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夢見る鹿島の星間戦争 作者:茅野可南子

四章、天地鳴動

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4-(4) ランス・ノールの秘計

 神聖セレスティアル共和国の第一執政ランス・ノールは、李紫龍の2個艦隊の派遣を即日知った。

『李紫龍vs.反乱軍』
 と、星間戦争最高の英雄が艦隊を率いてでたことは大々的に宣伝されていたからだ。

 マサカツアカツのブリッジは『一体式』と呼ばれる操船指揮と戦闘指揮を行なう司令部が一つとなっている作り。この作りのブリッジはバスケットコートほどの広さはゆうにある。
 この広いブリッジの中央に座するのがランス・ノールだ。

 ランス・ノールは座席から降りると、司令代理で艦隊を預かる妹のシャンテルを伴い鉾武ほうぶ艦隊司令ユノ・村雨を出迎えた。

 ――ふん。相変わらず妹が横にいないと落ちつかないって、とんでもなシスコンぶりね。
 ユノ・村雨が敬礼、下手な態度のなか思う。

 ユノ・村雨は続いて、瞳に映る大きな瞳にカーキ色の巻き毛の少女のようなシャンテルへ視線を移した。

 あんたもランス・ノールへ、べったりね。あんがいランス・ノールの病気シスコンはあんたのせいじゃないの?てっか殺人人形ちゃんもお兄ちゃまの横では大人しいわね。虫も殺せそうにないじゃない。

 ――目は口程に物を言う。

 ユノ・村雨の見下するような視線。シャンテルおびえを見せ兄の後ろへ隠れるようなしぐさを見せた。もちろんおびえをよそおっているだけで、その内実は不快だ。

 対してユノ・村雨も、
 ――バッカじゃないの。そうやってしおらしいのがムカつくのよ。
 と不快を強くした。

 ユノ・村雨は感情に正直で動物的だ。下手に出る相手へ容赦ない。たとえシャンテルが冷酷で呵責ない凶悪な一面があるとわかっても衝動を抑えきれない。

「お帰りなさいランス・ノール執政。昨日は楽しめた。シャンテルちゃんの部屋にお泊りだったらしいじゃない。なにしてたの?」

 ユノ・村雨が下卑げびた笑いを伴いランス・ノールを刺した。シャンテルを傷つけるにはランス・ノールを攻撃するのが一番だ。というのはユノ・村雨にも簡単にわかる。

「はぁ――。お前は相変わらず下品だな。逆に安心した」

 ランス・ノールが、その金目銀目オッドアイにあきれと残念感を隠さずいった。

「恋人同士じゃないのよ。シャンとしなさいよ。つーかね妹と乳繰り合ってんじゃないわよ。国家元首にスキャンダルは致命傷。アンタのどシスコンって、わりと有名なんだから自重しなさい。艦艇の個室は基本的にベッド一つなんて、下士官どころか兵卒の下っ端まで知ってんのよ。アンタがシャンテルちゃんを床に寝かしたわけないし、逆にシャンテルちゃんがアンタを床に寝かすわけもない。つまり仲良く一つのベッドでいっしょにお寝んね、なんてバカでも想像つくのよ。アンタもシャンテルもガキって年齢じゃないのよ。どうにかしたらその性癖」

「バカをいうな。2人きりの兄妹が仲睦まじくするのがそんなにうらやましいか。どうしたらそんな想像ができる。お前の想像たくましさには私もあきれるぞ」

「アンタが美形でシャンテルちゃんが可愛いだけに噂が噂を呼ぶのよ。ちょっとは自覚しなさいよ。アンタが終わると私も終わるんだからね」

 これだけいわれてもランス・ノールは、やはりあきれただけで特に不快の思いもなく、
 ――ユノ・村雨という女はこういうやつだ。
 とぐらいにしか思わない。なにせ士官学校時代からの付き合いだ。よく知っている。

 一方、シャンテルは冷えた視線でユノ・村雨を見ていた。

 私とお兄さまはセレスティアル家から捨てられた2人きりの兄妹。仲がいいのは当然です。捨てられた私たち兄妹への同情の視線はあっても、そんな下品な視線で見ているのはユノさんだけです。ほんと、どうしたらそんなおぞましい想像ができるんでしょうか。信じられません。

 シャンテルからすれば、ユノ・村雨の想像はたくましく卑猥ひわいにすぎる。

 なお、このやり取りを少し後ろで聞かされていたユノ・村雨の副官セルビスは、
 ――バカか。なにをいってるんだこの女は!
 とメガネの下の表情にとぼしい顔は真っ青。眉間のしわを深くしていた。

 だがもう音にされているものはどうしようもない。セルビスは、あばずれ姫の傍若という本領発揮に、第一執政相手にも一発かまして、自分の立場をよくしようとするか。と、あきれつつも、この強引さが有利に働くように願った。上官のユノ・村雨が失脚すればセルビスも一蓮托生だ。セルビスはユノ・村雨に重用されすぎている。

 あきれるランス・ノールに、ユノ・村雨はフンっと鼻を鳴らし、
「で、あの不敗の紫龍が派遣されてくるどうするの?」
 態度をあらため真剣な顔で本題を口にした。

「アンタのことだから、まさか一大会戦。なんて大博打にでるわけじゃないでしょ?私の仕事を教えて死ぬ気でやるわ」

「ふ、ずいぶんと殊勝だな」

 ランス・ノールが口元に笑みを見せたると、ユノ・村雨は笑いごとじゃないというように、
「だからいってんじゃない。アンタが終わると、私も終わるの。さっきの言葉も憂さ晴らしじゃなくて忠告よ。アンタへ集まる視線はユノみたいなのもふくまれる」
 真剣にいいさらに継ぐ。

「いま12星系19惑星の全部の目が、独立宣言をした若き第一執政のアンタに向いているといっても過言じゃない。母数が多ければ、そのなかにふくまれる下品な視線の数は少なくないわよ。てかねアンタから見て下等な私って下品なスキャンダルが大好きなの。残念ながら大衆は私と同じで下等よ。つまりこれは、大衆はスキャンダルが大好きってことね。敵が怪文書でもバラバ撒いて、『第一執政×その妹シャンテル』なんて見出しが踊れば大衆は食いつくわよ」

 このユノ・村雨の言葉は乱暴だが的は得ていた。
 ユノ・村雨の思わぬ正鵠。

 シャンテルはぐうの音もでないといった様子で驚き、後ろにひかえているセルビスも、
 ――これだからこの女は侮れない。
 と無表情の下で感心していた。

「ご忠告感謝する。第一執政になった私へ、そうも堂々といいにくいことをいってのける。まさに直言というやつだな。美しい行為だ」

 だがユノ・村雨は、
「バカ言わないで」
 そういってランス・ノールからの賛辞を軽く流しあらためて本題を口にする。

「で、私の役割よ。不敗の紫龍しりゅうがここへ向かってる。アンタはまともには戦わない、けど2個艦隊は活用する。つまり私は使われるわけね。なら私の役割を教えて。前もって教えてくれればとっても上手くやるわよ私って」

 ランス・ノールが、まあ、そう焦るな、というようにユノ・村雨へ手をかざしてから、
「敵は全軍が集結すれば4個艦隊か。我々の二倍だな」
 というと、ユノ・村雨が、ええ、といってうなづいた。

「だが派遣されてくる連合艦隊と名付けられた2個艦隊は、軍の再編成中に急増したため兵員の質もまちまち。そして、すでに第二星系に投入されている約2個艦隊規模の戦力は封鎖を解かないので戦力にカウントしないでいい」

「ま、そう考えれば2対2の同数戦よね」

「そうだ。だが李紫龍には勝つ自信がるのだろう。なにせ二倍の敵を押しとどめた男だ」

「じゃあどうするの?」

「2個艦隊というのが味噌だ。派遣されてくる艦隊は確かに脅威だが活用できる」

「どういうことだ。あいかわらず回りくどい男ね」

 ランス・ノールはフッと笑い、
「つまり交渉を申し出る」
 そう方針を明言した。

「乗ってくるの?」

「敵が星系封鎖を解かないということは、李紫龍の艦隊の派遣の目的は――」

 ここまでランス・ノールが口にすると、ユノ・村雨がたまらず、
「なるほど!敵の李紫龍の派遣の目的は交戦・撃破ではなく、〝攻囲の圧力の増強〟ね!」
 と結論を口にしていた。ユノ・村雨も軍人だった。

「そういうことだ。こちらが交渉を持ちかければ、敵は必ず乗ってくる。今回はそれを逆手に取るのさ」

 ランス・ノールが断言。金目銀目オッドアイを妖しく光らせ、口元には自信たっぷりの笑みが浮かんだ。

 ――このどシスコンが、この笑いを見せるときは確実。
 なにをするかは、知らないけれど、きっと面白いことに決まっている。と、ユノ・村雨は思う。

「で、その交渉で独立は認められるのかしら。そうなっちゃえば私たちとしては万々歳なんだけれど」

「ないな」

 ランス・ノールがあっさり応じると、ユノ・村雨はけげんな顔。ランス・ノールはあれだけ自信のある笑みをみせたのだ。成果は大きいはず。いまの神聖セレスティアルがおかれた状況で、大きな成果といえば独立の認証だ。

「もっと面白いことをするさ」

「はっきり教えなさいよランス・ノール。アンタは回りくどいのよ」

 ランス・ノールが口元を歪め、
「李紫龍が我々に加わりたいといってきている」
 核心部分を口にしていた。

「ほんとうに!?」

 ランス・ノールが当然のことのように自信ありげにうなづく。

「そんなことが――」
 ユノ・村雨は続きが声にならない。李紫龍は忠烈無比と名高い。

 ――李紫龍は自らを帝の忠臣と定義付け、周囲もそのように見ている。
 ユノ・村雨の李紫龍へのイメージもこれだ。

 どう見ても神聖セレスティアルへ加わりたい、などといってくる相手には見えない。

 驚くユノ・村雨へランス・ノールが、
「そのはずだ。私はわかる」
 とつけ加えると、ユノ・村雨の表情が不審でいっぱい。

「そのはずって……あの?第一執政様……?」

「さらにその理由もわかるぞ。李紫龍は皇帝に裏切られるから私たちに進んで加わってくれる」

 まるで預言者になったかのようにいうランス・ノール。

「アンタの金目銀目オッドアイは未来を見通すって一部じゃ噂だけれど……」

 ユノ・村雨は驚くより、あきれていた。妄想がひどいとすら思う。

 ――だ、大丈夫なかしらこの男は?
 独立とかすごいって思っちゃったけど、実はとんだ妄想狂で私たちが踊らさているだけ――?

 踊り進む先は袋小路どころか、
 ――独立失敗、拘束され国家反逆罪で処刑。
 という奈落。
 ユノ・村雨はランス・ノールの不明を感じ口中が苦い。

 困惑に沈むユノ・村雨へ、
「これをやる」
 とランス・ノールが拳を差し出していた。

 対してユノ・村雨はランス・ノールのとうとつに、狐につままれたようにけげん。

「お前は自分の役割が知りたいといっていたろ」

 ユノ・村雨が、ああ。といように胸の前に手のひらを広げると、
 ぽとり――。
 と、スティック状のデータディスクが手のひらの上に落とされた。

 だがユノ・村雨は、まだランス・ノールの行動が腑に落ちない。スティック状のデータディスクとランス・ノールの顔を交互に確認。

 ――これになんの意味が?
 と、やはりユノ・村雨さっぱりわからない。

「名簿だ。収賄、贈賄、横流し、横領、隠蔽いんぺいされた不祥事。名簿の名前はこのどれかに必ず当てはまる。ま、さしずめ星間連合軍の汚職者リストだな」

 とたんにユノ・村雨に、
 ああ――!
 という納得の表情。続けて、
 ――なーんだ。謀略ね。
 と凶悪な笑みが浮かんだ。

 私、得意よ、謀略って――。ユノ・村雨の笑みはそんな歪んだ笑みだ。

「あーらかわいそ。李紫龍はランス・ノールにハメられるのね。どんな手か知らないけどもう聞かないわ。期待してるわよ」

「さっしがいいな」
 ランス・ノールも歪んだ笑みを見せた。

「ええ、それより名簿には私の名前いっぱいあったでしょ?」

「あきれるほどにな」

 名簿には、名前と汚職の理由も簡単に書かれていることは想像にかたくない。

 たとえば贈賄なら、
「賄賂を送った人物⇒受け取った人物」
 というぐあいだ。

 そんなふうに書かれていると想像すれば、ユノ・村雨からすれば、
 ――私の登場頻度って群を抜いて一番。レジェンドクラスじゃない?
 ということだった。

「今回、最高軍司令部(コジョレ)は再編にあたって軍内の腐敗も一掃する気だ。かなり厳しく内部調査を行なっている。軍監ぐんかんの派遣にゾッとしたのは君はだけじゃない」

「ええ、でしょうね」

「で、ユノ・村雨、君は星間連合軍の腐敗の中心にいた」

「そうね」

「今回はそれを利用しろ。李紫龍の2個艦隊には、上層部から末端までグランダ軍と星間連合軍の混合だ。汚職リストに乗っているやつも多い」

 ユノ・村雨が凶悪な笑みを浮かべ、
「なるほどね。こうなると私と仲の良かった方々は気が気じゃないわね。ユノが暴露すれば軍籍末梢よ。それも軍高官がバッタバッタとね」
 と、開放されたようにいった。

 ユノ・村雨からして、自身の汚職がランス・ノールに知れているというのはさっしていたがおおっぴらにはできない。だが、ランス・ノールの公認があれば問題ない。過去の汚点を利用して謀略をしかけ水面下で暴れまわれる。

「なによ、人が悪いわね。アンタがそこまで承知なら、らもっと積極的に働きかけて、派遣されてくる軍の編成自体をズタズタにしてやったのに」

 ユノ・村雨の言葉へ、ランス・ノールが手を上げて応じ話しを先に進める。

「もう一つ。私の星間連合軍での艦隊司令という立場は、知ろうと思えば軍全体の流通も把握できた。私の調べでは星間連合軍の流通には二重帳簿が存在した」
 ランス・ノールは言葉と同時にユノ・村雨を意味ありげな視線で見た。

「ええ、脅しにはよく使えたわよ」

「やはりな。軍末端、つまり現場レベルでの物資横流しはあったか。小さすぎて追跡できないが艦隊規模や軍全体でみると、どう考えてもこまごました備品の不良品、破損などの交換が多すぎる。黄色のマーカーが年30万本も消費するか?おかしいだろ」

 ユノ・村雨が思わず笑う。

「小遣い稼ぎで細々した備品を1ダース、2ダースちょろまかすやつがわりといるのよね。頻度も低いし間隔も年1,2度ていどだから監査が入ってもわかりにくいんでしょうね」

「笑いごとじゃない。管理している私の身にもなれ不明物資の追跡で200時間は残業したぞ」

「あーらご苦労様。でも部隊長レベルの個人的な横流しってそれなりにあるのよね。私は、そいつら脅してこきつかって大儲けよ。仮想通貨で買える格安の高品質冷却液、一時期話題になったでしょ?あれ私たちのグループよ。あとは資材とか消耗品を個人でチマチマ横流ししてる小物。そいつら見つけては脅しつけて小銭まきあげるのが楽しいったらないの。小さいことしかできないくせに罪悪感は人一倍。なんだってしてくれるんだから」

「ふん。今回、そういうコネクションを総動員しろ」

「なるほどね。リストにないような小物も利用してゆさぶるわけね。まかせて」

 ランス・ノールがうなづき、ユノ・村雨の手のなかのスティック状のデータディスクをあごでさしつつ、
「ちなみにそれは我らが司令長官殿、天童正宗てんどうまさむねが作ったリストだ。さしずめ〝天童リスト〟だなそれは」
 といって歪んだ笑いを見せた。

「そのリストを悪用って。天童正宗はアンタの親友でしょ。あんたって最低ね。ゲス野郎よ」

 ランス・ノールが凶悪に笑って応じた。

 ――天童正宗
 は、星間連合軍のトップの司令長官。星間戦争せいかんせんそうの敗戦で現在グランダ軍に拘束されている。司令長官正宗が軍内の汚職を一掃する前に開戦からの敗戦で汚職一掃はうやむやに。同時に戦争のゴタゴタでランス・ノールは〝天童リスト〟を手にした。そんな流れがユノ・村雨には想像できる。

「正宗が軍の内部改革を行なう前に星間戦争が再開されて汚職の問題は先送り。そして、そのまま敗北。私が見るに最高軍司令部(コジョレ)が内部調査を厳しく行なったのは、正宗が最高軍司令部(コジョレ)の朱雀あたりにそのことを暴露していったのだろう」

「とんだ置き土産ってわけね」

「我々にとっては最高のプレゼントだな」

 そういってランス・ノールが哄笑してから、
「タイミングが重要だ。李紫龍が我々に加わった。と、発表されるタイミングだ。そのタイミングで敵の艦艇を寝返らせろ」
 そうユノ・村雨へ命じた。

「わかったわ。任せて、発表されたタイミングね」
 ユノ・村雨が自信ありげうなづいていた。
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