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五話 魔導具召喚
 ハンネが見つめる中、俺は一気に手を突き入れた。

『ガッ』

ボキッ


「つッッッッッッ!」

 思いっきり突き指をした…。
 折れているんじゃないかと言うくらいに。
 普通に地面に指を思いっきり突き刺した感じ…

「あははー。すみません、穴あけるの忘れてました。テヘッ」

 テヘッっと来たか。

「…って言うかですね。マジで痛いんで勘弁してください。次したらもう一度キスしますからね? ティープなの」

 先生は真っ赤になって俯いている。
 いや、今のは俺悪くないだろ? 
 普通の地面に指突き刺したんだぞ?
 下手したら骨折れるから。

 ハンネは赤くなりながらも、魔方陣を再度起動した。

「これで大丈夫なはずです。多分。」

 このハンネはやっぱりハンネだ。
 意味が分からないが、俺も意味が分からない。

「…じゃ、もう一度やってみますから…」

 ハンネは、コクコクとうなずいてる。
 まるでコケシのようだ…

 俺は恐る恐る(さっきのことがあったから)、手を入れてみた。

ズブズブ

 何の抵抗もなく、手が魔方陣の中へ入り込んだ。

「はい。じゃぁそこで何かを引っこ抜く感じで掴んでくださいねー」

 何かを。って何だ…、とりあえず……。
 よし、昔孤児院の誕生日会でお菓子掴み取りした時みたいな気分で掴んでみた。
 ふと。
 手に丸い金属のような感触が…。

「ハンネ何か手に…、手に何か!」
「まって! なんで呼び捨てになっているんですか! とりあえずそれ引きずりだしてください。それで属性もわかりますから」

 とりあえず引っ張るか…、力をこめて引っ張る

 引っ張る

 引っ張る…

 なんだろう。

 これは勇者にしか抜けない聖剣ですか? 
 勇者じゃない俺には抜けないと?
 まあ、手触りが明らかに丸い金属なんだが…。
 と言うか逆に引っ張られているような……。
 さっきまで手首まで埋まっていたのに、なぜか肘まで…。

「ッッ! ハンネーーーッ! ヘルプ! ヘーーールプッ! 愛してるから助けて! 腕がモゲルッ!! ああああああぁぁっぁぁぁ! まだ初体験も済ませてないのにモゲルーー大切な何かがモゲルーーー!!! 助けてハンねーーー! ハンハンー!!」

 何で助けないこのハンネめ!
 それで、ハンネの方を向いてみると…。
 
 どこだここ?

 樹海ですか?
 ジャングル?

 周りの景色が一変していた…

「っああ! 腕がーーー! ハンネなんとかしろーッ! 全然安全じゃねーじゃねーか! そもそも! どこだここー! そして腕が抜けねー!!」
「落ち着いてください! 多分あれです! 何かの属性(?)です!」

 そんなことを言いながら、駆け寄ってきて一緒に腕を抜こうとしているハンネ。

「あ…、たぶんこれアレです! 創造の属性だとおもいます! 見たことないからわかりませんが!」
「適当すぎるだろおッッッッ! とりあえずなんとかして抜かないと俺の腕が死ぬーーー! ハンネ後でぜってーキスするからなッ! ディープでッッッ!」

 くそー!
 俺の気持ちを弄びやがって!

 そして、

 次の瞬間、世界の色が消えた。
 
 さっきまで自然色あふれる世界だったが、いまではモノクロに染まっている。
 色を持っているのは俺とハンネだけだ。

 しかもなんか…、

「ハンネ…、思うんだが。これ、時間止まってないか? さっきまで風に吹かれてた葉とか、全く動かないんだが。オブジェクトみたいになってやがる。」
「奇遇ですね。私もそう思っていたところです。多分トキくんの深層世界が現実を侵食してるんだと思います。見た限りでは創造と時間ですね…。希少ですよすごく? 多分、私が魔方陣から出たら私も停まっちゃうんじゃないかと…、それで腕はどうですか?」

 抜こうとしてみた。


 抜けなかった…。

「全く抜けません。」
「属性がすべてわかるまで…、と言うか表層に出るまで抜けないんですよこれ。つまりトキくんは三つ以上属性があるんじゃないかと…?」

 そんなのいいから抜かせろ!

「体から何か溢れ出すような感じにしてください。意識を外に出す感じで。そうすれば他の属性も一気に出ると思いますよ?」

 溢れ出す感じ…、外側に…、体の中心から…、生み出す…。

 ふと…。
 
 頭に“白い本”が浮かんだ。

 中から何かが出たがっているような…。

 頭の中で、本に手をかける。

 そして、止めようにも手が止まらない。

 自分の手によって、ゆっくりと…、本が…。

【ドクン】

「え?」

 心臓が跳ね上がり、思わず声が出た。

【ドクン】

 何かが…、自分の中で“何か”が存在を主張するように。
 もうすぐ来る…。それがわかる…。

 お前は“誰”だ?

 これは本。

 俺の世界。

 俺そのもの。

 君は?

 君は俺の世界その物。

「ハンネ…」
「え? なんですか? あふれるイメージですよー?」
「わりー。多分まずいことになる…。“彼女”が出たがってる」
「んー。何がですか? 全部属性をだせば終わりですよー♪」

 そんな事を言って、笑顔のハンネ。


『ドゴォォォォン!』
 
 瞬間、モノクロの森の中で。
 轟音が響いた。

 空中に、漆黒の穴が開き。
 暴風のように木々を吸いこんでゆく。

 岩だろうが木だろうが全てを吸い込むつもりなのか?
 俺の周りだけは、被害がないものの。
 
 この光景は怖すぎる…。
 ブラックホールってところだろうか?
 ハンネも俺の近くなので被害はないのだろうが…、悲鳴を押し殺してるみたいだ。

 生物がうまれる。

 小説の中でしか見たことのないような、ドラゴンやペガサスから動物までありとあらゆるものがだ。
 生まれては穴に吸い込まれてゆく。
 それでもさらに生まれ続ける。

 ここは地獄だろうか。

 闇が動き出す。
 地面から上空へと伸びるように、天に闇が昇って行く。
 それを、押しとどめるように、天から光が押し返す。
 闇と光の攻防は、拮抗していた。
 飲まれた周りの木々や生物は、闇に喰われて消え。
 光に溶かされて骨までなくなる。

 これが地獄でなかったら何が地獄なのだろうか

 周りは炎で燃え盛り。
 氷と雨が、暴風にまじって降り注ぐ。
 地面は割れ、土が鋼のようになり。
 雷が絶え間無く鳴り響いた…。
 
 もしこれが現実なら。
 数分で生物は絶滅するだろう。
 星すらも消滅するに違いない…。

 そんなことを考えながら、俺はただ呆然としていた。
 ふと…、ハンネを見てみると…。
 俺の胸に顔をうずめながらぷるぷるとしていた…。

 そんなハンネを見ていると、自然に気分が落ち着いてきた。

 周りは今だにすごいことになっているが…。

 俺はもう一度、腕が抜けるか試してみた。

スルッ

 結果、ホント呆気なく抜けた。
 ただ腕をあげたような感じだ。

 周りを見渡して見ると。
 
 さっきまでの光景が嘘のように静まり返っていた。

 俺たちは、純白の部屋に二人でうずくまっていた。
 ハンネは胸に顔をうずめている。
 気付いていないのかもしれない。

「ハンネ…、終わったよ」

 びくびくと顔を上げるハンネ。
 涙目なのがかわいらしい。
 まだ震えているが…。





チュッ





 一度離す。

「えっ?」
「だからキスするっていったじゃんディープで」

 といってもう一度口をつけて…


「ちょっと!? 何をするんですか!!? わたしは先生ですよ!!? わっ!キャーー!」

トサッ

 ハンネは押し倒され…、目をつむった。

(うう…天国のお父さんお母さんごめんなさい…。私はここで初めてを失ってしまうんですね…)



 
「・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あの?」


 全く動かない刻。
 さすがに不審に思ったハンネは眼を開く…。

 

 トキは気絶していた。

 
 そりゃもう徹底的に。


「・・・・・・」






















「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もうっ・・・ばかっ」

 そんな事を言いながら刻を引きずって行くハンネであった。

 刻の右手には、白銀に輝く懐中時計が握られていた。


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