挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
青色吐息 作者:かいとーこ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

37/110

8話 グリーディアの魔物 1


 家を建てるというのは、案外大変なようで簡単だった。
 エルフ達にも力を借りて、湖にほど近い場所の土地を魔術でならし、木材は魔術で器用に加工してしまった。
 デテルの指示により、立派なログハウスがさくさくと出来ていく様を見ると、家って簡単にできるのだななどと勘違いしてしまいそうだった。
 簡単ではなかったのだろうが、聖良がしたことと言えば皆に食事を作ったり食料を集めたりと、まさに雑用ばかりだったので、どれほどの苦労があったのか、実はよく知らなかった。
 苦労の甲斐あって、冬になる前には寒さを凌ぐに十分なほどには出来上がった。そろそろ外を出歩くにはコートを羽織る時期である。暖炉はまだ完成していないが、本当に寒くなる前にはどうにか出来上がるだろう。
 作業は力も知識もない聖良では役に立たないので、やはり今日もこれから働く面々に朝食を作ることが朝一の仕事だった。
「美味しいわぁ。どうしてこんなに美味しいのかしらぁ? 人間ってすごいわねぇ」
 食事を一緒に食べている、アルテ達の母、変わり者エルフのアルティーサが言う。
 彼女には聖良と一緒に食べられる物や薬草の採取をしてもらっている。
 とても価値ある薬草を採る事もあるが、その手はとにかく遅い。何か薬草を一つ見つけると、ぽーっと観察を始める。似たような別の植物ではないかと、よくよく、よくよく確かめているらしい。慎重なのはいいのだが、行きすぎるそれを見つめている側は、苛立ちが募るので聖良はなるべく見ないようにしていた。見なければ平気だ。
 あまりにものスローテンポに、そこまで観察しなくても大丈夫だと説得してしまいたくなっただけなのだ。急ぎでもないのだから、他人のペースにとやかく言う筋合いはないので、見ないようにして耐えている。
「別に普通ですよ。あり合わせですし」
 海の幸など食べさせたら、彼女はどんな反応をするのだろうか。エルフは森に住むらしいので、きっと食べたことなどないだろう。
 今は海に行く予定はないのでまた今度の話しだが。
「買い物に行った後に、もっと美味しい物を作りますよ。そろそろ小麦がなくなりますし」
 小麦は主食にしてみると減りが早い。最近は他人にも振る舞っているから、たくさんあると思っていたのにもう底をつきそうだ。
「じゃあ、今日は買い物にでも行きますか」
 食事の手を止めてアディスが言う。
「デテルさん達どうします? 食料の買い出しだと、ろくに案内も出来ませんけど」
 彼らが来た当初、いつも行く街とは別のところだが、観光案内を兼ねて二人の私物を買った。しかし今日は食料の買い出しだ。あの部下二人が揃えてくれているだろうが、それを受け取りに行くのも本当ならアーネスの姿の方がいいのだ。だからこそ、観光も別の都市にしたのだ。
「私達はまだ家の方が仕上がっていないから、どうぞ買い物に行ってくださいな」
「ええ、ええ。私達のことは気になさらずに。気持ちだけで十分です」
 聖良はアディスと顔を見合わせた。これならいつものように買い物が出来る。そう思った瞬間、今まで黙って朝食を食べていたミラが口を開いた。
「私も行く」
「え? 買い物にですか?」
「武器を見たい」
 実にミラらしい発想だった。ちらとユイを見るが、嫌そうな顔をしながら止めない。
「…………止めないんですか?」
「止めたいのは山々だけど、止めると後々怖いからね。ミラはストレスを溜めると無意識に刃物を触るようになるんだ。無意識だと、僕らは切られる。ストレスはなるべく与えないようにしないと」
 それは止められない。買い物でぐらいストレスを発散させてやらないと、落ち着いて眠ることも出来ない。刃物一つで身が安全になるのなら、買わないではいられない。
 どうせ元々武器依存症なんだから、一つ二つ増えた所で一緒だ。
「あまり、あなた方のような目立つ人と一緒に街を歩きたくないんですけど」
「別行動でいいよ。セーラを武器屋巡りに付き合わせるわけにもいかないし」
「そうしていただけると。セーラを変なところに連れ込みたくないので。なにせこの容姿とこの話し方ですからね。絡まれたり、からかわれたり、脅えられたりしますよ」
 慣れない場所に行くとそんな感じだ。武器屋などは聖良も近づきたくないので、何にしても有り難い。
「それはいいですけど、二人までにしてくださいね。いくら何でも三人も乗せられませんよ。荷物を持つんですから」
「ではハノと」
「いやいや、ユイさんと行ってください」
 命令できるのはユイだけだが、ミラはハノと行きたいらしい。もちろんユイが鬱陶しいから、ハノの方が穏やかだからという理由だ。
 ユイは聖良の目から見ても過保護だ。
「ミラさん、ハノさんよりもユイ君の方が小柄で軽いですから」
「そうか。そうだな。ハノは大きくて邪魔だな」
 納得してくれたのはいいのだが、ユイとハノを傷つけたような気がした。しかしミラの説得のためなら、二人も多少のことは我慢してくれる。ユイとハノに身長差があるのは、誰が見ても一目瞭然なのだ。
「あ、普通の服を着てくださいね。あまり目立ちたくないんですよ。神殿色のない普通の服を」
「……うん、そうするよ」
 彼は笑顔で言うと、着替えのために隣の部屋に入った。入ったと言っても、ドアはついていないのだが。
 本当に形だけが出来上がった状態である。
 聖良が手を出せる内装に入るのは、もう少し先だろう。





「ああ、寒かった」
 アディスの背から降りたユイが分厚いコートに身を包んでいるのに震えている。
 確かに空を飛ぶと寒いが、彼は最近はよくアディスの背に乗っているのに、この反応は初めてだ。
「いつも薄着なのに、そんなに寒かったんですか?」
「いつもの僕のコートが特別仕様なんだよ。防刃、防火、防寒、防熱。薄手なのに何でも防いでくれる。
 神子だからとにかくお金をかけて守られてるんだ。ミラに切られて骨折ですんだぐらいだし、きっとものすごく高いんだと思う」
 それは高いに違いない。ミラが本気なら、竜でも切るのだ。
「神子、神殿の財産。優遇される」
 貴重な才能があれば優遇される。当然のことである。それだけのものを背負うのだからと、納得しようとしたらユイが続けた。
「そうだよ。神子なんて、神殿のマスコットであり営業であり現場作業員なんだ。
 死なない程度に酷使するのが神殿のやり方だよ。我慢するか敵対するかどちらかしかないからって足下を見るんだ」
 ユイも神殿に不満があるらしい。
 ブツブツ言う彼を横目に、聖良はしゃがみ込んだアディスの頭をマントで包むようにして呪文を唱えた。人の姿になって着替えると、近くにある小屋へと向かう。
 以前の経験から色々と反省して、老夫婦を街から外れた場所に住まわせて馬車を預けている。これに乗って1時間ほどで街に着く。
 アーネスが手配させたのだが、二人ともアディスもアーネスも区別がつかないので助かっている。
「この小屋……結界?」
「老夫婦がこんな場所に住んでいたら、万が一と言うこともあります。相応の結界は必要ですよ。私かセーラがいれば入れますから安心してください。いないと入れませんが」
「アディス、器用」
「私は得手不得手なく何でも器用にこなすタイプですから」
 昔は悩んだが、それが今の強みであるらしい。
夫婦が留守だったので自分たちで馬を小屋から出して、馬車につないで出発する。
 街にたどり着くと、集合時刻を決めてからミラ達と別れて、とりあえず城に向かった。
 城に到着すると相変わらずエイダに説教されて、クレアにラゼス達の姿を探されて、子供達に囲まれた。エリオットは相変わらず顔を合わせず、しかしアディスによく懐いている。
 いつもと変わらないやりとりの間、聖良は厨房に行き料理長と話した。この国の食材について、聖良はまだまだ知らなければならない事ばかりだ。
 そのついでに、彼にも聖良の知っている技術を教えた。
 前回教えた、ホイップクリームを試してみたらしく、さらなる使い方を尋ねられた。
 彼が作ったホイップクリームは、少し混ぜ方が足りない状態だったので、それについてのアドバイスをして、実演としてデザートに用意されていた焼菓子を、生クリームで飾って見せた。
 料理交流を終えると、再び足の速い食材を譲ってもらい、馬車まで運んでもらった。その間も、色々と料理話に花を咲かせ、各国の料理基本的な本をプレゼントされた。
 アディスに生クリームなどの食材の保冷をしてもらった後、城を出る。
 これから生活雑貨を買う予定だ。
 食器や大きな温かそうな布など、他にも便利そうな物があったら買えばいい
「セーラが好きな可愛い雑貨を買うのは、もうしばらく先ですね」
「分かってます。生活の方が大切ですもん」
 小物があっても、それを飾る棚が無ければ意味がない。たくさんの服よりも、それを入れるクローゼットがなければ意味がない。
 まずは敷き布を買おうと、少し裏に入った所にある問屋の前に馬車を止めた。盗まれないか不安だが、この国で馬車泥棒は少ないらしい。対策を取っている馬車に当たると悲惨な目に会うからだ。そしてその対策というのは、外観からでは分からない。みすぼらしい馬車にも施されていたりするので、博打を打つよりも割に合わない。最悪の場合、死ぬからだ。
 聖良は手触りが良くて足が冷えないような物が無いかと見回した。その隣で、アディスが突然「げっ」と声を出した。
「あらぁ、セーラじゃない!」
 聞き覚えのある声に、聖良の顔面の筋肉が引きつる。
 なぜ自分に懐くんだとは思わないでもない。
 おそらく話し方が原因だろうとは分かっているが、思わずにはいられない、あの人だ。
「フレアさん……どうしたんですか、こんな所に」
「それはこっちの台詞よぉ。セーラはカーペットを買いに来たの?」
「はい。温かそうなのを」
「モリィは元気?」
「元気ですよ」
「来ているの?」
「来てませんよ」
 ちらとアディスを見るが、他人の振りをするように布に夢中だ。
「セーラ、色は何色がいいでしょうね」
「落ち着いた色がいいんじゃ無いですか? 温かくて変な色でなければいいですよ。どうせすぐに汚れますし」
「そうですね」
「あの洞窟に敷くの?」
 会話に入ってきたフレアに、アディスが嫌そうな顔をしながら彼を見る。
「家族の会話に他人が入ってこないでください」
「つめたーい。争いを避けてあげたのにぃ」
「……結局、彼等は諦めたんですか?」
「とりあえず諦めたわよ。この国にいる以上は手を出しにくいもの」
 店の中に入るとフレアもついてくる。
 それを出来るだけ気にしないようにカーペットを選ぶ。リビングと寝室だ。何枚か欲しい所だが、ミラが武器を買うつもりらしいので諦める。
「そういえば、二人ともどうやって知り合ったの? アーネスもやっぱり街にあんまりいないみたいだし」
 痛い。そこが痛いのだ。
「どうやってもこうやってもありませんよ。アーネスが原因でこんな事になってるんですから」
 他人ではなくもう一人の自分に責任をなすりつけるという人も珍しい。しかし他人ではないから、いくらでも可能だ。口裏を合わせる必要がないのだから、口にしたそれは真実になる。
 アディスがどうするつもりか分からないので、聖良は大人しく御者台に座る。アディスの横の方が安心する。
「アーネスが原因って?」
 荷台に乗り込んだフレアが追求してくる。アディスは諦めたのか、肩を落とした。
「私も立場がありますから、あまりあの男との繋がりなど持ちたくないんですよ」
「そりゃそうでしょうけど……で、どうして繋がったの?」
「生まれたてでしたから、色々あったんですよ」
「アーネスが何か狙ってたって噂があったけど、やっぱり竜だったのね?」
「そうなります」
「セーラは?」
「餌ですよ。色々あったんですよ。とても公には出来ない色々がね。他人には言わないでくださいよ。これ以上狙われるようになったら、セーラが可哀相です」
 色々な関係を目撃されまくったため、聖良のことだけは言ってしまった方がややこしくなくていいと判断したようだ。問題は、アディスが竜になっている事なのだ。
「アディスはどうして巻き込まれたの? 一人だけ腑に落ちないんだけど」
「アディスはただの不幸な巻き込まれですよ」
「あー、なんかそれっぽい」
 彼の不運っぷりは有名らしい。
 宮廷では華やかな雰囲気なのに、有名になるほどの不運っぷりを日頃から見せつけるアディスを想像する。
「アーネスもけっこうついてないとこのある人だから、似たもの同士なんじゃない?」
「冗談でしょう。胸くそ悪いからやめてください」
 自分の事なのに、胸くそ悪くなるような人物だと思っているようだ。少女趣味の男を嫌うというポーズは、子供に好かれるアディスにとってはかなり重要なのだ。
「嫌ってるのね。まあ、分からなくもないけど」
 聖良は実は本人だと暴露したくなる。もちろんしないが、いつもしたくなる。
 しかし、遊びに来たとして、その度にアーネスはと聞かれたらどうするのだろうか。
 最悪の場合は部下二人のどちらかがアーネスに化ければなんとか誤魔化せるかもしれない。化けられるという前提がなければ、同一人物にはならない。だからきっと大丈夫。
 だんだんと崩れていっている気がしないでもないが、フレア一人なので…………なんとかしないと。
「ああ、もうあの男のことは話したくありません。せっかく二人きりのデートしていたのに、どうして貴方が嗅ぎつけてくるんですかねぇ」
「いつも一緒なんじゃないの?」
「最近、まわりに色々いるんですよ。二人きりの時なんて滅多にないっていうのに。もうほっといてください」
 拗ねている。付きまとわれたくないのに、向こうが興味を持ってくるのが不愉快なのだろう。
「……ああ、もう一組の問題が戻ってきましたよ」
 アディスの視線を追うと、静かに立つミラと普通の格好のユイがいた。集合場所でも時間でもないので、わざわざ探しに来たようだ。
 アディスは二人の姿を見て、顔を輝かせた。
「買い物は終わったんですか?」
「終わった。いいものが買えた。この国入りにくいけど、好き」
 ミラは幌付きの荷台に乗り、先客に気付いた。
「…………この前のオカマ」
「ちょ、ミラさん!」
 ミラが抜刀して構えるので、聖良は驚いて身を乗り出した。
「ミラさん、そういう時は分かっていても女の人扱いしないとっ!」
「そうなのか?」
「そうです。あと、町中で刃物抜いちゃダメですよ。フレアさんに攻撃する意志はないですし」
 ミラは大人しく剣を鞘に収めた。
「相変わらず見事なミラ使いっぷりだねぇ」
 ユイも馬車に乗り大きく伸びをする。疲れた顔から、やはり振り回されていたようである。ユイはミラに関わろうと努力しすぎているから疲れるのだ。
 彼女のようなタイプはほどほどの距離を置くのが一番である。
「買い物は終わった?」
「あとは日用品をと思って。食器とか、最近はお客さんも多いですから。あ、ハサミも欲しいですね。ミラさんの髪も切りそろえなくちゃ」
 前よりは幾分かよくなっているが、毛先が痛んでいる。自分の前髪ぐらいは自分で切りたいし、さすがに裁ちバサミで髪を切りたくはない。
「そういえば、あなた女の子なのになんて女らしくないの。若いのが救いだけど、年を取ったら悲惨よ」
 フレアがミラの髪に顔を寄せ、目を細めて全身を見た。
「男に言われたくない」
 フレアの言葉に、ミラは少し怒った。フレアの言葉で怒るという事は、少しは女らしさを気にしているのかもしれない。
「男よりも身汚い人に言われたくないわ。セーラみたいな清潔な子と並んでると浮くわよ」
 無知とは恐ろしい。知らないとは恐ろしい。
 ミラが不機嫌そうにしている。
「髪を巻けとは言わないけど、せめてまとめなさいよ」
「まとめると帰りが寒い」
「着飾るとか」
「動くのに邪魔」
「着飾ってたって動けるわ。それに邪魔になったらその時に取ればいいのよ」
 フレアはおそらくオシャレな女の子が好きなのだ。人形を飾っていたし、聖良も飾っていた。
「ハサミは必要ね。服も男みたいじゃない。どうせ男装するならもっと徹底しないと。中途半端は嫌いよ」
 ミラが怯んでいる。自分の理解がない分野で強く出られると言い負かされるタイプなのかも知れない。
 この雰囲気の彼女に誰もそれをしないだけで。
「アディスも、買ってあげればいいじゃない」
「そっちの保護者に言ってくださいよ。私は喜びもしない相手に何でも買ってやるほど心の広い人間じゃありません。セーラは可愛いから買うんです」
 ミラに買っても感謝があまり見えないのは確かて、アディスは分かりやすい方が好きだから、つまらなそうにする相手には買いたくないのだ。
 大袈裟な喜び方はしないでも、それが伝わってくるような、可愛らしさが彼の財布の紐を緩くする。
「そうだ。せっかくだから色々店を回りましょう。男物にしても、もっとセンスのいい物を着なくちゃ」
 確かにそれは聖良も思う。ミラはせっかく美人なのだ。しかし、今日はショッピングのために来たのではない。
「アディス、大丈夫?」
「三時ぐらいまでなら。日が暮れる前に帰らないと、最悪の場合は心配して見に来ますからね。都はパニックですよ」
 想像するだけで恐ろしい。時間だけは厳守しなければ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ