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行ってみよう隣の大陸

 

 ラドルフたちが去り二日経ち、街は普段通りの風景となっている。

 幸助は今日から退治系の依頼も受けようと気合を入れていた。

 出かける準備を整えて、シディに挨拶して宿を出る。いつもの待ち合わせ場所でウィアーレと合流し、ギルドへと向かう。

 二人で仕事を探しているとき、幸助は背中を軽く叩かれた。誰だろうと振り返るとそこには、


「エリスさん?」


 約一ヶ月ぶりに会う、エリスが立っていた。

 幸助はなんとなくエリスから感じられる雰囲気が変わっていることに気づく。より立ち位置が近く、親密になっているように感じられる。気のせいかもしれないが。


「迎えにきたぞ」

「向こうでの用事は終わった?」

「いや終わってない。そのことで頼みがあるのじゃよ。

 早速旅支度を整えてくれぬか? 一緒に行こう」


 誘いに反応したのは幸助ではなく、ウィアーレだ。


「コースケさん、旅に出るんですか?」

「そうなるね。もともと決めてたことだし。

 ウィアーレも一緒にくる? 向こうで観光もするとか行ってたし、しばらく帰ってこれないんじゃないかな。

 でしょ? エリスさん」

「そうじゃな。一週間一ヶ月では帰ってこないな。

 ところで一つ聞きたいことがある」

 

 口調にほんのりと緊張感を混ぜて問う。本当にわずかな量の感情だったので、幸助は気づかない。気づいたとしてもどうして緊張などしているのか、わかりはしないのだが。原因は幸助にとって未来に起きることなのだから、わかるはずもない。


「その娘さんとはどんな関係なのかの?」

「私もそちらの方を紹介してもらいたいな」


 二人の視線が合わさり、パチリと小さく火花が散ったような音を幸助は聞いた気がした。


「こっちはエリスさん。俺がいろいろ世話になってる人。主に魔法とか知識とか教えてもらってる。

 こっちはウィアーレ。この街に住んでて、事情があって一緒に行動してる。あと俺の称号のこと知ってる」

「……話したのかい?」

 

 エリスの雰囲気と表情が真面目なものになる。

 幸助は首を横に振る。


「人の称号を知るギフトを持ってるらしいんだ」

「私の称号はなにか言ってごらん」


 本当か確かめるためだろう、エリスはウィアーレに問いかける。

 エリスは有名で名前は広く知られている。だがここ十年表舞台で目立った動きをしていないので、一般人に顔を知られていない。そこから称号を判断されることはなく、それで称号を当てることができれば本物だと認めるつもりだ。


「優れたる魔女」


 ウィアーレはギフトを使い、簡単に言い当てる。言葉にしてワンテンポ置いて、自身の言葉に驚いた。


「優れたる魔女!? 一夜千殺じゃないですか!?」

「一夜千殺? なにそれ?」


 初めて聞いた単語に幸助は首を傾げた。地球だと中二病とか言われて、からかわれそうだと内心考えている。


「また懐かしい二つ名出してきたものよのう。誰に聞いた?」

「お父さんが元冒険者で当時の話を聞いたときに。お父さんその場にいたらしくて、今でもよく覚えてると」

「あのときいた冒険者たちの一人か、それなら知っていてもおかしくはないな」 


 納得した様子のエリスに、幸助が再度尋ねる。


「ああ、すまんの。

 一夜千殺というのは私が三十半ばの頃につけられた二つ名でね。

 ここから一月ほど歩いたところにある街、そこが魔物の群に襲われるという出来事があったのさ。その魔物の大多数を私が一人で殺したことから、一晩で多くの魔物を殺したって意味を込めて一夜千殺と呼ばれるようになったのじゃよ。

 魔物の質自体は高くなかったから、できた芸当じゃな」


 そう言うエリスの目は懐かしげに細められている。


「数が多くてその場にいた冒険者たちは弱腰になっていたと聞いてます。

 そんな中、街を守るため一人毅然と立ち向かったのがエリシールさんなんです。

 この出来事がきっかけとなりエリシールさんは名を広げていくようになったそうです」

「すごいね」


 守るために圧倒的な数量の魔物に立ち向かったエリスを、尊敬するように幸助は見る。

 エリスはその視線を苦笑を浮かべ受け止めた。


「実はそんなかっこいいものじゃないのさ。

 ただ暴れてストレスを発散したかっただけじゃ。街を守るといった感情は欠片もなかった」

「……そうなんですか?」


 戸惑いの表情のウィアーレに、エリスは迷うことなく頷く。


「あの頃は荒れていたからのう」

「魔物は不運で、街に住んでいた人は幸運だったってだけなのかな」

「そうじゃな。その解釈であっておるよ」

「……お父さんには話せないなぁ」


 ウェーイは街を守ったエリスに尊敬の感情を持っているのだ。話を聞いているだけでも、その感情がすごく伝わっていた。

 なのに結果的に守ることになっただけで、成した本人には守る気がなかったという事実がいまさら発覚。これは知らないほうがいいとウィアーレは判断し、幻想を守るため心の奥にしまうことにした。


「なにはともあれ、称号を見るというギフトに偽りはなさそうじゃの。

 誰にも喋ってくれるなよ?」

「はい! 喋りません。そのことについてはボルドスさんにも念を押されてます!」

「なんじゃボルドスに口止めされておったのか」

「軽い脅しつきでね。一度うっかり口にしかけてボルドスに止められたけど」

「大丈夫なのか?」

「おっちょこちょいだからねぇ」


 他人事のように言っているが、話さないだろうと信じている。ウィアーレとも短いとはいえない付き合いだ。信じるに足ると判断するのに十分だった。


「大丈夫です! 口にしかけたのは一度だけです! それ以降は失敗してません」

「本当にばらしてくれるなよ? めんどくさいことになるからのう。

 口に出せば苦痛を与える魔法でもかけておこうかの」


 ウィアーレは勢いよく後ずさり、首を横に何度も振る。


「今のところは魔法を使うことはないが、この先ばらしかけるようなことがあれば躊躇いなく使うからの?

 肝に銘じておけよ?」

「はい!」


 実際は使う気はなく、脅しただけなのだろう。それが十分効果を発揮して満足げに頷いている。


「俺のために嫌な役をありがとう。だから脅すのはそれくらいにして、話を進めよ?」

「脅しとばらすでない。

 じゃが話を進めるのには賛成じゃな。いつまでも立ち話というのもなんだから、コースケのとっている宿に向かうとしよう」


 宿に向かう前に幸助は、長期間街を出るので指名を他にまわすようにとギルド職員に告げておく。

 宿に戻ると、客かと顔を上げたシディが不思議そうな顔をして聞いてくる。


「いらっしゃ、あれ? なにか忘れ物?」

「違うけど? どうしてそう思ったのさ」

「帰ってくるにしては早い時間だからね。じゃあウィアーレの隣にいる人は依頼人というわけじゃないのね」

「この人はボルドスの姉だよ」

「ボルドスさんのお姉さん!?」


 姉がいるということすら初耳だったシディは、エリスの突然の来訪に驚く。


「いつもボルドスが世話になっているようだな。礼を言う」

「お客様ですから世話するのは当然です! こちらこそいつも贔屓にしてもらい、さらにはお客さんも連れてきてもらうなど世話になってます!

 お姉さんは今日はこちらに宿泊なさいますか? それなら気合を入れて部屋を用意させてもらいますが」

「いやそれには及ばんよ。今日中に街を出るからの」

「そうですか」

「俺も出るから。たぶん一ヶ月以上こっちには戻ってこないよ」

「あなたも? ボルドスさんも何日か前に、街を長く留守にするって言ってたのよ」

「ボルドスはカルホードに行ったんじゃろ」

「エリスさん行き先知ってんの?」

「うむ。カルホードのユケ連合国に行ったのさ。あと一ヶ月もすればそこで武闘大会が開かれる。それに参加するつもりなんだと以前言っておったよ」

「なるほどカルホードに行くなら長期留守にするのってのもわかるわ。頑張っていい成績残してほしいですね」

「まあ、なるようになるさ。暴走しないかが心配だがな。

 コースケ、部屋に案内してくれぬか」


 了解と返事をして幸助は自室に向かう。

 鍵を開け、エリスとウィアーレを招き入れる。

 幸助は椅子に座り、二人はベッドに座る。


「それで頼みがあるってことだけど」

「うむ。私がホルンと一緒にホネシングに行ったことは覚えてるおるかの?」

「うん。医者として呼ばれたんだよね」


 エリスは頷く。

 それを聞いてウィアーレが驚いたように口を挟んでくる。


「ちょっと待ってください。医者のホルンってコルベス家のホルン様ですか?」

「その通りだが?」

「また有名人!? コースケさんっ! どんな交友関係してるんですか!?」

「どんなって」

「二人の関係は簡単に予想つくと思うがのう。

 こやつは竜殺しで、ホルンは生贄だった。ほら、簡単な繋がりじゃろ」

「……コースケさんはホルン様を助けるために竜に挑んだ?」


 白馬の王子様のようなロマン溢れる想像でもしたのか、ウィアーレの目がきらきらと輝いている。


「いやいや竜殺しになったのは偶然。細かい事情は話すつもりはないけど、竜を倒そうと思って倒したわけじゃない。倒したって自覚もないし。

 気絶から覚めたらいつのまにか竜殺しになってた」

「いつのまにかなれるようなものじゃないと思うんですけど」

「証人が目の前にいるよ。そんなこともあるんだって納得しといて」

「はあ」


 納得できていない顔だが、ウィアーレはそれ以上はなにも言わずに頷いた。ここで渋ってもどうにもならないと気づいたのだ。


「んで話を戻すけど、ホネシングに医者として行って、その続きは?」

「医者として行ったのだから当然治療するわけじゃな。そこでちと問題が起きた。

 診察した結果、ホルンが治療できるものだと判明したわけじゃが、薬となる材料が足りなかったのじゃよ」

「買えないような特別な材料だったってこと?」


 金で買えるのならば、大金を持っているエリスが買っていると考えたのだ。


「その通り、話が早いの。

 足りない材料はほかに代えのきくようなものでなくてな。

 それがある場所はわかっている。だがそのある場所が問題なのじゃよ」

「どこ?」

「神域じゃ」

「たしか神に関する称号持ちじゃないと入れないってとこだっけ」

「うむ。私たちが行ったところには、神関連の称号持ちはホルンしかいなかった。だが戦闘能力のないホルンを行かせるわけにはいかんからの。

 称号持ちの冒険者を雇おうという話になって、私がちょうどいい人材を知っていると話した。ホルンの保証つきだから、あちらも納得した」

「あー頼みってのは神域に行けってことか。

 別にいいよ」


 この軽いともいえる返事にエリスは少し驚いた顔となる。


「えらくあっさり承諾するのう。以前の様子だと渋ると思っておったよ」

「この街で生活していて、いろいろと経験したからね。少しは荒事にも慣れた」

「過信ではないといいが」

「無理を通して危険に挑む気はないから、過信ではないと思うけど。

 で、その神域はホネシングにあるの?」

「いやカルホードじゃ。さきほど話題に出たユケ連合国、その近くにある」

「移動は船だよね。長期間の船旅って初めてで少し楽しみだ」

「楽しみにしているところ悪いが、移動は魔法で済ます。

 相手側ができるだけ急いでくれと言っておるでな」


 冥族側はできるだけ早く治療してもらいたいのだ。急いでくれと注文をつけてくる気持ちはエリスは理解できた。


「ありゃ、そうなんだ。船旅はまた別の機会かな」

「そうなるのう」

「じゃあ早速旅支度をしないとね。

 あ、それでウィアーレはどうする?」

「私は……行ってみたいですけど旅費が」

「ギルドが出してくれるとか言ってたろ?」


 近場ならば遠慮なく申し出るのだが、今回は高い金額となりそうなので、さすがに遠慮する気持ちが生まれている。


「どうしてギルドが旅費を出すという話になっておる?

 よほどのわけがなければ特別扱いはせんと思うが」


 エリスも以前はギルドに所属していた身だ。ウィアーレの待遇について、普通ではあり得ないものだとわかる。

 わけを話していいものかと幸助はウィアーレを見る。ウィアーレは一瞬なぜ見られたのかわからずキョトンとした表情を見せるも、すぐに思い至ったのか自分で事情を話していく。


「歪みが、なるほどな。それならば納得もいく。そういう理由ならば一緒にいたほうがいいかもしれぬの。

 旅費ならば気にすることはない。冥族から依頼の前金と準備金として金貨八枚もらってきている。そこから出せばよかろう」


 金貨八枚あれば四人家族が一年働かずに暮らせていける。一般人にとっても冒険者にとっても大金といえる額だ。


「え? でも私は依頼を手伝うことはできませんよ?」

「このお金は全額コースケのもの。そのコースケが許可を出せば問題ない」

「それなら半分ウィアーレに渡しておくよ。準備っていってもお金がかかるようなことは……あ、まあいっか。

 うん、半分渡すよ」


 金貨四枚という大金を簡単に渡すと言われ、ウィアーレは大きく慌てる。


「一瞬詰まったけど、なにか問題があるんじゃ?」

「気にしなくていいよ」

「そういっても」

 

 気になるのだろう、ウィアーレは話してほしそうに幸助を見る。


「んーこの前の護衛依頼で剣がぼろぼろになったんだ。それを修理に出すの忘れてた。今は使わないだろうって後回しにしてたんだよ。その修理にお金がかかるかもしれないんだけど、今から出しても間に合わないから、お金は必要ないって思ったのさ。

 エリスさん、あとで攻撃用の魔法を教えてもらえる?」


 剣の代わりの攻撃手段として、新たな魔法を求める。


「いいぞ」

「できれば殺すんじゃなく、多人数を無力化できるようなものがあればそれを覚えたい」

 

 幸助の注文に、脳内でいくつかの魔法をピックアップしたエリスは再び頷いた。


「俺が魔法教えてもらってる間に、ウィアーレは旅の準備してくるといいよ」

「そうですね。あ、でも私旅に出たことないから、どんなものが必要かわからない」

「ウェーイさんが知ってるんじゃ? 冒険者だったんだし旅はお手の物だと思う」


 それもそうだとウィアーレは納得して、部屋から出るため立ち上がる。


「なにか買うかもしれないから、金貨を渡しておいたほうがいいかもね。

 エリスさん、お願いします」


 エリスはポケットから金貨を取り出し、四枚ウィアーレに渡す。

 手の中の金貨をじっと見て、ウィアーレは口を開く。


「……やっぱりこれはもらえないよ。何もしないのにこんな大金」


 実際受け取ってみて、さらに遠慮の思いが大きくなる。


「じゃあ貸すってのは? 無利子で返済は何年かかってもいい」

「んー……それなら。金貨四枚借りるね。

 でも今は四枚もいらないから、三枚は二人のどちらかが持ってて。私が持ってると落としてなくしそう」

「ありえそうだ」


 納得した幸助は金貨を受け取り、テーブルの上に置く。

 ウィアーレは準備のため宿を出て行く。

 幸助は荷物をまとめて、旅に必要なものと必要ないものに分けていく。必要ないものはシディにお金を払って保管してもらうつもりだ。そう多くはないので、預かってもらえるだろう。


「準備は終わったし、魔法を教えて」

「よかろう。教えるのは衝撃放出と土石槍と火球破裂というものじゃ。無力化できるのは衝撃放出じゃな。土石槍と火球破裂は手加減できん」

「殺傷力の高いものはちょっと」

「念のためにそういったものも取得しておいたほうがいい。

 お前に行ってもらう場所は危険な魔物も住んでおるでな」

「そういや神域ってどんなとこ?」


 伝え聞いたり、書物からの知識だと前置きしてエリスは話していく。

 行くところはコラムージ神域という名前で、何人かの神が関わっている神域。

 地形としては特殊なものではない。森があり、草原があり、川があり、山がある。動物が住み、魔物が住む。

 住み着く人間はいない。だから自然はそのままの形で存在している。だから貴重な植物や鉱石あり、神域外では絶滅している動物がいる。

 広さは端から端まで一般人の足で一週間。

 神域に入ることができる人間がいるのに、貴重な植物などがいまだ残っているのは持ち出せる量が決まっているからだ。さらに神に許可をもらわないと持ち出すことすらできない。


「許可?」

「どこの神域にも礼拝堂のような建物がある。そこに行って許可をもらうのじゃよ」

「許可をもらえたってどうやって判断するん? なにか証明書みたいなものをもらえたり?」

「一言声をかけてもらえるらしい。

 あとそこに行くまでに試練が与えられる。試練は個人個人によって違うらしいということじゃ。試練を下す神によっても難易度が変わってくるらしい」

「試練かぁ。魔物が襲ってきたり、嵐に見舞われたりするのかな?」

「そういった試練もあったようじゃな。死者が出たという記録はない。大怪我を負い気を失った場合は、治療されて神域の外に放り出されるようだ」


 この措置は神が人間を優遇しているのではなく、ただ神域内で死なれるのが迷惑なだけにすぎない。神域は弱肉強食の世界だ。それが当たり前のルールなので、死ぬことで恨みを残すものはいない。だが人間など知性のあるものたちは、無念といった感情を残す。そういった残留思念は神域を汚すのだ。神域をありのままで存続させたい神としては、人間たちを放り出すのは当然の措置だった。

 そういった理由だと想像もせず、幸助は死ぬことはないと知って安堵する。


「それを聞いて気が楽になった」

「気負いがなくなるのはいいが、失敗すると一年は神域に入れなくなる。それは覚えておくように。

 無理はせず、最大限の努力をしておくれ」

「わかった」

「では魔法に話を戻すとしよう」


 エリスは必要とする詠唱と動作、魔法で起きる現象を一つずつ述べていく。

 衝撃放出は手から衝撃を出す魔法だ。手を薙ぐように動かすことで、衝撃を一定方向から扇状へと分散させることができる。

 一番威力が高いのは分散させず、近距離で衝撃を当てること。一般人ならばこれで死ぬ。一番弱いのは衝撃を扇状に放出させ、術者から五メートルほど離れた位置で当てること。この威力は一般成人男性を転がすくらいだ。転がすだけならばトニーから教えてもらった風の魔法があるのだが。

 土石槍は、その名の通り土石でできた円錐を地面から生やす魔法だ。本数は一本から三十本、出現数は任意。範囲は術者を中心に半径三メートル。円錐一本の大きさは高さ一メートル、最大幅五十センチだ。

 これの類似魔法として氷杭という水場専用の魔法もある。

 最後に火球破裂。これは直径一メートル弱の火球を飛ばし、対象にぶつかった瞬間もしくは任意の位置で爆発させ、炎を撒き散らす魔法だ。攻撃だけではなく目くらましにも使える。

 ちなみに幸助が保有している魔法で一番威力が高いのは貫通光線だ。真っ直ぐにしか飛ばず当てにくいという難点はあるが、当たれば鉄を難なく貫通するといった威力だ。


「こんなところじゃな。あとは実際に使ってみて慣れていくといい」

「ありがとう」


 動作と詠唱の再確認をしたあと、部屋を軽く掃除しつつ雑談で暇を潰し、ウィアーレを待つ。そろそろ昼食時かと考え始めた頃にウィアーレは大きな旅行カバンを持って部屋に入ってきた。


「お待たせしました」

「ウィアーレもきたことだし、出発する?」

「その前に昼を食べていくとしよう。

 ここの食堂は使えるのかの?」

「使えるよ」

「では案内してもらおうかの」


 三人は部屋を出て、食堂へ向かう。

 昼食を済ませて、シディに別れを告げる。シディはお土産よろしくと頼み、三人を宿の入り口まで見送る。

 エリスは宿の前で転移魔法の準備を始め、十分経った頃二人に振り返る。

 

「二人とも近くに寄れ。離れていると一緒に移動できんからな」


 そう言ってエリスは片手を二人に差し伸べる。その手に二人が触れたことを確認して、エリスは魔法を使う。

 転移魔法での移動が初めてなウィアーレは緊張のためか表情が硬い。

 幸助がウィアーレに心配することないと声をかけようとした時、魔法が発動し三人は姿を消した。

 シディは三人が消えた位置から空へと視線を動かし、無事を祈ってから宿に戻っていった。

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