挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
青色吐息 作者:かいとーこ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

43/110

9話 家族旅行4

 聖良は話を聞いていて我が耳を疑い、しばらくすると本当に船が浮き上がり目を見張った。
「けっこう簡単に浮くんだなぁ」
 クインシーがガラスのはまった小さな窓から外を見て呟く。
 甲板にはアディス達しかいないので、ドラゴンパワーで飛ばしているのだろう。他の皆は各所で攻撃準備に忙しい。
 空を飛ぶのは珍しくないが、やはり船が飛ぶというのは珍しく、好奇心から外を見ているとクインシーに腕を引かれた。
「そろそろ来るか──」
 言い終わる前に窓の外が光った。真っ白だ。雷が落ちた時よりもすごくて、目が眩んだ。
 外にいたアディス達は目が大変な事になっているだろう。魔力を提供したのに災難な目に合っているのだ、絶対に。光源に目を向けているに違いない。目が、目がぁああとか悶絶している。これは確信だ。
「なんですか……今の」
「この船の最終兵器だよ。周囲の生物を死滅させる。この場合は船の結界の外だな。
 ただ、海中で使うとその効果が船にも及ぶから今まで使った事がなかったんだ。馬鹿みたいだろ」
 クインシーは嬉しそうに話す。アディスや城で出会った子供達も、技術の事を話す時は嬉しそうだ。魔術師とはこういう人種なのだろう。
「なんて意味のない事を思ってたけど、本当に浮かせられるならいいよな。うん。あとでアディスにどうやったか聞かないと」
 アディスは、今度はどんな嘘を並べ立てるのだろうか。
 いつもいつも彼の口から出る、後が大変な嘘には呆れさせられる。
 上手い嘘など聖良も思いつきはしないが、もう少し後々が楽な嘘もあるだろう。合わせるのも、覚えておかなくてはならないのも聖良なのだ。
 知識もないから変な事を言いそうでいつも脅えているのを彼は知らないのだろう。
 適当に合わせて、で大丈夫だと思っているのだ。そんな何でもかんでも悟って対応できる賢い女だったら、もっと幸せになれていて、ここにもいなかっただろう。
 アディスは自分を基準にするから無茶苦茶なのだ。
「あ、降りるな」
 クインシーの言葉で窓の外を見ると、ゆっくりと海面が近づいてくる。かなり慎重に降りている。海面が近づくと、先ほどまでいたような気がする、タコのようにもクラゲのようにも見える生物が、もういない事に気付いた。
「あの子達どうなったんですか?」
「消し炭になったんだと思う。そういう兵器だから」
「…………」
「アディスは害虫駆除にも使ってたから、使い方を間違えなければいいんだよ」
 なんて恐ろしい方法を選ぶのだろうか。一瞬で毒性はなくなるが、即死するような毒をまいて害虫駆除するようなものである。後には残らないが、恐ろしい。
「クインシー様、もう揺れませんかね?」
 調理師の男性が身を乗り出しておたまを振る。
「ああ、もう問題ない。この区域を早々に離れるために速度を上げるから多少は揺れる事もあるが」
「そうですか。揚げ物は控えた方がいいでしょうかね」
「フライヤーの中身が飛び出る事はないだろう。問題ない」
 クインシーは揚げ物が食べたいらしい。調理師はまったくと言いながら調理を再開している。
 聖良も手伝いを再開しようかと思ったが、それよりも先に男の人達がたくさん食堂に駆け込んできた。
「クインシー様、こわかったぁぁああ」
「なんだったんすかあれはっ! しかも本当に飛んだっ! 飛んだっ!! 飛んだっ!!!!」
「今日まで技術連中の誇大妄想だと思ってましたよ」
 脅えて泣く者、混乱している者、ただ驚いている者、様々だ。冷静な人達は持ち場にいるのだろう。
 しかし、身内にも誇大妄想と思われていた技術者達が哀れだ。魔力があれば可能だと証明されなければ、この先ずっとそう思われていたのだろう。
 この先人間だけを乗せているのでは二度と飛ばないだろうが。
『セーラ、セーラ』
 アディスの声がまた届く。
 無線機のような物の前まで行き悩むと、クインシーが操作してくれる。
「何ですか」
『おかっ……ネルフィアさんが、海鮮焼きを食べたいそうなんですけど』
「はあ」
『この足、どうすればいいかなぁって』
「足?」
『最初の奴の足があるんですよ』
 聖良はこめかみを押さえる。
 あんなのを見て、食べたいと思うのか。どういう趣味をしているのだろう。アディスもゲテモノ食いなのだろうか。いつも聖良が美味しいという物を美味しいと言うから味覚や食べ物に対する趣味はそこまで離れていないと思っていたのに。
「あんな大きな生き物、大味で美味しくないですよ」
『でも食べたがってるんですけど』
「じゃあ、ミンチにして練り物にしましょうか。そのまま食べても美味しくない魚だって、酒ぶっ込んですり身にすれば美味しくなりますから」
『任せます。一部切り取って持っていきますね』
 皆、拍手喝采。
 海の男の食指が聖良には理解できなかった。





 ベッドに座り、もらったばかりの温かいお茶を、両手に包んでため息をつく。
 今日は疲れた。
 昼頃はアディスが疲れていたが、午後は聖良が疲れた。
 あのイカタコ、アンモニア臭いのだ。固いのだ。試しに味見をしたら泣きそうになった。
 聖良が手動フードプロセッサーでミンチにし、調理師の男が頑張って臭みを抜いた。その手動というのが、手で回すとかではなく、手で魔力を注ぎ込むという、すごいのだかしょぼいのだか分からない物である。
 アディスが側にいるので聖良でも動かせたが、大量にあるから大変だった。団子にするのも大変だった。ネルフィアのためにハンバーグにもした。大変だった。
 アディスはアディスで大変だったようで、ベッドで呆けている。
 クインシーに説明を求められ、アイテムをうっかり海に落としちゃったと言い訳していたのは聞こえた。そんな貴重なものを落とすとはと首を絞められたり大変そうだった。
「二人とも若いのに疲れた顔を……」
 二段ベッドの上にいるトロアが暇そうにしながら言う。
「三人はぽーっとしてたじゃないですか」
「セーラを手伝ったぞ」
「ラゼスさん以外は邪魔だったんですよ」
「ああ、あれは邪魔そうでした」
 団子を丸めさせればサイズがめちゃくちゃで、玩具にするし、最後の方はまた変なのが出てこないか海を見張っていろと追い出した。
 明日も船の上だと思うと、少しうんざりする。
「港についたらどうするんですか? 聖都までどれぐらい掛かります?」
「手続きをしてそのまま一泊してどんちゃん騒ぎをして、悪朝出発して、夕方までには到着ですね」
「……騒ぐんですか?」
「船だとどうしても何人かは見張りとか舵取りが必要ですから、全員で騒げないですし、仕事で浮く聖都では騒ぐ事も出来ませんし。
 船員の半分は港に残りますしね」
「どこの世界も国も騒ぐのは好きですねぇ」
 酒を飲んだ事がない聖良は、わいわいと飲み食いするのが苦手だ。食事は落ち着いて静かにしたい。
「そういえば隣は静かですけど、お母さん達、仲良くしてるかな……」
「仲良くはしてると思うよ。幼馴染みだからな。ガキ大将と首に縄つけられた子分って感じだけど」
 トロアが二段ベッドの上の段でごろごろしながら言う。
 ラゼスが少し情けない。確かに人間でもそんな感じの男女はいる。大人の夫婦にもいる。
 それが情けない。
「アディスは母親似だな」
「そうですか?」
 アディスは少し嫌そうだ。ラゼスのようにはっきりしないタイプではないので、その点ではネルフィア寄りだろう。
「見た目と知的なところはそりゃラゼスだけど、乱暴さを抜きにしたら、性格はネルフィだろ」
「確かにそうなんですが、お母さんは乱暴でなければお母さんではないというような気がします」
「その通りだけどな、お前にまでそれを言われるような生活してるのか、ネルフィ」
「私達には乱暴はしませんよ。それ以外に対する攻撃性やがさつさは見ていれば分かります。セーラの方がよほど母親らしいですし」
 里の竜達も普通に料理を食べていた。人間よりははるかに食べるが、身体に見合う程ではなく、日本にいた時に見た大食い選手の方がよほど食べていたような気がする。ネルフィアはその中でもたくさん食べるらしく、毎日のように狩りに行くが、それは好き嫌いがあり美味しい部位しか食べていないからという事もある。捨てるならくれと一部をもらっているが、それでも食べきれないため、他の動物が食べそうな場所に捨てている。野生動物はきっと綺麗に食べてくれているだろう。
 帰ったら自分もフードプロセッサー他の便利な道具が欲しいなと思いながら、お茶を飲んでいると、ドアがノックされた。
「アディス、起きているか?」
「クインシー……ったく」
 アディスが嫌そうな顔をしてドアに向かい、ドアノブに手をかけると笑顔になった。とても作り笑いには見えない、爽やかな笑顔だ。
「何ですか? 今、大切な話をしていたんですけど。将来の事とか、色々と」
「いや、ちょっと聞きたい事が出来て」
 出来たという事は、増幅がどうのといったアイテムとは別だろう。もしも続きだったらアディスの機嫌がますます悪くなるのでやめてほしい。彼は機嫌が悪くなると癒しを求めて聖良に悪戯をしてくるから嫌なのだ。撫でられるだけならともかく、口も出てくる。気色悪いほど褒めて褒めてキスをしてくる。そう、完全に小動物扱いだ。
「さっき港に連絡入れたらさ、お前達を乗せているかって聞かれて、乗せてるって答えたら迎えに来るってさ」
 アディスが振り返って聖良を見る。
 可能性は一つしかない。
 ミラが不機嫌なのだ。
 不機嫌すぎて、聖良という手綱をユイ以外が求めているのだ。基本的に命令に縛られて、襲われなければ暴力は振るえないので、他の人間がミラノ不機嫌な様子を見て、勝手に脅えているだけだろう。
「着いたら分かると思うんで言いますけど、殲滅の悪魔がセーラの事を気に入ったらしくって」
「はっ!? 殲滅って、あのいつも不機嫌そうなピリピリした女だろ!?」
「私は生き生きと喧嘩したり、セーラにデレデレしているところを見るのがほとんどで、そういう姿はあまり見てませんよ。ちょっと強すぎて乱暴だから怖いですけど、極端に素直な子という印象です」
 クインシーが後ずさる。
「マジで?」
「何かされたんですか?」
「何もされなかったのか?」
「…………肩を刺されて踏みつけにされただけですね」
「お前、それを笑って流せるほど。俺の知らない所で怪我してるのか?」
 アディスは笑って誤魔化す。
 あれは怖いが後腐れのない怪我だった。本人に悪気がないのだ。むしろ聖良を助けようとしてのこと。ミラを恨むには相手が強すぎるから、笑って受け流すしかない。
「どうやってあれを懐柔したんだ? あれは女子供も関係なく殺すぞ」
「でもペットを愛でる気持ちとかもちゃんとありますよ。
 皆が腫れ物扱いするのが悪いんですよ。普通に接して、変な事をしなければいいんです。そうしたら、甘い物が好きな、オシャレをしてはにかむような可愛い女性ですよ」
「嘘だ。あの女がそんな……」
「どうせ変な風に声をかけたんでしょう。ああいう人は係わらないのが一番なんですよ」
「お前、さっきと言っている事が……」
「彼女が恐れるのは極端に言えば注目される事ですよ。敵意を持たれれば身を守るために殺して、恨みを買われるから目撃者も殺す。
 でも恨みを持たない相手と分かれば何もしません。
 私達のように世間や他人に振り回されて多少の事は水に流すようなタイプなら、安心して側にいられるようですよ。
 つまり、恐れをもってして気をかけている以上は、いつまでたっても殺害対象なんですよ」
 クインシーが悩み始めた。
 きっとアディスに対してそれでいいのかと思っているのだろう。聖良ですら聞いていてそれでいいのかと思わなくもないのだから。
「天災は避けられない事です。死んでも仕方が無いぐらいに考えてると、案外死なないものですから、見つけてもあからさまに警戒しないで、普通に通り過ぎればいいんですよ」
「その年で悟りきるなよ。まだ早いだろう」
「私よりもセーラの方が悟ってますよ。ああいう方に懐かれているぐらいですから」
 けなされているような気がするのだ。
 我慢などしたくないし、忘れて目をつぶって水に流したくもないのだが、やられた事を直視して怒ったりするのは苦手なのだ。
「しかし猛獣使い扱いで勝手に予定を変えられるのは不本意ですねぇ。あとでこちらを利用できない厄介な人材だって分からせないと……」
「何をする気だ」
「そちらには迷惑をかけませんよ。いっそ、ずっと新婚気分でいちゃいちゃしてましょうか?」
「やめてくれ頼むから」
「冗談なのに……。
 まっ、適当に危険人物扱いを受けますよ。セーラは話しているだけでもう危険人物っぽいですし」
 危険人物だと思うほどの発音なのだろうが、話すだけで気味悪がられるというのも悲しい。
「頼むから、普通にしててくれよ」
「もちろんですよ」
 嘘くさい言葉だ。ミラに会うだけで既に珍獣扱いされそうなのに、本当に珍獣四匹と異世界の人間一人なのだ。まともな人間がいないという事実がある。
 クインシーに心配をかけている事が、とにかく心苦しかったが、きっと騒がしくしてしまうのだろう。
 それでも、怪我と誘拐だけはされないように気をつけるつもりだ。
 本当に、怪我だけはしないように気をつけよう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ