挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
青色吐息 作者:かいとーこ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

26/110

5話 あべこべのヒロイン気分 3

 逃げたかった。
 しかしなぜかアディスの目の前で、フレアが元人間らしき人形の髪をといて遊んでいる。
 身体が動くようなったか調べたいが、調べたら彼は喜んで人の内蔵をくりぬいてくれるだろう。しかし目立つ傷を残すようなやり方で人形にして、何が楽しいのか。
 アディス自身も変態だ変態だと言われているが、彼らに比べたら、かなりノーマルだとすら思えてくる。
「うふふ。もうすぐお友達が増えるわよ。パミラ、嬉しい?」
「はい、フレア様」
 人形は柔らかく澄んだ声を発した。死人の目をした、美しいが不気味な人形だ。
「名前はなんてつけようかしら? パミラはどう思う?」
「いかようにも。フレア様が付けた名であれば、どのような名でも喜びとなります」
「ううん、どうしようかしら。可愛い名前がいいわねぇ。
 竜の美醜って分からないけど、きっと美少女だと思うの。声可愛いし」
 確かに竜アディスの声は可愛い。自分自身でも可愛い子供の声だと思っている。
 あのセーラが、この姿でいると可愛いと言って優しくなるほどだ。竜は恐ろしいという先入観さえなければ、幼い竜の姿は可愛く見える。
 竜の村に行った時、子供達はとても可愛かった。自分は種族も関係ないのかとすら少し不安になるほど可愛らしいと思った。
 だから他人がアディスを見てそう思うのは、当然の事である。
「可愛い名前……竜に似合う可愛い名前」
 オカマに命と意志を奪われてオカマにされそうになっている、というのがアディスの現状である。
 世の中には大人でもセーラのように可愛い女性がいる。
 そのセーラとそれほど年も違わないのに、子供のように無垢で可愛い少年もいる。
 いっそ育ちすぎていても、普通の男性や女性だったらいくらかよかった。
 なぜこの変人兄弟なのか。もう少し御しやすいのでもいいではないか。なぜこの厄介極まりない兄弟なのか。
 アディスは心の中で恨み言を呟く。
 檻が開いた瞬間が好機なのだが、この二人を今の状態でどう出し抜くか。
 人の姿だったらいくらでも手はあるが、今はなにせ無力な子供である。人間のアディスだったら、簡単に事はなせたのに、なんてついていないのか。
 しかしこんな小さな子供の命を、ぬいぐるみが欲しいなどという馬鹿げた理由で奪おうというのだから、彼らの非道さは底なしだ。非道な連中が二人でこうして生きているのは、やはり実力が伴っているから。実力がなければ今頃クレアに始末されている。
「それほど悩むなら、本人にうかがってはいかがですか」
 アディスは目を伏せ、眠るふりをした。
 アディスともアーネスとも名乗れるはずがない。
 名乗る必要もないし、名前なんて忘れてしまうかも知れない。
 ストレスで胃が痛い。
 セーラの柔らかい頬を舐めたい。殴られてもいいから頬ずりして抱きしめて舐めてしまいたい。
 あの時の彼女はとにかく可愛くて可愛くて、嫌がれば嫌がるほど喜んでやってしまうほど可愛いのだ。最近アディスはセーラに依存して生きているような気がした。これが血のつながりというものなのかもしれない。
 元々一人でいることや、知らない相手と二人きりになることがなかったので、知り合いが以内と不安になり、一緒にいるのが悪意のある赤の他人であるのがストレスになっている。
 元気も出ないし、胃が痛い。
 このまま死ぬのかなと思うと、キリキリと胃が痛んだ。
 ひょっとしたら、まだ内臓にダメージがあるだけかも知れないが。





 聖良はロゼの繰る尻馬に乗り、彼女の腰に手を回して時折呪文を唱える。光が強くなればその方角が正解。変わらなければ左右のどちらかに行く、弱まれば戻る。
 そのようにして、大体の方角を掴んだ。徐々に光が強まる方に行き、やがて歓楽街らしき場所に出る。
「意外だな。売られるにしても、地下の連中の所だと思ったのに」
 ディアスの言葉に、聖良はここではないところに居を構える、悪い組織なのだろうと判断した。聖良は知る必要はないことは、知らないままでいることにしている。人間、知らなくていいことは多く、好奇心はいい結果を生むことの方が少ない。
「犯人はワンデルさんでしょうか?」
「それはないだろ。長達がここに戻るようになってまだ三回目。あの慎重な人がするはずがない。あんな無駄な事もしない。あれだけ出来るのは長クラスの魔術師か悪魔かその魔道士か。
 それに人里に出入りしている竜なんて血の価値がない可能性も高い。だからあそこまでするとも思えねぇ。竜は巣にいるガキを捕まえて、初めて価値があんだからな」
 そういうものなのだと半ば感心しながら、聖良はもう一度呪文を唱える。
 光はさらに強くなった。
「この道を進んでください」
「ええ」
 ロゼは少し振り返り、聖良を見上げてくる。
「大丈夫ですよ。この方法が通じるって事は、ちゃんと生きていますから」
 彼女はこくこくと頷いた。そのしぐさがとても可愛い。今の可愛らしさは素の可愛らしさだ。アディスがするように、抱きしめて慰めたくなる。
「ちょっと、あんた! さっきから眩しいんだよ! 子供なんて連れて、何してんのさっ」
 突然怒鳴られ、聖良は驚いて唱えていた呪文を中断する。怒鳴ったのはアディスと同年代の、派手だが綺麗な女の人だった。聖良でも、彼女が何らかの夜の仕事をしているのだと分かった。
「すみません。人を探していて。
 この辺に腕の立つ魔術師がいるのをご存じないですか?」
 聖良が出来るだけ穏やかに尋ねると、不機嫌だったはずの彼女は、頬を染めて急にしおらしい態度になった。
 世の中とはこうも容姿が物を言うのだと、聖良は空しさを覚えた。このようになるから、アディスがあんな大人になったのだ。
「魔術師を探しているのかい。腕の良い魔術師は城にいるだろ。そういうお方は身分を隠して来るからねぇ」
 女性は困ったように首をかしげる。聖良もさすがにこれ以上の絞り込みは難しく、落胆した。
 聖良が話しているのを見て、ディアスが寄ってきて女性に尋ねる。
「んじゃ、どっかに大きな魔法陣を書けるような場所はないか。それを書ける場所を持っているか、借りた奴。本当にこの周辺なんだ」
「半径百メートル以内です」
 ディアスと聖良の言葉に、彼女は首をかしげた。
「魔法陣……ひょっとしたら、あの怪しい男なら持っているかもね」
 怪しい男。
 そんな怪しいと言われているような男が、アディスを誘拐できたのだろうか。
「最近住み着いたんだけど、いっつも仮面を被った男でさ。時々えらく綺麗な女をつれて歩いてるよ」
「仮面……人形師か。あんなのがこんな所に住み着いてるのか」
 ディアスが爪を噛んで苦い顔をした。
「そいつどこにいる?」
「この裏だよ。一つだけ店が閉まってるからすぐ分かるよ。
 お兄さん、用が済んだらうちにおいでよ。あたしはそこの店で働いてるんだ。特別、うんとサービスするよ」
 聖良はお店を見て、少し困った。彼女がどのような店で働いているのか、聖良には判断がつかなかった。お触り禁止でごついお兄さんがいるような店なのか、それこそ日本では違法になるような店なのか。
「あ、ありがとうございます。今日は立て込んでいるので、行けるかどうか分かりませんが」
「ああちょうどいい。馬屋ある? 後で遊んでくからさ、預かって欲しいんだ。これ、前金で」
 ディアスは娼婦に銀貨を手渡し、人なつっこい笑みを浮かべる。彼もアーネス程ではないが、ハンサムな男性に化けている。
「お兄さんもいい男だねぇ。安心して預けてくださいな」
「サンキュ」
 場合が場合だし、彼らも年頃の男だから仕方がないが、女の子の前でする話ではない。
 聖良は先に馬から下りて、ロゼの腰を掴んで下ろしてやる。必要はないだろうが、彼女はスカートだ。彼女は少し照れた様子で礼を述べ、女性が呼んだ男に馬を任せ、皆は目的の場所へと向かう。
「ディ、何の準備も無しに乗り込むのは無謀じゃないですか?」
「そうは言っても仕方ないだろ。今の長じゃ危なすぎる」
 ジェロンとディアスが囁き合う。
 先ほど彼は人形師と呟いていた。
「アーネスをさらったのは誰なんです? 変な人ですか?」
「この国に住み着いている半悪魔だよ。昔からこの国に住み着いている最悪の変人。長がノーマルに見えるぐらいド変態の変人」
 アディスはせいぜい自信家でロリコンなだけである。変態ではあっても、ぎりぎり変人ではない。
「それがなんでまた」
「人形師って呼ばれている男だ。半悪魔ってのは片親が悪魔だから、寿命がハンパ無く長いんだ。
 だからあいつは気に入った相手を自分の側に置き続けるために、生人形にするんだよ。
 一度殺して、魂を封じ込めて人間のように動いて考える──考えるっていっても、洗脳されて主のためだけに生きる人形になる。そういうのを侍らせて喜ぶ変態なんだよ。
 自分の物にならなくても、可愛い子を見てるだけでも満足する長とは正反対のタイプだな」
 血の気が引いた。
 聖良の可愛い竜のアディスが洒落にならないほど大変だ。
「その上、そいつが半端なく強いらしい。魔術の腕は長並って考えてもいい。魔力は人間よりもはるかに上。今の長なら魔力でも引けを取らないけど、あいにく無力なお子様の中だ。
 俺達じゃさすがに刃が立たない。他に対抗できそうなのは、城にいるクレアとエリオットだが……まさか助けなんて求められないだろ……ってまた泣くなよ。その姿で泣いても、可愛くないからな」
 聖良は目尻に滲み出た涙を拭う。
 クレアは問題外。エリオットは違う意味で問題外。
 あの人と目を合わせられない気の小さな彼の方が、この二人よりも実力が上なのには驚いた。宝の持ち腐れである。実力があるから、あの性格でも生きていけるのだ。
「まあ、長を助け出したらどうにでもなるか。モリィはなんとかして長を人型にしろ。危ないからお前達は待ってろ」
「いやよ。シファはともかく、わたしは行くわ」
 ロゼは断固拒否する。
「何かあってもそれは自分の責任。分かっているわ」
「そこまでいうんなら、まあ、いいけどさ」
 ディはそれから黙って勝手口に回り、中に侵入する。
 暗くてよく見えないが、空気が暖かい。誰かが火を使っていたのだろう。
 しかし今は誰もいない。
 つばを飲んだ。
 アディスとは嫌でも一心同体。今はお互いがいないとダメな関係。
 何よりも、彼は家族だ。あんな変態でも、聖良には無条件で優しくしてくれる。両親が死んでからずっと一人だった聖良を満たしてくれた、大切な家族だ。彼がいなければ、母のようであるネルフィアとの縁も切れる。
 だから、絶対に『五体満足』で助け出させなければならない。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ