監獄街(46/114)縦書き表示RDF


監獄街
作:俊衛門



第四章:11


 第2ブロックの路地から、『夜光路』を目指す。
 「クソ……結局こうなるのかよ」
 路地の向こうから、また新たな敵が見えた。闇夜にライトの一つ目が灯り、刀が(シルエット)となって浮かび上がっている。
 後ろにも、追っ手。挟まれた。
 「真田さん……李が」
 「黙ってろ」
 おまけにこっちは荷物つき。武器も、ない。
 (奴ら、バイクの推進力を刀に乗せて斬るつもりか)
 そうなると、徒手ではもちろん長脇差でも対処できない。
 (狙うなら間合いの外から。例えば飛び道具とかあればいいんだが……)
 前門の虎と後門の狼が、同時に動き出した。真っ直ぐ、省吾の首を狙ってくる。
 (飛び道具……そうだ)
 「孫、鍼いま持っているか?」
 「は、はい?」
 「鍼だよ鍼! 予備とかないのか!」
 孫が慌てて懐を探る。治療用の、細長い鍼が4本、出てきた。
 「ありました」
 「貸せ!」
 それをもぎ取り、左右の手に2本ずつ持った。
 2騎のバイクが、接近してくる。
 手を交錯させ、省吾は力を溜めた。肩甲骨を寄せるように、せなの筋肉を収縮させる。その作業は、弓を絞った「会」の状態に似ていた。
 一心無涯流手裏剣技法の極意は、左右同時展開である。利き手ではない、左手を右手以上に鍛錬することで左右の手から同時に剣を打つことを可能とする。
 張り詰めた力を解放する。鍼は唸りを上げて飛び、男たちの眼球を正確に射抜いた。
 「……あ゛っ」
 呻きながら男たちが顔を押さえた。同時にバランスを失ったバイクが横転した。
 省吾はさらに走る。前方の男が立ちあがろうとするところに、前蹴りを食らわした。男がひるんだ、その隙に足下の柳葉刀を拾い上げ、止めを刺した。
 振り向くと、もう一人が斬りかかってきた。だが、視力を失った剣士など敵ではない。省吾は冷静に斬撃を避け、その首を突いた。男は声も上げずに、絶命した。
 「乗れ」
 横転した“モンスター”を立て直し、跨った。
 孫は動かない。呆然と、目を泳がせていた。
 「何している、早く!」
 「真田さん……李が……」
 見ると孫の目に、うっすらと涙が浮かんでいた。
 「2人で……やっていこうっていったのに。力をあわせて鍼灸院あそこをもっと大きくして、平和になったらお互いに家庭をもって。それで一生、医術で皆を幸せにしていこうって……いったのに、何で」
 「あのな、孫」
 省吾はバイクから降りた。そして、孫の頬を思い切り叩いた。
 驚いている孫の、胸倉を掴んでさらにまくしたてた。
 「お悔やみ申している暇はねえよ、てめえも死ぬぞ! 戦場で人が死ぬのは当たり前だろうが!」
 「そ、そんな言い方……」
 「言い方もクソもあるか! 死んだ奴は『過去』、生きている貴様は『未来』だ。そしてこの状況は『今』。過去に縛られて今を見失って、未来まで捨てる気かてめえは! 過去は、いくら悔やんでも戻ってこねえよ!」
 そういうと、孫を突き飛ばした。
 「貴様まで死んだらお前たちの『未来』は永久に閉ざされる。それでもいいってなら、俺は貴様を置いていく。少しでも『今』に賭ける気があるなら、気をしっかり持て」
 遠くの方で、鉄の馬が嘶いている。省吾もまた、エンジンをかけた。
 「選べ!」
 その言葉に孫は反射的に動き、バイクの後ろに飛び乗った。
 

 「宮元サン、第一班が『OROCHI』のメンバー2人を捕捉しました。東南アジア系の男と、半島系の女です」
 『夜光路』に面する、とあるビルの屋上に梁とグエンがいた。携帯電話からの入る報告を、そのまま伝えた。
 「それと……2人やられました」
 「誰に? その捕捉した奴らにか」
 「いえ……別の班です。例の鍼灸院を襲撃時、孫 龍福と顔に傷がある男がいたそうで、そいつに」
 「ああ、成る程」
 梁が、ちょっと考えてからいった。
 「おそらくそいつが、クライシス・ジョーを仕留めた疵面(スカーフェイス)の男だ。そうなると、結構手強いな」
 「いかがいたします?」
 しばらく、黙っていたが梁がいった。
 「いいだろう、俺が出る」


 道が荒れているため、振動が足腰に伝わってきた。
 「また追いかけてきやがった……」
 追っ手は1騎、2騎と増え気がつけば4騎のバイクが省吾を取り囲んでいた。その姿は、さながら遊牧民族の騎兵。省吾達をつけ狙う。
 1騎、急接近してきた。右手の刀を、大きく振りかぶり斬撃を繰り出した。
 ガンッ
 刃が十字に交差した。オレンジ色の火の粉が省吾に降りかかり、髪が焦げた。同時に、ハンドルバランスを崩した。
 「……!」
 どうにか立て直すものの、次に10時方向から襲いかかる敵影を視覚に捉えた。
 刃を、翳す。切っ先が柄元に触れ、指を傷つけた。やはり、バランスを保てず車体を大きく揺らした。
 そもそも、バイクを駆りながら刀を扱うことなど無理な話である。バイクという物は、左右の手足を使わなければうまく操作できない。片手を開けた状態で刀を振りかぶり、振り下ろし、斬りつけるとなると当然、バランスを欠く。
 (それを、いとも簡単に操るとは……)
 相当な手練れ揃い、といえよう。バランスの取れない状態で、刃筋の通った斬撃を打てる、力。それを、この刺客達は等しく持っている。
 「ただのチンピラじゃねえ、ということか」
 ならば。包囲の一角を崩し、離脱する必要がある。
 省吾は左手でハンドルを繰り、後輪を流して進行方向とは逆に急転換した。後続の1騎と、正面から向き合う形になった。そのまま走らせる。
 正面衝突する寸前、前方の敵がハンドルを繰り左に逃げた。それを省吾は見逃さなかった。すれ違いざま、乗り手に斬撃を繰り出したのだ。
 刃が胴を切り裂いた。肋骨が露となり、腸が飛び出た。支えを失ったその男は機上より落ちた。
 残りの3騎が引き返してきた。そして3騎同時に斬りかかってきた。
 「……っ」
 右手の刀で、同時に2撃を受ける。だが、3撃目は防ぎきれず左肩を斬られた。
 「そこは古傷だ、馬鹿野郎!」
 斬った男に、横蹴りを食らわした。ひるんだ隙に、包囲から抜け出る。さらにハンドルを操作、鉄の巨体を敵の背後に滑り込ませ、一人の背中を斬った。
 (あと2騎……!)
 急に、6時方向つまり真後ろで排気音がした。振り向くと、刃が眼前に迫っている。慌てて受けるが、衝撃に右手が痺れた。すでに腕の疲労が激しかったこともあり、衝撃に耐え切れず刀を落としてしまった。
 好機と見たか、残りの2騎が左右から襲いかかってきた。
 2本の刃が、真っ直ぐ省吾の首と胴に伸びた。
 省吾は大きく、車体を倒した。膝が地面を擦るほどの急カーブ。男たちの攻撃は、空を掴んだ。
 再び車体を戻し、狼狽する男たちを尻目に逃走。引き離した。
 「孫! 大丈夫か」
 省吾は背中に左手一本でしがみつく、孫を見た。
 孫は、顔面蒼白であった。背にかかる左腕の力は、弱い。
 「孫、もっと両手でしっかり……」
 掴まれ、といいかけて絶句する。孫の右腕が、斬りおとされていた。
 (避けそこねた……?)
 失念していた。自分一人の身を守ることに夢中で、後ろに孫を乗せていることを忘れていた。
 「ちっ……」
 孫の、右肘の切断面から流れる血が霞のように空にたなびく。今すぐ止血しなければ……。
だが。ちらりとミラーを見た。
 また、追っ手が迫ってきた。いま止まると、確実に餌食になる。走るより、ない。追ってくる2騎を振り切らなければ。
 「いや……」
 排気音が、2つ増えていた。左から、また新たな敵影。同じく、柳葉刀を携えている。
 「孫……とりあえずこれで我慢しろ」
 懐からハンカチを取り出し、片手で傷口にあててやった。純白の布が、朱に染まった。
 「つかまれ!」
 右に曲がると、『夜光路』に出た。一路、西に下る。4騎のバイクがそれに続いた。
 「孫、もう鍼は」
 「無いです、すみません……」
 息も絶え絶えに、そう答えた。
 「いや、まあ、そうだよな」
 そうなると……もう打つ手は無い。万事休す。
 一人が、背後で刀を振りかぶった。斬り下ろす。
 車体を傾けて、それを避ける。だが、男の刃が後輪に触れた。
 ゴムの焼ける匂いと、擦りあわされた金属の不協和音が同時に届く。タイヤを斬られた。後輪が大きく流れ、バイクが転倒し、省吾と孫は前方に投げ出された。
 「孫!」
 叫び、手を伸ばすが届かない。省吾の体は外灯に叩きつけられた。
 倒れこんだ省吾を、4本の光明が照らした。
 4人が、降りてきた。
 省吾は動かない。止めを刺そうと、1人が刀を逆手に構えそして

 切っ先を振り下ろした。

 その首に突きたてられる、直前。省吾が飛び起きた。
 「な……」
 驚いている。立ち上がり、省吾は男の手首を押さえてひねり上げた。
 「何で、ってか?」
 関節をキリキリとねじり、
「崖の上から、ザイルもピッケルも無しに突き落とされたことはあるか? それに比べりゃ可愛いもんよ」
 手の甲を掴んで小手返しに投げた。男の体が、空中で一回転した。
 他の3人が、慌ててバイクに戻る。その1人を、省吾は奪った刀で斬り付け、残りの二人の前に立ちふさがった。
 「乗せるものか……地に足つけりゃこっちのもんだ」
 柳葉刀を大上段に構え、地を蹴った。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう