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三話 ちいさな先生
「あふっ! 俺の手が笑ってる…妹だったら死んでも離さないが、あやうく落下するところだった。」
「また妹!? あんた自分の命と妹の命どっちが大事なのよ!?」
「妹に決まってるだろがー!! エレベーターが体重オーバーで、ゴミと宝石どっち捨てる? って聞かれて宝石捨てるバカはいないだろが!!」
「………はぁ」

 心底疲れたようなエラさんである。

「まぁとりあえず入りましょ?」

 そう言って、エラは入口の門にカードの様な物を通した。

ピー カシャッ

 てか、魔法世界へ科学進んでないんじゃ? カードロック?
 まぁ、一応通した時に光が溢れてたから、魔法(?)なのだろうか?

「なぁ? あっちのでかい門から入ればいいんじゃないか?」
「あの門はこの時間閉まってるのよ。だからこの非常扉しか入れないの」

 と、言われ。
 俺は、扉をくぐりながら上空の、警備性なんて全くない空を見上げた。

「じゃぁ学園まで飛んで行けばよかったんじゃないか? 上なんて露出狂の開放感くらい全開だし」
「あー上からは入れないのよ。万が一魔物が入らないように、魔法陣が敷いてあるわ。結界に触れた瞬間粒子レベルで消えるわよ」
「魔法学園テラコワス…」
「たまに知らない田舎者が入ろうとして消えてるわ」
「…」

 そんな、話をしながら歩いていると開けた広場のようなところに出たようだ。

「どうしてここに来たんだ? 遊ぶのか!? 夜の遊びか!? 大人のあそ『バキッ』ぶぉふッ!」

 殴られた……。

「うるさいわね! なんでいちいち叫ぶのよ!?」
「うるさいのは理解したが、口より先に手とか杖とか出るほうが問題あるとおもうぞ…」

 そんな事を言いながら、『口よりさきに手とか杖とか』ってなんかエロいな…。
 とか、考えていた。

「少しは悪いと思うけど…、まぁとりあえず! ここにきたのは別に遊びじゃないわよ。ほら広場の真ん中が薄く光ってるでしょ?」

 見てみると。
 確かに、うすく紫色に光っていた。

「この学園は広いから、色々な場所に転移魔法陣が敷かれているのよ。転移魔方陣に魔力を通せば誰でも使えるわ。じゃ、さっさと魔方陣の上に乗って」
「お、おう」

 俺が乗ったのを確認し、
 エラは杖を前に構え、軽く深呼吸し。

『接続 高等部二年校舎 転移』

 俺は、普通の日本語なのに、英語の発音のように聞こえるなー。ってか、なんでここは日本語が通じるんだ?
 とか、今更な事を考えていた。

 魔法陣が強く光り、目の前が紫一色になった。


 光がやがて消えると、目の前に巨大な校舎が映し出された。

「でかいな…」
「そうね。私も最初みたときは驚いたわ」

 デカイ。ホントにデカイ。
 日本の大学の三倍ぐらいあるんじゃないかと…校庭も多分、校舎から門まで1キロ以上ありそうだ。

「とりあえず行きましょうか? もう0時近いけど、当直の先生がいると思うわ」

 夜の校舎は不気味とか思うかもしれないが。
 あえて言おう。ここはめちゃくちゃ明るい。
 校舎の廊下を歩きながら、俺は本当に夜なのだろうか? と思う。
 蛍光灯などはなく。天上には、丸い水晶みたいな物体が取り付けられている。
 それが光を発している。
 蛍光灯なんかよりよっぽど明るい。
 そもそも、普通は電球に近ければ近いほど光量が増える。
 だが、なぜかこの水晶(?)はまんべんなく均等に照らしている。

 つまり、壁が発行しているようなのに、影は下にできる。
 陰陽の法則まで無視してるではないのかコイツ? 
 と言うか。常に薄い影が真下に出来ている、という状態なので。
 一面真っ白だったら、きっと歩いているのかもわからないだろう。
 光源完全無視だ。

 校舎の中は、ほとんど日本と同じような設計のようだ。

 ふと、隣で歩いていたエラが立ち止った。

「ここが職員室。」
「ちょっと緊張するな…初体験の時のようだ。経験ないけど」
「は、はつっ!? ッッッ! てかうるさい! 先生の前に出るんだからちゃんとして!」

 そういいながら、エラは真っ赤になりながらもドアをノックした。
 かわいい奴だぜ。フッ

「しっ、失礼します」
「失礼します」

 本当にこんな時間なのに、先生がいるようだ。
 日本の教師も見習ったほうがいいとおもう。

 先生の姿は、後ろ姿でよくわからないが…わからないが…いや…コレは…。

「あの?先生?」
「…」
「先生?」
「…く…ふ?」
「ハンネ先生」
「ひゃ!ひゃいっ!」

 ハンネ。と言う先生は一気に立ち上がって、『寝てません!? 寝てませんよ!?』、とか言っている。

「もうエラさんっ! いきなり人の後ろに立たないよーに!」

 そんなこと言っているハンネ先生。もといハンネちゃん。
 真っ赤な顔して怒っても、全然説得力ありませんよ?
 しかも…、身長140センチくらいだろうか?
 威厳をたもとうと胸を張ってるがAだろう。絶対に。
 腰までありそうな金髪のロングウェーブに、アーモンド型の大きくパッチリした青い瞳。誰が見ても美少女、いや美幼女だろう。
 とにかく小さい。ついでにスーツを着ているが全く似合っていない。
 白いワンピースと麦わら帽子が似合いそうだ。

「すみません、先生に用事があったもので…」
「先生にっ!!?」

 何か、大粒の瞳をいっぱいにひらいて。
 キラキラした瞳を、エラに向けている。
 他の先生や生徒が、先生をどんな目で見ているのか瞬時に悟った。
 たぶん妹とか子供のように…

「なんでもまかせてください! わたしはは”頼れる”先生なので!」

 トンッっと胸を叩いているが……、
 と言うか”頼れる”を強調するあたり…。
 あ、なんか涙でてきた。
 そんな心境。

「えっとですね。さっき露天ぶ…学園外で会った人なのですが。道に迷って帰れないそうなんです。目的地も聞いたことないところだったので、先生に相談をと」

 ハンネちゃんがこっちを見た。
 今まで気付かなかったのだろうか?
 そう言えば。子どもの視野は、大人よりずいぶん狭いって聞いたな。

 かわいい…。
 ハンネちゃんかわいいよ…。

「それでどこに帰ろうとしてるんでしゅっ…か?」

 途中で噛んで無理やりつなげてるよ、この子か可愛いな。

「えっとですね、日本の埼玉県所沢市ってところです。」

 ハンネちゃんは目が泳いでいる。
 もう考えるまでもなく速攻で逸れた。
 人間の脳は一回聞いたことなら、もう一度聞くと、曖昧でも『聞いたことあるなー』程度に思うはずだ。
 しかし、今のハンネちゃんを見る限り、速攻で目をそらした。絶対聞いたこともない。
 とりあえず俺は、ハンネちゃんが目をそらしたので目の前に移動してみた。
 更に目をそらしてきた、目の前に移動してみた、さらに目をそらす。
 両手で頭を押さえてみた。もう鼻と鼻がくっつきそうなくらいの距離である。
 結果、ハンネちゃんは涙ぐみ始めた。

 きっと、先生として答えられないのがつらいのだろうな。
 せっかく生徒が相談しにきたのに(俺は生徒じゃないけど)、可哀そうに…

 ハンネちゃんの目を見つめること数十秒。
 隣からエラが『ちょっと、トキ! 近い近い! キスでもする気!?』とか叫んでる。

 結果、閃いた。




チュッ





 キスをしてみた。
 口に。
 
 雰囲気も何もあったものじゃない…
 エラは硬直している。
 ハンネは硬直している。
 まだ離れない。まだまだ離れていない。
 30秒くらい経っただろうか
 エラは杖を構えた。
 なにかを呟き、体が淡く光輝いている。
 ハンネは真っ赤になり、目を見開いている。



ドゴッ

「ぶべっッ!」

ズザァァァアッァァァ
グシャッ

 エラの攻撃、側等部にクリティカルヒット。
 直前にエラが何か呟いていたので、たぶん身体能力をあげる魔法でもつかったんじゃないか…?
 でなかったら人間が5メートルも吹っ飛ぶはずがない。
 ホント、魔法はアリエン。
 でも魔法って言うより、打撃ばっかりなような気がしなくもないな。うん。

 にしても……。 

 あー…これ気絶するな…。
 
 視界が暗くなりはじめ。俺が意識を手放す直前。
 ハンネが『わたしのファーストキスがー』とか叫んでいた。

 かわいいな。









「くぁっ!」

ガバッ

 数十分後。
 
 俺は復活した。素晴らしい回復力である。
 常人だったら死んでもおかしくない。

「あら? もう起きたの? 殺すつもりでやったのに」

 エラは、そんな事をのたまっていた。
 ハンネちゃんは、エラの後ろに隠れてこちらをうかがっている。

「で? なんでいきなりキスなんてしたの?」
「お前は何もわかってないよエラ。あーわかってないよエラ」
「二度も同じこと言ったからにはちゃんと理由があるんでしょうね?」
「ああ」
「発言を許可するわ」
「泣き顔で上目づかいで見られたらキスする『ベキッ』ッっぼっごはぁぁ!」
「はぁ…、まぁ、わたしがされたわけじゃないし。先生と話して」

 と、投げやりにハンネちゃんをこっちに押し出すエラ。
 もちろん俺は抱きとめた。
 と言うか、抱きしめた。

「それでハンネ先生。お願いがあるんですが」

 腕の中。
 胸の辺りでもぞもぞしているが、急に真っ赤になりだした。
 なぜわかったかって? 耳が真っ赤になったからだ。あっはっは!

「えっ、エッチなことはダメですよ!? さっきみたいな!」

 この子の中ではキスはエッチらしい

「違いますよ。多分、俺はもう家に帰れないので。この学校でお世話になることはできませんかね?」
「え?」

 なぜ? と言うことだろうか。

「俺はこの世界の人間じゃないので。多分、この世界で言う《空間》の《神聖魔法》のようなものでコチラに送られたんだとおもいます。」

 ハンネは『空間』とか『神聖』とかつぶやいている。

「ええ。エラの話だと《空間》の属性を持った人は現時点で皆無。更に《神聖魔法》を行える人。行ったことのない空間に飛ばせる人。俺が死ぬまでにそこに至れる人が現れる確率は天文学的確率じゃないでしょうか?」
「…」
「…」

 隣で聞いていたエラも、腕の中にいるハンネも黙り込んでしまった。
 確率でも計算しているんだろうか?

「そう…、ですね…」

 ハンネが口を開いた

「現れないと断言はできませんが。ほぼ現れないでしょう…ぐしゅ…」

 ハンネは泣いていた。
 
 俺が帰れないと知って泣いてくれているんだろうか?
 こんなあったばっかりで、挙句にファーストキスを奪った人間のために。

 はぁ…。元々あの世界に未練なんてないんだけどな…、妹以外には。

 俺はいつまでも妹に固執するぞ!

「大丈夫ですよハンネ先生。別に俺はそこまで帰りたいと思ってないですし。前の世界は魔法がなかったので、この世界で魔法が使えるって聞いて楽しみなくらいですから」

 そう言って。
 先ほどと同じようにハンネの瞳をまじかで見つめる。
 違う点があるとすれば、俺は満面の笑顔。
 ハンネは涙でぐしゃぐしゃな顔。
 
 にしても随分絵になる構図だ。片や笑顔の美男子(本人気付かず)。片や涙を溜めた、人形のように美しい少女(本人は大人だと思ってる)。まるで恋び…むしろ兄妹である。

「ぁ…ぐすっ…」

 ハンネの顔がみるみる赤くなってゆく。
 またキスをされるとでも思ったのだろうか?
 紳士な俺はそこまでKY(空気読めないの略)ではない。

「…ふふ」

 エラも穏やかな笑顔を浮かべている。てか、犯罪者を見ているような。
 あ、杖構えてるし。
 ここでキスしたら、確実に俺は世界を渡るだろう。

 あの世に。

「で…どうでしょう? 入学何とかなりませんかね? あと先生の年齢はいくつですか?」

 最後につけたすのを忘れない

「…そうですね。入学なら…わたしが保護者をやればなんとかなりますね。お金のほうは奨学金、あとはギルドの依頼を受けながらって言うのも良いかもしれません。単位もはいるので生徒も結構やってますし。あとハンネは18です」
「良いんですか? あったばかりの俺なんかの保護者になって? あと先生は18じゃありません12です。」
「大丈夫ですよ。保護者っていっても肩書きだけですのでー。勝手にきめないでください18です! あなたより年上です!」

 そう言いながら、真剣な瞳で見つめてきた。
 多分、ハンネちゃんは気づいているのだろう。
 そこに、重い“責任”が付き纏うことにも。

「そうですか…、それではよろしくお願いします。あと今更ですが自己紹介してなかったです…。俺はトキ=キサラギ。16歳です。先生の年齢は自分の中で12歳だと思っておきます」
「私はハンネ・ベルです。担当科目は水・風・闇です。もうっ! それでいいです…」
「闇ですか…、すごいですね。それって珍しいんじゃ。」
「そうですねー、誰もいないんで一回も授業したことありません」

 担当って言葉いらない気がする。

「あ、そだ。トキくんは魔導具って、もう持ってますか?」
「いえ、魔法がなかったので」
「そうですかー、ならちゃっちゃと作っちゃいましょうかー? そうすれば明日から授業受けられますよ?」
「作る? そんなすぐ出来るんですか?」
「ええ。作るって言うか自分に合った魔導具を召喚するんですよー。すぐですよーすぐー。ついでに自分の属性もわかっちゃうすぐれものです! 一石二鳥ですねー」

 と、言いながら。ハンネ先生は笑顔でピースをする。
 これは二鳥ってことで二つ指を立てているんだろうか?
 俺には、子供がお母さんに写真をとってもらうポーズ。に、しか見えない。

「じゃ、エラちゃんは寮に帰っていいよー! トキくんのことはハンネにまかせなさーい!」
「え? ハンネ先生危険ですよ?」
「むーエラちゃんまでそうゆうこと言うの? 魔導具召喚くらいひとりでも平気だもん!」
 
 頬をふくらませながら怒ってる、140センチメートルの先生はなんとも頼りない。
 かわいいけど、

「はぁ…。そう言うことではないんですが…、まぁいいです。明日学校ですから…」
「うん!エラちゃんばいばーい! おやすみー!」
「はい。先生おやすみなさい。」

 そう言って、エラは職員室を去って行った。

「それではトキくん! 召喚の部屋に移動するのでついてきてくださーい!」

 そう言って、喜々として小走りで駆けて行く。

「あ、そだ。そう言えばさっき“会ったばかりの人にそこまでしてー”とか言ってましたが。確かに会ったばっかりかも知れませんが」

 そこで一旦言葉をとぎり、トテトテとまた走り出す。
 そして少し離れたところで振りかえった。
























   『トキくんは、“わたし”のファーストキスを捧げた人ですよ?』

 




















 自分の事を“ハンネ”から“わたし”って呼ぶようになったな。
 かくして少女は、キスで大人になりました。

 違うな。
  
 俺の“からっぽの覚悟”に対して“責任”を負ったのか。
 保護者っていう肩書きだけというが…。

 住所不定、お金もない、実力もない。

 入学試験も受けてないし、中等部卒業もしてない俺を、無理やり転入なんてさせて…。
 保護者っていうだけじゃなくて、その“責任”で周りからどう思われるか…。

 まぁ、あの時の先生の“瞳”ならわかっていってるんだろうな…。

 強いな…。

 俺の空っぽの“覚悟”よりずっとずっと…
 ハンネは、俺が無理してる。と、勘違いしていたようだが…。

 実際、俺は前の世界に未練なんてなかった…。
 結局、利用したような形になったな…。

 そういえば…。
 なんんかフラグ立ちそうだ…、もらっちゃうぞ♪ ヒャッホー♪





「待ってくださいって!」

 そういって俺は、彼女の後を追いかけた。
ヒロインじゃないよ?
うn。


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