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青色吐息 作者:かいとーこ
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6話 人形師の館 1



「かーえーるーのーうーたーがー」
「かーへーるーのーうーちゃが」
「きーこえーてーくーるーよー」
「きーこーへぇーくーうーおー」
 奇妙な光景を見た。
 アディスとして職場に戻り、色々と溜まっていた仕事を片づけて庭に出ると、セーラと子供達が噴水の周りで歌っていたのだ。その中には滅多に外に出ないエリオットも混じっていて、何とも微笑ましい。
 しかしなぜカエルについて歌っているのだろう。
 しばらくするといくつかのグループに分かれて輪唱を始める。子供達にとってはいい発音の練習になっているのが理解できた。
「アディス様、そんなところで身悶えないでください」
 可愛らしい姿を堪能しているアディスへと、いつも笑顔で冷静なジェロンが言う。
 他人はこの笑顔で勘違いするのだが、彼は意外ときつい性格をしている。
「しっかしエリオットの奴、俺たちに慣れるのに三年もかかったくせに、なんでセーラにはもうなついてるんだ。明らかに現在の俺達によりも懐いてるぞ」
「可愛らしいからでしょう。彼女はどう見てもか弱い女の子で、ディアスのような攻撃性はありませんから」
 今でこそ丸くなったが、ここに来た当時の二人は刺々しい態度で年少組を泣かしていた。アディスや、今は地方に行っている彼らにとっての先輩達には、負けるものかと反発していたものだ。
 あの頃はまだ幼く、二人ともまだ可愛らしかった。
「ああ、なぜこんな大人に育ったんですか」
「突然何を言い出すかと思えば……。
 私達がこうなったのは、すべてアディス様の教育によるものですよ。いらぬ事を教えられましたからねぇ、イロイロと」
 二人がまだ十代前半の可愛らしかった頃、早く大人になりたいという言葉をかなえてやるために、夜中に墓荒らしをしたものだ。その中で気に入った姿の頭蓋骨を自分の物として、大人の──人には公に出来ないような遊びを始め、秘密結社など作ってみて、今に至る。本当に人に言えない事ばかりをしていた。セーラに知られるとかなりまずい事をしてきた。嫌われると言うより、軽蔑されそうな事ばかり。
「兄さんっ」
 歌っていたエリオットが立ち上がり、長いローブに足を取られながら駆けてくる。度がきついために分厚い眼鏡を押さえて、その様がまた可愛い。
 もしも彼が女の子だったら、ひょっとしたら悪さなどせずにまっとうに生きて結婚していたかもしれない。
「兄さんっ、お仕事は終わったの?」
 胸に飛び込み甘えながら問うてくる。
 アディスであろうと育ての親であるクレアであろうと、人と目を合わすことが出来ないため、彼はこうして他人の肩に額を押し付けて、視線が合わない位置で甘える。
「珍しいですね。たまには外もいいでしょう」
「うん」
「みんなで歌っていたんですね。楽しかったですか?」
「発音の練習だよ。歌の方が覚えやすいから歌っていただけ。早口言葉が難しくて」
 エリオットの言葉に、子供達がうんと頷いた。
「早口言葉じゃないですよ。代表的な発声練習ですよ」
「どんな?」
「あめんぼ赤いなアイウエオ、浮藻に小蝦もおよいでる、柿の木栗の木カキクケコ、きつつきこつこつかれけやき」
「早口言葉じゃないんですか?」
「早口言葉は、生麦生米生卵、赤巻紙青巻紙黄巻紙、蛙ぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ合わせてぴょこぴょこ六ぺぇぴょ……間違えた」
 昔は言えたのにと渋い顔をするセーラ。
 よくもまあ舌が回るものだと、空恐ろしくなった。だからこそ、呪文をすらすらとあの早さで言えるのである。アディスには遠い次元だ。
「セーラすごぉい。もいっかい」
「早口言葉は難しいんですよ。気力がいるんです。限界です」
「魔力を使うの?」
「使いませんけど、集中しなきゃいけないんです。何度もやると舌がもつれてわけがわからなくなります。ああなるとプロでももうダメなんです」
 子供達はセーラに尊敬のまなざしを向けている。彼らも魔術師だ。滑舌の良い人間にはあこがれる。
 どれだけ魔力が高くても、舌が回らなければ幼い子供にすら勝てない。
 以前出会った使い魔のミラは、ほとんど口を動かさず囁くように呪文を唱えていた。舌を噛みにくく、理想的な呪文の唱え方だった。彼女がセーラ並の発音をしたら、手の付けられない相手になるだろう。それは将来のアディスにも言えることだ。
 常日頃から話している分、セーラと出会う前よりも発音が良くなったため、人の姿であればかなり術に無駄がなくなり安定した。
 エリオットが彼女に懐いたのは無害な外見というのも大きいが、一番の理由はあの話し方が気になって仕方がないからだろう。今もアディスにしがみつきながらセーラを気にしている。
「エリオットはセーラが気に入りましたか?」
「うん。ずっといればいいのに」
 エリオットはアディスから離れてうつむき、伸びた赤毛の前髪が可愛らしい顔を隠す。それの前髪が彼を安心させるらしい。
「だめですよ。彼女の両親はとても怖い方ですから、ちゃんと連れて帰らないと」
「そんなに怖いの?」
「破滅の悪魔と喧嘩友達です」
「え、あれって実在したの?」
「してたみたいです。人間というのは、どうしようもないとただぼーっと見ているしかないんだと思い知りました」
「そうなんだ。セーラは親に似なかったんだね」
 親しい魔術師以外の他人とほとんど関わらないエリオットは、そんな言葉でも満足したようで、噴水の縁に座り、水に触れて遊ぶ。
 彼は魔術師の寄宿舎隣にある東門の外に捨てられているのを、アディスが拾ったのだ。なんだ男かと思いつつ、しょうがないという気持ちで育て始めたのだが、自分の手で育てたせいか、可愛くて仕方が無い。
 拾った当初は、やせ細っていて、身体には痣もあり、添えられていた手紙を信じるなら、本当は一歳を超えていたはずなのに、とてもそうは見えなかった。
 未だに目も合わせてくれないのは寂しいが、その分行動で愛情を示してくれる。
「アディス、何成長した娘を見守る父親のような顔してるんですか」
「失礼な。ちゃんと男の子らしく育てましたよ」
「…………」
 確かに男らしさとは遠い存在だ。セーラが胡乱な目で見るのも仕方がない。が、立派に心は男の子のエリオットに失礼だ。
「人が苦手なのは、物心ついた頃からです。私がひどい育て方をしたとか、クレアの内に含まれる暗黒にあてられたとか、そういうことは無いと思いますよ」
 確かに女の子の中で育ったために、男の子にしてはかなり大人しい子になったが、アディスのせいではない。アディスの周りに女の子ばかりがいたのは多少の影響を与えた可能性もあるが、男の子に任せれば泣いてしまうから仕方がなかった。
「可愛いんだからいいじゃないですか」
「男の子に可愛いって、褒め言葉じゃないですよ。むしろ普通なら嫌がります」
 確かに、まっすぐ前を向いて普通に生活を始めたら可愛いという印象もなくなるだろう。背丈も平均よりも少し低い程度だ。セーラのように全身で可愛いのとは違う。
「でも、私でも育ての親には可愛いと言われますよ。自分が手塩にかけて育てれば、なんだって可愛いでしょう」
「それもそうですね」
 セーラはそれだけ言って、子供達に手を引かれて再び歌い始めた。





 歌の時間を終えると、聖良はアディスと城下町に出かけた。冬用の服やコートが出来ているはずなのだ。
 可愛いデザインの赤いコートで、聖良は少し浮かれていた。動きやすい革のブーツも出来ているはず。あとは牛革の丈夫な鞄も。
「セーラ、時折既視感を覚える服装をした女性がいるんですが、気のせいでしょうか」
 周りの女性を眺めていたアディスの言葉に、彼の視線を追って見ると、可愛らしい格好をした若い女性が歩いている。言われてみれば、少しだけ印象が違う。
「セーラが着ていた制服に似てますね」
「言われてみれば、襟がそうですね」
 セーラー服ほど大げさな襟ではないし、胸当て部分が無く少し色っぽいが、ラインの入った所や、大きな襟の下をくぐらせて結ばれたリボンはそれっぽい。別の女性は短めのプリーツスカートをはいている。聖良の世界に行っても、個性的だがそれほどおかしくはない格好だ。
「予想はつきますけどね……」
 アディスは引きつった笑みを浮かべて言った。聖良も一瞬、その顔が頭によぎる。
「まさか」
「目つきが違いましたから。流行を作るのは好きな方ですし、新天地ですし。何よりも民族衣装と教えてしまいましたからね」
 聖良は押し黙り、あの時のお針子達を思い浮かべる。そして、先ほど頭によぎったその代表を。
 彼女たちは、聖良が着ている物すべてに興味を示していた。
 それからずっと嫌な予感はしていたが、東門からほど近い場所にあるその店にたどり着くと、二人はため息をついた。
 ディスプレイしてあった。
 やたらとレースがついた改造セーラー服が。
「可愛い。セーラ、あれ着ましょう。可愛い」
 アディスはため息ではなく、感嘆のための吐息だったらしい。
「いや、あんなのどこで着るんですか。それに身の程はわきまえてますから」
 森の中で着ていたら、あっという間にレースがほつれてしまう。そして似合わない上に、サイズが合わない。
 自分の着ていた物がこうなるのかと、少し落ち込みながら店に入り、目が合った店員が慌てた様子で奥へと呼びかけ、とびきりの営業スマイルでこちらに来た。
「お待ちしておりました、セーラ様」
 財布であるアディスではなく、聖良に声をかけてきた。財布を連れてくる常連は女性の方であり、まずはそちらに声をかけるのは当然かも知れないが、なんとも複雑な気持ちである。
「アディス様、ご注文通り、可愛らしく仕上がっております」
「そうですか。楽しみです」
 今日もまた奥の部屋に通され、待ち受けるお針子達の歓迎を受けた。お茶とジャムが塗られた焼き菓子が出てくる。
 この国では生クリームを菓子には使わないようで、この手の焼き菓子が多い。
「いらっしゃいませ、セーラ様、アディス様」
「ああ、フェネ。良い出来だそうですね。ところで、ディスプレイしてあるあれは?」
「初めてのご来店のさいに、セーラ様のお召し物のデザインの使用を許可いただきましたもので、急遽デザインを起こして生産いたしましたの。そうしたら若い女性の間でちょっとしたブームになってしまいました。ほとんど趣味で作ったシリーズだったんですが、今では一番の売れ筋です」
 てっきり下着の事だと思っていた聖良は、少しだけ呆れた。
「すっかり忘れていましたよ。もちろんサービスしてくれるんでしょうねぇ」
「もちろんですわ。行き詰ったところに天よりの滴でしたもの。今日の分はすべてサービスにさせていただきます。セーラ様、こちらです」
 キャスター付きのハンガーラックが押されてくる。
 コートが二種類。お出かけ用にしか怖くて使えない、カシミアのような手触りのコートに、山歩きも出来そうなしっかりした皮のコート。
 その他暖かそうな服が六着。内一着は、なぜか聖良のセーラー服に酷似した、しかし微妙にひらひらさせられたデザイン。スカートが箱ヒダになっている。
「可愛い」
 しかも聖良の着ている化学繊維とは違い、高級素材っぽい。ヒダスカートは布が必要なため、高そうだ。
「手入れ大変そうですね。お洗濯どうすればいいんでしょう」
「乱暴に絞ったりしなければ、普通にしていただいて構いません。洗濯用の石鹸もプレゼントいたしますわ。風通りの良いところで日陰干ししてください。
 しわになりにくい扱いやすい素材ですので、難しいことはございません。スカートはアイロンをかけてください」
 上のセーラーはともかく、下のスカートは可愛い。難しそうな丈だが、これからは冬。ブーツの季節で、合わせやすい。
 それから念のために試着をして、どうしても着ていってくれと言われたので、セーラー服もどきに着替えて外に出た。
 洋服を買うのはこんなに疲れる作業だったかと少し疑問が湧き、特注などするから疲れるのだと自分に言い聞かせる。人としての行動を面倒だと思い始めたら堕落する一方だ。
「昼食時が過ぎてしまいましたね。そろそろ店がすいている時間ですから、私のお気に入りの店に行きますか? ときどき子供達を連れてくるお店なんです。女性や子供がいないと入れない雰囲気ですが、可愛くて美味しい料理や菓子が出てくるんですよ」
「行きます」
 荷物を抱え直し、聖良はアディスの後に続く。
 アディスの言うのだから、本当に可愛くて美味しい店なのだろう。彼のような完璧主義者が、女の子を連れて行く。
 浮かれて歩いていると、知らない男の人と目が合った。
 アディスよりも青みがかった銀髪の、線の細い綺麗な男の人だ。歳は二十歳前後で、本当に綺麗な男性だった。
 気のせいかと思ったが、聖良達の方へと歩いてくる。きっとよくある後ろにいる人が手を挙げるパターンだろうと無視していると、その男性が声をかけてくる。
「セーラ、アディス、久しぶりだね」
 アディスも足を止めて男性を見る。聖良は知らない人だが、アディスはすぐに分かったらしく、ああと声を上げた。
「ええと……どうしてここに?」
「ちょっと……」
 彼の瞳が一瞬そらされ、すぐに笑みを作る。
 綺麗で優しそうな人だ。
「セーラは買い物か。出来れば速やかに安全な場所に逃げた方がいい。頑丈な建物内ならさすがに安全だと思う」
「へ?」
 まるで聖良を知っているかのような言い方だ。しかし見たことはないし、アディスの部下二人の仕草とは違う。
 この人は誰だろうと考えていた瞬間、聖良は寒気がして振り返る。
 こちらに走ってくる男性の姿が見えた。
「ミリアァァァア」
 聖良は荷物を取り落として迷わず逃げた。
 顔もよく見えなかったし、人間の姿をしていたが間違いない。
 あれはトロアだ。
 逃げなければ。全力で。死ぬほど走らなければ。
 記憶もないのに、なぜか逃げる事に頭が支配されていた。
 頭の中にもやがかかって、他に何も考えられなかった。
「せ、セーラ!?」
 アディスの声が聞こえたような気がしたが、聖良は全力で逃げた。
 足は勝手に動き、前も見ず、ただひたすら走り、誰かに体当たりをしてようやく足が止まる。
 勢い余っていたので反動で尻餅をつき──頭を打って意識を失った。





「お、落ち付けって。恐がって逃げたのが分からないのか」
「なぜ!?」
「怖いだろ、この前のような目にあったばかりだろっ」
 銀髪の男が黒髪の男を怒鳴りつけて羽交い締めにしている。
 一瞬誰だか分からなかったのだが、なんとなくラゼスとトロアだと分かってしまった。
 トロアの方は発言で確信したのだが、ラゼスの方は何となく分かった。親子の絆という奴かもしれない。
 彼は親だ。親。孤児のアディスに父親。
 心は赤の他人なのに、その絆が証明されたようで嬉しいのはなぜだろうか。
 そんな内心は顔に出さず、いつもの笑顔を浮かべて声をかけてみる。
「あの、お二人はなぜここに」
「トロアがセーラとお近づきになりたいって言うから、まずは人間の女の子の扱い方を覚えさせようと思って。
 落ち着いた? もう走り出さないでよ」
 ラゼスは興奮するトロアを解放する。
「ミリアはどこまで走っていったんだろう。女の子がこんな裏路地に入っていったら危ないんじゃないか?」
 思った以上に妹が関わらないとまともなのだと驚きながら、セーラの不運っぷりを思い出した。
「しまった! ほっといたらきっと変態に誘拐されるっ」
「へ、変態に!?」
 トロアが慌てて走って行こうとするのをラゼスが押さえ込み、アディスは慌てて聖良が消えた方向へと走る。
 人に尋ねながら進むと、どういうわけか袋小路に行き着いた。
 少し戻り、匂いを嗅ぐ。犬のような嗅覚はないが、血を分けているせいか彼女のことは匂いで少し前に通った場所ぐらいは分かるのだ。セーラの匂いは都会にはない清涼な森の香り。人の姿では、他の人間の匂いの差はまったく分からないが、彼女の匂いはなんとなく分かる。なんとなくの域を出ないが、それでも手がかりになる。
「……あれ?」
 アディスはくんくんと鼻を鳴らして匂いをかぐが、少し戻った所、現在彼が立っている場所で少し臭いが強くなり、その先からは綺麗に消えていた。
「何をしているっ、み、ミリアを急いで保護しないとっっ! 立ち止まっている暇はないっ!」
 走り出そうとするトロアに足払いをかけて、アディスは近くにいた浮浪者へと声をかける。
「あの、ここに黒髪の女の子が来ませんでしたか?」
 アディスは銀貨をちらつかせながら問う。金の力は偉大で、知らない誰かを売り払うには十分な効力を持つ。
「あぁ、女の子はいたぜ。ただ男に抱えられていったよ。正面からぶつかって、気を失った女の子を保護したって感じだったけどな」
 どうやら最悪の事態ではないようだ。ひょっとしたら親切な人かも知れない。彼女は前にそんな理由で誘拐をされている。
「ただ、変な仮面を被った男だったから、何されるかわかんねぇな」
 仮面。
 仮面といえばアディスの知るに内では一人しかいない。
 気が遠くなりかけ、なんとかこらえて浮浪者に詰め寄った。
「か、仮面って、上等なマント羽織った仮面以外は紳士風の!?」
「なんだ知り合いか。良かったな」
「よくないっ」
 まずい。
 あの男は女性──とくに年若い少女を永遠にすることを生き甲斐にしている男だ。
「どうしたんだ?」
「女の子を殺して人形にしてしまう変態に捕獲されたようです」
 再び走り出そうとするトロアに足払いをかけて、今後の対策を練る。
「な、なんなんだそれ」
 ラゼスはトロアが走り出さないように首根っこをつかんで尋ねてくる。
「この国に唯一定住する半悪魔兄弟の片割れですよ。
 人形にされる前に、イロイロと処置があるはずです。毒薬めいたモノも飲まされているでしょうが、彼女なら大丈夫です。急いでいるわけでもないから、少しは余裕があるはずです。焦って出来の悪い人形にはしないでしょう」
 つい先日、自分が体験したことだ。セーラがどれほど怯えているかと考えると、胸が張り裂けそうである。なにせ他人事ではない。あれはいろいろと精神的にきつい。
 しかし今は焦らず、確実に居場所を突き止めないといけない。
「心当たりは?」
「ありません。ですが、探査魔法に優れた知り合いがいますし、幸い人間のアディスは地位があるので、人海戦術が使えます。ついてくるなら、ちゃんと人間の振りをしてついてきてください。あ、これセーラの荷物ですから持つの手伝ってください。走るので」
 アディスはトロアにセーラの服の一部を持たせ走り出す。
 人間の頃と違い、今のアディスには体力がある。人間の頃の全速力を維持し続けられる。ついてくる二人はそれ以上だ。
 本当は連れて行きたくないが、知らないところで動かれるよりはいい。
 鈍い頭痛を覚えたが、奥歯を噛んで自分を叱咤する。
 セーラに何かあったらと考えるだけで背筋が寒くなる。
 今は全力を出すことと、無事であることを祈るしかできない。

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