その2
※2話連続投稿の1話目です。
視点変わります。
ずっと探していた。
あることに気が付いてから、僕はひとつのものを探し始めた。それはどういう形でどこにあるのか、本当にあるのかさえもわからない、まるで暗闇の中を探すような状態だったけど妙な確信があった。
僕なら絶対に見つけられる、と。
「離してくださる!」
丁寧な言葉の割にその音は切羽詰まったように聞こえた。普段なら厄介事には首を突っ込まない主義であるが聞こえた声は女人のもので、連れに日々『女性は大切に!』と口酸っぱく言われている僕は自然とそちらに向かっていた。
裏通りを一本入り視界の開けた場所に、声の主らしき女性とその女性の腕を掴んだ男が見えた。女性は町娘然としていて質素ながらも着心地の良さそうなワンピースを着ている。男の方は明らかに仕立ての良い服を着ていて、一瞬どこかの貴族のぼんぼんが庶民の女性に無理矢理言い寄っているのかと思った。この街の治安はそう悪いわけではないが、こういう輩や咎人たちがいないこともないのだ。
しかし事はそんな単純ではないらしいというのは近付いて聞こえた会話の内容でわかった。
「私は国へ戻るつもりはないし、戻ることも許されていない! あなたがかの国のそれも王家に連なる方ならばわかるでしょう? その理由も原因も!」
「もちろん知っているよ。君のことならなんだって知っているさ、全部ちゃんと調べたからね」
「だったらわかっているのよね。……いいえ、わからないとは言わせないわ」
私は、追放された身よ。
王家だとか気になるワードがあったけど、その前に。決して誇れないことを言ったにも関わらずズバリ言い切った彼女が、僕は何故だかとても気高い生き物に見えた。
凛とした佇まいは育ちの良さが伺えるもので、そうすると服装とのアンバランスさが浮き彫りになる。それに追放だなんて……穏やかじゃないな。
彼女は一体何者で、そんな彼女に言い寄っているだろうあの男は何者なのだろう。
「そんなこともちゃんと知ってる。でもいいんだよ、過去のことなんてどうだって。今の君が欲しいんだから」
「あなたに関係なくても私にはあるわ! いい加減手を離して!!」
しびれを切らした男は掴んだ手を強引にひっぱり、彼女はどうにか抵抗しようとしている。悠長に構えている暇はないようだ。僕は思考を一旦終了させて路地から身を乗り出した。
「非力な婦女子に手荒な真似はよせ。どんな揉め事かは知らないが力尽くはいただけないぞ青少年」
突然の乱入者に二人はそれぞれ相反する反応をした。女性は少々ホッとしたような、男は背中に黒いものを漂わせこちらを睨みつけてくる。
そこで初めて女性の顔を真正面に捉えた。濡羽色の髪に深い色の瞳の中で揺れる波が僕の記憶に何かを訴えかけてくる。なんだろうと心の中で首を傾げた。なんだかわからないが、とても大事なことのような気がする…。
でも今は呑気に考えている場合じゃない。
「おぉ怖い怖い。いい加減その手を離せよ青少年。……あれ? 君は宿屋の娘さんじゃないか、大丈夫だったかい」
「あなたは……昨日泊まりにいらした方ですね。ありがとうございます、助かりました」
「…………セイラ、僕は諦めないからね」
分が悪いと悟った男は捨て台詞を吐いて路地に消えた。引き際はいいがなかなか面倒な男のようだ。ため息をつきながら、ふと男の言葉に引っかかりを覚える。
──セイラ? あいつ今、彼女のことをセイラと呼んだのか? まさか……いや、彼女も国外追放になっていた。
目の前のセイラと呼ばれた女性も確かに追放という言葉を使った、そんな偶然なんて…………
ある、か。
僕がここにいることも含めて。
カメラのピントが合うように、わからないことばかりで証拠も何もないのに、そうなることが当然だとでもいうように、僕はある結論に辿り着く。
「ねえ、少しおかしなことを聞いてもいいかな?」
「……え? それはどういう、」
「君、《ラブラビ》って知ってるかい?」
彼女──セイラは、口を開けて絶句した。
続きます。