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夢見る鹿島の星間戦争 作者:茅野可南子

十一章、陸奥改は作戦行動中

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11-(2) 上司の資質

 通信オペレーター黒耀こくようるいからリボルベオ事変での孫達そんたつ将軍の逮捕の妥当性を問われた戦隊司令天儀(てんぎ)は――。

「そういえば黒耀の作戦案の冒頭に、孫達そんたつの撤退に関する状況解説と分析があったな」

「そんなことまで書いてるから長くなるのよ」
 と、チャチャを入れたのは二足機パイロットの春日綾坂かすがあやさか

 綾坂は黒耀からひとにらみされるが、かまわず言葉を継ぐ。
「それ、私たちのなかで意見が別れているんですよ。天儀司令はどういうお考えをお持ちなのでしょうか」

李紫龍りしりゅうが拘束され、残された連合艦隊。戦力は2個艦隊。そこに反乱軍2個艦隊が協定を破棄して攻撃を開始か……」

 天儀が状況を思いだすようにいうと、
「あとそのタイミングで中立コロニーは反乱軍へ寝返りという要素も重要かと」
 黒耀が補足した。

 綾坂と黒耀の瞳が天儀を注視。
 人の上に立つものは常に下から試されている。これは忘れてはならない。
 この質問は天儀の上司としての資質をためされているといっていい。

 根拠薄弱で逮捕は正しいと応じると、最高軍司令部(コジョレ)に迎合したと見られ。大勢に弱い情けないおべっかつかいと見られかねない。

 これでは話しかけやすさも台無し、たんなる侮蔑すべき悪癖としてみなされる。つまり天儀の下に対する優しさは、たんなる八方美人で風見鶏かざみどり。誰にでも良い顔をするだけの優柔不断さの現れ。

 無能で優しい上司より、怖くても有能な上司。兵士にとって〝有能な上司〟とは戦闘勝つことであり、自分たちの生命を保証してくれる上司だ。生命の保証とは、無駄死にさせないと言い換えてもいい。

 問われた天儀は、
「君たちはどう思う」
 と、問いで応じた。

 問に問で応じるとはあまりほめられた態度ではないが、戦隊司令から問われれば2人は応じるかない。

 だが天儀からすれば2人の意見を知りたい。司令官である自分の意見を聞いてからでは2人の心の中にある意見が面にでずに押し殺されてしまうという可能性がある。

 まず綾坂が応じた。
「わたしは逮捕についてはわかりません。でも撤退は正しかったと思います。あのまま戦うのは無駄な気がします。突発な事態で司令長官が不在ですし……」

 続いて黒耀が答える。
「撤退は絶対に正しいです。反乱軍2個艦隊と連合艦隊は中立コロニーを間に布陣していました。撃ち合えば中立コロニーに当りかねません。コロニーに火砲が当たってしまったとなれば大問題です。孫達将軍は自らの名を捨てでも一般市民を守るという英断をしました」

「なるほど、そういう見方もあるな」

 そういって応じた天儀が次の瞬間、おや? という顔になり、
「2人も同じ意見じゃないか。意見が別れてるんじゃないのか?」
 不思議そうにいうと綾坂が応じた。

「ああ、私たちっていうのはわたしの兄貴の丞助じょうすけと、秘書官のアヤセを加えた4人グループでの話です。ま、攻撃すべきだったというのは兄貴1人なんですけどね」

「司令の意見はどうなんでしょうか?」

 黒耀がまだ旗幟を鮮明にしない司令天儀へ問い詰めるように迫った。黒耀だけでなく綾坂からしても、ここで答えをにごされれば幻滅するかない。

「なるほど確かに撤退は正しかったな。私も撤退したろう」

 とたんに2人がほっと息を吐いた。
 黒耀も綾坂も司令天儀が同じ意見だと思うとどこか安心した。
 が、次の瞬間天儀からでた言葉は違った。

「だが孫達の撤退は内容がまずい。状況的には遭遇戦に近い。突発的に戦闘が開始されたからな。遭遇戦で優勢な敵を前に、そのまま下がれば必ず総崩れとなる。これは往古から変わらない」

 2人の天儀の顔を見る目は真剣だ。理由は? と目が爛々(らんらん)としている。
 ――兵士の顔だな。
 と天儀の気分は悪くない。

「あのような戦端の切られ方をした場合、活路があるのは攻勢しかない。艦隊一丸となって攻勢に転じ、敵の弱体点を突き、そこを撃破する。敵がひるんだところ撤退すれば、その生命を唯一全うしうる。みっともなく下がったのは断罪に値する。逮捕の指示をだしたのは、賢人委員会か最高軍司令部(コジョレ)かは知らんがよく見ている」

 この天儀の言葉に2人が顔を伏せて意気消沈した。
 ――司令天儀のいうことが正しい。
 2人にはなぜかそう思えた。

 黒耀も綾坂も言葉の力強さから正鵠せいこくを得ていると心の深い部分で感じた。
 そして自分たちは、あの場面では孫達将軍のように撤退した可能性が高いのだ。なら逮捕されている。いや軍人が間違った選択肢をすれば死に直結する。ある意味自分たちは死んで、最悪多くの仲間も道連れにしたのだ。

 天儀は消沈気味の2人を見て、
「なんだ。意見を持つということは悪いことじゃない。私は惑星ミアンで様々な資料を見たから君たちより与えられている情報も多い。判断材料にする情報の量が違う。そんなに落ち込むな」
 と明るく声をかけると2人の表情から深刻なものが霧散。場から硬さが抜けていった。

「ま、不幸中の幸い。敵が追撃の手を抜いたからな。あれで2個艦隊は救われた。本格的に戦闘になっていたら撃滅されていた可能性がある」

「それも疑問でした。なぜ反乱軍は、ほとんど手をださずに追撃を切り上げたのでしょうか」

「ランス・ノールは謀略家だ。先の先を見越して艦隊の損傷を嫌ったのだろう」

「え、それでも理解できません。あそこは損耗をだしてでも徹底的に追撃すべきだったのではないでしょうか」

「わたしも黒耀と同意見。反乱軍が支配しているのは1星系2惑星。対して我々同君連合は11星系17惑星。時間あけちゃうとランス・ノールの反乱軍は体力差でもみ潰されませんか?」

「まったくね。独立宣言って既成事実もって静観すれば独立が認められるなんて虫が良すぎじゃないかしら」

「というか、あれじゃ静観じゃなくて傍観よ。チャンスを見過ごし無為にしたって感じ」

「艦隊を温存したかったんだよ。第二星系内の造船能力では1個艦隊を作るのに全精力を注いで1年はかかる。それに人員補充の問題もある。そもそも人口的にも将兵の定数を確保しつづけるのも大変だ」

「第二星系はラスト・セクター(終わった地域)といわれるほど経済的には追い込まれている地域。あらゆる軍事物資の補充は難しいか……」
 黒耀が一人つぶやくようにいった。

「それに孫達の連合艦隊を殲滅せんめつするには、後背を遮断するために快速の部隊を回り込ませる必要がある。だが回り込んだ部隊は撤退してくる艦艇の波をまともに受けることになるので、被害はばかにならない」

「足が早くて回り込みできるような部隊はエリートですよね」

 次に天儀の言葉へ応じたのは綾坂。二足機パイロットの彼女は実戦経験こそないが厳しい訓練で実際の戦闘による損耗の厳しさを黒耀よりリアルに想像できる。

「そうだ。ランス・ノールとしては補充が難しいので、虎の子のエリート部隊の損耗は避けたい」

「最悪回り込んだ部隊は3割以上の被害は確定。最悪全滅に近い損害になりますよね」

「さらにこの後方遮断を有効にするには、ユノ・村雨の正面部隊を全面に押し出して孫達軍の主力を拘束する必要がある。ユノ・村雨の第四艦隊も被害は大きいだろう」

「我々としては助かったのは間違いないですが、それでもランス・ノールに得はあったのですか?」

「わたしもやっぱり黒耀と同意見です。反乱軍はあそこで同君連合軍を徹底して叩いておくべきだったと思います」

 天儀は2人の様子に、
 ――これが友人にして犬猿の仲というやつか。
 と思わず苦笑。綾坂と黒耀はあれだけ罵り合っていたのに、強く通じ合うところもあるのだ。

「それはわからん。私は政治家ではない。だが私も君達と同意見だ。私ならならあそこで確実に相手を撃滅するな。独立もそのほうが早く認められたとも思うが、そこはわからん。ランス・ノールは金眼銀眼オッドアイ。魔法の目を持っているといわれる男だ。我々凡人なんぞが見えない、さぞとおきが見えたんだろう」

 2人は、
 ――理由は不明。
 と、はっきりといわれ逆に納得した。

 わからないことを、もっともらしく無理に説明しようとする人間ほど信用ならないものはない。それにこの問題に関しては司令も自分たちと同じ意見だというのが、2人に満足感を与えていた。

「お時間を割いていただいてありがとうございました。疑問が一つ解消さました」
 黒耀がペコリと頭をさげると、
「そうね。アヤセや兄貴にも教えてやんなきゃ」
 綾坂もそういって一礼。2人は揃って資料室を去ろうとしたが、黒耀とともにきびすを返そうとした綾坂が、
「天儀司令ならどうしましたか?」
 と思いついたように天儀へ質問した。

「どうした、とは?」

「天儀司令が反乱軍の側だったらです。天儀司令が反乱軍の指揮官で、孫達将軍の連合艦隊を猛追して完全撃破したら、そのあとはどんな行動を選択しましたか?」

 天儀が、ああ、といってから、
「俺なら惑星ミアンまで直進したな」
 そう無造作に応じた。

「「ええ?!」」
 と同時に驚く2人。

 黒耀や綾坂としては孫達の連合艦隊を徹底的に叩いたあとは第二星系内の守備へ戻ると漠然とイメージしていた。孫達連合艦隊は2個艦隊。反乱軍も2個艦隊。優勢の内に孫達軍を駆逐しても損害は少なくない。それ以上の進撃は欲張りというものだ。

 だが、天儀は違った。天儀は一人称を〝俺〟としたまま威儀を発して――。

「俺があの状況で勝てば進撃以外の選択しはない。孫達の連合艦隊の排除に成功すれば、一時的にだが同君連合からは有力な艦隊は消失する。その間隙を突いてミアンまで進軍。艦隊で文民どもを恫喝どうかつして賢人委員会へ独立を認証させる」

 質問をした綾坂だけでなく、興味津々と聞いていた黒耀も絶句。

「それはやりすぎじゃ……?」
 と、どちらともなくいうと天儀は。

「戦場は状況がすべてを支配するが、政治は違う。だが有力な敵戦力を排除した瞬間のみ状況で政治を動かせる。進軍は当然だ。なんならミアンの議会へ向けて2,3発重力砲を撃ち込んでやってもいい。悲鳴も涙も出ないぐらい徹底的に脅しつけて独立を認めさせる」

 2人には驚きをとおりこしてガツンと殴られたような衝撃しかない。天儀の言葉が過激すぎてなにをいっているのか半信半疑。
 綾坂も黒耀も、ただ衝撃をかかえつつ資料室を後にしたのだった。

 天儀も少し遅れて資料室をでようとすると、
「反乱軍、同君連合軍どちらの立場でも徹底的に攻勢にでて敵を撃滅する。天儀司令らしいことですね」
 という声がかかった。

 深雪の美女。身に六花ろっかをまとったような天童愛てんどうあいだった。

「なんだ聞いていたのか」

「ええ、わたくしもここへ用事があったので」

「隠れて立ち聞きとは行儀が悪いな」

「違います。失礼な。おじゃましては悪いかと思って話が終わるのを待っていただけですから」

「そうか。でも積極攻勢策の先制打撃は私などより天童愛そのものだと思うが」

「あら、知ったようにいって。わたくしがお兄様以外から、そのように馴れ馴れしくいわれるのが不快だって気づいていて?」

 天童愛はツンとしたが、わかったようにいわれるのが腹立たしくもあり、理解されていて悪くない気分でもある。

 確かに積極攻勢にして先制打撃は、
 ――星間合軍のさきがけを自負した自分そのもの。
 天童愛からしてそう思う。

「そういえば孫達はグランダ軍出身で星間会戦でも李紫龍りしりゅうの副官でしたね」

「それがどうした?」

「李紫龍の上官は天儀司令。部下が選んだ部下があれほどまでにみっともなく後退するとは管理不行き届きでなくて?」

「バカいうな。孫達を選んだのは紫龍だ。それにあれを俺の副官でやりやがったら逮捕どころじゃない。さずけられた斧鉞ふえつで即断の首チョンパだ」

 天儀が斧を振るような仕草とともにいうと天童愛が思わず吹いた。

の部分で殴って昏倒こんとうさせてから確実に首を落とす。あ、いや俺ならそもそもあいつを採用しないからそんな事態にはならんか。ま、とりあえず冗談だぞこれは」

「あら怖い」
 という天童愛にはやはり笑貌しょうぼうがある。

 天儀はそんな天童愛を横目で見ながら言葉を継ぐ。
「俺は孫達に不敗の紫龍の遺漏いろうを見た」

「遺漏?」


「孫達のみっともない敗退で、わかったことがあるということだ」

「あら、なんです?」

「紫龍はたんに自分がつかいやすい男を副官に選定したな。自分が死んだときの対策はこうじてはいなかった。意外にザルだったな。知恵者の千慮せんりょにも一失いっしあり、優秀にすぎるとああいう穴がある」

 天儀の言葉は内容は投げやりだが、声色にはいら立ちがある。そのいら立ちが言葉となる。

「孫達があの時点で攻勢に転じて反乱軍を撃破していれば、紫龍の身柄を拘束できた可能性がある。つまり李紫龍の謀叛むほんを未然に防げたというわけだ。やはりヤツの選択肢はみっともない」

「あら、わたくしがアミンの司令部で見かけた資料では、孫達は李紫龍が裏切ったとは考えず拘束されたと疑っていたらしいですよ」

「それだ。私もその資料は見た。私の憤懣ふんまんはそこにある。紫龍の拘束を疑っていたならなおさらだ。紫龍を唯一救えたかもしれないタイミングだった。疑ったのならなぜ救出に動かなかった。敵が攻撃してきたのだぞ。交戦の口実はでき上がっている。本当に口惜しい」

 天儀が感情を露骨にしていった。

 天童愛は少し驚いたが同時になるほどっとも思い、
「なるほど天儀司令は妻の安心院蕎花あじむきょうかが殺されるまでは、李紫龍は拘束を受けていただけとお考えなのですか?」
 質問を投げかけたが、天儀は黙ったまま。うなづきもしない。

 ――義理堅いことですこと。
 と天童愛は思った。

 妻の安心院蕎花が殺されて李紫龍が寝返りを決意したと認めれば、皇帝の失敗を認めたことになる。というのは星間連合の天童愛にもわかる。

 ――皇帝への批判は避けるということですか。
 とも天童愛は思い。それ以上の追求はやめにした。

「で、司令はずいぶんと李紫龍へ情があるようですけれど、そんな大事な紫龍さんを誅殺できるのですか?」

 天儀はプイッとそっぽ向いてしまう。
 これには天童愛もムッとした。

「あら、子供じみた態度だこと。やはり特戦隊と反乱軍の戦力の差は歴然。しかも李紫龍のほうが優秀ですか。星間戦争は李紫龍だのみでしたからね。特戦隊は仕事をするふりをして宇宙で遊泳会。この天童愛を駆りだしておいてなんとも情けない」

 天儀が、黙れと、とばかりにギロリと天童愛をにらんだ。
 瞬間、天童愛の総身を熱波がビュッと吹き抜けた。天童愛は長いストレートの黒髪が風に煽られ顔にまとわりつく感覚すら覚えた。

「あら、お怖い。李紫龍を見つけたらなんの対策もなしに突っ込んで行きそうな気迫ですねこれは」

「ふ、違いない。だが紫龍は俺を殺せるかな」

 天儀が踵を返してブリッジへ歩きだした。
 天童愛は、その姿を見てなぜか言葉には特に意味がないということがよく理解できた。最後の台詞は見栄を切っただけだ。

「よくわからないところで、格好をつける変な男」
 そんなことを思いつつ天童愛は天儀の背中から目を離し資料室へ入った。
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