるでしょうか……」
「時間って、そういう力がありますから」
 セーラがカップに唇をつける。熱かったのか、ふうふうと息を掛けていると、玄関のドアが開いた。
「セーラっ、町に行きましょう」
 アディスが入ってくるなり、輝かんばかりの笑顔で言った。アーネスよりも整った顔立ちだから、アーネスで無くとも胸が高鳴る。
「ええっ? 帰ってきたばかりなのに? まだ食料はありますよ」
「そろそろ頼んでいた物が準備されているはずなので」
「急ぎですか?」
「ほら、ハーティ用の頭蓋骨を用意させているんですよ。素顔の方は箱庭の者が知っているから、私達の姿の時に歩き回れる、うんと可愛いやつ。
 やっぱりそこら辺にあったのじゃイマイチですからね。その時は本名のハトラを名乗りなさい。で、可愛い洋服を買いましょう。帰りには箱庭に挨拶に行きましょう。
 母の了解は取ってきましたから、数日滞在しますよ」
 アディスが出かけていたのは、ネルフィアの所だったようだ。
「…………ほら、こういう人だから、てきとーでいいんですよ。勝手に自分の趣味を押しつけてきますから、嫌なら嫌だと言わなきゃならないんです」
「は、はい……」
 アディスがハーティのためだけに何かを用意してくれているというのが、たまらなく嬉しかった。嫌だなどとは少しも思わない。
「ミラさん達は?」
「置いてきます。箱庭にも顔を出さなくてはならないから連れて行けません。ユイには伝えておいたので」
「ならいいですけど。
 あ、そうだ。今日はハーティの背に乗るってのはどうです。ハーティはしばらく元の姿に戻ってないし、アディスよりも飛ぶのに慣れてそうだし」
「ああ、それはいいですね。降りて呪文唱えるのも面倒ですし」
 ハーティは指名されて、緊張が全身を駆けめぐる。
 人間を背に乗せて飛ぶなど初めてで、墜落したらと──
「行きますか」
「はい」
 先に出ていったアディスに、荷物を手にしたセーラが続く。
「いや、あのっ」
 マイペースに外に出て、ハーティを待つ二人。
 ひゅうひゅうと息を吐き、意を決する。
 初めてでも、アディスやネルフィアにも出来ていることだ。ハーティに出来ないはずもない。ぐっと力を入れて、気合いを入れる。
 大切なのは、出来る事をすることだ。出来る事を出来ないと言い張る無能を、きっとアディスは嫌うだろう。
 だから恐いが、頑張ることにした。





 着地後のハーティは緊張で身体がガチガチだったので、聖良はいつもの別荘で、ハーティのために準備をした。クローゼットに隠してあった頭蓋骨でハーティを変身させ、同じクローゼットにしまってあった服を選んだ。
 現在のハーティの姿は、年の頃はやはり十代半ばで、この国では小柄な方だが、それでも聖良よりだいぶ背が高い。きりりとした眉の、活発そうな女の子だ。
 完全に別人となったハーティを連れて、三人は城にやって来た。
 聖良の親戚と紹介された彼女は、以前聖良が子供達と遊んだ庭で、子供達の興味を一身に引きつけていた。
 聖良と違い、ごく普通の美少女だから当然だ。
「よぉ、ハーティが来たって?」
「ハトラです」
 聖良は背後から突然声を掛けてきたディアスへと、即座に訂正を入れた。
「え、ああ、ハトラだったっけ。
 まあいいや。二人とも元気そうだな」
「ひえっ」
 後ろから肩をがしりと掴まれてハーティが飛び上がる。
「だれ!?」
「誰って、ディアスだよ。忘れたか?」
「ディ……ああっ」
 気付いたようで彼女は縮こまる。彼が箱庭の幹部だからだ。彼女は地位や名誉に弱い所があるらしい。
「ハトラさぁ、ちょっと二人で話しないか?」
「ええっ!?」
「ちょっと頼みがさぁ」
 聖良は立ち上がり、ディアスの腕に手を置いた。
「セクハラ禁止です。二人きりなんてとんでもない。さすがに怒りますよ」
「せ……セーラは大袈裟だなぁ……はははっ」
 睨み上げると彼は笑いながらハーティから離れる。
 彼は竜だと知って、下心が出てきたのだ。
「ハトラも、こういう悪い人にのこのこ付いていったらダメですよ。危ないですから」
「あ……危ないの?」
「とても危険です。私が保証します」
「…………」
 怯えの眼差しを向けられて、ディアスはほんの少し傷ついた様子だ。
「ディアス、危険なの?」
 近くにいたエリオットが、聖良の腰を抱いて持ち上げた。
「おまっ、何年俺と一緒にいるんだ。俺よりセーラを信じるのか? つか、目が合わないと意外と大胆な事するんだな」
 聖良は安全なところに下ろされる。
 思った以上に好かれているらしいと実感した。
「まあ、アディス様に殴られるような事はしねーよ」
「じゃあ二人きりになる必要ないじゃないですか」
「実行するのと、話し合うのは別だろ」
「ダメです。私達はアディスを待ってるだけなんですから、アディスに話を通してください」
「そこから行ったら殴られて終わんだろ。馬鹿だなぁ」
「…………考えは分かりました。賛同はしませんけど」
「ひっでぇなぁ」
 聖良はため息をついて、ハーティに目を向けながらディアスを指さした。
「こういう人達だから、気負わなくていいけど警戒はしてくださいね?」
「わ、わかった」
 彼女はこくこくと頷く。
 さっそく努力して、普通に接しようとしてくれているのだが、言葉遣いが少しばかり硬い。
 いつか悪い男にいいように使われそうで不安になる子だ。
「ディアスにーちゃん、しつこいと嫌われるぜ」
「それよりも前みたいに歌いたい!」
「セーラちゃん、歌おう」
「ハトラちゃんも歌おう!」
 ハトラの容姿がアディス好みの美少女なものだから、年齢の近い男の子も珍しく混じっている。男というのは素直なものだ。元の姿でも可愛いので、結果は同じだっただろう。とにかく美人が好きなのだ。
「しゃあない。んじゃ、後でな」
 ディアスは渋々と手を振って去っていく。仕事中だったのだろう。
 これからが大変そうだ。大切なのは、彼女の意志の尊重である。





 子供達にさんざん歌わされ、昼になった頃にようやくアディスが戻ってきた。
 こんな事をしていて、よく首にならないものだと感心する。普通の企業だったらもう首になっているだろう。
 空腹でへそが曲がった聖良の機嫌を取ろうと、いい店があるというので街に出た。
「お腹がすきましたよね。すみませんね、遅れて。そういえば、ハトラは何か好き嫌いはありますか?」
「とくに好き嫌いはありませんが、あえて言うなら肉が好きです」
「そりゃそうでしょうね」
 聖良に好き嫌いはない。よほど不味かったり、こってりしていない限りは食べる。アディスも生肉以外は平気なようだ。
「あの店です。ランチはお得になっているんですよ」
 アディスに手を引かれ、お得だというレストランに連れて行かれた。聖良とハーティの手をしっかりと握っていることが、少し不服だった。毛色の違う三人が、どんな風に見えているのか不安で。
「ほら、ここです。デザートも美味しいんですよ」
 外観は素朴な雰囲気のレストランでほっとした。中に入れば清潔な制服を着たウェイターが出迎えてくれたので、安い店ではないはずだが、高すぎることもないだろう。
 ほっとしたのもつかの間、ウェイターが深々と頭を下げた。
「申し訳ございません。本日は満席となっております」
 聖良の腹がぐぅと鳴る。食べる気だったのに食べられないと知ると、人はより空腹を覚える物だ。
「やっぱりこうなるのか……」
「残念でしたね。じゃあ、別の……」
「あら、セーラにアディスじゃない」
 聞き覚えのありすぎる声に二人は身を震わせた。
「ここよ、ここ」
 相変わらず、綺麗に着飾る女装男、半悪魔のフレアが手を振っていた。
「私は今来たばかりだから、こっちにいらっしゃい」
「どうして一緒に食事をするなんて思えるんですか?」
「いいじゃない。あの子の様子も聞きたいし。私があげた猫ちゃんは元気にしてる? あ、相席するから三人分、準備してちょうだい」
 ネコとはロヴァンの事だろう。
 確かに一番始め飼っていたのは彼だ。気になるのも当然だ。
「どうします、セーラ」
「ここで回れ右しても……」
 知られすぎているし、食事なんて放置して追ってきそうだ。
「そうですね」
 フレアはなぜか聖良の事を気に入っている。なぜか聖良は異色系美人に好かれる。普通の人に好かれたいという願いは、あまり叶わない。
「えっと……どなたですか?」
「この前の誘拐犯弟です」
「半悪っ」
 ハーティはフレアを見て口を押さえて硬直する。彼女は少し繊細で多感なのだ。
 聖良は空腹なので席に着いて注文をアディスに任せる。料理名を理解できるほど、こちらの言語に慣れていない。
「セーラったら、相変わらず可愛いわ」
「ありがとうございます」
「相変わらずクールね」
「ありがとうございます」
「もう少し違う反応もして!」
「どうせろくに見えてないでしょう」
「目を細めればだいたいは見えるわよ」
「じゃあ……フレアさんも相変わらず綺麗です。やっぱり赤が似合いますね」
「いやん、セーラったら」
 違う反応をしたら変な返答が返ってきたが、喜んでいるようなので良しとした。
「あの、アディス…………この方は男性なんですか? 女性なんですか? 女性に見えるんですが……」
 ハーティが真剣に悩みながらアディスに問う。
「オカマですよ」
「これがっ!」
 ハーティは驚いた様子で顔を引きつらせるフレアを見た。
「ハトラは変なところでずれていますね」
「だっ、だって……田舎者だから」
 竜にはいないか、いても竜の姿だったらこのようにはならないだろう。周りの目を気にして、出来ないのもありそうだ。
「オカマなんて失礼よ。私はただ、綺麗な格好をするのが好きなだけ! 女になれるものならなりたいけどね。女の子の身体の方が綺麗だし、お兄さまも優しいし」
 好みの女の子を集めている男なら、弟よりも妹の方が可愛いはずだ。
 彼は想像を絶する苦労をして育ったのだろう。
「今思えば、フレアさんも被害者の一人ですよね……」
「あの兄でさえなければ普通の男だった可能性があったのでしょうに……」
 聖良とアディスでしみじみと彼を見つめた。
 綺麗な男性だ。メイクを落として普通の格好をすれば、普通に綺麗な男性になるだろう。
「…………どこかでお会いしませんでした?」
 唐突に、ハーティがフレアに尋ねる。
「そ、そう? 私に覚えはないわ」
「そうですか。どこかで嗅いだような……」
 嗅覚で人を覚えているのが実に竜らしい。フレアは理解できないらしくきょとんとしている。
「まあ、この街に住んでれば気付かないうちに顔も合わすでしょう」
 アディスが水の入ったグラスを片手に言う。
「住んでるの? 見たことがないわ。今までよく無事でいたわね。絶対にお兄さまの好みのタイプなのに!」
「え?」
 彼女は首をかしげる。誰しも、自分が変態に狙われる可能性があるなど思いたくないものだ。
「あ、お料理が来たわ」
「美味しそうですね。フレアさんもこの店にはよく来るんですか?」
「今日が初めてよ」
「ほんっと、偶然ですね」
 ここまで会いたくない相手を引き当てられるという事実が、本当に恐ろしい。
「本当に偶然ね。いつもセーラに会いたいって思ってたからかしら。運命的だわぁ。
 これからお買い物?」
「はあ、彼女の服とか」
「ステキ。だったらいい店があるわよ。セーラの着られる服はあまりないけど。うちは等身大のお人形さんがたくさんあるから、お洋服の店はたくさん知っているの」
 等身大。
 物はいいようだ。
「だから、なぜ私達に係わりたがるんですか。いい加減にしないとクレアに突き出しますよ?」
「そんな事していいのぉ? 色々と話しちゃうわよぉ。アーネスと一緒にいるってだけでヤバイでしょ?」
 同一人物だというのが一番ヤバイのだが、そこはバレていないのが救いだ。もしも知られたら、アディスはさぞ落ち込むだろう。聖良は面倒なことにさえならなければどうでもいいというのが本音だ。今でも十分面倒なのだから。
「で、この子どこから拾ってきたの?」
「拾ってきたとは失敬なことを。
 親戚になった子です。私達、正式に結婚してきましたから」
 アディスは聖良の手をあげる。フレアはそれを見て、ショックを受けたらしく青ざめて固まった。ずっとしているが、袖で見えにくいから気付かなかったのだろう。いつでも外せるし、隠れてしまうから、付けている意味がない気がしている。
「そんな……」
「なぜショックを受けているのかは知りませんが、アディスが一度やってみたかったからという理由で結婚させられましたけど、それだけですが」
「何よそれ! 女の子にとってお嫁さんになるのは憧れなのよ! そんないい加減な気持ちで結婚するなんて、何考えてるの!? サイテーねっ!」
 ショックを受けたり怒ったり、感情の激しい人だ。
 女性らしい怒り方なのが可愛い。
「そうですよね。やっぱり怒りますよね。アディスがあんまり人の話を聞かないから、最近どうでもいいような気がしてたんですけど」
「話は聞いてますよ。聞けるお願いと聞けないお願いがあるだけです。
 今回の事はただ、腕輪を作るのと、式を挙げるのはセットだと言い忘れていただけで。
 セーラが望むなら、盛大でロマンティックな披露宴をしてもいいですよ」
「いりません。ただ同居してるだけですし、式を挙げたのがよけいだったんです。ただの変態除けに付けただけですし」
「セーラは本当にどうしてそんなにドライなんですか? もう少し少女らしい夢を持ちましょうよ。せっかく私ほどの男を捕まえてるんですから」
「自分で言うんですね……。
 私が夢見て恋する乙女になったらウザいでしょう」
「ぜんぜんそんなことないですよ。セーラだったら何でも可愛いですし、嬉しいです。っていうか、セーラは私に恋してません?」
「ぜんぜん」
 アディスが肩を落とす。大の男が落ち込んでも可愛くない。
「色男もセーラにかかると台無しねぇ。セーラ、アディスがダメなら私とはどう?」
「フレアさんも人形扱いしたいだけでしょう。動機がアディスとほぼ同じです」
「そんな事ないわ。お嫁さんになってくれたら、一緒に可愛く着飾って、一緒にお料理して、一緒にお兄さまを止めたりするの」
「最後のは私には荷が重いので遠慮します。しかも前二つはやっぱりお人形扱いっぽいです」
 好き好んであの人形師と関わり合いになりたくは無い。聖良のトラウマその2なのだから。
「でも、私そういうのよく分からないのよねぇ。小さい頃から、普通の家庭って体験したことないし」
「まあ、そりゃあ、あのお姉さま達の中じゃ……」
「お姉さま?」
「魔女のお姉さま方ですよ。人に薬を盛って椅子に縛り付けてくれましたよ」
「ごめんなさいね」
 フレアは頬に手を当てて言う。
「でもセーラ、私が言うのも何だけど、もう少し気をつけた方がいいわ。あっさりと捕まってしまうなんて、危ないでしょう。
 セーラはしっかりしているように見えて、隙だらけだから心配よ」
「気を抜いてるつもりは無いんですが」

「私、本当にセーラが心配なのよ。アディスが不運なのは有名だけど、男だからまだいいわ。でも、セーラはか弱い女の子なんだもの。いくら身体のことがあっても、心配だわ。世の中、お兄さま以上の変態は少ないけど、いるにはいるの。ロリコンとか多いらしいじゃない。そういえば、アーネスもロリコンで有名ね。セーラ、近くにいるんでしょう?」
 聖良は視線を逸らす。その変態は目の前にいる男と同一人物である。
 何よりも驚いたのは、そんなことをフレアが知っているほど変態振りが有名だったのだ。ショックだった。
「ハトラだったかしら。あなたも気をつけなさいね」
「あ……うん」
 ハトラはこくこくと頷く。
 彼女も混乱している。どこまで知っているのか、自分がボロを出さないか心配なのだ。
「あら、みんなの分の料理も来たわ。お腹がすいたわね。食べましょう」
 本当に美味しそうな料理が運ばれてくる。スープとサラダとハンバーグのような料理と、パスタとうどんの中間ぐらいのニョッキのような付け合わせ。
 オススメなだけあり、とても美味しかった。
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