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ある日の学校 遠足編
作:○


「いいかー、みんな落ち着けー、助けは来るからー」
 真っ暗闇の中、懐中電灯で照らされた先生が、冷静なのかやる気が無いのか微妙な声で話していた。
 僕らのクラスは今、遠足でやって来た山の途中にある洞穴に閉じ込められている。

 始まりは、山道を歩いている時、同じクラスの東原さんが斜面にぽっかりと開いた穴を見つけて先生に尋ねた事だった。
「先生ー、あの穴なんですかー?」
 東原さんの質問に、先生はしばらく穴を見つめた後答えた。
「よーし、みんなで調べてみよう!」
 てっきり山道ジョークだと思ったのに、先生は元気良く山道を外れて穴に向かって力強く歩を進める。
「おーい、何してるんだー? はやく来ーい」
 無邪気に呼ばれた僕達は「大丈夫なのだろうか」と思いつつ先生の元に行った。
「知らない事を調べてみるのは大切な事だぞ。それじゃ早速入ってみようか」
 先生を先頭に、僕らは洞窟へと足を踏み入れる。
 30秒ほど進んだところで行き止まりに突き当たった。
 残念なような、ホッとしたような気持で僕は行き止まりを見つめた。
 先生はというと、行き止まりを調べている。調べ終わったら元の遠足に戻るんだろう。ちょっとした寄り道だけど楽しかった。
 そんなことを考えていると、調べていた先生が弓塚さんを呼んだ。このクラスの隠しボス的存在、ごく普通に超能力を使いこなす弓塚さんだ。
「ふーむ、これは……岩か? よし、弓塚!」
「なんですか」
 無表情の弓塚さんが無愛想な返事をしながら先生のそばに近づく。
「この岩どけられるか?」
 この人は何を言い出すのだろう。いくら超能力が使える弓塚さんでもこんなに大きな岩をどかすなんて
「できます」
 ……できるんだ。
 弓塚さんは岩の前に来ると、岩の表面に手をそえて目を閉じた。
「えい!」
 弓塚さんが鋭い声を放つと、山全体が震えているような振動と共に大きな岩が横の壁へと強引に潜りこんでいく。
 すごい、確かに弓塚さんはすごいけど、ここまですごいとは思わなかった。
 ものすごい振動の中、前をふさいでいた岩は横の壁にめりこみ、前に進めるようになった。と同時に後ろの方で大きな音がして、あたりが真っ暗になった。
「ん? 入り口が崩れたのか。いいかみんな、こういう所で山を揺らすと危ないぞ」
 まっくらで何も見えない中、先生の声だけやけに響いて聞こえた。

 懐中電灯のいまいち頼りない光の中、僕らは先生を中心に円のような形で座っている。
 あれからどのくらい時間がたったのだろう。助けはまだこないのかな。
「ふむ、ただ助けを待っているのもなんだな」
 先生が立ち上がって僕らを見回した。
「こちらも助かる努力をする事で救出される確率を上げていこう。とりあえず弓塚、なんかないか」
 僕らが弓塚さんを見ると、弓塚さんは顔を上げて答えた。
「空間に穴をあけて外とここを繋げるという手があります」
「よし、それ頼む」
 先生はちゃんと物を考えて喋っているのだろうか、ふとそんなことを思った。
 弓塚さんは立ち上がると、壁の方を向いて両手をそろえて前に突き出した。そのまま目を閉じて集中を始める。
 僕らが固唾を飲んで見ていると、突然何もないはずの空間に黒い大きな穴が開いた。
「お、開いたか。それじゃみんな出るぞ」
 先生はすたすたと歩いて黒い穴に入っていった。
 それじゃ僕も行こうかなと立ち上がって、ふと弓塚さんを見ると、目を閉じたまま両手を突き出した格好のままだった。
 どうしたんだろう、行かないのかな。
「今から出口とつなぐから少し待て」


 ……出口?


 得体の知れない何かが心に浮かび上がってきた。少し怖くなったので、僕はただひたすら黒い穴を見続ける。少しして穴がぐにゃりと歪んだ後、青い空と林、僕らが歩いていた山道が穴の向こうに映し出された。
「ふう、接続成功」
 それだけ言うと弓塚さんはひょいと穴の向こうに行ってしまった。
 僕は弓塚さんに聞きたい事があったけど、怖くて聞けなかった。
 心にずっしりとした物をかかえて重い足取りで僕は下山した。明日から僕のクラスは誰が来るんだろう。
 ふもとに着くと、聞き覚えのある声が僕達を迎えた。

「おー、遅いぞお前ら」
 普通に先生がいた。
 びっくりした。

「それじゃ点呼取るぞー」
 声に振り向くともう一人先生がいた。
 驚いた。

「いいかー、山を舐めるとろくな事がないぞー」
 右の方からも声がする。
 もう無視した。

 僕は弓塚さんの方を見た。弓塚さんは額に指を当て、目を閉じて何か考え込んでいる。
 この状況をどうにかできるのは弓塚さんだけだ。僕は固唾を飲んで弓塚さんを見守った。
「知らない」
 弓塚さんはポツリとそれだけ言うと、一人ですたすたと歩いて帰っていった。
 僕はその後姿をただ見送る事しか出来ない。どうしよう。
 ふと後ろが騒がしいことに気付く。振り返ったら、先生が10人くらいいた。

「よーし、点呼だ」
「家に帰るまでが遠足だぞ」
「お前ら誰だ」
「教科書の30ページを開けー」
「帰りの会を始めるぞー」
「ここはどこだ?」
「めんとろすっかーみ」
「ピー!」
「※∞〆≠ヾ§」

 よく見たら、肌が青色の先生がいる。隣には黄色の先生もいる。
 あと赤色がいれば信号機だ。いた。
 意味が分からないので、僕も帰る事にした。
 背後から聞こえてくる良く分からない叫び声。
 僕にはまるで世界の悲鳴のように聞こえた。














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