3 竜国に蠢く影
白竜との出会いからいくばくか時間が流れ、幸助は村で溜まっていた書類仕事をしている。この後は建築のための素材調達と予定が決まっている。同じ建物にエリスとウィアーレもいるが、歪みに関する研究のため、関係者以外立ち入り禁止の地下室で作業中だ。歪みに関することは一般人には理解を得られにくいので、表に研究室を作るわけにはいかないのだ。
このことは歪み使いの存在を秘するため、シャイトやムロンにも事実を曲げて伝えられていた。地下では素人が扱うには危険な魔法道具開発が行われていると伝えられている。神からこの村に関わっている王のみに話が伝えられ、それ経由でシャイトたちに関わる必要なしと伝えられた。
「村長、客だぞ」
ムロンと一緒に塀作りの指揮をしていたシャイトが戻ってきた。表情は緊張で硬くなっている。なにか問題のある客なのかと幸助の警戒心も高まる。
シャイトに連れられて入って来たのは人に変化した白竜だった。幸助は白竜を見て、いっきに脱力する。
「なんだ、そんな緊張した顔で入ってくるから厄介事でも起きたかと」
「いや緊張もするさ。お前さんたちが張った結界を無視して入ってきたんだぞ? 人も魔物も立ち入らせない結界なのに、なんの効果も出さないと作業員たちに不安が湧いている」
「その人は結界が効果を出さなくても仕方ないと思う。問題ないよ、結界に異常は感じられないし。入るための鍵を持っていたと皆には伝えておいて。その人が持っていたことを忘れてたことにすれば、少し苦しいけど言い訳にはなるっしょ」
なんにでも変化できるのだ、結界の出入り許可を持っている者と同質になれば出入り自由だ。実際そうやって通ってきた。壊すこともできたが、それだと幸助たちが困るだろうと判断したのだった。
「本当に問題ないのか? どこかのスパイとかじゃなくて?」
「ただの客だよ。こっちにくるとは思ってなかったけど。敵対しなければ危険はない」
「敵対したら?」
「こんな村くらいは一時間経たずに壊滅じゃない? 俺やエリスさんやウィアーレがいなければだけど」
「見た目強そうには見えないけどな」
シャイトとは強さの桁が違うので、実力をはかりきれていないのだろう。最近は実戦から遠のいていることもあって、勘が鈍っていることも一因か。
「すごく強いとだけ言っておくよ。客人は俺に任せて、仕事に戻ったら?」
「そうさせてもらうか」
白竜に一礼し、シャイトは去っていく。
「いらっしゃい」
「ああ、迷惑をかけた」
「いつでも来るといいと言ったのは俺だしね。お茶でも出すよ。そっちのソファーに座って」
なにか好みのお茶はあるかと聞き、お茶を飲んだことがないと答えが返ってくる。ではなんでもいいなと癖のないあっさりしたお茶を選ぶ。茶菓子はあとで皆と食べようと思っていたプチケーキだ。
「今日来たのは紀行文を渡しに?」
「それもある」
「ほかにもなにかある?」
頷きお茶を飲む。初めて飲むので恐る恐るといった感じで、カップを口に持っていき口に含む。特に苦手な味というわけでもなかったようで、そのままコクコクと飲んでいく。
「どうだった? 気にいったならおかわり入れるけど」
「ん、んー……」
感想を求められ、どのように言い表そうかと悩み始めた白竜に簡単でいいからと言う。
「もう一度飲みたいと思えた」
「気に入ってもらえたみたいだね。ちょっと待ってて」
お茶を入れながら、ここに来た用事を聞く。
「紀行文を書くためにエゼンビアに行った時、護国竜の巣に寄った。その時に竜殺しに頼みたいことがあると伝言を頼まれた」
「竜にとっての何でも屋になってきてない?」
お茶を蒸らす合間に振り返り、困惑を浮かべ白竜を見る。
「人でありながら竜を超える強さを持っていて、目立たないように動けるから頼みやすいと護国竜も黄金竜も言っていた」
「俺にも予定があるんだけどなぁ」
「同族が都合よく使ってすまない」
申し訳なさそうに頭を下げた。自身も頼っている状態だ、謝意は存分に込められていた。
「君のように、こちらの都合を考えての頼みなら別にいいんだけどね。そういや君に名前ってある?」
「名前? 白竜というだけで自分を表せるから人間や神のような名前はない」
「今回のように正体を隠す時は不便だから、なにかつけない? 嫌ならまあ誤魔化すように気をつけるけど」
「不便ならつけてかまわない。私は思いつかないから、そっちでつけて」
白竜といってぱっと思いつくのはネバーエンディングストーリーのファルコンだ。だが目の前の白竜には少し合わないかもしれないと、別の名前を探していく。
「単純にシロ、ハク、パイロン。いまはまっさらでいつかなりたい自分を描けるようにキャンバス。今思いつくのはこれくらい。この中から好きに選ぶってことでどう?」
(ハク・キャンバス)
幸助が言ったすぐ後に、以前一度のみ聞いた声が脳内に響いた。
「今のはたしかアーセラン様?」
「それであってる。特に希望はなかったから、姉上の決めた名前でいい」
「んじゃ次からその姿の時はハク・キャンバスって紹介するよ」
ハクは不満のない様子で頷いた。そのハクの前にお茶を置く。
「話を元に戻そうか。護国竜からの頼みがあるって言ってたけど内容は?」
「それは巣まできてもらった時に話すと」
「巣って確かぺジオルド竜国の首都にあるんだっけ?」
ハクはお茶を飲みつつ頷いた。
「ぺジオルドは行ったことないんだよな。ミタラムかコーホックに頼んで送ってもらおうかな」
(それくらいなら私が送る)
再び脳内にアーセランの声が響く。
「いいんですか?」
(ハクが世話になったから、その礼として)
「じゃあ準備したらお願いします」
わかったと返事が来て、声は遠のいていった。
「これから準備するとして、紀行文を見せてもらえる? この場ですぐに読めそうなら感想言うよ」
渡された紙はA4サイズの紙が一枚で、真面目な性格を示すように綺麗な文字が並ぶ。
それをざっと読んでいく。今回選ばれた場所はぺジオルドにある山の湖とそこを囲むようにある花畑だ。内容は上出来とはお世辞にもいえないものだ。風景に対する感想というよりは描写が書き連ねられ、筆者がどのように感じたかどこがいいのかは伝わってこない。
「もっとハクが風景を見て感じたことを書いてほしい。このままだと味気ない。他者が同じ風景を見て、同じ感想を持つわけじゃないけど、判断材料の一つにはなると思うんだ。想像を書き立てられてそこに行きたいと思えるような文が望ましいね。素人の感想だけどこんなところ」
「感想……わかった、そこを踏まえてもう一度書いてみる」
「期限とかはないし、じっくりやるといいよ」
ハクに紙を返し、椅子から立つ。ハクも立ち上がる。巣に帰って書き直すといって建物を出ていった。
それを見送り、幸助は地下へ向かう。地上に被害がでないよう二十メートルほど地下に作られた部屋だ。部屋作成には神が力を貸したので、空気の入れ替えなども完璧だ。
実験中に急に開けると、とんでもない事態が起こる可能性があるので、しっかりとノックをして返事を待ってから開ける。
鍵が開く音がして、エリスが扉を開いた。部屋の中は地上と同じくらいの明るさで、広さは四十畳近い。
「なにか用事かの?」
「出かけることになったから、それを伝えに」
部屋に中に入りつつ答える。ウィアーレは手元の紙から目を離し、幸助へと顔を向けている。その紙には、人の精神状態を歪める作用のある魔法道具について書かれていた。それを使って、悪意害意を持って入ってこようとする者を無くそうとしているのだ。今だ書類上の代物で実物はできていない。
「でかけるってどこに?」
「カルホードのぺジオルド竜国。護国竜がなにか頼みがあるんだとさ。それを伝えにさっきまで白竜がきていたんだよ」
「例の作家の真似事をすることになった竜か」
エリスは微妙な口調だ。竜がすることではないだろうと思っているのだ。黒竜という竜を見ていた二人には、受け入れがたい話なのだろう。
「どのような頼みかは聞けたのか?」
「いや行ってから聞くことになってる。移動はアーセランっていう白竜と仲の良い神がしてくれる」
「無茶振りされないかな」
心配そうにウィアーレが言う。
「話を聞いてから引き受けようと思ってるから、無茶振りされた時はさっさと帰るかな」
「その言い分が通じるならいいが」
「黒竜のような悪さする竜じゃないよね、護国竜って」
「まあな。ぺジオルドを護ることを第一とした竜だ。暴れたという話や他国に攻め込んだという話は聞かん」
名前が示すように国を護ることしかしないのだ。他国が攻め込んだ時や魔物が暴れた時は活躍した。攻め込まれた報復として過去幾度も高官から他国へと攻め込む助力を頼まれたことがある。しかしそのことごとくを断ってきた。
「なんで護ってるんだろ」
「さてな。巫女や神官は知っているかもしれん。護国竜にあったら聞いてみるものいいんじゃないかの」
「そうしてみようかな」
「気をつけてね」
「ん、注意しておくよ」
地下室から家に転移し、旅支度を整え、久々に竜燐鱗製の剣も持ちアーセランに準備ができたことを伝えた。
送ると一言聞こえきた次の瞬間には、幸助はどこかの庭園にいた。良く手入れされた庭園で、道幅が広い。どこかの山に作られているようで遠い眼下には平野が広がっている。緑の絨毯を切り裂くように何本もの道ができている。
庭園に人の気配は多くなく代わりに大きな気配が感じられ、そちらを見ると緑の鱗を持つ西欧竜がいた。大きさは白竜よりも大きい、その近くに二十前半の男がいる。磨かれた白銀の鎧に、緑のマントを羽織り、腰には剣を帯びている。
「何者だ!? ここが竜庭だと知って侵入したのか!」
男は腰の剣に手を伸ばし、警戒した様子で幸助を見ている。
「剣から手を放せカーディナル、私が呼んだ客人なのだ」
「客? どのような素性なのか聞いてもいいのか?」
護国竜の言葉を聞き、一応剣から手を放す。だが警戒心は残したまま護国竜を見上げる。
「目立つことは嫌いだと白の坊主から聞いている。誰にも話さないと誓えるのならばよいのではないかな? 客人もそれでいいかな?」
「ええ、秘密にしてもらえるのならば」
カーディナルと呼ばれた青年は少しだけ考えて、口を開く。
「我らにあだなす者ではないのか?」
「こちらの対応次第ではないかな。好戦的とは聞いていない。黄金の婆さんや海の小僧や白の坊主も世話になったらしい」
「たしかそれらは、墓守の竜や双海竜や白竜だったか。竜を助ける者ならば失礼があってはならないな。護国竜が秘密にしろというのならば私も素性を話さない」
カーディナルは幸助をしっかりと見て一礼する。真摯な意思が感じられ言葉に嘘がないとわかる。
「私はぺジオルド竜国次期竜神官カーディナル・ぺジオルドだ。あなたの名前はなんと言うのだ?」
竜神官や竜巫女はこの国のトップだ。カーディナルは次の竜神官に決定しているため竜に会うことが許されている。
「私は……なんといえばいいのでしょう? 冒険者やとある村の村長をしているコースケ・ワタセと言います。知っている者は少ないですが竜殺しと呼ばれる称号持ちです」
カーディナルが崇める竜に誓ってばらさないと言ったので、幸助は安心して称号を告げることができた。
「竜、殺し? ……最近死んだのは黒竜のみ、黒竜を殺したのか?」
「ええ、偶然。カードをご覧になりますか?」
カーディナルが頷いたので、竜殺しの称号を表示して渡す。神以外にカードを偽造することなど不可能なので、表示された文字とステータスを見てしまえば信じるしかない。
竜を崇めるカーディナルとしては、竜を殺した人間に複雑な思いを抱く。宗教観に似たものからは非難する思いが湧く。けれど黒竜がしてきたことを思うと責める気持ちは萎む。
護国竜が同族を殺されたことを責めていないので、カーディナルも非難の思いを御して封じ込めた。
「本当のようだ。黒竜は竜の中で一番強かったと聞いたことがある。偶然でも倒すことができたのは、すごいことだと思う。のちほど手合わせ願えないか?」
「お偉いさんとの手合わせは気がひけるんですが、怪我させたら大事だし」
「気にしないさ!」
「軽くでも相手してやった方がいい。でないとしつこく食い下がられる。それに多少の怪我では周囲もどうこう言わんよ」
護国竜が笑みを含んだ声で言ってくる。
それにカーディナルは失礼なと怒ってみせる。それはふりでじゃれているようなものだ。そういった様子からは年齢よりも若い雰囲気が感じられた。
「まあ、少しならば。ところで頼みがあるということなのですが聞かせてもらえますか? 無茶なことならば断るつもりでいるのですが」
「そのためにきてもらったのだから雑談はこれまでとして話すとしようか。できれば受けてもらいたいが」
「話は私も聞いてよいものなのか?」
「ああ、最近我らを悩ませていたことだ。お前さんも聞いていた方がいい」
「悩ませていたというと奴らのことか」
内容が想像ついたのか、腕を組み不機嫌な表情となる。
「始めは半年ほど前か、首都から遠く離れた小村が一つなくなった。どうにか生き残った村人の話によると、魔物を引き連れた人間がやってきたらしい。その村人の話から魔物の絵を描いてみたのだが、誰も知らない魔物だった。人間の方は目深にかぶったフードのせいで、男ということくらいしかわからなかった。兵が調査しても魔物の足跡や去った方角くらいしかわからなかった。去った方角に調査に向かうと、二つ目の村が襲われているところに遭遇した。兵たちが助けるため向かったが、結果は負けだった。なんとか村人が全滅することは防げたがな」
「そうなって当然だ。普段から訓練に身を入れていないのだから!」
ぺジオルド竜国の兵錬度は低い。これはいざとなったら護国竜が助けてくれると思っているからだ。国や民を護るという気概が他国の兵よりも乏しく、結果鍛錬に身が入らない。
他国からは竜がいる間は存続するが、竜が死ねば国も死ぬと見られている。
そういった中で、カーディナルは真剣に鍛錬をしている者の一人だ。護国竜に鍛錬の相手をしてもらい、自身の隊を率いて国内を回ることもある。民を護るという意思を見せて実戦しているため、民からの信は厚い。
自身は象徴とわりきって、政務のほとんどを部下に投げっぱなしは褒められたものではないのだが。
「それは私のせいでもあるのだろうが、今は関係ないな。話を戻すぞ? 二つ目の村が襲われ、兵や村人の証言から最初の村を襲った魔物と同じだとわかった。その後も村は襲われた。移動法則が単純だから次はどこを襲うか予測でき、カーディナルたちが先回りするようになり、私がすぐに動けるようになった」
「カーディナルさんが動くことで、どうして護国竜がすぐに動けるんです?」
「それは私と護国竜との間には繋がりがあるからだ。簡単な意思疎通なら国内にいるかぎり、どこにいてもできる。それを使って村の救助を頼んだのだ」
すごいだろうと胸を張る。幸助はカーディナルの精神年齢がどんどん下がっているように思える。もしかするとこっちの方が素なのかもしれない。
すごいと幸助が頷くと、そうだろうと朗らかな笑みを浮かべた。
「扱いやすい人なのかなぁ」
「なにか言ったか?」
「いえ、なにも。えとそれで護国竜が動いても解決できなかったんですか?」
「最初の戦闘以外はすぐに退くようになったからな。それでも魔物のほとんどは倒しているのだが、戦う度に数が元通りになっている。おそらく襲撃犯は、人間の死体を材料にして魔物を生み出しているのだろう。人間の死体を持ち去るところを見たことがある」
「ふざけた奴らだ! 殺されさらわれた者にはまだ十にもなっていない子供もいたのだっ。斬り捨てなければ気がすまんっ」
先ほどまでの上機嫌さを消し、表情を怒りに染めている。
「逃げる襲撃犯を追わなかったんですか?」
「もちろん追ったさ! しかし転移で逃げられてしまっては追いようがなくてな。転移を阻止しようにも魔物たちが壁になって突破できないし、どうしたものかと頭を悩ませているんだ」
「俺に頼みたいことってのはそいつらを殲滅か捕獲すること?」
そうだと護国竜が頷く。
「顔を知られていないお前さんなら旅人と言って近づけるし、奇襲で襲撃犯をどうにかできると思ったのだ。そしてできるなら襲撃犯の考えを知るため捕獲してほしい。行動が怪しいからな」
一番怪しいのは行動バターンがわかりやすすぎることだ。国内外縁を弧を描くように移動している。村を襲撃する日時も大きなずれはなく、まるで見つけてくれと言っているようなものだ。気まぐれでの襲撃ではありえず、なにか企んでいるとしか思えないのだ。
もう一つ気になるところがある。襲撃犯の率いる魔物の強さが少しずつ上がっているのだ。始めは鍛錬のなっていない兵が三対一で立ち向かえば勝つことができた。しかし現状ではその倍で相手しないと勝てなくなっている。
徐々に強さを上げることに何か意味はあるのかと考えていた。
「次に襲撃日と襲われそうな場所はわかってます?」
「どこだったか」
「ここから北西へ馬で二日の位置にある地域だ。時刻は四日後の日が暮れた少し後だ」
思い出そうと首を傾げたカーディナルにかわって、護国竜がさっさといくつかの村の名前などを言った。
襲撃の前日にカーディナルを含めた兵がすぐに駆けつけられるよう、襲撃予定地域に陣をはることになっている。幸助は兵に会っても自分からは接触しないで、国とは無関係を装ってほしいとも付け加えた。
「もう少しで思い出せたのだぞ!?」
「どちらが言ってもかわらないだろう」
護国竜に噛み付くカーディナルを見つつ、幸助は飛翔魔法で半日もかからないなと考える。
「とりあえず今日のところは帰ります。急に予定がずれるかもしれないから明後日には村に向かうことにしますよ」
「受けてくれるか、助かる」
「報酬はもらいますけどね。お金でいいんで準備しておいてください」
村づくりのため、お金があって困ることはない。
報酬を求めることは納得できるが、お金の要求にカーディナルは意外といった表情を浮かべた。
「お金でいいのか? 高価な武具とかでも用意できるぞ? 国からの依頼なのだからそれくらいは軽いものだ。冒険者としてはそっちの方がいいと思うのだが」
「武具は間に合ってますから。この剣とジャケットで十分です。今はお金が必要ですから、そっちの方が助かるんですよ」
「そうか、ならば成功報酬として閃貨を準備しておく」
忘れないように懐から取り出したメモ帳に書き付けていく。
それを懐にしまい、期待に満ちた目で幸助を見る。
「早速手合わせしよう!」
「あまり多くの時間は取れませんよ? この後用事がありますし」
今日はやれないと思っていた建築材料集めをしようと思っていた。
「一時間も相手してやれば満足するだろうさ」
「まあ、それくらいなら。場所はどこで?」
「ここでと言いたいが、庭師が怒るか。もう少し上に行ったら広場がある、そこでやろう」
「では先に行っているぞ」
そう言うと護国竜は羽ばたいて上にあるという広場に向かう。
残った二人は並んで歩き出す。
「いやー楽しみだ。カードを見たかぎりじゃ、コースケの方が実力が上らしい。実際にどれくらいのものなのか今からわくわくするな!」
「戦うのが好きなんですねぇ。ルビダシアの親子みたいだ」
「丁寧に話さなくていいぞ?」
部下や民からも公式の場以外では、砕けた口調で対応されることがある。公私を弁えれば細かいことは気にしない。
「んじゃ少し砕けて話すことにしますよ」
「ん、それでいい。ルビダシアといったが、コウマの侯爵のことか?」
「縁あって知り合いになった。父親と娘が戦い好きでよく相手しているよ」
「娘の方はどうか知らないが、父親のゲンオウ殿はかなりの腕と聞く。そういった者の相手ができるなら期待が持てるなー」
鼻歌を歌いそうな雰囲気で歩く。その隣で幸助はそういえばと、聞こうと思っていたことを思い出す。
「護国竜がこの国を護る理由か」
「答えられないことなら返答なしでいいよ。絶対聞きたいってわけじゃないし」
「たしか竜に生まれ変わる前は、この国の人間だったとか言っていたな。かすかにそんな記憶があるらしい」
こちらの世界でも輪廻転生があるのだなと驚きの表情を浮かべた。それをカーディナルは前世の記憶があることへの驚きと取る。
この世界では魂は循環している。肉体などを失った魂はしばらく世界を廻り、やがて動植物あらゆるものに入っていく。その時には大抵以前の記憶は消えているのだ。護国竜のようにかすかでも残っているのは珍しいことだ。
「どれくらい覚えてるものなんだろう」
「風景や暮らしが五つほどと言っていた。あとはこの国の生まれと覚えていたらしい、それでこの国に居つき護るようになったのだと」
なるほどなと返事を返す幸助に、カーディナルはあそこだと広場を指差す。
そこに行くまでに道はあるものの、庭園のように手入れされておらず、細く歩くやすいとはいえない。二人にとってはなんてことはない道だ。
五分ほど道を上がり、ある程度の広さを持つ崖についた。道はここで終わっており、この先を進もうと思うならば道なき道を行く必要がある。
到着した崖からは斜面にそって立つ建物がいくらか見えた。
首都は護国竜の住む山に造られたのだ。山の中腹に神殿があり、そこから下が住宅街などで、麓に市場などがある。護国竜の巣は頂上付近にある。そこには誰も近づけず、人が行けるのは竜庭の少し上までだ。
護国竜は崖の奥に座って二人を見ている。
「早速やろう」
カーディナルはマントを外し、腰の剣を抜く。両手持ちもできる白銀の刃のバスタードソードで、鍔には朱の染料で意匠が施され、柄には朱の布が巻かれている。
剣と鎧はカーディナル用に造られた特注品で、そんじょそこらの武具とは比べものにならない代物だ。特殊な能力などはないが、頑丈で扱いやすさを重視して造られている。
「真剣でやるんだ。大丈夫なのかな」
「当てなければ平気さ。寸止めか狙いを逸らして攻撃すればいい。かすり傷ならばれないように治療もできるしな!」
「俺は一応鞘つきでやるよ」
「それは構わないが、一度抜いて見せてくれ。どんな剣か見てみたい」
見せるだけならばと鞘から抜く。手入れされた黒の刀身が光を受けて輝きを見せる。
「すごい剣じゃないか? なんとなく雰囲気を感じる。銘があったら教えてほしい」
「なんだったか……ああ、ルッツバイダ」
「それってたしか鍛冶の神に褒められた剣じゃないか! 持ち主が表立って行動しないからどこにあるかわからない剣だと聞いてた。見ることができるとは」
ルッツバイダと示す証拠はないが、剣のできや雰囲気が疑わせなかった。
興奮したように見ていたカーディナルに断り、鞘に納める。
「あとでまた見せてくれ!」
そう言いつつ剣を構える。構えや雰囲気から、鍛えているというのは嘘ではないとわかる。確実にジェルムよりも強いだろう。D+の上位か、C-に届いているのかもしれない。
幸助も意識を変えて、剣を持つ。途端にカーディナルは幸助から静かな威圧感を感じ取る。どこを攻めても止められ、反撃を受けそうな感じがして近づくことができない。
そのまま十秒二十秒と過ぎていき、一分が経ちカーディナルが動いた。
そこからは両者共動いていき、時々雑談を交えた休憩を挟んで一時間が経つ。
幸助は体が温かくなっており、カーディナルは汗を流し肩で息をしている。怪我はどちらもなく、体力だけ減っている状態だ。
カーディナルの攻撃は全て回避され、カーディナルに向けられた攻撃は全て寸止めだった。
「強いとは思ってたけど、ここまで差があるとは。奇襲も駄目だったし」
「寸止めしてるところに突っ込んでくるのは驚いたよ」
「一度くらいは有効な攻撃を当てたかった! それすらも対処されたけどな!」
「まあ体力減ってる状態だしね。それじゃ帰るよ。そういや襲撃犯って捕まえたらどうすればいい? 兵に渡す?」
「んーこれを預けておく。近くに兵がいたらこれを見せて渡せばいいし、近くにいなければここに連れてきて下にいる兵に用件を告げれば話が通るようにしておく」
その場に座り込んだカーディナルは、装飾の施された細身の短剣を腰から取って、鞘ごと幸助に放り投げる。
短剣を受け取った幸助は転移の準備を始める。その幸助にカーディナルはまたやろうなーと手を振った。
予定通り二日後に幸助は襲われる確率の高い村にきていた。日が暮れてから定期的に空へと上がって周囲の様子を探るつもりなので、他所の二箇所が襲われてもどうにかなるだろう。
今回も魔法を使いシオンに変装している。戦闘時に目立たなければいいかと思ったのだが、兵たちが集まってくるといやでも目立つかもしれないので正体を隠すことにした。
滞在する村は人口二百人と大きいとはいえない村で、宿があるかと幸助は不安を感じながら探し、小さいながらも見つけることができた。
「こんにちは」
「いらっしゃい。お一人ですか?」
「はい、今日から三日泊まりたいんですが」
その言葉に女将はおや? と少し驚いた表情となる。
「三日も泊まるなんて珍しい。こんな小さな村になにか用事?」
「いえ、ここまで急いできたので長めに休憩をとろうと。予定には余裕がありますし」
「そうなの。できるだけ寛げるようもてなしますよ」
「お願いします」
幸助はここには配達の途中で寄ったということにしている。誤魔化すために言った予定地は、馬車を使えば楽に早く到着する。それを怪しまれることはない。村の近くにある山を歩いて越えると距離が短縮でき、運賃の節約になる。幸助以外にもたまに同じようなルートを取る者がいるのだ。
このことは模擬戦の休憩時にカーディナルから聞いていた。ついでに変装しているかもしれないとも言っておいた。
まあ、女の一人旅ということで少し不審に思われているが、強い女がいないわけではない。幸助もそんな一人なのだろうと思われている。
部屋に荷物を置いて、窓から村を見渡す。今のところ不穏な気配などなく、人々はいつもとかわらずに生活している。村人の多くは畑に出ているようで、村の中は小さな生活音が響く。平穏そのもので、この平穏がずっと続くと人々は考えているのだろう。
「カーディナルたちが陣をはるのは明日だったか。それを知ると少しは不安に感じるんだろうな」
ベッドに寝転んだ幸助は昼寝を始める。疲れていると言い訳したのだ、あちこち歩き回るわけにはいかなかった。そのまま夕方まで寝て過ごし、気温が下がってきたことに気づき目を覚ました。
酒場があるということなので、そこで夕食を食べることにしていた幸助はギターを持って宿を出る。
夕飯を食べた後、適当に曲を弾きながら、最近の出来事を聞いていく。魔物の影でも見ていれば、夜の内にその場所周辺を探ってみるつもりだった。しかし元からいる魔物以外に見たという話はなく空振りに終わる。
酔っ払いをあしらいつつ、酒場の主人から差し入れのジュースをもらい、午後八時前に宿へ戻った。
帰りが遅かったことを女将に心配され、理由を話した後風呂に入る。
風呂から上がり、熱をさましながらのんびりと夜の村を見る。ぽつぽつと魔法の明かりが家から漏れ出ている。空には三日月と雲が浮かぶ。
「外に出るにはまだ早いな」
もっと皆が寝静まってから動こうと窓を閉める。
その二時間後宿の中も静かになり、幸助はそっと窓を開けて飛翔魔法で外に出る。漏れ出る明かりの数はだいぶ減っていて、三軒ほど明かりがついてるだけだった。
そのまま上空へと上がっていき、襲撃予定の村二つも視界に収める。そこ以外に明かりがあれば襲撃犯の滞在地の可能性がある。
「ここからは見えないか。ちょっと動こうかね」
すいーっと移動していき周辺を探し、異変はないことを確認した。
「逃亡する時と同じように当日転移でくるのかも?」
今日はこれでしまいにして宿に戻り眠る。予定よりも早い襲撃はなく、爽快な朝を迎えることができた。
朝食後は散歩と称して、ギター片手に村中を歩く。歩きながら曲を弾いていると子供たちが集まってきた。その子らに曲を聞かせながら、雑談を兼ねて情報を集める。大人たちと同じようにおかしなものは見ていなかった。
そうやって過ごしていると兵が二人近づいてきた。
「失礼ですが少しお話を聞いても?」
そう言う兵の目には疑いと困惑の色が見えた。変装しているかもとカーディナルから聞いたが、性別まで偽るとは思ってもいなかったのだ。雰囲気や仕草も女で本当に話に聞いていた助っ人なのかと疑惑を抱いている。
「ええ、かまいませんよ。こういうわけだからお姉さんは行くね」
子供たちにまたねと手を振られ、曲を弾いていた場所から離れる。
「お話というのは?」
「宿の女将からあなたは配達の途中と聞きました。間違いはないですか?」
「はい、依頼の途中でここに寄りました。休憩して山を越えてショートカットする予定です」
兵たちは顔を見合わせる。
「配達の品を見せてもらっても?」
「どうぞ」
ショルダーバッグに入れていた短剣の入ったケースを渡す。
それを開いて中身を確認した兵は思案げな表情となったが、ケースを閉じると幸助に返す。
「失礼しました。最近不穏な噂を聞きます。あなたも十分気をつけた方がいいかと」
「ええ、心配ありがとうございます」
兵は一礼すると幸助から離れていく。彼らはカーディナルから聞いていた話とほぼ一致しているので一応本人と認めた。だがカーディナルに確認する必要もあると考えていた。それほどに変装が完璧だったのだ。
一人になった幸助は昨日の酒場で昼食をとることにして、そちらへ歩いていく。
その後の行動は前日と同じだ。そして夜が明け、予定日となる。朝はいつもどおりだったが、昼を過ぎて夕方になる前に幸助は山の方角から、これまでなかった気配を感じ取った。
部屋の窓から山を見る。姿は見えないが、なにかが群でいることはわかる。
「来るか」
剣をいつでも抜けるようにベッドに立てかけて、気持ちを静めていく。闘志を昂らせると相手に気づかれていると知らせることになりかねない。そうなれば奇襲も上手くいかない可能性がある。
これまでどおりに動き、村人にも異変を悟らせない。ただし酒場には行かなかった。明日出発なので落ち着いて準備をしたいと言い、宿で夕食を食べる。
そして午後六時を過ぎて、山の気配が動き出す。山をじっと見て気配の移動先を探る。
「こっちに向かってるってことでよさそうだ」
呟いた幸助は剣を持ち、村人にも見つからないよう移動していく。村から少し離れた木の枝の中に隠れて、魔物の到着を待つ。
少しずつ気配が近づいてきて、視線の先にいくつもの黒い影が現れた。見た目は獣人だが、以前見たことある獣人やギフトで半獣化した人間とは気配がまるで違う。見た目も獣人そのものではない。体の一部がない者、毛がところどころ生えていない者、体の一部のみが不自然に筋肉増加している者、人にはないパーツがついている者など、自然には生まれてこないだろうという体型の者たちばかりだ。
数は百五十ほどか。戦闘訓練を受けていない村人には辛い数だろう。
その中から幸助はターゲットのフードの男を探していく。
「いた」
群の最後尾で、魔物たちに囲まれて歩いている。
幸助は気配を殺し木陰から木陰へ移動し、男に近づいていく。群の足音に、幸助の出す小さな足音はかき消され、男が気づいた様子はない。ある程度近づいたところで、そこに潜み男がそばに通るのを待つ。
二十メートル、十メートルと近づき、五メートルまで距離が近づいた時に幸助は飛び出した。
「なんだ!?」
男はまったく気づいていなかったようで、驚きの声を上げた。そんな男を気にせず魔物たちは村へと歩く。命令をして始めて攻撃行動にでるのだろう。そのまま男を無力化してしまえば村を通りすぎるだけとなるかもしれない。
幸助は男の周りにいた魔物を冥福を祈りつつ斬り捨てて、男に迫る。
「騎士でも苦戦するこいつらを一撃!? やばい!」
一撃で倒れた魔物を見た男は慌てて、体に力を込める。そして迫る剣をぎりぎり避けることができた。かわりにフードが切り裂かれ顔が外気に触れる。
「角と鱗?」
現れた男の額にはヤギのような小さな角が生えており、竜ではなく魚のような鱗が頬についている。ローブから出てきた手にはごつく尖った爪がある。
「我らが表舞台に立つにはまだ早い。知られたからには、ここで死んでもらうぞ!」
飛びかかってくる男の動きは偽神よりも遅いものだ。ここで一撃で殺すことが可能だが、情報を引き出すために互角の戦いを演じることにする。
「くっ早い! さっきは不意をつけたから一撃だったけど、これはまずいかも」
少しわざとらしいかと思ったが、
「ふははっ! 我らの研究の成果だ! そこらの実験体と比べられては困るっ」
といった男の反応を見て、ばれていなさそうだと小さく溜息を吐いた。
そこからは男の攻撃を剣で受け、胴体狙いの攻撃は受けて後退してみせる。それに気をよくしたか男は攻撃の勢いを増す。
演じているうちに、村から悲鳴が上がった。
「しまったな。命令する前に村についたか。さっさとこいつを始末して命令しなければ」
「村をどうするつもり!? あそこには世話になった人たちが!」
「くくくっどうする? 決まっているっあの村は今日滅びるのだ!」
「させるものか!」
力を抜いて振られた剣を男はバックステップで避ける。肩で息をしてみせている幸助を見て、男は鼻で笑う。
「俺に勝てるとでも思っているのか? お前は村人よりも先に死ぬのだ!」
「くっ」
男が振り下ろした爪を剣の腹で受け止める。力負けしているように少しずつ剣を引いていく。
「あなたたちは何者なの! どうしたこんな酷いことを!」
「我らは意思を継ぐ者! 偉大なる天才の弟子! やがては世界を滅ぼすのだ!」
「なにを言っているの!? 世界を滅ぼすなんて不可能よ!」
剣を顔の前まで引き、爪が幸助の頬に触れる。
「天才が残した文書を持つ我らにはそれが可能なのだっ」
言いながら、このまま押し切ってやると自信に満ちた笑みを浮かべた。
いい加減演技するのも面倒になってきた幸助は、ここらで十分かと判断する。
顔近くにあった剣をひょいっと押し戻し、体勢を崩した男を蹴り倒す。地面に転がった男から笑みは消え、驚愕の表情が出てきた。
「な!? どこにそんな余力が!?」
「演技しながらの手加減は疲れる」
「演技!? 馬鹿なっ研究の成果をこの身に刻んだ俺に苦戦していなかったというのか!?」
「そこまで強くないからね、あんた」
「これは予想外の障害があったものだ。皆に知らせなければ!」
男は慌てて転移の準備を始める。
「逃がすと思うか?」
一足飛びに近づいた幸助は男の胴を真横に切り裂く。赤の血飛沫が舞い、痛みで中断するだろうと思ったが、男は根性を見せて転移の魔法を完成させた。
消えた男を見て、幸助は頬をかく。
「逃がしたかー。収獲はなしってわけじゃないし、わかったことを伝えないと」
依頼失敗かなと思いつつ、村に戻る。短い準備しかできていないので、遠くまでは行っていないだろう。しかし見つけ出す前に、再び転移の魔法を使われそうで探すことは諦めた。
村では行進するだけの魔物に村人が戸惑っている。始めは逃げていたのだが、攻撃してくるわけでもなくただ歩いているだけと気づき、様子を見るだけとなっていった。
そこに兵たちが到着する。先頭には馬に乗ったカーディナルがいた。兵たちも予想していた光景との違いに戸惑いを隠せない。
「どうなっている?」
幸助は短剣を手のひらに載せて、カーディナルに近づく。
兵たちは警戒し、カーディナルを護るため立ちふさがる。だが短剣に気づいたカーディナルが手を上げ、大丈夫だと示す。
「その短剣は……もしかしてワタセなのか?」
「はい、魔法を使って変装中です。襲撃犯と先ほどまで戦っていたのですが、深手を与え情報を引き出すことしかできず、逃がしてしまいました」
「そうか。その情報をあとで聞かせてくれ。今はこの魔物たちをどうにかしなければ」
「襲撃犯の命令がなければただ歩くだけのようです」
「ああ、それで村に被害が出ていないのか。ならば、村に被害が出ないように魔物を倒すのだ!」
兵たちから威勢のいい返事が上がり、魔物はすぐに排除された。
魔物の死体が村の外に運ばれているうちに、幸助は聞き出した情報をカーディナルに話していく。それに付け加え、男が戦いに関しては素人だったこと、研究が肉体改造に繋がるものではないかという推測も付け加えた。
「世界を滅ぼす?」
「たしかにそう言ってました。天才というのはセブシック大陸で騒動を引き起こした者で間違いないでしょう。捕まらなかった弟子がいると聞いたことがあります」
「他国に知らせなければならないだろうな。ご苦労であった、後日報酬は渡す。そうだな、五日後の昼過ぎ例の場所で待っている」
「四日前に別れたところですか?」
確認すると頷きが返ってくる。
わかりましたと言い、預かっていた短剣を返す。
一応仕事を終えた幸助は宿に戻り、翌日家に帰った。
魔物の処理を終えたカーディナルは、陣を引き払い首都に戻る。そこで竜神官と護国竜に知ったことを話す。
竜神官から各国の王へ天才の弟子に関する情報が流される。その反応は様々だった。ほとんどは信じられないといった者だったが、幸助から直接情報を得たホネシングとコウマとカリバレッテは、警戒するに値するとぺジオルドへわかっている情報の提供を求めた。
約束の五日後に幸助は崖へと転移する。しばらく風景を眺めつつカーディナルを待っていると、三十分ほどでやってきた。
「もう来ていたのか、待たせたようですまないな」
「風景が楽しめたから、それほど時間は気にならなかったよ」
「いい風景だろう? 私もここからの風景は好きだ」
言いながらカーディナルは幸助の隣に座る。そして手に持っていた袋を渡す。
「報酬だ」
「ありがとう」
確認せずに懐にしまった。その行動が自身を信じていると示しているようでカーディナルは嬉しげな笑みを浮かべる。
「あれから魔物の動きはどう?」
「次の推測日にはなっていないからわからないが、予定外の動きはしていないな」
互いに風景を見ながら話していく。
「念のために次の推測日教えてもらえる? 来るよ」
「ありがたいがいいのか?」
「依頼失敗したようなものだしね。報酬はなしでいいよ」
気前がいいなと言って、推測した日付を口にする。
覚えた幸助は立ち上がる。隣に置いていた木剣を手に取り、模擬戦するかとカーディナルに問う。
応と勢いよく答えたカーディナルは、差し出された木剣を手に取り、立ち上がる。
崖からは木のぶつかりあう音が聞こえ出し、カーディナルの楽しげな声も周囲に響いていった。
感想ありがとうございます