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青色吐息 作者:かいとーこ
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20話 知識2

「どれか好きな物をどうぞ」
「ありがとぉ」
 支店へとやって来たフレアに装身具をいくつか見せると、何も聞かずに本能のまま飛びついてくれた。
 最終的に、花と蝶がモチーフのびらびら簪を選んだ。
 フレアはたまにこうして支社に遊びにやって来る。
 今回は進行が気になったらしく、予想通りの時期に来て、レンファは袖の下で忍び笑う。
「で、なぁに?」
 当然、タダでもらえるとは思っていないフレアが首を傾げてみせた。含むような笑みが様になっている。
 実はド近眼で、何も見えていないようには見えない。
「私の実家への往復と、アーネス殿との面会の手配を」
「別にいいけど、いつ?」
「今から私をあちらに送り、一週間後に迎えに来てアーネス殿に面会を。
 時間が合わなければ、多少後にずれても構いませんので、先方にはあまり無理を言わないように」
「いいわよ」
 彼にとっては大した労力ではないため、当然引き受けた。
 だが、常人にとっては一瞬で往復一週間の距離を移動できるというのは、夢のような話である。
「ねぇねぇ、似合う?」
 フレアはそう言って長い赤毛に簪を刺す。
「もちろんです。貴方に似合いそうな物だけ取りそろえたのですから」
 顔立ちは父親に似て間違いなく上等のため、女装も、着飾るのも、よく似合っていた。
 着飾って美しい事に、男も女も関係ないのである。





 国に帰ったレンファは、成果を知りたがったフレアを連れて、研究室にやって来た。
 試作品を動かしていたところらしく、イーリン含む関係者が揃っていた。
 ランプの火で水を沸騰させれば、木の人形が踊るように左右に動いた。
 これは若い技術者が、ただ動くだけでは寂しいと、グリーディアの小さなオモチャをつけたらしい。
 手足が紐でつながれているため、少々不気味だが、なかなか目を楽しませる動きをした。
 上司と部下達と技術者達と、レンファの隣に立つフレアは、この試作品をまじまじと見ていた。
「面白いけど、これで大した力が出るの?」
 フレアの疑問はもっともだった。
 レンファはその疑問に自信をもって答えた。
「入れ物と摩擦の問題ですね。
 ですが、可能かどうかという判断はこのサイズで十分です。
 イーリンも存在を知っていましたし、しかもそれは過去の古い技術だそうです」
「へぇ」
「この玩具は新しい物を作り上げるための礎です。
 単純に延々と動き続ける動作というのは、魔導具が苦手とすることです。
 そして延々と自然現象を起こす事は得意です。それを上手く間接的に利用出来れば勝ちです」
 火や水や風を起こす事は出来る。しかし風車を回せるほどの風を送り続ける魔導具を作ったとしても、費用が見合わない。普通に風車として使った方がはるかに安いのだ。
 また風を利用して車を走らせようとした事もあったが、実用化された事はないという。
 魔導具というものに固執していたから、発想が貧弱だったのである。
 レンファは使える知識は全て欲していたが、得た知識すべてを実現するつもりはなかった。
 セーラも同様に考えているようで、あまり危険な事を教えたがらならない。
 彼女が危惧しているのは環境汚染だ。
 その当たりの事はイーリンから聞いていた。それはつまり、まだ若い二人が真っ先に懸念してしまうほど大きな問題という事だ。
 何が毒になるか分からない事をエンザやグリーディアでは出来ないし、他国でするのも技術流出の恐れがあって出来ない。
 回避できる方法があるなら、リスクを回避するのは当然の事だ。
 必要なのは、柔軟な考えを持てる研究者だ。
 二人の知識は魔術も魔物も悪魔もが存在しない世界のものだ。すべて同じにする必要もないし、国に合わせて技術を開発すればいい。
 不確かで曖昧な話を聞いただけで、技術者達は飛行船を作り出してくれたのだ。
 それを可能にしてくれそうなのが、アーネスである。
 彼を嫌っているアディスが推すほどだ。しかも国仕えしているわけでもない、ただの道楽で研究している金持ちである。
 しかも優秀な部下を、腐らせることなく大量に保有している。これほど取引しがいのある相手はそういない。
「セーラさんが言うには、この部分を車輪とつなげて、車を走らせる事が出来るそうです」
「こんな風に動いてたんだ……てっきり蒸気が出るから蒸気機関車っていうんだと思ってた」
 イーリンが興味深そうに言う。
 レンファは彼女の言葉の意味が理解できなかった。
「え、蒸気を使うから蒸気機関車なんでしょう」
「あ、そうじゃなくて、ぽーって煙突から蒸気を出すんで……すかね?」
 イーリンは自信がなさそうに首を傾げた。セーラも古い技術で、ほとんど観光用にしか残っていないレトロな物であるといっていた。レトロといっても、半世紀程度だというから、子供にとっては見た事もないほど古い物なだけであり、十分に新しい。
 研究が進めば、半世紀後には、今使っている乗り物や道具は既に存在しなくなっている可能性もあるが、イーリンと出会う前の数百年間、大きな進歩など無かった。
「まあ、こういった間接的な魔力の使い方をすれば、魔導具だけに頼るより、はるかに安価ですみます。グリーディアに頼るのは主に熱源。他にも何か良いアイデアが出てくるでしょう。大切なのはお互いに意見を出し合う事と、創意工夫です」
 半分は話を聞かずに、不思議な音を立てて動く玩具を見つめていたが、次第に動きが弱まり、止まってしまう。溜まった蒸気が無くなったのだ。
「セーラさんから教わったのは、単純な原理だけです。蒸気の力は加減を間違えれば鉄の筒でも爆発するそうです」
「というか、一回しました。というか、させました。どれぐらいでするかと思って」
 連れてきた若い技術者が口を挟んだ。
「熱心だな。研究者も、それにだけは気をつけるように」
「爆発……ですか。なら適度に逃がす必要がありますね」
 研究者の言葉を聞きながら、レンファはボイラーから火を外す。
「あ」
 何かを思いついたらしく、イーリンが声を上げた。レンファは何かまずい事でもしたのかとどきりとして、魔導具を落としそうになった。
「圧力鍋」
「なべ?」
「密封して蒸気の圧力で早く火を通すお鍋です。蒸気が出る穴が塞がってると、爆発するらしいんで、私は使った事がないですけど」
「なるほど」
 様々な使い道があるようだ。
「お肉が柔らかくなったりするんですよ。あと、スチームアイロン! 蒸気でまっすぐになるんです。汚れも落とせます」
「それは……売れそうですね」
 レンファは頷いた。
 研究しなければならない事は山のようにある。
 新しい魔導具の使い方、アイデアの提案がレンファのグリーディアでの仕事となる。

次から下書きとしてブログでこっそり投稿していた分になります。
作中に出ているウルが主役の「背徳の王」も転載を始めたので、そちらもよろしくお願いします。
ウルが恐れられている理由が分かるかと思います。
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