その4
※以前に割込投稿で他視点×2を上げていますので宜しければそちらもどうぞ。「その男〜」で始まっているやつです。
しばらく泣きついて、日も傾き始めたころやっと落ち着いた私はお使いの存在を思い出した。いろいろあって忘れていたけれど、今晩の夕食に必要なものを早く買いに行かなくては。
「ユーグ、胸元汚しちゃってごめんなさい……。まだまだ話したいことたくさんあるんだけど、私買い物に行かなくちゃいけないのよ」
「気にしなくていいよ。……うーん、うん。決めた、僕も一緒に行くよ。セイラ一人だとまたあいつが現れるかもしれないし、どうせ戻るところは同じなんだから話しながら行こう?」
さらりと男言葉に戻ったユーグに本当に友人は男として生まれ変わったのだなあと実感する。なんだか妙な気分。
「それは有難いしうれしい申し込みだけど……ユーグはいいの? 何か用があったんじゃ?」
「いいや、今日は休養日のつもりだったから。ただブラブラ街を歩いていただけだし構わないよ」
「そっか。それなら一緒に行きましょう! 街も案内するわ」
「うん、お願いするよ」
市場が立つ朝が一番賑わう商店街は昼過ぎの今、だいぶ人も減り落ち着いて買い物ができる。新鮮な魚とか人気の野菜はすぐ売り切れてしまうから品揃えは朝より良くないのだが、人混みが苦手な私にとってはちょうどいい。この時間に手に入るものだって質の良いものばかりだし、特別なことがないかぎり市場を訪れることはなかったりする。
「こんにちは、おじさん。レガスとトベヤもらえるかしら」
「おおセイラちゃん、こんにちは。レガスとトベヤだね、ちょっと待ってくれ」
いつも明るい八百屋のおじさんはそういうと軽やかな手つきで頼んだものを用意していく。
「セイラはよくここに買い物にくるのかい?」
「ええ、ここの野菜はとても瑞々しくておいしいのよ。おじさんも優しいしね」
「おや、セイラちゃん今日は男連れか珍しい。恋人かい?」
「やだわおじさん。ユーグはそんなんじゃないの。でも大事な人よ」
「またまた! 大事な人ってことは恋人ってことだろう、照れなくてもいいのに。リコの実おまけにつけとくよ! 二人でお食べ」
「……そんなんじゃないのに」
見た目は男女でも中身は女同士のままだ。だから恋人ではないのにニコニコの笑顔で言われると大きな声で反論できず〈深くつっこまれても前世がどうのこうのなんて言えず困るので〉そっぽを向いて呟く。
「まあまあ、貰えるものは貰っておこう? こういうのは気持ちが大事なんだよ」
「お、良いこと言うねぇ。恋人殿やセイラちゃんを宜しく頼むよ。こんな良い子を傷つけたら俺がタダじゃおかねえからな!」
「そんなことは絶対にしません。守るために僕がいるんですから」
なんだかあらぬ方に話が進んでいくような……。私の話なのに私が口を出せないなんて! と若干憤りを感じながらも和やかな雰囲気に、まあいいかとなった。私がお世話になっているこの街の人にユーグが受けいれられるのも嬉しい。
率先して荷物持ちになってくれる彼を連れ回し肉屋や魚屋、粉物屋などで用事を済ませた。行く先行く先で恋人かと囃し立てられるのには参ったけれど、ユーグが楽しそうに嬉しそうに躱していくのを見ていたらなんでもよくなってくる。昔からこの友人は世渡りが上手で、今も変わっていないことがわかってひどく安堵した。
「そういえば、ユーグは女の人とチェックインしてたわよね……。あの人は恋人じゃないの? この街の人たちはすっかり私の恋人だと思ってしまったけど……大丈夫?」
「ああ、そのことなら平気だよ。彼女は僕の契約妖精だから」
「妖精……? でも、そうは見えなかったわ。だってあんなにはっきりと姿が見えたのよ。私が知っている妖精と全然違う」
「普通の妖精とは違うからね。契約妖精は契約主の魔力と比例して姿が変わるんだ」
この世界には前世と違いファンタジーの王道である妖精がいて、普段は自然の中で人に見えない形で存在している。それぞれ自然の化身で元素と同化して生きているのだ。
だから普通の人間には見えないが、魔力を持っている人間はうっすらその存在を感じることができる。私は魔法使いになれるほどではなかったけれど魔力を持っているので、ぼんやりとした光の玉のようなものとして妖精を見ていた。
しかしユーグと一緒にいた妖精は人間と変わりない形だった。
彼曰く、時折好奇心旺盛な妖精が強力な魔法使いと契約を交わすことがある。契約した妖精は主人の魔力を使って実体化するのだそう。
妖精は生まれてから天に還るまでその場を離れられない。けれど稀に外の世界を見たいと思うものがいる。そういう妖精が契約を交わし、魔法使いを依り代にして自分の能力を与える代わりに実体を得て契約主とともに世界を巡る。
それが契約妖精。ユーグは炎の妖精と契約しているのだという。
「そうだったの。契約妖精なんて全然知らなかったわ」
「まあ、この世界でも数えるほどしかいないらしいし知らなくてもしょうがないんじゃないかな」
「ってことはあなた結構すごい魔法使いなんじゃないの」
「うーん、まあ自画自賛になるけど、結構すごいかも。そもそも妖精を受け入れられる魔法使いって少ないんだ。魔力量がものすごく多くないと依り代になれなくて死んじゃったりするからさ。
ま、僕の場合はそういう設定だし。僕自身がすごいわけでもないんだけどね」
「………………え?」
設定? 設定って、言ったわよね……どういうこと?
疑問が顔に出ていたのだろう。前世の友人は苦笑しながら言った。
「僕はね、ラブラビのファンディスクに出てくる追加キャラなんだよ」
な ん で す と !
「君にプレイしてもらおうと思って買うだけ買ってその矢先に君が死んじゃってさ。自分でもちょっとだけやったんだけどクリアする前に死んじゃったから、詳しくは知らないんだけどね」
「ファ、ファンディスク!?」
「さっきは気づかなかったけど、思い返せば君に絡んでたあの貴族の坊ちゃんみたいなのも追加キャラにいたよ」
「はっ!?」
「あと一人いたんだけどー、どんなんだったっけかなー。あ、あーいう黒髪のデカイ剣持った男だったなー……ってあいつ本人そのものじゃない?」
「ハァアアア!?」
ユーグが指差す方にいたのは、昨日チェックインした狩人っぽいと思った男の人だった。
え、えええええ!?
私もうあのゲームからフェードアウトしたつもりだったのに、まだ、まだフェードアウトできてなかったの!? 続編なんて聞いてないわよーー!!!!
セイラのキャラが崩壊ぎみ。