遠くでのひみつのおはなし
幸助からイタルミックを受け取ったエリスは、二度の転移を経てホネシングにある冥族の王都ヴェサミカへと戻ってきた。さきほどまでいたアテリオに比べると少し肌寒さを感じるほどに涼しい。それはここが一年の三分の二の期間雪に覆われる寒冷地だから。
こんな住みにくそうな場所を国としているのは、生命活動を停止もしくは最低限以下の活動をしている体を長期維持するのにちょうどいいから。魔力で維持はできるのだが、相乗効果で楽に維持できるようになるのだ。
この王都を中心に公爵家が治める三都市が三方にあり、さらに外へ外へと侯爵伯爵子爵男爵がそれぞれ治める街が広がっている。
冥族の国はここ一つだ。それは冥族の人口が少ないので、一国で事足りるから。
この世界の知的生物の総人口が四十億、そのうち一億が冥族。一国としては大きいといえるのだが、種族としてみた場合小さな集団、それが冥族だ。
その一億もハーフといった冥族の血を引くものが九割以上を占めており、純粋な冥族つまり変化の儀式で冥族へと成ったものは一万ほどしかいない。
さらに二親に冥族を持つ者、純血の冥族は一人のみだ。
その一人が現在の王で、エリスが今から会いに行く人物だ。
王に会う手続きに二日の時間をかけ、エリスはようやく王宮に入ることができた。エリスが戻ってくると事前にわかっていてこの日数だが、これでも先日ホルンと一緒にきたときよりも短い。先日は招待状を持っていて五日の時間がかかった。
こういった手続きに時間をかけるのが冥族の特徴の一つだ。無駄を省けばかなりの時間短縮が可能なのだが、これが当たり前になっており変える気はなく、変えようとすれば多くの者が反対の意を示すだろう。
「魔女エリシール殿、入室」
謁見室前に立つ衛兵の声が響いた五秒後、魔法を使う者としての正装に着替えたエリスは謁見室に右足を踏み入れる。そのまま歩き、玉座の五メートル手前まで進んで止まり、片膝をつく。入り口からここまでエリスは王の顔を見ないようにしている。
この五秒と右足から踏み出すといったものなどは謁見室に入る作法の一つだ。ほかにも入室後王から名前を呼ばれた十秒後まで王の顔を見てはいけないなど、細かなしきたりがある。
こういった細かすぎなしきたりや手続きに時間をかけることは、無意味に存在するのではなく、それなりの理由があった。
それは簡単に言うとアンデッドとの区別だ。冥族はアンデッドとは違うということを示すため、こういうめんどくさい行いをしている。大昔、人々は冥族とアンデッドの区別がつかなかった。そのときにしつこく間違われた冥族がアンデッドはこんなことできないだろうと、細かなしきたりを作り上げたのだ。それが長きに渡り続いて、今なお存在するのだ。
むきになって続けていたら、いつのまにか当たり前のことになったのだった。
「顔を上げよ」
「はっ」
返事のあと十秒後、エリスは顔を上げる。話し方はいつものものではなく、こういった場に相応しいものとしていた。
エリスは五メートル先にある玉座を見る。そこにいるのは十二才になったかならないかくらいの白髪と赤い目を持つ少女だ。この少女が冥族一億の頂点、現代の王エネーシア・ロディア・ヴェサミカ・ホネシングだ。
見た目は幼いが、優に百を超える年数生きていることをエリスは知っている。
証拠に顔立ちは可愛らしくとも、まとう雰囲気は少女のものではない。笑みを浮かべた表情と違い、目の奥には自信と読みきれない感情が潜んでいる。
声音は耳に心地よい音なれど、そこに含まれるものは長年生きた者の深みのある落ち着いた色だ。
彼女の左右に一番の地位高い大臣ニ名が立ち、残りの者は部屋入り口から玉座までに敷かれた絨毯に沿うように左右一列に並んでいる。
「我らの依頼、無事に達成してもらったこと感謝する。
件の薬草、渡してもらえるか」
「こちらに」
エリスは懐からイタルミック三本を取り出す。それをエネーシアの右に立っていた者が受け取り、王へと渡す。
エネーシアは指でイタルミックをつまみ、しげしげと眺める。
「これがイタルミックか。聞いていたとおりの外見だな。
確かに受け取った。褒美はのちほど渡そう」
「ありがとうございます」
エリスは片膝をついたまま頭を下げた。
「これを取ってきたのはお主の弟子だったな?」
「はい」
エリスは顔をあげ、しっかりとエネーシアの顔を見て頷いた。
「直接礼を言いたいのだが」
「その言葉だけであやつには十分なものでしょう。あとは褒美を渡せば大いに喜び感謝することでしょう」
「神域に入り、無事に目的を達成する。その者に興味があるのだがな」
幸助はわりと簡単に目的を達していたが、それは能力の高さゆえに楽だったのだ。実際は、神域に入り目的を達せられず放り出される者は多い。確実に目的を達したいのならば一流の冒険者五人ほど雇う必要がある。その一流の冒険者でも神関連の称号持ちは、それほど多くはない。
「興味を抱かれる気持ちはわかります。旅の仲間を一人得たとはいえ、それでも二人。その人数で目的を達した者に面識を得て、自陣に引き入れたいのでしょう?」
同行者が子供だったことは話さない。幸助の評価をさらに上げることになってしまうのだから。
「隠すほどでもないな。そのとおりだ。有能な者はいくらいても困りはしないのだからな」
「あの者は表舞台に出たいとは思っていません。ですので諦めるほかないでしょう」
「それが本人の意思ならばな」
エネーシアはエリスが幸助を隠したがっていることを見抜いている。確固とした証拠はない、勘だ。だがその勘が外れているとも思っていない。
幸助に成り上がろうとする気概があればエリスも隠そうとはしない。だがエリスの知るかぎり幸助にそういった考えは見受けられない。だから隠すように動くのだ。
「本人の意思ですとも。地位権力を得たいと望んでいるのならば、この場に参上し王の面識を得ているはずでしょう?」
「まあ、そうだな。
それらを得たいと考えているならば、積極的に動き名前が広がっているはず。だが一人で神域に出入りできるものなど、聞いたことがない」
「信じていただけたでしょうか?」
「うむ」
頷いて見せたが、エリスはエネーシアの目の奥に疑いの色を見た。
「我が一目会いたがっていたと伝えてもらえるか」
「承りました」
先ほどとは逆に、今度はエネーシアがエリスの目の奥に拒否の色を見る。それに何も言わず、エネーシアは頷いた。エリスが隠したがっていることはわかっているのだ、きちんと伝言が伝わるとは思っていない。
エネーシアの両脇にいる者も拒否の意は感じ取っていた。それに無礼だと声を張り上げることはない。主が諾と頷いたのだ。彼らはそれに従うまでだ。なにか策を謀るのならば通達があると理解している。
「次にホルン殿についてだが」
「こちらは以前申し上げたことを守っていただければ、私からはなにも言うことはありません」
「今回のようにこっちのいざこざに巻き込むな、だったな」
「はい」
ホルンへの依頼は公爵家当主の治療だった。当主は暗殺が原因でふせっているわけではないのだが、倒れたことで貴族たちの暗躍が起きていた。
治療するホルンを邪魔に思い、暗殺者を差し向ける者もいるかもしれない。大切な友人が巻き添えをくうことは、エリスには我慢ならないことだ。今後のことを考えると守ってもらいたいことだった。
巻き添えを厭うならば、今後一切ここ近寄ることをしなければいい。これが一番なのだが、この手段を取れないのだ。ホルンはここに滞在するとエリスに告げている。ここを第二の故郷にする可能性もある。
こういった状況なので冥族のいざこざと無縁ではいられないのだ。だから王に今回のホルンの報酬の一つとして、ホルンを害することなかれといった言質をもらいたかった。
「我としては頷きたい。だが我もすべてをコントロールできるわけではない」
どの王家でも王が貴族を御しきれていることはないだろう。エリスもそれは理解している。
「……わかっております。ですが彼女は大事な友人、無事を祈らずにはいられないのです」
「できるだけ守ることは約束しよう。ヒュッシャー公爵家も今回のことで彼女を守るだろうしな。
我らとしてもホルン殿の力と各方面へのツテは魅力的だ」
「いざこざに関わらせないでほしいのですが」
「わかっておる。だがちょっとした頼みごとをするくらいの見返りがあってもいいだろう?
頼むのは他国への伝言などだ。これまで色々な人物を助け続けてきたホルン殿の口から伝えられるほうが心象はいいだろうしな。
国内での活動ではないから貴族たちも手出しは自重する、というかさせるのだがな」
「信じておきましょう」
「これで用件は終わりだな? 下がってよい」
「はっ」
エリスは立ち上がり、一礼して謁見室を出て行く。
「左大臣」
エネーシアは視線を向けずに隣に立つ大臣に話しかける。
「は」
「ホルン殿の警備を強化しろ」
「承りました」
左大臣は配下に仕事を伝えるため謁見室から出て行った。
「右大臣」
「はい」
「エリシール殿の弟子について情報は集まると思うか?」
「……難しいかと。あの方自体、ここ最近は表に出なくなっている人ですから」
「そうだな。だが難しいからと諦めるには惜しい人材だと思わないか? 知恵の方は判断つかないが、戦闘能力生存能力はおりがみつきなのは間違いない」
「できるだけ情報を集めるように手配しますか?」
「ああ。
それにもしかすると、弟子とやらはとんでもない大物なのかもしれない。気づいていただろう? エリシール殿にまとわりついていた二種類の嗅ぎなれぬ匂いに」
エネーシアが嗅ぎ取った匂いとは、体臭ではない。上位冥族のみが有する嗅覚で、生物の持つ固有の力を嗅ぎ取ることができるのだ。
これは他種族には知られていない情報だ。エリスも知らない。知っていれば幸助の匂いを落とすため、一日どこかで時間を潰していただろう。
「ええ、片方に歪みの発するものとわかりましたが、もう片方は私にはわかりませんでした」
「あれは竜だ。以前一度だけ遭遇した竜と同じ匂いだ」
「竜ですか?」
「竜殺しが生まれている可能性がある」
エネーシアの言葉に、今まで静かに二人の会話を聞いていた人々がざわめく。
「それはさすがに突飛なのでは?」
「カルホードにいた竜が死に、神域を踏破できる実力者がいる。
両者に関連はないのかもしれぬ。だが万が一これが当たっていれば、どの国にも先じて竜殺しを手に入れることができるかもしれない」
「竜殺しが存在すればよし、いなくとも実力者の情報を調べておいて損はなし、ということですね?」
確認するように右大臣が問いかけた。それにエネーシアは頷く。
「エリシール殿に気づかれぬよう、慎重にことを運ぶように」
右大臣は一礼し謁見室を出て行く。
ひとまず竜殺しのことを頭の隅においやり、エネーシアは次の訪問客のこと考え始めた。報告待ちとして推測を止めたのだった。
謁見室を出たエリスはホルンに与えられた部屋へとやってきた。
扉をノックして返事が聞こえたのを確認して入る。
「あ、お帰りエリス」
本を読んでいたのだろう、手元に栞が挟まれた本がある。タイトルは冥族の文化と書かれている。
「ただいま」
「薬草は取ってこれたの?」
「女王に渡してきたところじゃ。のちほどお前さんの手に渡るだろう」
「これでバルキオス様を治療できるね」
本格的な治療を始められると、気合を入れている。
「ところでヴァンテスは? 今日も一緒だと思ったのだが?」
「ヴァンテスさんは急な仕事で出かけていますよ」
「それはよかった。あの性格はこちらの調子が狂うからのう」
「楽しいと思うんですけど」
「どうして相性が合うのか。ましてや恋仲などに」
ヴァンテスのことを語るホルンは頬をうっすらと赤く染めている。自分がいなかった間にまた仲が進行したのだとエリスは簡単に推測できた。
そうホルンはヴァンテスに惚れている。そしてヴァンテスも同じだ。
きっかけはホネシングへの旅に途中で合流したヴァンテスに、ホルンの実家で起きた事件を解決した礼を言いに行ったことだ。ヴァンテスの独特の性格にホルンは好感を抱いたのだ。
それからというもの、ホルンとヴァンテスは幾度も会話し互いのことを知り、好意を募らせていった。そして旅を最中で起きた魔物との戦いで、守り守ってもらったことが最後の一押しとなり、二人の好感度は最高度まで高まったのだった。
ヴェサミカに着く直前、エリスはどうしてヴァンテスなのか聞いたことがある。幸助に惚れる可能性もあっただろうと思ったからだし、事実幸助に好意は持っていると感じとっていたからだ。
ホルンはたしかに幸助が好きだ。だがそれは異性愛ではない。幸助と初めて会い、エリスの家でともに過ごした期間で母性愛が刺激され、可愛く手のかかる弟という認識になっている。
ホルンが幸助に惚れるというIFの可能性を語るとすれば、それはホルンがヴァンテスに会わず、一年ほど幸助と一緒に過ごした場合だろう。その期間で幸助が自信を持ち頼りになるところを見せたときホルンの幸助への認識は変わっていただろう。だがこれはIFだ。ホルンはヴァンテスに会い、その自信に満ちた雰囲気に魅せられたのだから。
「エリスは、私とヴァンテスさんのこと反対なの?」
「反対はしておらぬ。ただどこがいいのか分からぬだけだ。理解できぬからといって否定はせんよ」
大事な友人が幸せになることに反対する気はまったくないのだ。
「安心した」
ホルンはふわりと幸せそうな笑みを浮かべる。
「幸せにな。一応冥族のいざこざに巻き込まぬよう頼んではきたが、ホルン自身も注意しておけよ」
「はい」
自身の価値はそれなりに理解しており、いざこざに巻き込まれる可能性があることは覚悟している。
エリスが先手を打ってくれたことにホルンは感謝の念を抱いている。
「そうそう。女王たちがコースケのことを聞いてくるかもしれん。その時はあまり情報を渡さないでくれ」
「わかってます」
口止めが成功したところで、エネーシアの興味が尽きるわけはない。
それをわかっているエリスは、事前に聞いていた成功報酬閃貨三十枚の使い道を勝手に決めていた。エリスが自分のために使うわけではない。幸助のためだ。
報酬の使い道は隠れ家を作ること。幸助の正体がばれたり、追われる身になったときのため、安全に隠れることのできる場所を今のうちから確保しておこうと考えている。
幸助に渡す分の閃貨五枚を引いた残りと竜の鱗を一枚売ったお金で、堅牢かつ立派な設備をもった隠れ家を建てることができる。
ついでに自身の本拠地もそちらに移すつもりだ。ホルンがリッカートにいない今、現在の本拠地を使い続けることに意味はない。それに多くの者にエリスがそこにいると知られており、招かざる客が来ることもあって煩わしい。本拠地移転は渡りに船なのだ。
エリスは七日滞在し、レゾティックマーグへと飛ぶ。
この七日間で、ホルンが安全でいられるように部屋に魔法を仕掛けたり、女王主催の夜会に招かれたり、魔法についての講義を行ったりと細々とした用事をすませていた。
ヴェサミカを去ったエリスは一度リッカートに寄って隠れ家の手配をしてから幸助たちと無事合流するのだが、この間に一騒動あったことを知りもっと早くに合流すればよかったと思うことになる。
エネーシアが竜殺しの存在を推測する前に、別の場所で竜殺しのこと話題にしている者たちがいる。
それはコーホックら神々だ。
神域から戻ったコーホックは竜殺し観察組に出迎えられた。
「竜殺し見てきたぞ」
「調査はできたか?」
柔和な様相でくすんだ金髪の男神にコーホックは頷き返す。この神は学問を司る神ケジャス。
「どうしてああいった能力になったのかわかった。結局ミタラムの言うことが正解だった」
コーホックの返答に、五人の男女がそういったこともあるのかと頷いている。ミタラムの言うことが信じられなかったわけではないのだが、初めての事態に外れていてくれという思いもあったのだ。
一人たいして反応を見せない濃紫の長髪を持つ女神がミタラムだ。未来を見た本人だ。コーホックの報告に驚くようなことはない。
コーホックがあの場にいたのは、本人が言ったように暇潰しもあるのだが、幸助の調査という名目もあった。
幸助が竜殺しだから調査されたのではない。その能力の珍しさから調査対象になったのだ。結果しだいではあの場で排除の可能性もあったのだ。
「全能力上昇のギフトなんて初めてよ、まったく」
ギターをいじっている空色のボブカットの女神が呆れ混じりに言う。この女神が、幸助に礼を申し出た音楽を司る女神セミンルーズ。
「本当にのう」
スキンヘッドで逞しい体格の男神が頷く。この神は鍛冶を司るドリズ。
カードに載っている能力だけの上昇ならば問題はないのだ。カードに載っている能力どれか一つ上昇というのは当たり前にあるギフトだ。それが全部上昇というのは珍しくはあるものの、彼らは問題視しない。カードに載っていない能力まで上昇の対象になったことが問題視されているのだ。さらに人間としては規格外の力を得てしまっている。今後の成長次第では神々を殺し尽くすことも不可能ではない。成長力も上昇しているのだから。
必要な力が多いので、カード上の変化はまだない。もしステータスが細かい数値で表されていた場合、その上昇度は一般人の数倍だとわかるはずだ。一般人と同じことをしても得られる経験が倍以上など、反則以外のなにものでもないだろう。
神殺しが可能かもしれない人材なのに、幸助への神々の関心が減ったのはコーホックたちがそう仕組んだから。神殺しに対して、危機感を抱くどころか成長を煽ってピンチを楽しもうと考える神もいるのだ。その最筆頭は戦いの神だ。コーホックは成長させることに反対だった。殺されてしまえば娯楽を楽しめなくなるといった自分勝手な思いもあるのだが、世界神に託された世界運営に問題が生じることも避けたい。
ここにいるミタラムを除いた神々は成長反対派なのだ。
ミタラムは幸助に手出しすることが反対なだけで、神殺しに関しては興味はない。世界神と上級神の四人が存在していれば、自分たちの代わりなどいくらでも生まれてくるのだから。
ミタラムは流離い人という存在が気に入っている。流離い人たちは時にミタラムの見た未来とまったく違う結果をもたらすことがある。ミタラムの関わらない偶然に導かれ、ミタラムにも予想外の結果をもらし、この世界で生きていく様子を見るのが好きなのだ。流離い人の行動を楽しむため、彼らの未来はできるだけ見ないようにしている。
だからミタラムは、幸助には誰も手を出さずにいてもらいたい。そういった意味では、調査のためとはいえ手を出したコーホックたちと一緒にいるのはおかしいかもしれないが、コーホックたちは最小限の干渉ですませるつもりなので、他の神よりもましなのだった。
コーホックが調べたことは、幸助の性格と規格外のギフトの原因。
幸助の性格を調べたのは、今後の行動を予測するため。好戦的な性格だったり冒険心に満ち溢れた性格な場合、成長は早く、その能力は神々に届く可能性がある。
神々としてはありがたいことに、幸助の性格は今のところ積極的といえるものではなく、警戒するだけでいい。
ギフトがあのでたらめさを出した原因は、幸助たち人間の生まれに関連する。
この世界と地球の人間にたいした違いはない。臓器の位置は同じ、魂が存在する点も同じ。違うのは二つ。魔力のあるなしと初めから人間として生み出されたか、人間になるまで進化したかということだ。
魔力の有無はなにも問題ない。問題となるのは人の進化の方だ。
地球の人間は今の姿に至るまで、神々の手出しなく環境などに左右され適応しながら長い年月をかけた。こちらの人間も一応は昔の姿から進化はしている。だがその進化は身体の強化、病気耐性といったくらいで劇的な変化は見せていないのだ。
進化適応という点から見ると両者には差がありすぎる。その進化適応能力が竜を殺して得たものに影響を与えたのだ。
幸助がただこちらに来ただけでは問題視されなかっただろう。強くなり、能力を得てしまったから問題視されてしまったのだ。
「ある意味、可哀想な人なのね」
同情しているのは銀の長髪を持つおっとりとした雰囲気の女神。医療を司る女神レーリルだ。
「だな。本当に偶然こちらにきて力を得て、俺たちに警戒されて監視される」
「ホルンが世話になったから、あまり厳しくはしたくないのだけど」
レーリルはホルンのことで、幸助に恩を感じている。
神々は、世界運営と自身の専門以外は世界に関わらないよう自身を戒めている。これによりホルンの生贄に関して、レーリルは手出しできなかったのだ。
今回コーホックが幸助に接触したのは緊急措置だ。上級神にも許可は得ている。
「油断して世界が滅びるなんてことにならないためにも必要だろうさ」
コーホックの言葉にレーリルは頷く。
「人間たちの動向にも注意しないとな。竜殺しを大きく刺激するようなところがないといいが」
今のところ竜殺しがいると確信しているところは一つ。そこは預言のギフト持ちによって予言されていたのだ。竜殺しが現れる正確な時期も、竜殺しがどのような人物かもわかっていない。ただおおまかな時期と倒すのが人間の男であること、この二つが予言によってわかっていた。
これらを元に預言者の子孫は、ある依頼のため竜の力を感じ取れる魔法を使い幸助を探している。
この依頼は竜殺しの成長を促すものだが、神々の考えでは神の域までは至れないと判断している。それが読み違えだと知るのは、竜殺しのギフト成長を知ったときだ。
「あそこは言い伝えが捻じ曲がってるのよね」
「一度部族が滅びかけたからな」
「ほかに注意する集まりはあるんじゃろか」
「三つ」
ミタラムが短く答えた。
「一つはギルドだろう。あそこは竜殺しはただの実力ある冒険者と認識しているな」
「もう一つは子飼スパイから情報をもたらされた貴族。面白い発想をする人間といった報告がされてるわ。ライドヒーローなんてこっちにはなかった考えだから無理もないわね」
「じゃあ最後の一つは?」
これは誰も情報をもっておらず、皆の視線がミタラムに集まる。
「冥族の女王が竜殺しがいるかもしれないという推測を立てる」
ミタラムは感情の篭らない言葉で予知で得た情報を開示する。竜殺しという部分にだけは、期待といった感情がうっすらと感じられる。
感情が篭らないのはいつものことなので、皆気にしない。ミタラムが唯一感情を見せるのが流離い人のことのみだ。
「冥族か……念のために軽い妨害は入れるべきか?」
「戒めに接触するんじゃないかしら」
「……そうじゃろうな」
話し合いで、とりあえず放置の方向へと決まる。
「ほかになにか問題はあるかしら?」
「問題というか気になることがある。
力を溜め込んでいるのが気になるんだ。一応精霊の成長に使われるよう小細工はしてきたが」
「力を使おうとしないから溜まるのは仕方ないわね。多くの力を発散するというのはなにかと戦う場合でしょうし、それはそれで問題なのよね」
多くの力を使うということを望むのは、それこそ彼らが避けたがっている刺激が発生するということだろう。
魔物と戦い力を吸収するといったことではなく、無駄に力を使ってくれるような事態が発生しないかと、彼らは期待している。
「現状のような甘い環境に浸っているかぎりは、大きな問題は発生しないだろうな」
コーホックの言葉に皆頷く。
幸助はいまだ世界の厳しさに触れてはいない。こちらにきていきなり致命傷を負ったが、理不尽な理由で命を散らすことは珍しいことではない。出会う人間も善良な者がほとんどで、狡猾な者残忍な者など出会ったことはない。
体一つで見知らぬ土地に来た者としては、格別に恵まれている。
今回の話し合いでは具体的な対応策はでなかった。結局、神々がやることは今までと変わらず、監視ということになる。それはそれで暇を潰せるのでかまわないのだが、どうせなら純粋に楽しむためだけに見ていたいというのが彼らの正直な思いだ。ミタラムだけは楽しんでいるのだが。