私は田舎町に住んでいる新崎といいます。17歳の女子高校生です。そして、今私は、バイト先でせっせとこき使われています。
私のバイト先は、この町唯一と言っても過言ではない本屋。しかもここわりと最近新しく出来た店で、開店と同時に来たバイト一号でもあります。ちょっと自慢です。
どうして本屋で働いているかといえば、私は本が大好きだからです。学校の友達からも本屋のバイト仲間からも「新崎さんは本に食われてる」って、よく言われます。
そんなわけで、私は今日も今日とて大変な仕事をせっせとこなしているわけですが。最近とても気になるものがあるんです。
それは、特別なブックカバーなんですけど、今夏のキャンペーンである会社の出してる指定文庫を五冊買うと、オシャレなブックカバーが貰えるんです。
私も欲しいんですが、何分田舎でしかも本屋のバイトなので、給料は都会と比べると涙が出る額で、なかなか五冊も買えないから手が出せなくて……。
でも、今日が終わればその悩みも解決です。
今日でそのキャンペーンもおしまいということで、私は店長と交渉つけて、今日のキャンペーンで全て捌けなかったら、一つ私のものにしていいって言われたんです。
だから今日は、冷静を装いながらもドッキドキです。ハラハラして目玉がよだれと一緒に流れ出そうな感じです。
しかし! 神様は本当にイジワルな人で……今日は予想以上にお客が多くて、文庫が売れてるうちに、なんとキャンペーンブックカバーは残り一つに!
この期を逃したら、私はもうあのオシャレでかわいいブックカバーをもらえない! お願いします、あと閉店まで一時間、お客さんこないで。
「あのーすいません、これください」
言ってる側からきた!!! 何よこの男。まさか、私がこうして困っているのを嘲笑っていたの?
許せない、絶対に許せない。こんな心の腐った男にブックカバーなんて渡せるもんですか。と何癖つけてでもブックカバーを手に入れなければ。
「すいません、分厚い雑誌で」
あ、なんだ雑誌か。じゃあキャンペーンなんて関係ないじゃない。
ははは、なんかこの人良い人みたいね。よく見たら顔も良くも悪くもなくて、私の好みかもしれない。キャー。
「えっと、あとこの文庫もお願いします。全部ブックカバーつきで」
やっぱりこの男は悪魔だ!! 絶対に私のこのドキドキを弄んでる!! なんていう卑劣な男!
こんな奴に、ブックカバーをあげていいの?! いいわけないじゃない!!
「あ、これよく見たら五冊買うとブックカバーつくって書いてある、ラッキー」
まあ、なんて白々しい!! わかってて全部やってる癖に。
私がそういう態度をとる人間が、この世で一番嫌いだってわかっててやってるんだ。
どこまでも卑屈で最低な奴! こんな奴にブックカバーをあげていいなんて言う神様がいたら、それは悪魔達のスパイに間違いない!
結論としては、このような読書家を冒涜するような人間に、ブックカバーをあげる必要はなし。
よってこれより私は、全力を持ってこれを阻止するために行動を開始します。
「申し訳ありません。もうキャンペーンの期間は終了してまして」
「なーんだそっか。残念だなあ」
まんまと引っかかったな! キャンペーンは今日までよ!
確かに今もう終わろうとしているけど、まだあと30分はある。ある意味詐欺だけど、私の正義のためだから仕方ない。
こうして、今きた悪党に雑誌と文庫を当たり障りなく渡して済ませると、店の中は静かになっていた。
それに気づいてよく店内を見渡したら、もうお客も完全にいなくなっていた!
この残り二十分程でお客がくることはあまりないし、ましてやその中で5冊以上なんて、確率的にはかなり低い。
閉店数分前でそんな空気の読めないことをする人間なんて、恐らく臨時収入が入って周りが見えてない私くらいだと思う。
……と、とにかく、これで私の勝ちだ! このブックカバーは、私のもの!!
やったー! これで明日から教室で踏ん反り返りながら本が読めるような気分よ!!
「あのーすいませーん。これやっぱり今日までじゃないですか?」
レジの前に殺意を向けた。さっきの最低男だ。
そんなにまでしてこのブックカバーが欲しいの? いや、そもそもこいつは私に嫌がらせするためにこんなことしてるのよ。
つまり、これも嫌がらせの一つ。私が物凄く喜んでるところで、脇腹が横槍を刺してみんな台無しにする。
本当つくづく、こいつの考えることは、人の気分を悪くすることばっかり!
「気のせいじゃないですかー?」
「いや、確か今日って21日ですよね? 5月ですよね? だとしたらこれ絶対に合ってますよね?」
「……うるさい」
キレた。私の中で何かがキレた。
「はい?」
「このブックカバーは……私のものよ……! このチャンスを逃したら、私は二度とこのブックカバーがもらえなくなる……! だから!」
私はそういって、後ろのダンボールにあったブックカバーをひったくって、レジを飛び越した。
男は勿論追ってきたから、私はすぐに出口から出ようと思ったけど、男が立ち塞がったので仕方なく店の中に逃げ込んだ。
店長はこんな時に限って留守だし。もうどうしたらいいかわからなくなった。
結局追い詰められた私は、ちょっと高い本棚にしがみついて、上のほうへと登っていった。
「このブックカバーは……私のもの……!」
「君! 危ないよ! 降りてきて!」
「うるさい! 絶対に渡さない。これは!」
そうブックカバーを懐に抱いた時、本棚は音を立てて倒れ始めた。
ああ、もしかしたら打ち所が悪くて死ぬかもしれない、私。
死を覚悟するってこんなんことなんだあ……なんて、悟ったようなことを思いながら、私は地面へと叩きつけられていった。
意識を取り戻すと、私は男の腕の中にいた。
何が起きたかわからなくて、私は思わず飛び退いてしまった。
「だい……じょうぶ?」
「あ、あなたこそ! そんなに左肩抑えちゃって、どうして私なんかを!!」
「だって……、うちの死んだ爺ちゃんが読ませてくれた本によく書いてあったから。男が女のクッションになれって……」
「……はあ」
私は力が抜けてしまった。それと同時に、何か胸に熱いものが燃え上がった
それが、突然何故か沸いた恋心だということ気づくのに、そう時間はかからなかった。
「君のブックカバーに対する情熱に……僕はほれたよ」
「えっ?」
「僕、たぶん君に嫌われているだろうけど……もし少しでも可能性があるなら。僕と付き合ってくれ」
私は、彼の気持ちにこたえることにした。
迷いはなかった。清々しかった。だからかどうかはわからないけど、ブックカバーが私の手の中で祝福しているのが聞こえた。
「それから数年。これが彼の念入りに仕組んだ結婚詐欺だということに気づいたのは、最近のことでした」
「……はあ」
「私のブックカバーの勘は当たってた、ということですね……」
「だからってねえ」
警官は立ち上がりました。そして彼女に向き直ってこういいました。
「だからってねえ、ブックカバーの角で目潰ししたあげく、本のしおりの紐で首絞めて殺しちゃうことないでしょ」
「私、本が大好きですから」
「……」
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