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誰が為  作者: 月鳴
後日談
8/15

その3

※2話連続投稿の2話目です。前話よりお読みください。

視点はセイラになります。



「なにを、言っているの……?」


 どうしよう。まったく何がどうなっているの!

 今日は厄日なのかしら? 憤りのあまり真っ青な空が憎らしく見え八つ当たりしたくなる。一体全体、私が何をしたっていうんのよ! ……いや、その色々大きな声じゃ言えないことやったけど…うん、そうか、これがカルマなのか……。

 悟りそうになる私の前で窮地を助けてくれた恩人が、もとい混乱の極みに落としてくれた人間が不気味な笑みを浮かべつつ口を開いた。


「セイラ・クルーゲル……だよね? ラブラビで唯一不遇な扱いの可哀想な悪役キャラ。僕のかつての友人が心底その扱いに不満を訴えていた、哀れな伯爵令嬢さん」

「……あなた、何者なの」

「ただの旅行者だよ。大事なものを探してるんだ。

 ──もう、見つけたけどね?」


『     』


 私の耳元で、私にしか聞こえない音量で、囁かれたそのフレーズは、とてもすぐには信じられなかった。

 だって、そんな。そんなはずない。彼女(・・)がここにいるわけない。いるわけないのに……!





『それ、どうよ? 面白い?』

『自分でやってないゲームを人にやらせる?普通』

『乙女ゲーム……ってかノベルゲーム全般苦手なんだもん。言っちゃ悪いけど、あんた暇でしょ? だからいいじゃない別に』

『……病人だって意外と忙しいのよ』


 悪びれもせず屈託無く笑う彼女は、私のたった一人の親友で大好きな人。自分はやりもしないのにわざわざポータブルのゲーム機と例のソフトを買って私に差し入れてくれた。素直じゃない彼女は「どうせ暇なんだから私の代わりにやってストーリーを教えて」なんて言っていたけど、病室に閉じ込められた私の気分転換のために持ってきてくれたことは言わなくてもわかった。

 一つ一つ、クリアする毎に彼女に事細かく話した。私が話したかったというのもあるし、彼女が教えて欲しいと言ったからでもあった。徐々に衰弱していく身体もその時だけは私の言うことを聞いてくれ気の済むまで話すことが出来た。

 ついに全部のシナリオをクリアして、彼女に教えた数日後、私は倒れた。


『……ごめ、んね、……』

『なんであんたが謝るのよ……! あんたは何も悪くないわ』

『……だって、……ひとり、にさせちゃう、でしょう……?』

『…………私は、平気よ。あんたこそ、一人になっちゃうんだからね、最後くらい自分の心配しなさい』

『……私は、だいじょ、ぶ、よ…………』


 だってこんなに泣いてくれる人がいるのだもの。


 これが私と彼女の最期の会話。その後私は二度と目覚めることはなく、あのゲーム『ラブラビリンス』の世界に転生して記憶を思い出し、そしてシナリオから解放されてやっと自由に生き始めたのだ。



「私ね、あんたとお別れしちゃった後さ、泣きながら高速ぶっ飛ばしてて事故っちゃったのよ。土砂降りのひどい雨が降っててカーブでスピンしてさー自損事故っていうの? そのまま頭打ってぽっくり逝っちゃったのよ」


 あははとあっけらかんにいう、彼。彼なのだ間違いなく、目の前にいる人は男性だ。でもその言葉遣いに懐かしいかつての面影が確かにある。


「でさー気がついたらここにいて。物心ついた頃にはこの世界がラブラビっぽいなーとか思って、もしかしたら私がこうやって転生したみたいにあんたも転生してんじゃないかって思ってさ。ダメ元で探してたんだ。

 ──で、やっと、見つけたよ。あんたセイラになってたんだね。なんか結構しっくりくるよ」

「………………なんで、男になってるのよ、ていうかなんで、死んじゃってるのよ! 私は、長生きして欲しかったのに!」

「……うん。ごめん。……でもさ、また会えたし良くない?」

「そーいう、問題じゃあないわよぉ!」



 もう二度と会うことはないと思っていた。前世を思い出したとき、一番辛かったのは、自分が悪役だったことでも、不遇な扱いだったことでも、そのどれでもない。大好きだった親友のことを思い出してしまったことだった。もう二度と会えないのに。大切な、その人を思い出してしまったことが一番辛かった。

 だから。


「……ねぇ、今の名前、なんて言うの」

「炎の魔法使いユーグ、だよ」

「……ユーグ。……なんで男なの」

「さあねぇ。誰かさんを守りたいってずっと思ってたからかなぁ」

「…………そう」

「なんか、冷たくない? 久しぶりに会えた親友なのに。死んでまで会いに来るほどだよ?」

「……まだ、気持ちが追いついてないのよバカァ!」


 そう言って抱きついた()の身体は、あの頃のように柔らかではないのに、あの頃のように温かくて優しかった。

 聞きたいことは山ほどあったけど、そのどれもが言葉にはならなくて、溢れ出る涙をその身体に擦りつけることくらいしか今の私にはできなかった。


 この世界に生まれてきて、私は初めて泣いたようだと頭の片隅でぼんやり思った。


説明不足感が否めません…。力不足で申し訳ありません。ここ知りたい!みたいなのがあればコメントいただけますと嬉しいです。

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