冒険出ずになんでも屋
次の日は六時前に起きるようなことはなく、七時を過ぎて起き出した。
昨日と同じように身支度を整え、食堂へと向かう。ちょうど混む時間帯なのか、食堂には昨日と比較にならないほど人が入っている。
空いている椅子を見つけ、確保しておく。今日のメニューはパン、チーズ、トマトサラダ、コーンポタージュ、オレンジ半分。弁当も忘れずに頼んでおく。
周囲の話を聞きながら、のんびり食べていく。聞いていた話によって、昨日から会っていないボルドスが四日かけてなにかのタマゴを取ってくる依頼を受けたらしいとわかった。
ご飯を食べ終わりバスケットを受け取った幸助はギルドへと向かう。
昨日の勉強で少しは読めるようになった依頼紙を眺めていく。ほかの冒険者の邪魔にならないようにと考え、見ているのは雑事系だ。
「これは……家、岩、動かす。家にある岩を動かすでいいのかな?
報酬は200ルトか。これ受けよ。
番号は……って書いてない? はぎとって持っていってもいいよね」
あとで張りなおせばいいと考え、幸助は依頼紙を持ってカウンターに向かう。
「これを受けたいんですけど」
「……これは雑事系の依頼ですがよろしいですか?」
「庭にある岩を動かすって依頼ですよね? それであってるなら」
「はい、あっています。
ではこの紙を持って、依頼主の家まで行ってください」
「手続きはないんですか? 昨日はしてたんですけど」
「雑事系の依頼を受けるのは初めてですか?」
幸助は頷く。
「雑事系の依頼にはたいした手続きはありません。
職員に一声かけて依頼主の元へ行き、この紙と依頼主が持っている完了証明紙の二つを持ってギルドに戻ってくる。これだけで雑事系の依頼は完了となります。
注意することは、この紙か証明紙どちらかをなくした場合、依頼を完了したとしても報酬はでないということです」
「ありがとうございます。
ついでにどこに行けばいいのか教えてもらいたいんですが? 文字を習得途中で住所は読めなかったんです」
職員に住所と依頼主の名前を教えてもらい幸助はギルドを出た。
道行く人に方向があっているか尋ねつつ、到着した先は周囲の家よりも大きめの家だった。
呼び鈴を探しないことを確認してから、門を開ける。ドアをノックして少し待つと、ドアの向こうから足音が聞こえてきた。
「どちらさんですかな?」
六十ほどの男がドアを開け、尋ねてくる。
その男に幸助は依頼紙を見せる。
「ギルドで依頼を受けてきた者ですが、岩を動かすという依頼をしたのはあなたですよね?」
「おおっ! 受けてもらえたのか。
早速、やってもらおうかな。
お仲間を呼んできてくるといい、わしはここで待っとるからな」
「仲間? 俺一人ですよ?」
「一人!? いや一人じゃ無理だろう。悪いことは言わん、誰か知り合いを連れてきなされ」
「大丈夫だと思うんですが? これでも力はあるほうなんです」
男は幸助の体を見て、疑わしそうな目つきになる。幸助の体は筋肉がついているどころか、ほっそりとしていて力仕事には向いているようには見えない。
「とても力がありそうには見えんがのう」
「まあ、一度挑戦して無理だったら知り合いつれてきますから、試させてください」
一度挑戦すれば諦めるだろうと考え、男は幸助を案内することに決めた。
「庭はこっちじゃよ」
案内された庭は、学校の教室二つ分より少し広いといった感じだ。一般市民が住む家としては破格の広さだろう。
庭の右側に二つの岩がある。うち一つは埋まっているようだ。埋まっている方の大きさは四人で手を繋いでようやく囲めるくらいか。
「あれをここまで移動してほしいんじゃよ。どうだ。無理だろう?」
「とりあえず挑戦してみます」
埋まっている岩を指差し、言外に諦めろと言ってくる男の言葉に、笑みを浮かべつつ答える。実物を見ても運べないとは思えなかったのだ。
岩の前まで移動し、ふと思う。
「砕いて運ぶって方法があるんじゃ?」
そのことを男に聞くと、岩がとても硬くて砕くことができなかったのだと返答が返ってきた。
そうなのかと呟き、岩を抱きかかえるように掴む。そのまま力を入れる。
男の呆れたような表情がじょじょに驚きへと変わっていく。
少しずつ岩が土の中から引き抜かれているからだ。力を入れる過程で、幸助の指は岩に食い込んでいる。
「だっしゃーっ!」
気合の入った掛け声と一緒に岩は引っこ抜かれた。
抜かれた岩を見ると全体の三分の一が埋まっていたことがわかる。
幸助は今まで持ったものの中で一番重いと感じていたが、それでもまだ余裕もあった。
危なげなく指定された位置まで運び下ろす。
「もう一つの岩はどうするんですか?」
「あ? ああっ! あああっちも頼む」
心底驚いたという表情の男に次の指示を聞く。
もう一つの岩は引き抜いたものより小さく、楽に運ぶことができた。
「本当に一人で運ぶとは思いもよらなんだわ!
しかももっと時間がかかると思っておったんじゃがなぁ」
「力には自信があるって言ったでしょ?」
「自信がある程度ではすまされん気もするがな。まあいいわい。ありがとうよ、本当に助かった。
これで庭に離れを作ることができる」
ありがとうという言葉に嬉しさを感じつつ、完了証明紙のことを告げる。
「うむ、待っとれ」
男は家屋に入り、証明紙とクッキーの詰め合わせを持って出てきた。
「この菓子はすごいものを見せてもらった礼じゃ」
「いいんですか?」
「かまわんよ。もらいものの一つじゃ。ほかにもまだまだ残っとる」
「じゃあ、ありがたくもらいます」
礼を言って、証明紙とクッキーを受け取る。
「ところでお前さん、このあと暇か?」
「ギルドに戻るだけで、時間は余ってますけど?」
「そうかそうか。実は右隣の婆さんがな部屋の模様替えをしたがっとるんじゃ。その手伝いをしてやってくれんか? もちろん報酬はでる」
「いいですよ。岩運ぶよりも軽いでしょうし」
まだ十時を少し過ぎただけだ。このまま帰っても暇を持て余すだけだろうと思い頷いた。
「じゃあ着いてきてくれ」
男の案内で隣の家に向かう。
出てきた老婆に男が事情を説明し、幸助は家に上がらせてもらった。
老婆の指示通りに動き、タンスなどを移動させていく。岩よりも断然軽いが、ぶつけないように気を使ったのでこちらの作業のほうが大変だったのかもしれない。
こちらの作業も一時間もせず終わる。
「ありがとう。これはお礼よ」
そう言って老婆は銅貨三枚を渡してくる。それをポケットにしまう。
「また頼むかもしれないね」
「俺がこの街にいるときなら引き受けますよ」
名前と泊まっている宿を教える。
「あなたみたいな冒険者もいるのねぇ。冒険者といったら乱暴者で、このような依頼なんか受けないって思っていたわ」
「わしもギルドの職員に引き受ける者がいない可能性があると言われておった」
「俺は外に出るのをめんどくさがってるから雑事系依頼を引き受けてるんですよ」
ここらにでる魔物に勝てることはわかっているが、積極的に戦いたいとは思っていないのだ。
「俺は帰りますね」
「今日は助かったよ」
「気をつけて帰るんだよ」
二人の依頼人に見送られ幸助はギルドへと戻る。
依頼紙と完了証明紙を受付に渡し、銅貨五枚をうけとる。
弁当を食べたあと、朝の依頼と似たようなものを探すため雑事系依頼を見ていく。似たようなものならば、もう一回こなす時間があると考えたのだ。
そして使わなくなった家具を廃材置き場へと運ぶ依頼をみつけた。
受付に内容の確認をしてから、幸助は三回目の依頼へと出かけていった。
向かった先でも、一人なのか運べないのではと疑問を持たれたが、実際に持ち運んで大丈夫だと証明してみせた。
この依頼にかかった時間が一番長い。持ち運びの移動で時間をくい、終わらせるのに二時間近くかかったのだ。
それでもたいして疲れることはなかった。完了証明紙をもらい、ギルドで銅貨五枚をもらい、今日の仕事はこれで終わりとした。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「ちょ、ちょっと待って」
挨拶をかわして自室に戻ろうとした幸助をシディが呼び止める。シディの視線は幸助の持っているクッキーに釘付けだ。
なぜ呼び止められたのかわからず幸助は首を傾げている。
「そのクッキーって」
「これ? これは依頼をこなしたことの追加報酬みたいなものだよ」
「今リッカートで一番の人気を誇る店のクッキーなのよ!」
「そなの? いいものもらったのかな」
「すごくいいものなの! 三週間の予約待ちで手に入れにくいって噂よ!」
「予約待ちまで。ちょっと食べるのが楽しみになってきた」
シディはなにも言わずじっと幸助を見ている。
目は口ほどにものを言うということを幸助は実感している。
「……一緒に食べる?」
「いいの!?」
「どうせ一人では食べきれないから」
「じゃあこっちにおいでよ。休憩所で一緒に食べよう。お茶の準備してくる!」
うきうきとした表情で受付から食堂へと走っていく。
「受付誰もいなくなったんだけど、いいのか?」
浮かれていたシディだがその辺は抜かりはないようで、食堂に行く途中で受付のことをほかの従業員に頼んでいた。
ティーポットとカップを持ったシディが、いまだ受け付け前にいる幸助を呼びにくる。
二人はフロントそばにある扉を開いて中に入る。
なにものっていない皿にクッキーをのせていく。マーブル、チョコチップ、ナッツ、キャラメルコーティング、ジャムのせなどなど計八種類のクッキーが並ぶ。
それらをある程度つまんで、幸助はシディに頼みごとをする。
「本?」
「うん。見せてくれるって言ってたっしょ?」
「いいけど、買った本は?」
「あれは読んだ」
「そうなんだ。いいよ、とってくる」
すぐに戻ってきたシディの手には一冊の本がある。
「これ観光の本なんだよ。ここらへんじゃなくて、隣の国のことを書いてるんだけどね」
「ここで見てもいい? わからんとこ聞きたいし」
「いいよ。でもあと十五分で休憩終わるからね?」
幸助は本を開いて、流し見ていく。幸助の語彙力では読み解くにはまだまだ難しく、わからないところをシディに聞いていく。
シディの休憩時間が終わり、幸助は本を持って自室に戻る。名詞で躓きながらも前後の文章で、推測しながら進めていった。
次の日もギルドへ行き、雑事系依頼を眺めていく。
みつけた倉庫解体の仕事を受付に持っていく。
「あ、ウィアーレおはよう」
「おはようございます。コースケさん」
「この依頼受けてくるよ」
依頼紙をウィアーレに見せる。
「これ雑事系ですよ? いいんですか?」
「うん。昨日も雑事系をこなしたんだ。安全でいいよね雑事系」
「昨日もやってたんですね。まあ、本人がそれでいいならいいんですけど。
あ、そうだ」
幸助が雑事系をこなすと知って、ウィアーレはなにかを思いつく。
「その依頼が終わったあとでいいので、私の依頼を受けてもらえませんか?」
「内容聞いてできると判断したらね。あと報酬ももらうよ?」
「わかっています。では依頼を頑張ってください」
「了解、いってきます」
ウィアーレに見送られ幸助は依頼者のもとへと出発する。
依頼紙に書かれていた住所は事務所で、幸助はそこから依頼人と一緒に倉庫へと移動する。
目的地には四つの倉庫があり、その中の二つを壊すのだ。四つとも老朽化しているのだが、いっきに四つ壊すと中の品物の置き場がない。よって今回は中身を移し空っぽにした二つを壊す。あとの二つは新築した倉庫に品物を移したあと、再び依頼を出すつもりなのだ。
依頼者の職場も人数が揃っていて解体はできるのだが、ほかの仕事で忙しくこちらには手が出せない状態なので冒険者に依頼をだしたらしい。
例によって幸助一人だけなのを心配されたのだが、重いハンマーを二刀流にして実際に壊し始めた様子を見て納得したのか依頼者は帰っていった。
できるだけ破片は小さくしてくれという注文を実行していき、作業を終えたのは午後一時前だった。
その場で弁当を食べてから、事務所に戻り終わったことを告げる。予定よりも早く終わったことに依頼者は驚き、一緒に現場に向かい依頼達成を確認してもらう。
「ただいま。はい、依頼紙と完了証明紙」
「お疲れ様です。
えっと……報酬の銀貨一枚です」
幸助は受け取った銀貨を内ポケットにしまう。
「ウィアーレの依頼はこれから? その前に内容聞かないといけないんだけどさ」
「してもらいらいことは屋根の修理です」
「修理って俺大工じゃないから無理なんじゃ?」
「本職のように完全に直してもらわなくてもいいんです。応急処置で大丈夫です」
「それなら俺に頼まなくても自分たちでできそうじゃない?」
「いえ私の身近な人で屋根に上がって大丈夫そうな人はいないんですよ。
私が上がろうとすると止められますし」
「あーどじって話だし、落ちると思われてるんだろねぇ」
おそらくとウィアーレは頷いた。
どじということもあるが、ウィアーレが命綱などの安全措置をとらずに上がろうとするので周囲は必死に止めたのだ。
「素人修理で大丈夫なら引き受けるよ」
「では明日でいいですか? 今日の依頼もっと時間かかると思ってたんでこっちの準備が終わってないんです。
明日の午後早退か、長めの休憩もらえるように先輩に交渉しないと」
「了解、明日の昼頃ここにくればいいんだね?」
「はい、お願いします」
「今日はこれで帰るわ、ばいばい」
「また明日」
これまでと変わらず文字の勉強をして過ごし寝る。
そして翌日の午後、幸助はギルドにやってきた。腰に剣をさげることも、剣の重さにも違和感を感じなくなっている。振るうことはそれらと同じように慣れたとはいえない。
ギルド内喫茶店にいるウィアーレをみつけ近づく。
「こんちは」
「あ、こんにちは」
ウィアーレから昼食を食べたかと聞かれ、幸助は頷く。それならばさっそく出発しましょうと二人はギルドを出る
歩きながらウィアーレに現在地の住所を聞き、地理を覚えていく。
到着した先はアパートような建物で、庭では六人ほどの子供がはしゃぎまわっている。
「ここの屋根を修理してもらいたいんです」
「なんというかあちこちボロボロだね」
「あまりお金ありませんから。ここを出て行った人たちの仕送りで暮らしていくことはできますが、修理にお金を回す余裕はないんですよ」
敷地内に入ると子供たちがウィアーレの周りに集まってくる。
その騒ぎに気づいたのか、建物内にいた大人も外に出てくる。
「ウィアーレ? まだ勤務時間じゃないのか?」
「ただいまお父さん。先輩に長めの休憩時間もらって、この人を案内してきたんだよ」
六十を越したくらいの男が二人に近づいてくる。足を悪くしているのか杖を使っている。
「こちらはどなただい?」
「屋根修理のために雇った冒険者だよ」
恋人かとはやし立ててくる子供たちを無視して、幸助を紹介する。
男は幸助を見て頭を下げる。子供たちは幸助が冒険者と知って静かになり、少し距離を置く。
「そうでしたか。
はじめまして、この孤児院の院長のウェーイと申します」
「屋根修理を請け負ったコースケ・ワタセと言います」
ウェーイへと頭を下げる。
それを見てウェーイは少しだけ驚いたような表情となる。
「なにか驚くようなことありましたか?」
「いえいえ、ただ冒険者にしては礼儀正しいなと思いまして。
全員とはいいませんが冒険者に荒くれ者が多いのも事実でして、依頼者に頭下げるような者は少数なのですよ。
私も若い頃は冒険者をやってましてね、荒くれ者側でした」
ウェーイが恥ずかしそうに笑う。
子供たちが静かになり離れたのも、幸助を荒くれ者側だと思ったからだろう。
「そうなんですか。俺は冒険者になって一ヶ月も経ってませんし、染まってないだけかもですよ?」
「そうかもしれませんが、私は最初から生意気でしたよ。おかげで依頼者との交渉がこじれることも少なくありませんでした」
「じゃあこれからもこの姿勢は崩さないほうがいいんですかね?」
「時と場合によりますねぇ。時には強気なほうが上手くいきますから」
「なるほどなるほど」
「いつまでも話してないで依頼の話しようよ」
自己紹介から冒険者の心得へと移っていた会話をウィアーレが止めた。
「そうでしたね。仕事に来てたんでした。
では依頼の話をしましょうか。といってもウィアーレが話しているようですし、道具と材料を置いている場所の案内をしましょうか」
子供たちを除いた三人は庭の隅に置かれている修理道具一式のもとへ移動する。
手順としては修理箇所に薄めの板を釘で打ちつけ、水を弾くペンキで板とその周囲を二度塗りするという簡単なもの。高さという問題がなければ誰にでもできそうな作業だ。この建物の高さは八メートル少々、周囲にはクッションになるような木や茂みはない。素人が落ちれば軽傷ではすまないだろう。
「はしごで登りますか? それとも二階の窓からよじ登りますか?」
「魔法で飛べますからはしごはいりません」
魔法で少し浮いて実践してみせる。
これならば大丈夫と判断したウェーイはお願いしますと頭を下げ、建物の中へと戻っていく。
「私もギルドに戻りますね」
「その前に」
ギルドに戻ろうとするウィアーレを呼び止める。
「なんですか?」
「一度一緒に上に上がって修理箇所を教えて。そうしないと修理箇所見逃す可能性がある」
「……えっと上がるってどうやって?」
「だっこかおんぶで一緒に飛ぶ」
「……お父さん呼んで来ちゃだめ?」
「高齢者にあまり負担はかけたくないな」
「……落とさない?」
「わざと落とすわけないよ? 暴れなかったら落ちないだろうし」
悩みに悩んでウィアーレは頷いた。
「一度上がろうとしたんだろ? なんでそこまで悩むんだ?」
「空飛ぶのって初めてだから不安が」
「誰でも飛べるんじゃないんだ?」
「飛翔魔法は使い勝手がいいわけじゃないって知ってるでしょ?」
「教えてくれた人そんなこと言ってなかったけどなぁ」
エリスや幸助のように魔法に優れた才を持ち、魔力C-以上の者にとっては飛翔魔法は便利なものだ。しかしそれ以外の者にとってはそうそう便利なものではない。制御が下手だと速度調節や方向転換が上手くいかず、魔力が足りないと長時間飛ぶことなど無理だ。
エリスの魔力C+で十二時間近く、幸助のC-で三時間ほど飛ぶことができる。飛翔魔法は魔力が最低Dないと使用不可能だ。そのDで十分間の飛翔が可能となっている。ちなみに飛翔速度は魔力消費に関係ない。どれだけ速く飛ぼうが、魔力消費が増えることはない。ただし調子にのって限界速度まで出すと制御ミスを起こしたとき自爆するはめになる。
「一度一人で飛んでもらえます? その飛ぶ姿を見て、不安がなければ背負ってもらいます」
「了解」
幸助は魔法を使い空中に浮く。そしてゆっくり屋根まで移動して下りてくる。
「これでどう?」
「大丈夫そうですね。
で、では失礼します」
幸助の背中に抱きつく。互いに落とさないよう落ちないようしっかりとくっついている。
ウィアーレの大きいとはいえない胸が幸助の背中に押し付けられる。そのことに気づいた幸助の動きが止まる。
「どうかしました?」
動きを止めた幸助に不思議そうにウィアーレは問いかける。
「い、いやなんでもないですよ!?」
「そ、そうですか」
気恥ずかしさやら感じる柔らかさに気をとられたりで挙動不審な幸助を、ウィアーレはさらに不思議に思う。
「飛ぶよ!」
「きゃっ」
誤魔化すために勢いよく上昇する。そのせいでウィアーレはさらに強く抱きついた。
幸助は一瞬だけ気がそれそうになるが、なんとか集中し屋根まで浮かび上がった。
浮いたまま屋根を移動し、修理箇所を教えてもらう。
確認を終えた二人は地面に降り立った。地面に足をつけたときウィアーレは安心したような表情を浮かべる。
仕事のためウィアーレはギルドへと戻っていく。それを見送り、幸助は修理を始める。
以前も似たような修理はしたのだろう、あちらこちらに修理箇所がある。どれも応急処置ばかりなのは、経営に余裕がない状態が続いたためか。
カコンカコンと釘を打ち付ける音が響く。板を打ち付け終わり、ペンキを塗る作業に移る。
ペンキをとるために地面に下りたとき、誰かに見られているような気がした。
「ん?」
視線を感じた方向には子供たちがいる。ハケとペンキを持って上がろうとする幸助を子供たちがじっと見ていて、幸助がそちらを見ると建物の陰に隠れてしまう。
なんだろうと思いつつも屋根へと上がる。
修理箇所にペンキを厚く塗っていき、一通り塗り終わる。あとは乾くのを待って、もう一度塗るだけだ。しかし乾くのに約三時間かかり、その間なにをしようかと屋根に座り考え出した。
五分ほど考えなにも浮かばず、とりあえず下りることにする。
下りる途中、二階の窓の向こうにベッドで寝ている眼帯をした子供と幸助の目が合う。きょとんとしたその子供に手を振ると、その子供も小さく手を振り返す。
「風邪かな?」
二階を見上げ、首を傾げる。
下りてもなにもすることが思いつかなかった幸助は、ウェーイに声をかけて孤児院を出る。ペンキが乾くまでぶらついて暇をつぶすことにしたのだ。
子供たちの視線を感じ、振り返ると物陰から幸助を見ている。
「用事があるなら話しかける、よね?」
珍獣を見ているものなのだろうと考え、幸助は視線から逃れるように孤児院から離れていった。
そして買い食いなどで暇を潰し陽が傾いてきた頃に幸助は戻ってきた。
残りの作業を素早く終わらせた幸助は、ウェーイに終わったことを告げギルドへと向かう。
「終わったよ」
「お疲れ様です。完了証明紙は私が持ってますから、依頼紙を」
「ほいさ」
ポケットから依頼紙を取り出しウィアーレに渡した。
「報酬は50ルト、銅貨二枚と石貨十枚となります。ご確認ください」
「……たしかに。あ、これあげる」
買い食いしていたときに買った焼き菓子と飴玉の入った袋も渡す。
「これは?」
「子供たちに。風邪ひいている子にもね」
「ありがとうございます。でも風邪?」
「二階で寝ている子を見たんだけど」
「あ、あの子は風邪じゃないんです」
「病気かなにか?」
「いえそういうわけでもないんですよ。健康そのものです。ただ極端に体力がないだけで」
「そういうことあるんだ」
「あと四五年もすれば、日常生活を送るには問題ないと言われてるんです。
ほかの方が受付に用事があるようなので話はここまででいいですか?」
「邪魔になってたか。ごめん。じゃ、俺は帰るよ」
後ろにいた冒険者に一礼し幸助は宿に戻っていった。