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夢見る鹿島の星間戦争 作者:茅野可南子

一章、始動

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1-(3) 兄妹の封印 

 父アルバが亡くなり、母も1年半で心労がたたってこの世を去り、幼いランス・ノールとシャンテルの兄妹はセレスティアル宗家へ引き取られた。

 ランス・ノール9歳、シャンテルは6歳だった。

 2人にとって、セレスティアル家での生活は楽しいものではなかった。

 しばらくたつとランス・ノールは、妹と2人きりのときには、状況への悲観と血筋への怨嗟えんさ、それに亡き父親を誹謗ひぼうするようになっていた。

 この日もランス・ノールは妹と2人になった部屋で、
「なにがセレスティアルだ。家名に居直り腐りきってる!」
 と始めていた。

 この言葉から始まったるのは兄妹の父の悪口だった。呪いの言葉ともいっていい。

 幼いころの2人は、すでに自分たちが私生児だったことで、生活に困窮し母は2人ために心労で死に、宗家に引き取られてみじめな生活を送っていると認識していた。

 正当な財産分与が行なわれなかったのは大人たちの汚い思惑だったが、大人たちが汚い行為に及んだのは、2人の立場が内縁の妻の子というのが原因だった。理不尽の一言に尽きるが。

 ――兄の父への恨み言。

 幼いシャンテルは、兄から父の悪口を聞かされるのにうんざりしていた。

 シャンテルは幼かったとはいえ生前の父のことははっきり覚えている。よく抱き上げてくれたし、絵本を読んでもらったこともだ。

 シャンテルにとって父との思い出はさほど多くないが、ここ最近兄からでる父への言葉は、そんな父との少ない思い出をけがされているようで我慢がならない。

「お兄さまは、シャンテルの気持ちも自分と同じだとお考えのようですが、シャンテルはシャンテルで、ランス・ノールではありません!」
 これが幼いシャンテルの心の叫び。

 だが兄のランス・ノールは曇ったシャンテルの表情になどまったく気づかない。妹も自分と同じ意見だろうと今日も饒舌じょうぜつだ。

 この日ついに堪りかねたシャンテルは、
「お兄さま、お父さまを悪くいうのはおやめになってください!」
 兄へはっきりと自分の意見を口にした。

 思いもよらない妹からの言葉に、ランス・ノールが驚いた顔でシャンテルを見てから、
「でもあいつのせいで、こんなに苦しんでいる。あいつがお母さまとちゃんと結婚しなかったからっ」
 そういって父親の存在を頑なに否定。

 それにもひるまずシャンテルは責めるように兄へ言葉を返す。

「でもお兄さま。シャンテルは知っています。母親だけでは子はできません」
 さらに言葉だけでなく、シャンテルは強い視線で、兄のランス・ノールを責める。

 もちろん幼いシャンテルだけでなく、兄妹は生物的な情事ではなく、漠然と父母が揃ってはじめて、子が存在すると知っているだけだ。もちろん世の中には片親の子供もいるが、それは離婚しただけ、最初は夫婦でいたはずだ。

 ランス・ノールは、父がいなければ自分たちは存在しないと幼い妹に端的に、かつ鋭く指摘され応じにきゅうした。

 シャンテルが黙り込む兄へつめより、
「それにセレスティアの名は、お父さまから受け継いだものではありませんか」
 といってからさらに継ぐ。
「お兄さまが、セレスティアの名前に誇りをもっているのをシャンテルだってわかります。それなのにお父さまを悪くいうのはおかしいです。むじゅん、というやつです。セレスティアは良くて、なんでお父さまはダメなんですか?」

 幼い妹の強い糾弾にランス・ノールは動揺し視線が泳。だが、それでも負けてはいない。

「でもだ!だって」

「でもも、だってもありません!お父さまを悪く言うのは、お亡くなりになったお母さまが悲しみます!」
 シャンテルがキッと兄をにらみつけて放った。

 ――さあどんな反撃をしてくるですかお兄さま!
 シャンテルは今日にかぎっては兄にどんなに巧みに抗弁されても、絶対に言い返すというという強い視線で兄を見つづけた。

 だが兄ランス・ノールは目を見開き真っ青になり黙ってしまっていた。そして、しばらくすると兄の眼から涙がでていた。

 幼いシャンテルとって意外な反応だった。兄は人一倍口が達者で、シャンテルはいままで兄に口で勝てたことがない。
 くだらない言い合いでも常に兄に軽くあしらわれていた。

 シャンテルはこのときも兄から当然何かしらの巧みな反論がでるものだと覚悟して、絶対に反論しようと気を張っていた。

 だが、兄からでたのは言葉ではなく、涙だった。

 シャンテルはこのときの兄の顔が忘れられない。

 そうあのときの兄は自分の言葉を拒絶と受け取った。絶望と不安。
 ――なんでお前まで僕を責めるんだ。
 という感情の波が、シャンテルへ怒涛と押し寄せた。

 ランス・ノールはうつむいて涙を拭うが、止めどなく涙が溢れてくる。

 兄の涙に、シャンテルは自分がとてつもなく悪いことをしたという罪悪感に支配された。

 シャンテルは、兄の袖を手で握り何か言葉を、優しい言葉を口にしようとしたが、気持ちが高ぶって自分も涙がでてきただけだった。
 幼い兄妹は、しばらくの間ただ一緒に泣いていた。

 兄ランス・ノールはあの日以来、父の悪口を口にすることはなくなった。それは同時に兄妹が父の思い出話をすることもなくなったということでもあった……。
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