ラディル=アッシュはロリコンですか?(3/32)PDFで表示縦書き表示RDF


ラディル=アッシュはロリコンですか?
作:k鶏



隊長と体長


 ポツリポツリと降り始めてきた小雨が、大国とは云えないが、けして弱小でも小さくもないサーガルドの寒い大地を濡らす。

「――ありゃ、雨が降ってきたねぇ、副長さん」
「そうですね。念の為傘を持参して助かりましたよ」

 行き着けのパン屋のおばちゃんに、適当にネコかぶった相槌を打つ。
 見慣れたおばちゃんの人の良さげな営業スマイルが、さらにキレを増した。

「相変わらず用意が良いねえ、副長さん。――はい、ベア肉サンドとメロンパン二つだよ」
「どうも」

 会釈ひとつ、紙袋を受け取る。
 パンは嫌いではない、だが西域ではマイナーなご飯のが俺好み。
 まあ、割とこのパン屋のは気にいってんだ。
 代金は既に払ってるので。世間話もそこそこに、一礼して傘を片手に――

「――あ、副長さん」
「はい?」

 おばちゃんの声に振り返る。

「大きな戦争が起こるのかい?」
「――機密事項です」

 副長の仮面で対応し、まだ何か言いたげなおばちゃんに背を向け、退散した。

 街の中を歩く。
 昼時だが、人通りはまばら。それは雨が降っているという理由が全てでは無いだろう。

 ――戦争。

 時折足音と雨音以外に耳に届く単語。
 情報規制はされているだろうが、それでも噂位はたつか。無理もない。
 最近、小競り合いからの奇襲で、西域の前線砦が一つ落とされたのだ。
 皆、内心不安なんですー、てか。

 辛味のあるベア肉サンドを頬張り、咀嚼。
 なんだか少し苦い気がした。

「――面倒な事に成らなきゃいいがね」

 陰鬱に溜め息を吐いた。



 
 
 
 
 処及び時間替わって、赴くんならまだ豚小屋のがマシな、お偉方集う息詰まる場所にて。
 例の、機密事項についての話だった。
 
「――君の口から、伝えてくれたまえ」

 騎士団司令部のお偉方が、無理いってくれる。

「何故、自分の口から? 司令部の方から説明するのが筋というものではないですか」
「気心の知れた君の口から説明された方が、彼女、フォリア=フィリー隊長も納得し易いのではないかね? ラディル=アッシュ副隊長」

 見るもの全ての心を荒ませる薄ら笑い。
 要は、いつ暴れるとも知れない化物を、テメエら自身で刺激したくねえだけだ。
 その人身御供――西域じゃスケープゴートの方が通りが良いか。
 どうやら、それに抜擢されたらしい。迷惑極まりねえ御話だことで。

「拒否権は?」
「無い、」
 クツクツと、思わず殴りつけたくなる類の嘲笑を浮かべながら、白髪オールバック糞老人は続ける。
「変わりに、黙秘する権利は有る」

 要は、黙って従えっつー事だろが。

 糞野郎……

「ラディル=アッシュ十三隊副隊長。解っているだろう?」
「……了解」

 ――受けざる負えんのがな……畜生。
 奥歯を絞め、内心どう在ろうが、俺は了承を返した。


 かくて俺は、弱肉強食を座右の銘に掲げる、親愛なる糞隊長様の元に胸糞悪い情報を告げねばならん訳だが。
 生憎とその糞上司、狙ったとしか思えんタイミングで魔物共を襲撃……じゃなく虐殺………うん、退治しにでばっている所なのだ。
 本人が不在で、帰還まで三日間は掛かるだろうと正当な言い訳を上の連中に報告した所。なんでこんな時に不在なのだとか、無断で隊長自ら出撃するとは何事かとか、隊長としての自覚があるのかとか、お目付役の副隊長(キミ)は何をしていたのだとか。
……最後以外は本人に言えっつーに。そしてその最後すら俺のせいじゃねえし。俺が念仏唱えた所で、あの馬耳に通用する訳ねえのは、テメエ等も解ってんだろが。要は只の愚痴に嫌みじゃねえか。
 これだから、中間管理って奴ぁ、無駄に胸糞悪く成ってくんだヨ……

 陰鬱に溜め息吐き出し。いい加減、疲れてきて眼鏡を外し。辿り着いた城内の自室の扉を開ける。

「――そこら辺、解ってんのかええ隊長ドノ?」

 開口一番、人様のベッドに腰どころかデカい体全体を掛け寛ぐ、見慣れてしまった大女に正当な抗議を怒り半分殺意半分に語る。

「うむ。己には理解及ばざる事柄だが、精々己の為に気張れや」
「後生だから、もう少し知性と常識と思いやりとやらを知ってください。それが無理なら今すぐ心臓に杭を撃たれて灰になりやがれ」
「はっは。己はヴァンパイアに在らずして、そんな事をすれば死ぬだけ也よ」

 流石に、この人外も心の臓は急所らしい。
 ――ちなみに、俺の口調が地の文通りなのは、公にこの場に居ない筈の糞上司にまで慇懃にする理由が無いからだ。公私は別って奴だな。その辺は糞上司も心得ている。

「ほう、そりゃ死ぬよな人として」
「うむ。副長がな」
「俺かよ?!」

 なにか。それは返り討ちって事かこの糞野郎。

「――てか、ツッコミ畜生奴の分際で、己に対してのツッコミはそれだけかい?」

……それは、何故出撃中なのに此処に居る、か?
 今更だろが。その気になりゃ半日で大陸一周できる奴が神出鬼没だろうと驚くに値しねぇ、つか畜生奴って方がなんだ。

「テメエ、最初っからあの罵詈雑言発表会場に居たじゃねぇか」
「ふっ、感づいてたか。それであの三文芝居、流石は己の部下」
「喧しい」

 気断は完璧だったから気付いたのは俺だけだろうがよビリバリザリュュ……不思議かつ不気味な音が眼前から唐突に響いた。

「――っって何してんだテメエ?!」
「――あぐ?」

 てか、眼前のド腐れが唐突に人様の枕を咬み千切る音だ!
 あぐじゃねえっつの!

「……いや、何か副長らしき匂いが鼻に付いたでの。何かしら咬み絞めたくなった」
「……眼鏡、書物上着に頭蓋骨――今度は枕か。(オレ)の私物を咬み壊さなきゃ気が済まんのか! 魔物でもまだマシな動機で人を喰うぞ!!」
「気にするな。別に枕亡くとも寝るに多少の差無し」
「その多少の差とやらに拘るのが人って奴なんだよ。ってか加害者がその言い種か?!」
「いいじゃないか。別に副長を喰いたい訳じゃないし」
「頭蓋骨に致命的損傷を加えた奴がほざくかアアアアアぁァ!! アン時ゃマジで花畑通り越してやたら流され易い川ン中に突っ立ってたぞゴルァ!!」
頭蓋骨(そのこと)は謝ったではないか。なんだ、昔の事をほじくり返すとは根暗の陰険童顔め」
「――っッ!!!」

 鼻糞ほじりながら餌の要求通らぬ類人猿がごとき仕草に加え禁句発言に、血管が何本かブチ切れた気がする。あまりの怒りに地団太踏む俺を、誰が責められるだろうよ?

「誰か童顔ダアアアアア!! そして平穏にじゃれあいたいならドラゴン種族の巣窟にでも永住決め込んで二度と戻って来んな!!!」

 この化物と対等に並べるってんなら、同じ規格外の異端者かドラゴン種族の上位存在位だろう。
――しかし、当の化物は首を振るう。

「いや、彼奴らは案外と脆いんだぞ、首とか簡単に折れるしな」
「人間の俺はその万倍脆いわ! そんだけの怪力を俺に向けてんじゃねぇ!!」

 怪物は俺の想定を越えた怪物らしい。
 基本貧弱な体質の俺、九割方本気で生命の危機を感じ、常時の矛先を逸らす為にかなり必死こいて訴える。馬耳念仏。テメエで言った事も忘れて。

「はっはっ、何を言うか副長。己が認めた暗黒腹黒副長ならば、首が銅から離されようと首だけで怨敵の喉元に喰らい突き喰い破り呪い殺そうぞ」
「テメエの中の俺は一体何処の呪われた不死身生物(ゲテモノ)なんだ!!?」

 そんな物の怪の類に成った覚えはミジンコのさきっちょ程も無エ!
 第一そんな異常特性が有るんなら、眼前の怪物に初対面から半日位で発動させてるぜ。

「くくく、ジョークだ。副長の貧弱加減は良く知ってるっての」

 と、薄ら笑いを浮かべおっしゃられた隊長サマ。その有り難い御言葉に抱いた気持ちはとても長く言語化するのは難しい。
 けれど言語に直さずには治まらず、敢えて東域に伝わる四字熟語で翻訳するならば――殺殺殺殺。
 うん、ぼくオリジナルだけど、伝わるよねという訳で
「殺ゃアアァ――――!!」
 常時着用してる仕込み刃を抜き放ち糞上司に積年の恨み辛みを晴らすべく肉迫し――

「――甘いぞぉ!」

 直後、持ち手を掴まれ関節を曲げられ反転した刃が眼前に――

「――クぁ」

 呻き、持ち手と首の角度をずらし迫る刃先を交わし――きれず耳を浅く掠める。少し切ったか。
 ってうを?!
 さながら暴風の如く。持ち前の馬鹿力で強引に位置を反転させられ、さらに足をかけられベッドの上に倒される――全て俺が反応出来ないスピードだ。畜生。

「――クケケ、かような脆弱さで己に刃向かうとは愚者め」
「喧しい」

……なんだ、この激しい既視感――と疑問に挿むまでもなく明確に理解している。
 納得出来るかは別として、俺は、再び怪物の下敷きに成っていた。
 畜生、こんな短いサイクルで畜生。とにかく畜生。
 前回と同様に、獲物をいたぶる醜悪な野獣が愛らしく思える表情で舌なめずりしてる。
 俺の方も前回と同様に四肢を馬鹿力で固定され、ほぼ全く動けない。
 しかし、外聞の悪さは先以上。此処は俺の自室で、押し倒されている所はベッドの上……誰が観ても不愉快な勘違いしやがるだろう。コレ。

「……で、副長よ。己は重いかね?」

……根に持ってんじゃねえよ。俺よりデケエ図体の癖して。

 無言の俺に、糞上司はニヤリと、アレを切断せんとするヤの字みたく嗜虐的笑みを浮かべる。

「――なれば」

 ゆったりと、歴戦の戦士じみた傷まみれの手を胸元に――

「ってヴおい!!」

 思わず声を荒げるも、手と同じく傷だらけの顔面には似つかわしく無い位に神妙な表情は動かず。

「――己は、フォリア。フォリア=フィリー……――」

 場に、己に意味ある祝詞――言霊は、紡がれた。
 ――かくて、変容……いや、帰化が始まり――やがて、治まると。

「――これなら、どうだ? ラディル」
「毎度毎度唐突なんだよ――ガキンチョが」

 サイズが全く違う、だぶだぶの衣装を身に纏う、同じ顔の傷でも酷く痛々しく映る、幼い少女。
 二十歳程若返った、というより実年齢に戻った我等が糞上司。俺に跨りちょこんと座るチンチクリンな姿がそれだ。

「ふっ、相変わらずのツンデ、れ?!」
「喧しい。もう片方みてえな喋り方止めろ。ネタは挙がってンだ」

 極秘事項で、部隊内の一部と国の上層部しか知らん事だが、コイツは肉体と精神を自分の理想――ドラゴンに打ち勝つ人外の肉体とか、歴戦の戦士風糞野朗じみた精神とか――に切り替える事ができる。極めて異常な能力者。基本的に記憶は共有らしいが……人格も切り替わるこたぁ、とっくに割れてんだ。
 本体は、デコピン一発避けられん、ひ・ん・じ・ゃ・く・! な糞ガキに過ぎねえ。
 そして怪物の戒めは解けた。これぞ形勢逆転ってヤツだぜ。

「ンだよ〜。人の弱い時をいつもいつもさあ。そんなだから強い時にいじられんだよ〜。大人気ないな〜、大体、フォリアは軽い――うきゃ?!」
「知った事かよチンチクリンが。今の内が日頃の復讐の時……!」

 ガキが怪物から戻る時などひと月に一変あればレアな方だ。好機は逃すべからずと偉い人も言っていた多分!

「――な、なにすんの……さ……?」

……何故頬を赤らめてそっぽ向く?
 まだテメエのひょろい体逆に押し倒してだぶい服ン中に手ぇ突っ込んだだけだろが。

「――ひっ」

 俺の形相を見たか、引きつった声を出すガキ。さて――

「今度はテメエが花畑にイケ」
「あぅや、ひぎ――」

 ガキの急所にあてがった指先を小刻みに動かすと、ガキはちみい口をだらしなく広げ涎を唇の端から垂らしながら、まるで熱湯に漬けられた海老のように身をそらし――

「――ぎゃは、いぎやはハはハハはハっ!?!」

 狂ったように笑い始めた。
 無論の事、その間にも脇を直に擽るに余念はない。

「ぎゃはハハはハはハ! ら、にきゃ、でぃる! なに、すんだぎゃはひゃハハハハハハハハハハハハっッ!!」

 暴れまくるが、ガキンチョの力など高が知れてんだ。

「クク、俺の擽り術を舐めんなよ? これで何人、うん十人から間者の口を割らせたと思ってんだ」
「ぎゃははハハハハハははハはハはハ!!」

 聞こえちゃいねえか。しかし、あーイイぜその笑い苦しい顔。
 溜飲が下るっつーか、気分が晴れると云うか。

「ハ、ハハぁ、ひー、ひー」

……息切らすの早くないかガキよ。
 呼吸がヤバいし、そろそろ勘弁してやるかと手を退け――懐のナイフストックに手を伸ばし。

「――副長、なんか子供のこえ……が……」

 ――いい加減、予測は出来てんだよ!
 またも恐ろしいタイミングで自室を覗いてきた新入りに――名前、なんつったっけ――、常時着用してる、即効性の睡眠薬を塗りたくったスローイングナイフを抜き即投擲(クィック・ドロウ)。命中。(ゆか)に伏す新入り。正義は勝つ。何故なら勝った方が正義を名乗るからだ!
 と小さくガッツポーズを決めた直後。

「――問答無用で目撃者始末かい。流石腹黒副長。手段は選ばねえってね」

 ――ダミ声と共に、不細工よりの中途にウザい奴が来やがった。
 前回、俺に不要な雑談の後にようやっと機密を寄越した阿呆部下だ。

「……おー、まあこりゃあ……とんでもなくストライクゾーンが壮大っつーか見られる訳にゃあ、なあ?」

 誤解だ。
 確かに、チンチクリンが俺とベッドに挟まれ、悶着のせいで荒い息をしていてサイズが大きすぎな服を着くずし荒れた肌をさらしてるが、誤解だ。これだけ見りゃあ俺とて間違うだろう誤解だ。

「つーか副長、あんまちっこい隊長ドノをイジメてると、好きな子を泣かす青少年みてえだぞ」
「殺すぞ」

 ありえねえ勘違いしてんじゃねえ。
 俺は、ロリコンじゃねえ少年じゃねぇぞ! とばかりに、かなり本気で殺気を放出する。

「じょ、冗談だよ、冗談」

 は、所詮は小物。あっさり圧力に屈しやがる。
 しかしそんなことよりだ。

「首尾は」
「ん、ああ……」

 部下は、少しだけ自分を落ち着けるように頭を掻き。こいつ、根性はあるんだが小物っぽく小心なんだよな。

「――暗部の連中は全員出ばってる。なんでも、東域の動向で不自然な動きが有ったとかで、お上の皇国から引き抜かれたらしいぞ」
「テメエが泳がされてなきゃ、今が好機か」
「ひでえ」

 サーガルドの暗部構成員。
 何かと信用されてない隊長と俺の内偵の為に送り込まれた、現二重密偵(ダブルスパイ)の男が語る。
 それを二割位疑いを込めた目で見ながら、俺は起き上がる。なんとなく、未だ耳まで顔を赤くしてるチンチクリン隊長を見て。

「んじゃ、顔拝みに往こうか」

 勿論、信用も信頼もされてない俺に許可が降りる筈もなく、無断で。
 例の生体兵器――極秘コード・インクティマト。
 資料じゃ、このチンチクリンとそう年の変わらんガキ――

「コードネームは有るってのに、名前がねえってのはどうなんだろうよ」

 ぽっと出の疑問を、なんとなく目つきの悪い二重密偵な部下に吐く。

「……単純に、実験対象を人間として見たく無いからじゃねえか? もしくは最初から人間として視てねえゲス、とか」

 怪訝な顔をしながらも、割と律儀に応えてくる。

「――戦時下だから仕方ない、許される。そういう自己弁護、あるいはそれ以下の糞野郎の狂気……大義名分か好奇心かあるいは忌避感かで、異端者は弄くられる。――この、ガキンチョみてえにな」












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう