当主様はまちぼうけ
夜が明け、目が覚めたグダナル一家は改めて再会を喜びあう。目が覚めたら家に戻っていたジュリオは混乱していたようだが、両親の顔を見てどうして助かったのかどうでもよくなり、ただただ家に戻れたことを喜んだ。
朝食の席で、幸助とウィアーレを紹介されお礼を言ったジュリオは、ほかに捕まっていた子供たちのことがどうなったか聞く。もしかすると自分だけ助かったのではと思ったのだ。だが全員助けれたと知って安心したように笑う。それを見て、心優しい子なのだなと幸助とウィアーレは和み、夫妻も育て方を間違ってはいなかったと嬉しくなった。
「これでここに滞在する用事もなくなったし、宿を探そうかな」
「そうだね。いつまでも滞在するわけにはいかないし」
「いくらでもとは言えないが、武闘大会が終わるまでは滞在していってください」
出て行こうと話し合う二人をグダナルが引き止める。お礼もまだしてないのだ。もう少し滞在していってほしい。
「もう少ししたら連れもくるはずだから、さすがにその人も世話にはなれないよ。
そんなわけだから今日中には宿を……あ」
「どうしたのコースケさん」
何かを思い出したかのように言葉を止めた幸助に、ウィアーレは首を傾げる。
「明日までここにいないといけないかも」
「私たちとしてはかまいませんが、なにか特別な訳でも?」
「助けるときに協力した人がここに来るようになってるんだ」
「救出に動いたのはワタセ君だけではなかったのか。その人にもお礼を言わなければ。
詳しい話を聞かせてもらいたい」
幸助はグダナルと別れてからのことを話し出す。
ジュリオは妻に連れられて、散歩を兼ねた買い物に出かけている。誘拐されたことを思い出させることのないようにといった配慮だ。
二人が一番憤ったのは、ジュリオのほかにも誘拐された子供がいたという部分だ
絞首刑にでもなってしまえと気炎を吐くグダナルにウィアーレも同意し、その様子を見て幸助は少しだけ引いていた。
話を終え三十分ほど経ち、出かけていた二人が帰ってくる。
家事と商売の手続きをする夫妻に代わり、することのない幸助とウィアーレがジュリオの相手を始める。主に相手をしているのはウィアーレなのだが。幸助はオセロをしている二人を横から眺めているだけだ。
そうして時間が流れ、昼食を食べ、ジュリオの相手を再開し四時手前といった頃、店にいたグダナルに声をかける者がいた。白の下がさねと青紫色の単といった、幸助の見知っている束帯よりもほっそりとした簡易束帯に身を包んだナガレだ。
「はいはいどちらさまですか? 店は明日からなのですが」
「申し訳ない、客ではないのです。こちらにコースケという青年が滞在しているはずなのですが」
「あーあなたがナガレさん。
息子を救出してもらいありがとうございます」
グダナルは深々と頭を下げたあと、家の奥へ声をかける。
「ワタセ君! お客ですよ」
呼ばれたコースケは軒先に現れ、昨日とは違った姿のナガレに少し驚いた。ついてきたウィアーレも見慣れない服装に目がいっている。
やってきた幸助にナガレは小さく一礼する。流したままの黒髪がさらりと揺れる。
「約束どおり、お礼に参りました。
私の主もお礼を言いたいと言っておりまして、失礼ながらご足労願えないでしょうか?」
「お礼とかいいのに。ありがたく受け取ったと伝えてもらえる?」
その言葉にナガレは困ったような表情を浮かべた。
「主が是非会いたいと申してまして。
お越し願えないでしょうか?」
「絶対行かないと駄目?」
お偉いさんと関わると碌なことにならないのではと思いつつ聞いてみる。
エリスやホルンといった特級のお偉いさんと関わって神域に行ったのだ、これ以上の縁はさらなる困難を呼ぶかもしれないと考えている。
「正直、来てほしいです。
主に報告したとき、あなたのことも報告しました。主はあなたの能力の高さに興味を抱いたのです。主もシズク様も強い方が好きですから。
もちろんお礼を言うことも目的ではあるのですが」
シズクというのが、ナガレが助けたかった子供の名前だ。
「コースケ君が来ない場合は主が押しかける可能性もあります。
そうなるとところかまわずに勝負を挑むことになり、被害が出るかもしれません。似顔絵を描いて渡してあるので、間違って他人を襲うということはないでしょうけど」
「自重はしない人なの?」
幸助は呆れを滲ませた声を出す。
「ええ、戦うということについて妥協しない人たちですから、あの親子は」
自分のことを口止めするように頼むんだったかなと幸助は考えているが、口止めされてもナガレは報告していただろうから、あまり意味のない思考だ。
いまだ会っていないナガレの主に対しての心象をマイナスにしながら承諾を口にする。ナガレに対しての評価は保留だ。命じられての脅しなのか、自身の判断での脅しなのかわからないからだ。
「行けば被害はでない?」
「ええ、出てもごく小さなもので済むのではと思われます。それくらいの被害ならば、うちのものは慣れておりますので」
「行ったほうがいいかな、これは。
その前に宿の手配をしときたいんだけど」
面倒ごとを頼まれた場合は時間を引き延ばして、エリスと合流し逃げればいいやと思いつつ、会うことに頷いた。
「来てもらえるのならば、多少の寄道は問題ありません」
「そういうわけだから、ウィアーレ荷物まとめよ。
ちょっと支度してきます」
そうナガレに断りを入れ、幸助たちは家の奥に戻っていく。
グダナルたちはもう少し滞在してはどうかと引き止める。まだ恩返しできていないのだ。だが幸助としても早く宿をとらないと大会が近いせいもあって、宿無しになりかねない。エリスがここにどれくらい滞在するかわからず、下手すると長期滞在もありうる。そうなった場合、長くここに厄介になる可能性もあり、それはさすがに気がひけるのだ。結局いつかお礼をしてもらうということで納得してもらい、幸助とウィアーレはグダナルたちに別れを告げる。
「俺たちここには初めてきたんだけど、ナガレさんは宿のある場所知ってる?」
「ええ、わかりますよ。
今の時期だと格安はすべて埋まっていると思いますね。それなりな宿も下手すると埋まってるかもしれません。
確実に空いてるのはランクの高い宿でしょう」
「一人一泊いくらくらい?」
「そうですね……銀貨二枚あたりだったかと」
「銀貨二枚!?」
驚いた声を出したのはウィアーレだ。一般的な宿で一泊銅貨四枚、実に十倍の差があるのだから驚くのも無理はない話だ。
幸助もウィアーレほどではないが、シディの宿との金額の違いに驚いている。
ちなみに最高ランクの宿で一人一泊銀貨十枚払うところがある。一般人の月収入の半額が一日でとんでしまうのだ。もしそんなところに泊まるなどということになれば、ウィアーレは気絶しっぱなしで過ごすことになりかねない。
「ココココースケさん!? そそそんなところは止めようね!? ね!?」
我侭と言うなかれ。泊まるのは一日だけではなく数日に渡り、そうなると一般人が気軽に使えるような額ではなくなるのだ。
「一般的な宿が空いてればそっちに泊まるよ。でもなかったら高い方に行くから」
閃貨十枚あるのだから、泊まることになっても問題はない。長期滞在も可能だ。お金はあるのだから野宿という選択肢はない。
一般的な宿空いてますようにと必死にウィアーレが祈る中、三人は宿へと向かう。
その間に幸助は昨日の顛末を聞く。
「彼らはセブシックからカルホードへと流れてきた犯罪組織の一部だったようです。
大元の組織は半年ほど前に壊滅。幹部は軒並み死亡。彼らの多くは下っ端、一番上でも幹部直属の部下のもう一個下。
組織を立て直すため、こちらで資金集めをしていたようです。
下っ端ですので行動も計画も大雑把。綿密な計画を立てられるならば、シズク様をさらうといった目立つ行動はしないでしょう。事実自分たちがさらった子供が、侯爵家の跡取りだとは知らなかったようですよ。侯爵家縁の者だと聞かされ驚いていました」
「大物をさらうつもりはなかったのか。今は雌伏の時だと一応わかってたんだな」
「そうですね。ですがまともな計画も立てられないのでは、近々捕縛されていたと思います」
「これでその組織は完全に壊滅したことになるのかな?」
「それが組織の人間はまだいるようで。あの廃墟に兵たちが向かった時、偶然仲間の様子を見に来たらしい男と鉢合わせたのだと聞きました。その男は兵たちを見て、仲間は捕まったのだと判断し、すぐに逃げ出し捕まえることはできなかったということです」
「またほかの場所で誘拐とかするかもしれない?」
「おそらくは」
「しつこい奴らだねぇ」
「本当に」
「そういえば捕まった奴らの処罰ってどうなる?」
「口封じのため、情報を引き出したあと首をはねられました」
命が軽いなと、幸助は心の内のみで思う。
死刑が珍しい現代日本人ゆえの感想だろう。むしろこちらの処罰としては当然の結果だ。手っ取り早く再犯を防ぐことができるのだから。
「あ、見えてきましたよ」
ナガレが宿を指差す。
三人は宿に入る。入った瞬間、幸助とナガレは多分駄目だと予想できた。人の気配が多かったのだ。
幸助が用件を告げると、予想通りの答えが返ってくる。
「申し訳ありません。すでに満室でして」
「そうですか。残念です。
ここらに空いてそうな宿はありますかね?」
「そうですね……私どものような冒険者や庶民相手の宿ですと難しいかと。
人がいないように見えて、すでに予約済みなんてこともあるでしょうね」
「ありがとうございます」
「いえ、またのお越しをお待ちしております」
この宿のほかにも三軒ほど訪ね歩いて、どれも同じ返事だった。その返事を聞くたびにウィアーレの顔色は悪くなっていった。
「これはもう覚悟を決めて高い宿に行くしかないよね」
「そうしたほうがいいでしょうね」
二人は同情を込めた目でウィアーレを見ている。
「あれだよ。滅多にできない贅沢だと思って開き直ってしまえばいいよ」
「一生に一度なような気もする」
「さすがにそれは言い過ぎでは?」
「私のギルド員時代の給料だと、言い過ぎじゃないんだ」
加えて今は無職みたいなもの。そこから考えると、支出の大きさに過剰な反応するもの無理はないのかもしれない。
テンションの低いウィアーレを連れて、幸助たちは高ランクの宿にやってきた。
しっかりとした造りの大きな宿で、華美な内外装というわけではないが、それでも安っぽさは感じさせない。フロントホールは白く光沢ある総石造りで、綺麗に磨きぬかれ、掃除一つにも妥協は見せていない。
フロントいる受付は、やってきた見るからに一般人といった幸助たちを見て、表情を変えるなどということをしない。教育も行き届いているのだろう。
「いらっしゃいませ。宿泊されますか?」
「うん。部屋は空いてるかな?」
「はい。いまだ空きがございます」
「じゃあ個室三部屋、お願いできる?」
エリスの分も取っておくつもりだ。
「三人でのお泊りなら、大部屋もありますが?」
「男女での泊まりだから分けておいたほうがいいと思うんだけど」
「大丈夫です。寝室が個室になっている大部屋ですから」
「それなら大丈夫か」
幸助はウィアーレにそれでいいか聞こうとして止めた。このことについては聞いてもたいして参考にはならないだろうと思ったのだ。
「その大部屋でお願いします。いくらになりますか?」
「一泊銀貨五枚となります。書斎や遊技場使用、マッサージといったサービスをご希望ならば、銀貨一枚追加となりますが、いかがいたしますか?」
「んー……今ここで払わなくてもあとでお金払えばそれらのサービスを受けることは可能?」
「はい、可能です。その場合は、サービスを受ける際にお金を頂くことになります」
「じゃあいいか。サービスはなしで。
とりあえず十日分先払いしときます」
金貨二枚を取り出し、受付に渡す。
偽物ではないかを確認し、受付はお釣りを差し出す。
その後、食事は朝七時から夜九時までの間ならばいつでも食堂で食べることができる、浴場の使用時間などといった諸注意を話し受付は鍵を渡す。
「あちらに見える階段を登り、目の前にある廊下を真っ直ぐ進み、左にある202と書かれたプレートの部屋がお客様の部屋となります」
「これからしばらくお世話になります」
「お、お世話になります!」
そう言って頭を下げた幸助とつられるように頭を下げたウィアーレを、受付は好意的な目で見る。宿の職員も人格を持つ個人だ、礼儀をわきまえている客には好感を持つ。
「はい。こちらも精一杯おもてなしさせていただきます」
受付と別れた三人は指定された部屋に向かう。
このような宿の話はシディにとっていい土産話になるのではと思った幸助は、歩きながらあちこちを見渡し物の配置などを覚えていく。
ウィアーレとナガレからはただ落ち着きがないように見え、幸助も緊張しているのかと的外れな予想をしていた。
「広いし、手入れも行き届いてるな。銀貨五枚取るだけのことはある」
メイド経験でベッドメイクなどの目利きのできる幸助から見て、手入れは貴族の屋敷と同等のように感じられた。
「本当にここに泊まってもいいんでしょうか」
ウィアーレにとってはこの部屋が眩しく見えるようで、目を瞬かせている。幸助にとっては豪華すぎるというほどでもなかった。日本にいた時、テレビで見たロイヤルスイートの方がよほど豪華だったのだ。
「お金払ったし、十日間ここで宿泊することになるよ」
「孤児院とはあまりに違いすぎて安眠できるか、今から不安」
「そこらへんは大丈夫じゃない? 人って慣れる生き物らしいし」
この世界に慣れきっていないことを棚に上げ言う。
「これに慣れては駄目な気がする。私の今後の人生に大きななにかを残しそうよ」
「そうかもね。冷たい?」
幸助は水を飲もうとテーブルの上に置かれている水差しを持って、ひんやりとした感触に少し驚いた。
その理由を知っているナガレが口を開く。
「水差しの下に魔法陣が描かれていませんか? それが常に水差しを冷やしているので、いつでも冷たい水が飲めるのですよ」
「便利だねぇ。ほかの宿でも使えばいいのに」
「その陣は一日しかもたないし、誰もが使用できるわけではない。魔力ランクでいえばD+は必要です。
そのようなランクの人を気軽には雇えないのですよ」
このような細かなサービスも高いお金を払っているからこそだ。
「なるほど。いつも魔法で冷たい水出してたし、こういうのあるって知らなかった」
「水の温度変化も常人にはできないこと。魔力ランクもやはり常人を超えてるんですね」
二人に聞こえないように小さく呟き、これで一つ実力を探れたと心の中のメモにしっかり書き込む。当主から事前に実力を探れるだけ探れと命令がでているのだ。
それに気づかず水を飲み干して幸助はウィアーレに問いかける。
「俺はこれから出かけるけど、ウィアーレはどうする?」
「ついてく。今はまだここに一人でいるのはちょっと無理」
「ナガレさん、ウィアーレが一緒でもいい?」
「大丈夫ですよ。コースケ君さえ来てくれるのなら問題はないです」
いろよい返事をもらえ、幸助とウィアーレは荷物を置いて、部屋を出る。
受付のいってらっしゃいませという、言葉を背に宿を出る。
一歩外に出ただけでウィアーレは溜息を吐いた。休まるべき宿で緊張し、外に出たことでその緊張が解けるという滅多にできない経験をしていた。こんな経験するなんて旅というのは侮れないと、どこかずれた感想を胸に抱いている。
このままナガレの主のもとへと向かうと思われた一行だが、幸助が武具店の看板を見つけそこに寄ることになる。
「いらっしゃい」
店に入った三人を六十ほどの初老にさしかかった男が出迎える。
幸助は男へと近づき、ウィアーレとナガレは棚に置いている武器を眺めだす。
「これの修理を頼みたい」
男は鞘ごとカウンターに置かれた剣を手に取り状態を確かめる。
持ち上げようとして重さに顔をしかめ、それでも持ち上げ鞘から剣を引き抜く。剣の状態を見て、さらに表情は歪む。
「きちんと手入れせずに使うからここまで酷くなる。いったいどれくらい手入れせずに使い続けたんだ?」
「いや一回戦ったせいでそうなったんだけど」
「一回でここまでなるわけないだろう」
幸助と男の会話に興味を惹かれたナガレで近づき、横から剣の状態を見ている。
「これは酷いですね」
「あんたもそう思うだろう。頑丈に作られたこれを一戦でここまで酷使することなんざ無理だ」
「私もそう思いますが」
「いやほんとに一戦でそうなったんだって! 石の巨像ぶった斬ったらそうなったんだよ」
「石像を斬った? 斬りつけ砕いたの間違いじゃなく?」
表現の違いを確かめようとナガレは問う。
「斬った」
断言する幸助にナガレはそうですかと呟いた。
石を斬りつけ砕くことのできる者は多い。だが斬れる者はというといっきに数が減る。力任せでは斬ることはできないのだ。そのことをナガレは理解している。なにせナガレの仕える家は武器の扱いに長けた者が多く、彼らの修行の一つに斬岩があり、その様子を何度か目にする機会があったのだ。そんな彼らでもきちんと斬れている者は多いとはいえない。
実力を一端を知ることができたのは幸運だが、ナガレの想像を超え出した幸助に疑惑を抱き始める。この若さにしては能力が高すぎるのだ。もしかすると特殊訓練を受けたどこかの国の諜報員かもしれなとまで考え始めた。
「石を斬った、か。それが事実ならこんな状態になるか」
「本当なんだけどね。
それで修理はしてもらえる?」
「するにはするが、買い換えた方が早いと思うがな。
修理して無茶させなくとも、一年もつかどうか」
「買って半年経ってないのに、もう買い換え」
「半年? 無茶させすぎだ」
「手荒に扱う気なかったんだけどね。
それを修理はしなくていいから、ナイフに作り変えてもらうことは可能?」
初めて買った剣という思い入れと、半年だけで使わなくなるのはもったいないという思いから、日常的に使えそうな物へ作り変えることは可能かと思い聞く。
「多少時間はかかるぞ?」
「どれくらい?」
「そうさな……五日、うん五日時間があればいい」
「それでお願いします」
「ああ、任された」
「それじゃあ新しい剣なんだけど、予算は閃貨三枚。それ以上に頑丈な剣ってある?」
「閃貨三枚も予算があるなら、ほかの都市に行ったほうがいいぞ?
うちにあるのはあのハルバードの閃貨二枚が最高額だ」
男は背後に飾られたハルバードをくいっと親指で示す。
件のハルバードは磨きぬかれた白銀の光沢と柄に描かれた朱色の紋様が、ほかの武具とは一線を画した雰囲気を漂わせている。こまめに手入れされているのだろう。埃の欠片もついていない。
「ほかの店もここと品質は似たようなもの?」
「だろうな」
「ほかに行っても同じなら、ここで買ってくよ。まだほかの都市に行く気はないし」
「うちは商品が売れるならそれでいいんだけどな。
値段は気にせず、頑丈なものを用意するぞ?」
「お願いします」
「ちょっと待ってろ」
男はカウンターの奥へと入っていき、がそごそと保管している品から注文に見合うものを探している。
十五分ほど経ち、男は二振りの剣を運んできた。
一本は今まで使っていたものと同じ長さで、もう一本は切っ先から柄までで一メートルを少し超えるロングソードだ。
「どちらも頑丈さはあの剣をしのぐ。
こっちのブロードソードは鉄とトレスト鉱石の合金でできている。持っていた剣よりも軽く、刃も鋭い。
こっちのロングソードはトレスト鉱石とシャック銀とブラムル鋼の合金だ。こちらは重さでもって叩き斬るといった扱い方になる。
硬度強度ともにロングソードのほうが上なんだが、重さが半端ない。筋力に自信がないのならブロードソードを使うことを薦める」
「ロングソード持ってみてもいいですか?」
男が頷く。それを見て、幸助はロングソードを手に取る。たしかに今まで使っていたものより重い。だがそれだけだ。負担にはならない。
ぶれなく振ってみせる幸助を男は驚いた様子で見る。
「その細腕で持てるとは思ってなかった」
「私も持たせてもらっていいですか?」
幸助が片手で軽々と扱ってみせるので、本当に重いのかと思ったナガレは自分も持って確かめてみたくなる。
「はい」
剣の腹を両手で支えるようとするナガレにそっと渡す。
「重っ!?」
五キロくらいだろうと持った剣は十キロ近く、想像以上の重量にナガレは剣を落としそうになる。そうなるかもと思っていた幸助は慌てず、剣を手に取る。
「これもらえる?」
「十分使えこなせそうだな。
ナイフの件とロングソード、合わせて閃貨一枚と金貨二枚になる。ベルトの代金はサービスとしていてやろう」
礼を言って閃貨二枚をカウンターに置く。
ロングソード一式とお釣りを受け取り、確認のため聞く。
「ナイフは五日後に来ればできあがってるんだよね?」
「ああ、仕上げておく」
買い取ったロングソードを背中に背負い、ウィアーレに声をかけて店を出る。その背に男は毎度ありと声をかけた。
これで寄道は終わり、三人はようやくナガレの主のいる場所へと向かう。時刻は五時半を過ぎ、夕食目当ての人々や仕事帰りの人々で通りは賑やかになっていた。