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●九話の登場人物
飯沼正治いいぬませいじ:元探偵
本郷啓二ほんごうけいじ:刑事
毒田堅どくたけん:医者
紅谷勉べにやつとむ:弁護士
田中流星たなかりゅうせい:技術士
第九話 正治と腐れ縁
 正治は人格殺人の犯人を追うため、今まで見聞きしたことを推理していた。
「まず、犯人は医者か医療関係に協力者がいるだろうな。犯人は必ず殺人を行う前に犯行予告状を送っている。つまり多重人格者の住所が分かっている状態だ。超能力でもない限り、全国にいる多重人格者の所在なんて分からないだろう。多重人格が発症した人は病院に行っているはずだから、そこから住所を特定しているんだ。」
 正治は推測ではあるが犯人像を固めていく。
「次に犯人は調査能力が高い。多重人格者の心的外傷を見極めて、それを除外する能力を持っている。」
 虐めやストーカー、浮気などは全て解決されている。少なくとも浮気写真は家族関係を知らなければ入手できないので、犯人の調査能力が高いことを想像できる。
「それと合わせて資産やバックボーンもあるかもな・・・。計画性もあるし、ただの愉快犯って訳でもなさそうだ。」
「証拠を見せないところから隠蔽能力も高い。連続性もあるし・・・目的は分からないが今後も起こりそうだ。」
 犯人は『治療』のつもりかもしれない・・・だが・・・
「必ず捕まえる・・・犯人は”悪”だ。」
 正治は推理を止めて、行動を開始した。

▼△▼△

 正治は警察にいる啓二に電話をしていた。
 先程の推理を聞かせて警察に協力してもらうためだ。
「・・・なるほど。たしかにヌマの言う通り探偵事務所の放火犯と人格の殺人を行っている犯人は同じなのかもな・・・で?」
「で・・・って?」
「ヌマ、警察は証拠がなけりゃ動けないんだよ。『可能性が高い』じゃ動けない。たしかに犯行予告状なんかで脅迫罪にはなるが・・・指紋とかの証拠も出ないしな。目立った被害もないし・・・」
「目立った被害って・・・殺されただろ!多重人格がっ!」
「そんなこと言われてもな・・・『治療』と同じで『多重人格障害が治った』だけだろ?それに事件後の親族からも被害届なんか来てないしな。」
「っ!・・・」
 正治は啓二が味方をしてくれる物だと思っていたので驚いていた。
 たしかに事件後の環境は事件前より良くなっている。
 だけど・・・それじゃあ・・・
「・・・じゃあデカオは犯人を許容するのかよ。」
「そうは言っていない。ただ警察としては動けないってことだけだ。」
 警察の直接的な援助は期待できない。
 なら・・・どうする?
 何にしても犯人までの手がかりが必要だ。
「・・・分かった。なら次に同様の犯行予告状が来たら教えてくれ。」
「・・・まぁ昔からのよしみだから別にいいけどよ。うろつき過ぎて捕まっても俺の名前は出すなよ。」
 啓二は渋々と言った感じで了承した。
「分かってるって。デカオに迷惑はかけない。約束するよ。」
「信頼してるぜ。じゃあな。」
「あぁ。またな。」
 そう言って正治は電話を切った。

▼△▼△

 次に正治は医者の毒田堅どくたけんに電話をしていた。
 名前は毒々しいが、堅の性格は非常に穏やかで優しい。高校生時代の正治には唯一の癒しだった。
 あだ名はドック。由来は可愛い犬っぽいからだ。
 啓二と同様に正治は堅に事情を説明していた。
「・・・許せない。その犯人は許せないよ。」
 電話越しからも感じる嫌悪感に正治はまたしても驚いていた。
 正治は堅がここまで怒っているのを見聞きしたことはなかった。
「多重人格障害・・・正確には解離性同一性障害って言うんだけど。本来、この疾患はカウンセリング等で長期間の治療をするんだ。それに・・・飯沼くんが調べた通り、多重人格との『共存』も完治の一つなんだ。それを犯人は無理やり多重人格を消している・・・絶対に許せない。」
「・・・その・・・無理やり多重人格を消すと、どうなるんだ?」
「記憶が統合されることになるからね・・・最悪、パニック障害や自殺の原因になる可能性が高いよ。飯沼くんも、突然知らない人の記憶が入ってきたら大変でしょ?」
 たしかに・・・言われてみればその通りだ。
 いきなり身に覚えのない記憶があったら混乱するどころではない。
 考え事をしている正治に堅が恐る恐る聞いてきた。
「その・・・僕も・・・協力させてくれないかな?」
「・・・あぁ、そうしてくれると助かる。ドックには多重人格に関わっている医者を調べて欲しいんだ。特にここ二年程で関わり始めた医者だ。」
「うん、分かったよ。飯沼くんには色々と助けてもらったから、今度は僕が頑張るよ。」
「突然のお願いで、すまない。宜しく頼む。」
 正治は堅との電話を切った。

▼△▼△

「はぁ~・・・今度はアイツか・・・」
 正治は携帯電話を持ってため息をついていた。
 次に電話をする相手は弁護士の紅谷勉べにやつとむだ。
 あだ名はベン。由来はガリ勉からだ。プライドが高く冷静沈着、氷のような男だ。
 正治の苦手なタイプだった。
「でも・・・アレを確認したいしな。電話するか・・・」
 正治が発信してから3回目の着信音が鳴ってから勉が出た。
「もしもし。紅谷だが。」
「ベンか?久しぶりだな。飯沼だ。」
「・・・電話で話すのは一年ぶりぐらいだな。どうした?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、大丈夫か?」
「仕事があるので手短に頼む。」
「あぁ、じゃあ言うぞ。聞きたいことは『精神の殺人は罪になるのか』だ。」
「・・・・・・」
 勉は数秒黙ってから正治に聞いた。
「・・・何故その質問を?」
「事情を説明すると長くなるが・・・聞くか?」
「いや、結構だ。・・・やれやれ。一年ぶりに電話してきたと思ったら随分と難しいことを聞く。」
「・・・難しいのか?」正治は意外そうに聞いた。
「あぁ難しいね。正直言って即答できない。飯沼の意見はどうなんだ。」
「俺は罪だと思う。ほら人間って『精神・肉体・魂で構成されている』って言うだろ?一般的に殺人は肉体だけど、なら精神も殺人になるのかなって・・・」
「ふむ・・・三位一体の理論か。・・・いいだろう、興味が湧いたので調べてやっても良いぞ・・・で?」
「で・・・って?」正治は啓二の時と同じリアクションをした。
「報酬だよ。報酬。まさかタダ働きさせるつもりなのか?」
「う・・・そこは、昔のよしみで・・・」
「『昔のよしみ』で飯が食えるのならいいんだけどな・・・」
 マズイ・・・非常にマズイ・・・。
 前回の報酬が全財産の正治には、勉に対して一円たりとも払える金額がなかった。
 ・・・ここは、切り札を出すか。
「なら・・・高校の修学旅行で、ベンが隠れてエロ本を見てたことでどうだ?」
「なっ!・・・キ・・・貴様っ!!何故それを知っている!?」
 電話越しでも勉が狼狽しているのが分かる。
「俺は探偵だぜ?調べ事なら得意分野さ。・・・で、どうするよ?」
 暫くして勉が重々しく口を開いた。
「・・・くっ・・・いいだろう!それで手を打ってやる!ただし、バラしたら恐喝罪で訴えてやるからな!!」
 ブツッ!と言って電話が切れた。

▼△▼△

「へぇ~・・・で、ヌマッチは武器が欲しいわけだ。」
 正治が最後に電話した相手は技術士の田中流星たなかりゅうせいだった。
 あだ名は無い。下の名前がコンプレックスになっていて、下の名前で呼ぶとキレる。
 工場で勤務しているが、軍事オタクで自分で兵器を作れるのだ。
「あぁ。銃刀法違反にならない感じの・・・こう・・・スタンガンみたいにバチッ!とビリビリさせるヤツが欲しい。」
 正治が言うと何故か田中がため息をついた。
「あのねぇ~。ヌマッチは何か勘違いしてるけど、スタンガンってビリビリさせる物だけじゃないよ?スタンガンってのは『非殺傷性個人携行兵器の総称』ってだけだよ。日本語にしてみ?『スタン・ガン』で『気絶・銃』でしょ?ゴム弾の銃でも催涙スプレーでも警棒でも『Taser M-26』みたいなワイヤー針タイプでもスタンガンって言うの!分かった!?」
「・・・ワカリマシタ。」
 怖すぎる・・・
「とにかく、銃刀法違反にならない武器ね。わかったよ、用意しとく。」
「頼んだ。礼は必ずする。」
「そこは信用してるよ・・・でも、ギリギリまでは使うなよ?」
「ん?・・・何でだ?」
「対人は打ち所が悪いと危険だからだよ。ミイラ取りがミイラ・・・ってね。」
 ミイラ取りがミイラ・・・探偵が殺人犯・・・か・・・
「サンキュー。肝に銘じておくよ。じゃあ頼んだ。」
 正治は田中との電話を切った。

▼△▼△

 さて・・・できることはやった・・・
 後は連絡を待つだけだ。
 犯人にどれだけの能力やバックボーンがあるとしても、俺には仲間がいる。
「必ず・・・捕まえる。」
 正治は犯人に闘志を燃やした。


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