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会話と初めての仕事

「約束通りきましたので、どうかお手柔らかに」


 幸助とボルドスがいるところにくるなり、ウィアーレは深々と頭を下げる。


「どうなるかはお前さん次第だな」

「ここで話すん?」

「いや、このどじ娘さんがうっかり口滑らすと大変だから別の場所で」


 とりあえずは会計をすませる。そのときに幸助はシュークリームを一個買ってウィアーレに渡す。これで少しはテンション上がってくれればと思ったのだ。テンション低いまま話していると、いじめているような感じがするのだった。

 

「食べていいんですか?」

「そのために買ったからね。いらないなら俺が食べるけど」

「いえっいただきます!」


 甘いものが精神的負担を和らげたのかウィアーレの表情から悲壮感が抜ける。食べ終わるとまた元に戻ったのだが。それでもいくらか気分が浮上したようでシュークリーム一個分の効果はあったようだ。


「これから向かう先は?」

「俺の使っている宿だ。コースケもそこに宿をとらせようと思う」

「お金大丈夫?」

「一般的な宿より少しランクが上なぶん金も少し高いが、設備と安全と清潔さは保証されている。

 そこでいいか?」


 この街を拠点にしているボルドスに任せれば間違いはないだろうと、幸助は頷いた。

 三人が歩く先にそこそこ歴史を感じさせる建物が見えた。目的地の宿だ。

 玄関をくぐるとボルドスの顔なじみの従業員がおかえりなさいと声をかけてくる。ボルドスはそれらに応えつつ受付に足を向ける。


「おかえりなさい」

「ああ、ただいま。

 こいつの部屋を頼めるか? 個室で」

「はいはい。空いていますよ。

 こちらに名前を記入して、宿泊日数分の金を払ってください」


 出された宿帳に幸助はたどたどしく名前を書いていく。書いたものをボルドスに確認してもらい、従業員に返す。

 宿賃は十日分払う。もしかすると宿が合わずかえるかもしれないということと、のちのちお金が必要になるかもしれないからだ。


「そちらの方はどうされますか」

「わ、私ですか?」

「こいつは必要ない。ちょっと話があって一緒にいるだけだから」

「そうですか。

 ではこちらが鍵となっています。

 浴場や食堂やその他の設備に関しての説明は必要でしょうか?」

「いや俺が説明しとく」

「わかりました。

 お客様が健やかに過ごせますよう従業員一同努力いたします。なにか問題がありましたらいつでも従業員に申し付けください」


 そう言って従業員は洗練された綺麗なおじぎをしてみせる。それに思わず幸助もよろしくお願いしますと頭を下げた。

 そんな幸助に従業員は小さく笑みを漏らす。


「コースケの部屋に行くか」


 どこになにがあるかの説明をしつつボルドスが先導し、幸助の部屋を目指す。

 宿は三階建てで、二三階が客室だ。一階は食堂などの設備でうまっている。地下もあるが、そっちは食料庫やワインセラーなので客が行くことはない。

 三階の日当たりのいい部屋が一番値段の高い部屋で、一番安いのは二階の大部屋だ。長期滞在客は個室をとり、一泊など短期宿泊の客は大部屋をとる。

 幸助の部屋は二階の東側だ。ボルドスは三階の東。

 部屋の中は一人には十分な広さになっている。家具は机と椅子とベッドとクローゼットのみだ。クローゼットの中には籠が入っていて、洗濯物をこの中に入れて従業員に渡せば洗ってくれるのだ。窓には格子がはまっていて出入り不可となっている。

 荷物と剣をクローゼットに入れた幸助はベッドに座る。ボルドスは机によりかかった。ウィアーレは床に正座。


「なんで床に座るの!?」

「あ、いつも怒られるとき床に正座するんでつい」


 そう言って立ち上がり、幸助の隣に座る。椅子だとボルドスに近くて怖いのだ。


「んじゃ話をするとするかね。

 ま、用件はすでに言った通り、黙ってろってことなんだが」

「どうして黙っていなきゃいけないのか、理由を聞いてみたかったりするんですが。

 だって竜殺しですよ? 名乗り出ればすっごい有名になって、ちやほやされますよ?」


 ウィアーレが恐る恐る問いかける。


「お前さんの言いたいことはわかるが、利点だけじゃないだろう? 貴族とかのお偉いさんにいいように使われるって欠点もある。

 コースケにはちょいと事情があって、その事情から名乗り出ない方がいいって判断したんだ。

 もしくは名乗り出るにしてもまだまだ早すぎる」

「はあ」

「本人も名乗り出て目立つことを望んじゃいないんだ。人の嫌がることをしたいのかお前さんは?」

「いえ、したくないです。

 えっとあなたは本当にそれでいいんですか?」


 隣に座る幸助に聞く。


「うん。世話になっている人たちからもアドバイスを受けてそれでいいって思ってる。

 だから黙ったままでいてくれるかな? お願い」


 ウィアーレは少しだけ考える様子を見せるも、すぐに結論は決まったようだ。


「わかりました。誰にも言いません。世界神に誓って約束します」

「ありがとう」

「よかったなコースケ。いやあ一時はどうなるかと」

「ちなみに、ちなみにですよ? 私が話すって言ってたらどのような対応に?」

「とりあえず拉致してどこかの森に放り込み、木の上にでも縛りつけとくか。そのあとツテの権力でちょちょいっと小細工して、お前さんが急にいなくなったことを誤魔化す。お前さんは放置されて餓死かな。

 別の方法とるかもしれんが、この場で拉致は確実かな」


 にこやかに述べるボルドスを見て、ウィアーレはひぃっと悲鳴を上げ幸助の腕と肩を掴む。

 ボルドスが本当にそれを実行したかはわからないが、脅しているのは確実だ。前準備もなしに誘拐など難しいだろうから、やはり脅しなのだろう。


「承諾してくれたんだから、怖がらさなくても」

「うっかり口を滑らさないように念を押しておいたほうがいいと思ってな。

 短期間でギルド職員だけじゃなく冒険者にまでどじだと知れ渡っているくらいだから、これくらいでちょうどいいさ」


 思わず自分でも納得してしまったようで、ウィアーレはなにも言い返すことができない。


「そろそろ腕から手を離してくれない? 血が止まってるみたいで」

「あ、すみません!」


 ウィアーレが手を離すと、腕から先に暖かいものが駆け巡る。

 本来の話が終わり、幸助は疑問に思ったことを聞く。


「俺が竜殺しってわかったのはギフトのおかげだよね?

 どんなギフトなのか聞いてもいい?」

「私のギフトは称号操作の2です。自分と他人の称号を何度でも変更可能なんですよ。他人の称号をかえるには称号が見えないといけませんから、それでコースケさんの称号がわかったんです」

「そのギフトを買われてギルドに雇われたんだな?」

「はい。私の主な仕事は称号の操作です」


 称号は基本的に一日一回のみ変更可能だ。それが日に何度も変更可能になるちょっとした便利さにギルドは目をつけたのだ。サービスを充実させるための雇用なのだろう。

 

「話はこれで終わりですか?」

「俺はない。コースケはどうだ?」

「俺もないよ」

「でしたら私は帰ります。家族が待っていますから」


 ベッドから立ち上がり扉へと向かう。

 扉を開け振り返って一礼するウィアーレに、幸助が声をかける。


「明日からよろしく」

「え? あ、そうですね。登録したから依頼受けるんですよね。

 はい、こちらこそよろしくお願いします」


 もう一度頭を下げてウィアーレは去っていった。


「最初の依頼くらいは手伝おうか?」

「んー……いやいいよ。簡単なものを受けて慣れていくから。

 どれくらいの報酬が駆け出しの受けるものなん?」

「そうだな……駆け出し四人組で討伐系依頼で最大1600ルト……銀貨四枚ってとこだ。

 これ以上は手に余るだろうな。一人で受けるのならこの半分くらいか?」

「じゃあそれ以下を目安に受けていくよ」

「お前さんなら……いや慣れるためにはそのほうがいいか」


 強さから駆け出しが受けるもの以上の依頼をこなせると考えたが、知識経験ともに不足していることを思い出し反論を取り消す。

 このあとはボルドスがいままでにどんな依頼をうけ、どのように解決していったかを聞いて時間を潰していく。ついでに荷物整理も手伝ってもらう。部屋に置いてていいものはグローゼットに入れていく。

 やがて夕食の時間が来て食堂に移動する。

 三食の料金が宿賃に含まれていることや、頼めば弁当を作ってくれることや、風呂は時間によって男女の順番が決められていることなど宿について聞きながら、夕食をすませる。

 

「このあとはどうする気だ? 俺は酒を飲みに行ってくるつもりだが」

「宿の周りを散歩してみるよ。行っちゃいけない場所とかある?」

「この宿周辺ならないな。北の倉庫街とそこの近くにある酒場は近寄らない方がいい」

「わかった。ここらへんうろちょろしてるよ」

「それなら安全だ」


 早速行ってくるとボルドスは宿を出て行った。

 幸助は宿の玄関ホールにあるソファーに座り、窓から見える人の流れをぼんやりと見ている。

 日が落ちて暗くなった街を魔法の明りが照らしている。暗闇をはねのけるような明るさは、日本の繁華街に勝るとも劣らない。

 ホルンから聞いたように人間だけではなく、エルフやドワーフといった異種族もちらほらと見かける。一見魔物のようにしか見えない者も堂々と歩いていて、そういった人たちを見ているだけでも時間は潰せた。


「どなたか探されているんですか?」

「え?」


 声をかけられ振り向くと受付をしていた女が私服姿で立っていた。


「いや歩いている人たちを見てただけで、誰かを探してたわけじゃないんです」

「そうでしたか。それにしてはずいぶん熱心に外を見ていましたね?」

「あー……人間以外の種族を見るのって初めてで」

「ああ、それで」

「えっと仕事は大丈夫なんですか?」

「私に課せられた分は終わったので自由時間なんですよ。

 隣に座ってもいいですか?」

「……どうぞ」


 互いに自己紹介をして、雑談が始まる。

 実年齢に驚かれるのには慣れ始めた幸助だ。

 名前はシディといって宿の一人娘。二十才になったばかりで、現在跡継ぎの修行中とのこと。

 することがなく暇だったところ、同じように暇そうに見えた幸助と話してみようと思って声をかけたらしい。客に話を聞くことはよくやっているようだ。

 この街とリッカートのみしか行ったことがなく、ほかの街の様子を知りたいといって幸助の住んでいた場所のことを聞く。それに幸助はどのように答えようか迷い、無難にのんびりとした田舎だと答えることにした。

 それでもいいからとシディが聞いてくるので、幸助は故郷のことをこちら風にアレンジして話していく。幸助の故郷は特にこれといった特徴はなく、いくつかの果物が特産品というだけだ。そんな話でもシディは満足できたようだ。

 そうしているうちに入浴時間が男の番になり、幸助はシディと別れた。

 風呂から上がった幸助はそのまま部屋に戻る。することがないのでこのまま眠ってしまおうかと思ったとき剣が目に入る。


「型の確認だけでもして寝ようかな」


 鞘つきのままベルトから外し、部屋を傷つけないようにゆっくりと型を繰り返していく。

 そのうちファードッグの動きを思い出し、シャドーボクシングに近いことをし始める。ラッツモンキーとの戦いは短時間で終わったので、動きはあまり見ておらずシャドーに使うには情報不足だったのだ。

 軽めに行うはずだった確認は集中してしまい、軽めとはいえなくなっている。そのことに気づかずゆっくりと小さく動いていく。

 三十分ほど続けた頃、剣が壁に当たり我に返った。


「あ、軽めのはずが……まあいいや。

 壁に傷は入ってないね、よかった」


 傷の有無を確認し、剣を壁に立てかける。

 することがなくなった幸助は眠ることに決め、自分に眠りの魔法をかけてあっさりと眠りについた。


 翌朝、早めに寝たおかげで六時前に目が覚める。通訳魔法を使ってから顔を洗いに一階の水場に向かうと、既に起きて掃き掃除をしているシディと出会う。


「おはよう」

「おはよ。早起きだね?」


 昨日の会話のおかげか砕けた話し方となっている。


「十時ごろに寝たから早めに目が覚めたんだ」

「いつもそれくらいに寝てるの?」

「いんや、することがなかったから、その時間に寝ただけ」

「そっか。朝食の準備はまだだから、部屋でのんびりするなり身支度を整えるなりしてきたら?」

「顔を洗ったらそうするよ」


 掃除に戻るシディの横で、顔を洗い目が完全に覚めた幸助はシディに一声かけて部屋に戻る。

 手櫛で髪を整え、服をきちんと着込み、剣を帯び、荷物整理で軽くなったリュックを手に持つ。

 準備を終えた幸助は、部屋を出て鍵を閉める。まだ朝食まで時間はあるが、部屋にいるのも暇なので食堂で待つことにしたのだ。

 五十人ほどがゆったりと座ることができそうな食堂は、今は広々と空いている。店員以外には二人だけ座っている。その二人はテーブルに突っ伏して寝ているらしい。

 適当に座りぼんやりしていると、朝食ができたことを知らせるベルが鳴る。寝ていた二人はそれで起き、ぐっと背筋を伸ばして眠気を払う。そして朝食を受け取るため動き出す。幸助も同じようにカウンターに向かう。


「あのー弁当用意してもらっていいですか?」

「あいよ。内容は勝手にこっちで決めるけどいいか? といっても大抵サンドイッチと果物なんだがな」

「お願いします」

「食器を返すときにもう一度声をかけてくれ、そのときに渡すから」

「わかりました」


 渡された朝食を持ってテーブルに戻る。今日のメニューは魚のムニエル、パン二枚、ゆで卵、リンゴ四分の一だ。ジャムとバターはカウンター近くに置かれていた。一枚にマーマレードを塗り、食べ始める。

 幸助がゆっくり食べている間にほかの二人は食べ終わり、食堂を出て行った。入れ替わりに少しずつ宿泊客が食堂に入ってくる。

 それを眺めつつ食事を食べ終え、食器を持っていく。籐製のバスケットを受け取り、食堂から出る。


「準備を整えてるってことは、もう出るのかな?」


 受付にいるシディが声をかけてくる。


「うん。今日が初仕事。

 まあ、ちょうどいい依頼がなかったら、なにもせずに帰ってくるんだろうけど」

「そっかそっか。頑張ってらっしゃい」

「いってきます」

「はい。いってらっしゃいませ」


 従業員としての顔に戻ったシディが幸助を見送る。

 シディの声を背に幸助は宿を出た。

 ギルドまでの道をゆっくり歩く。昨日と同じように道行く人を見ているのだ。国際色豊かというのか、様々な種族があちこちに見える。彼らは定住しているものは少ないようで、ほとんどの者が旅装姿だ。

 ギルドに到着し、依頼を確認できる区画に向かう。ウィアーレはまだ来ていないのか、みつけることはできなかった。

 ギルドが行っている依頼紹介は大きく三つにわけられる。大きな仕事の依頼紙はバインダーに保管されている。次に冒険者たちが日常的に受ける依頼紙は、衝立に張り出されている。報酬額と仕事の種類による仕分けもきちんとされている。最後に冒険者でなくとも行えそうな雑事系の依頼紙は壁に大雑把にはられている。

 今も冒険者たちの多くは衝立を見ている。バインダーを開いている者もいるが、どのようなものがあるのか確認しているだけで受ける気はなさげだ。

 

「さあてどんなのがあるのかな」


 幸助もほかの冒険者たちと同じように衝立を見る。そしてすぐに問題が発生した。


「文字読めねぇ」


 ボルドスについてきてもらうんだだったと頭を抱える。

 うっかり文字を読めないことを忘れていたのだ。昨日習得した文字というか単語は、喫茶店などでしか役に立たない。かろうじて報酬だけはわかる。けれどもそれだけわかっても意味がない。知識を必要とされる依頼とわからずに受けてしまうかもしれないからだ。

 誰かに聞くしかないと考え周囲を見渡したとき、タイミングよく出勤してきたウィアーレをみつけることができた。

 

「おはよう、そして助けて」

「い、いきなりなんですか?」

「依頼を探そうとしたんだけどさ、文字読めなくて」

「あーなるほど。わかりました。先輩に出勤してきたことを知らせてきますから、ちょっと待っててください」

「ほんとに助かる」


 ウィアーレはどこか嬉しげに職員の部屋へと向かう。いつもどじばかりで頼られることがすごく少ないので、頼られることが嬉しいのだ。

 すぐに戻ってきたウィアーレと一緒に衝立を見ていく。


「どんな依頼が受けたいですか?」

「一人でも受けることできて、安全なもの。初めての仕事だから簡単なものがいい」

「……強いのに」


 幸助を見る視線の温度が下がる。


「昨日も言ったように事情があって、片手で数えられるほどしか戦闘経験ってないんだよ」

「それでよくりゅ……じゃなかったその称号を」

「……今」

「ちょっと危なかったです」


 両手で口を塞いで誤魔化し笑う様子は可愛かったが、幸助は可愛いと感じるよりも本当にどじなのだなぁと苦笑を浮かべている。


「依頼そのものに慣れるためにも簡単なものを紹介してもらいたい」


 ウィアーレは条件を考慮し衝立の中で一番依頼料の安い列を見て、その中の一枚を指差す。


「これなんかどうでしょう? 近くの森で指定された草を取ってくるというものですが」

「近くの森ってどこ?」

「ここから南東に三十分ほど歩いた森ですね。

 コノツネ、ハバカロ、トートリネという三つの草を十づつ取ってきてもらいたいそうです。報酬は400ルト」

「よさげだけど、トートリネっていう草を俺は知らなくて。ここでサンプル見ることできる?」


 コノツネとハバカロはホルンと勉強していたときに教えてもらったのだ。この二つは条件さえ整えばどこででも取れる。南東の森はその条件が整っているのだろう。


「はい。植物図鑑がありますから。

 この依頼を受けますか?」

「お願い」

「ではこちらへどうぞ」


 カウンターに連れて行かれ、依頼を請け負う手続きをしていく。

 

「図鑑とってきますね」

 

 ウィアーレは近くにいた先輩職員に図鑑のありかを聞き、持ってカウンターに戻ってくる。


「えっとトートリネですねー……ありました」


 差し出された図鑑の指差された箇所を見る。

 文章は読めないので、描かれた葉の形や生えやすい場所を覚える。文章部分も念のため読んでもらい、コノツネとハバカロも見せてもらった。


「これでいいかな。じゃ行ってくるよ」

「はい、お気をつけて」


 ウィアーレに見送られて、幸助はギルドを出て、街を出る。

 教えられた通りに南東へ三十分弱。道中なにごともなく目的地へと到着した。


「さっそく探しますか」


 森の手前で虫除けの魔法を使い、中へと入る。

 コノツネは明りを嫌い風通りのいい木陰に生え、ハバカロは落ち葉に隠れるように腐葉土に生え、トートリネは小川の水流の中に生える。

 始めに木陰を見ていき、コノツネを集めていく。大抵三本はまとまって生えているのであっさり集まる。根っこの土を払い、集めたコノツネを紐でまとめる。

 周囲に小川はないので次はハバカロを探す。足で枯葉と土を払っていくと、地を這うように生えている草が顔を出した。こちらはコノツネよりも時間がかかる。けれどたいした苦労はなかった。

 最後にトートリネを採取するために小川を探す。

 

「聴力も上がってるかな?」


 耳を澄まして小川のせせらぎでも聞こえないかと試してみる。

 木の葉の擦れる音、虫などの鳴き声、獣かなにかが移動する音が聞こえ、背後からなにか近づいてくる音が聞こえた。

 振り返って十秒後、ラッツモンキーが四匹現れる。


「魔物が出んの!?」


 考えてみれば草原にも当たり前のように魔物はいたのだ。森にいてもなにもおかしくはない。

 いると思っていなかったのは、ホルンと野宿していたときのことを基準に考えていたせいだろう。

 なんとか戦いを避けられないかという迷いを察したのだろう、ラッツモンキーたちはいっせいに襲い掛かってきた。

 数は増えてもボルドスには届かない動きなので、余裕を持って避けることができる。

 

「……やるか」


 襲われたことで踏ん切りがついた幸助は剣を抜く。

 やる気を出した幸助にラッツモンキーたちはわずかに戸惑いを見せるが、襲うことはやめない。

 一番早く近くまで飛び掛ってきたラッツモンキーの胴めがけて剣を振るう。ボルドスとの練習の成果は見事に出て一刀両断。血が舞い、少し幸助へと付着する。

 仲間の血に濡れた幸助に恐れをなしたか、力の差をはっきりと理解したか、ラッツモンキーたちの動きは止まる。

 幸助が脅すように剣を真横に振るうと、後ずさり逃げていった。同時に周囲から気配が離れていくような感じがしている。第六感的な曖昧な感覚なので、幸助ははっきりと断言できない。

 しかしこの一戦でなんとなくだが理解した。


「強気でいれば襲われることもない?」


 獣や魔物は弱肉強食の世界に住み、人などよりもはるかに危険を察知する感覚に優れている。幸助が弱気でいたり迷いを見せるから襲うのだ。戦いを避けたいのなら強気か殺す気があると見せかけるほうがいい。そうすれば死にたくない獣や魔物は近づかない。

 好戦的な魔物は殺気に当てられるとむしろ襲い掛かってくるだろうが、そのような魔物は人間の住む場所の近くにはほぼいない。騎士や兵によって倒されるか追い払われるからだ。


 剣についた血を振るって払い、布で残った血を拭ってから、小川を求めて歩き出す。

 さきほど一戦で幸助の強さを知った魔物や獣たちは一切姿を見せない。息すら潜め隠れているようで、森のざわめきが減った。

 そのおかげか、移動したおかげか、幸助は小川のせせらぎを聞き取る。

 みつけた小川に入り、点々と生えているトートリネを集めていき、依頼された草の収集は達成された。


「これで終わりかぁ。

 あの太陽の位置だとちょうど昼くらいだろうし、休憩ついでに昼ご飯食べてから帰ろっかね」

 

 座るのにちょうどいい岩をみつけ、バスケットと水筒を出し食べ始める。。

 水の流れる音や木の葉の擦れる音に和みつつ、ちょっとしたピクニック気分を味わい、昼食を終える。

 

「うしっ帰ろ」


 目的を果たし、森を抜ける。

 ギルドに帰り着いたときは一時手前だった。


「ウィアーレはいるかな」


 ギルド内を見渡しても見当たらないので、昼を食べに行っているのだろうと判断した。

 

「すいません。草収集の依頼を受けて、採ってきたんですけど」

「はい。依頼ナンバーは何番でしたか?」

「334番です」

「少々お待ちください」


 職員は手元のファイルを開き、依頼を確認する。


「コノツネとハバカロとトートリネの収集ですね。

 集めてきたものを出してもらえますか?」

「どうぞ」


 小袋に入れていた草を三束、職員に渡す。


「少々お待ちください」


 職員は薬草図鑑で三つの草を確認していく。


「間違いなく依頼したものですね。ただ依頼よりも本数が多いですね。ご自分用にとってこられたのでは? お返しましょう」

「いえ、十本目の近くに生えてたんでついでにとってきただけで、依頼人にまとめて渡してください」


 多いといってもコノツネ三本、トートリネ一本だけだ。


「そうですか。わかりました。

 ではこちらが報酬となります。

 銀貨一枚400ルト、ご確認ください」


 渡された銀貨を財布代わりの小袋に入れる。


「これで依頼完了となります。依頼達成お疲れ様でした」

「聞きたいことあるんですけどいいですか?」


 頭を下げる職員に声をかける。


「私でわかることでしたら」

「文字を覚えるために本を買いたいんですけど、だいたいいくら必要になるかわかります?」

「本ですか。そうですね……この図鑑は銀貨三枚でした」

「たかっ!?」


 魔法で製本の過程を高速化簡略化できるので、昔の地球のようにすべて手書きというわけではない。その分値段は下がるが、やはり一冊ずつ手作りではあるので割高となるのだ。


「ですがこれは情報量の多さと装丁に費用がかかっている部分もありますからね。

 文字学習用となると値段は低くなるでしょう。おそらく高くても銅貨十枚といったところではないでしょうか」

「ありがとうございます。ついでに本屋の位置を教えてもらえませんか?」

「たしか商店街の南にあったと」

「ありがとうございます」


 再び礼を言ってギルドを出る。

 教えてもらったあたりで外から店を覗いていき、三軒目で発見できた。

 店員に買いたいものを聞き、二冊の本を買った。それで今日の稼ぎの半分以上を使い切った。

 

「おかえりなさい」

「ただいまです」


 宿に戻ると受付をしているシディが幸助を出迎える。

 

「どうだった?」

「街の外に草集めに行ってきた。

 その稼ぎで文字学習用に本を二冊買ってきた。これから勉強」

「文字読めなかったんだ?」

「うん」

「うちにも何冊かあるから、ある程度読めるようになったら使う?」


 買ったのではなく宿泊客がたまに忘れていくのだ。それが四冊溜まっている。


「いいの?」

「私もほかの皆も読み終わってるからかまわないわ」

「じゃあ、後日借りる」

「声をかけてくれたら、いつでもとってくるから」


 わかったと答え、幸助は部屋に戻る。

 ベッドに座り、最初は名詞が中心の本を開く。リンゴや馬などいろいろな絵の下に文字が書かれている。一ページに六つの単語が載っていて、百ページほどある。その文字をひたすら頭に叩き込んでいく。集中すれば、どんどん頭の中に入っていき二時間で全て覚えることができた。書くときはつっかえるかもしれないが、読むだけならば完璧だ。


「きゅ、休憩しよ」


 二時間の集中に疲れた幸助は部屋から出て、一階に下りる。

 食堂にバスケットを返すついでにジュースを頼み、のんびりと飲む。

 二十分ほど休憩し、体を動かすために宿の洗濯干し場に向かう。そこで今日のラッツモンキーたちの動きを思い出し、シャドーをしていく。今日はぶつけることを気にしないでいいので、素早く振っていく。

 十五分シャドーをしたあと、素振りをしていきそれも終えた幸助は部屋に戻る。草の収集と修練で汗が出たので、風呂に入ろうと思ったのだ。

 風呂を上がり、夕食も終えて、勉強を再開する。今度は、簡単な物語形式で誰がどこでなにをどうした、ということが絵で示された本を読む。生物や動きや場所など対応する絵と単語に矢印がついている。

 読み進めていくうちに文法は英語に近いと気づくことができたが、今は文法にまで気が回せない。書くことは後回しで、とりあえず読めるようになるように勉強していく。

 読み終えたのは十一時過ぎだ。

 本を机に置いて、寝る準備を始め、ベッドにもぐりこむ。

 こうして幸助の街生活二日目は終わった。


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