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夢見る鹿島の星間戦争 作者:茅野可南子

四章、天地鳴動

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4-(5) 動き出す陰謀

 マサカツアカツのブリッジでユノ・村雨は李紫龍の2個艦隊の対策会議前に、ランス・ノールとの短い会見終え。成果も上々。あとは会議を終えてからカチハヤヒへ戻り、
 ――寝返り工作の開始ね。面白くなるわよ。

 会議は1時間ってとこかしら。そうなると2時間後には自艦に戻れるわね。などと考えつつユノ・村雨は退出するためにランス・ノールへ敬礼。会議の行なわれる部屋へ向かうため踵を返そうとしたが、
「ところでユノ・村雨司令」
 と、ンス・ノールが引き止めてきた。

 ――なによ?もう話は終わったでしょ。まだなにかあるっての。

 それに先程まで意気投合し謀略を語り合っていたのに、
 ――ユノ・村雨司令。
 と、距離をおいた呼び方なのも引っかかる。

 ユノ・村雨がけだるげに振り向くと――。

「星系封鎖を解除する君の華麗な機動戦はぜひ私もみたいところだが、今回は自重してくれ。星系封鎖解除より、もっと大きいことができるからね。華麗な機動戦はそうだね。機会がれば命じるよ」

 そこにはランス・ノールの機嫌によさげな顔と声があった。

 だが、ランス・ノールの柔和な表情に対し、
 えっ――。
 と、ユノ・村雨は頭が真っ白。

 目は見開かれ、半開きの口からは、
「カ――ッ」
 というかすれた音がもれただけ。

 ユノ・村雨は反射的に片膝をつき頭を低く下げるという君主へ対する礼容をしめしていた。

 全身で真っ青になるユノ・村雨の総身を、
「なぜ知っている――!」
 という恐怖が突き抜けていった。一瞬にして全身が緊張の汗でびっしょりだ。

 なぜならランス・ノールの言葉は、ユノ・村雨が接続艇ランチないで口走った、
『速攻即戦!ランス・ノールも戦術家としては大したことないわよ。ユノが総軍司令官なら華麗な機動戦で星系封鎖はもう解除されてたわね』
 この軽口をさしているのは間違いない。

 青い顔で床を見つめるユノ・村雨が焦りのるつぼのかなかに思う。誰が教えたの?いえ盗聴?いや、そんなはずは――、接続艇ランチはカチハヤヒの管理よ。盗聴は難しい。じゃあやっぱり誰かが告げ口した?でも私はマサカツアカツへ入って真っ直ぐブリッジへ入ったのよ?誰かが先行してブリッジへ入ったような気配はなかったわよ。ええ、じゃあどうして知ってるの?!

 いまはランス・ノールがユノ・村雨の口走った軽口を知っているという事実だけが重い。ユノ・村雨の頭がグルグルとまわる。

 ユノ・村雨の加速しすぎて逆に思考がまとまらない脳に恐怖だけが蓄積していく。

 なぜなら、
「あの言葉を知られているということは――」
 当然として他の諸々も知られていることで、ユノ・村雨からしたら生きた心地がいしない。ユノ・村雨は、神聖セレスティアル軍になっても、やはり身に覚えの多い女だった。ユノ・村雨の全身が、この場で粛清されかねないと恐怖で冷えた。

「も、も、もお、申し訳ありません。で、でも違うんです。あれはなんというか部下が戦闘をしたいと不満をもらすので、それを掣肘せいちゅうするために司令の私が自ら強気を口にして――」

 ユノ・村雨は言い訳を口にするも真っ青な顔をあげることもできない。

 ランス・ノールは足元に恐怖してはいつくばるユノ・村雨を見下し、
「もういい」
 という、ぞんざいな言葉とともに右手で薙ぎ払うような動作をだし、そのまま手を腰にあて言葉を継ぐ。

「私も星系封鎖は早々に解除したいと思っていた。長引けば経済への良い材料にはけしてならないからな」

 だが、ユノ・村雨は、
「はい――」
 と、返事がでるだけで体がこわばり顔も上げることができない。

「引き止めてしまってすまないね。それじゃあ行ってくれ。寝返り工作の成果には期待しているよ」

 ランス・ノールがこわばって動けないユノ・村雨の手を取り肩を抱き立たせた。

 そうろうと立ち上がるユノ・村雨は口元を引きつらせ愛想笑いし、ランス・ノールの顔を恐る恐るのぞくと、そこにはランス・ノール笑顔があったが、
 ――金目銀目オッドアイが妖しく光った。

 全部見透かされている――、とユノ・村雨が跳ねるように敬礼。

「ユ、ユノは第一執政閣下に忠誠を誓っており――!」

「もういいよ。士官学校同期の仲だろ?私を童貞とか、ドシスコンとか、アンタとか、お前とか気さくに呼んでくれるのはもう君だけだ。そんなにかしこまらないでくれ」

「いえ、増長しておりました!」
 そう叫ぶようにしていうユノ・村雨。

「あ、あとゲス野郎もあったな。君の私への呼びかけは実に多彩だ。感心する」
 ニッコリとしてつけ加えるランス・ノール。この執拗な追撃にユノ・村雨目に涙すらたまってきていた。

 たまらずユノ・村雨は、
「第一執政と、神聖セレスティアル軍に栄光あれ!」
 と声を張り上げ副官を伴いブリッジから退散。

 ランス・ノールは、そんなユノ・村雨を、
 ――バカめ全部筒抜けだぞ。
 と、冷たい目で見送った。

 ユノ・村雨がブリッジを去ると、それまで兄の後ろにひかえていたシャンテルが進みでて、
「ユノさんにはあきれました」
 そうブリッジの出入り口へ軽蔑の視線を向けながらいった。

「そうだね。それに態度も悪い。ユノ・村雨には勤恪きんかくさが足りん。あれぐらいビビらせてやったほうがいい。良い薬だ」

「あの女、裏切りませんか?」

「平気だろう。あいつ自身が日ごろ侮蔑を公言している小物だ。それにユノ・村雨は最高軍司令部(コジョレ)が派遣した軍監へ直接手を下している。寝返るのはとても無理だよ」

 シャンテルがクスリと笑った。自分たち兄妹を下卑げびた話題でなじった結果が、あのほうほうの体だ。いい気味だった。

「それにしても、お兄さまの金目銀目(オッドアイ)は、なんでもお見通しなんですね。シャンテルは驚きました」

「まあ、美しいものだけ見ていたい。だがそうもいかないね」

 ランス・ノールはそういってシャンテルの顔を正面にすえ、頬に手をやってなでた。シャンテルが嬉しそうに兄の手をうける。

「ファリガ、ミアンノバでの行政は上手くいっているよ。あと1年は苦労をかけると思う不肖の兄ですまない」

 シャンテルが兄の手を両手でにぎり、
 ――シャンテルは大丈夫です。
 と兄の目を見つめる。
 ブリッジに兄妹だけの時間が流れた。

「あ、お兄さま。会議前にご報告があります。まだお時間はありますか?」

「ああ、コロニーの件かな?」

 シャンテルからは肯定のうなづき。
「李紫龍への交渉場所として提案する無防備中立宣言をしたコロニーを確保しました」

「市長は納得したか?」

「ずいぶんと協力的でした」

「ふ、やはりか。彼は日和見ひよりみしたことを後悔しているからな。我々に恩を売っておきたいだろう」

「李紫龍が我々との交渉に応じたら、交渉場所の候補として自発的にという形で李紫龍へコンタクトを取っていただける手はずになりました。無防備宣言した中立コロニーなら李紫龍も交渉に乗ってくるでしょう」

 ――無防備宣言むぼうびせんげん
 とは、ハーグ陸軍条約二十五条を源泉とする国際条約。正確には『無防備地区宣言』。行政区単位で無防備地区を指定し攻撃対象から外されることを目的とする。
 この宣言なされた地区は、敵味方問わずどのような勢力も、あらゆる軍事行動を行なうことが禁止される。

 つまりシャンテルが中立コロニーの状況を説明すればこうだ。

 今回コロニーの市長さんは、お兄さまの独立宣言を反乱と見なし、短期的なもので収束するという見通しを持っていました。ですがコロニーはミアンノバの宙域に存在し、神聖セレスティアル共和国へ参加を表明しなければ攻撃を受ける可能性も濃厚。

 市長さんからすれば――、
「反乱軍にくみすれば反乱鎮圧後の本国からの心象が悪い。かといって反乱へ参加しなければ攻撃を受ける」
 困ったでしょうね。

 そんな市長さんなは苦慮の末、反乱軍と討伐軍との戦闘に巻き込まれる前に、中立宣言と無防備宣言を同時に行なったんです。

 ――中立。
 と強調することで無防備地区宣言だけでなく、自分たちはどちらにもくみしないということも宣言してコロニーの安全を確保したわけです。考えたとシャンテルは思います。

 けれど市長さんの見通しは、独立宣言が成されて半年も静観状態が続いたことで崩れます。つまり、
 ――このまま独立が既成事実化してしまうのではないか?
 という危惧です。

 こうなってくるとコロニーは困ります。市長さんのコロニーは惑星ミアンノバの宙域にありますから、経済活動は惑星と周辺の宇宙施設に依存しています。宇宙空間での孤立は、たとえ単体での自活機能のある半恒久型コロニーといえどもその存続を危ういですから。

 神聖セレスティアルのなかに、
 ――ポツリと一つ中立コロニー。
 というのはとっても不安定な状況なんです。長続きはしません。あの手この手で経済封鎖を受ければ一巻の終わりですからね。

 こうなってくると神聖セレスティアルに参加したほうが良かったということになります。中立コロニーの市長さんの積極的な我々への協力はこういった事情があるのです。

 そう、もう中立コロニーとは名ばかりですね。実質神聖セレスティアル側です。李紫龍はまんまと敵の巣へ入ってくることになる……。シャンテルはどうなるかとっても楽しみです。

「第一執政の私が直接会っての交渉が望みといえば李紫龍は交渉に乗ってくる公算は高いが、場所の設定は難しいところだった」

「セレスティアル軍が管理する施設では、李紫龍は警戒してしまいますものね。中立コロニーでの会見の準備は手はずどおりに行ないます」

「ああ、頼んだよ。シャンテル」
 ランス・ノールが妹へ向けて微笑んだ。

 その微笑みはランス・ノールの純粋さだけが凝縮された綺麗なものだった。ランス・ノールは陰謀へ没頭し始める前に一時の休息を得ていた。
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