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第四章プロローグ・神々の会合

『神』と呼ばれる存在がある。主に人間はそれを超常の存在として崇拝、そして信仰している。国や地域によって様々な神が信じられているが、一方でそれを信じない者も多い。特に日本という国はそれが顕著である。


 だが、『神』は確かに存在する。 とある世界の円卓を、百を超える神々が囲う。


「んで、今回もこうして集まった訳だけど、もう帰って良いか?」


 人間と同じ場所にある二つと、額にあるものを足し合わせた合計三つの眼を眠たげに半開きにしながら愚痴を言った青年は、インド神話の最高神とも呼ばれる破壊神・シヴァ。そんな彼に老人の声がかけられる。


「待て。それでは何のために我々が集まったのかが分からないだろう」

「黙れ老害ジジイが。さっさとホルス辺りに最高神の位を譲っとけ。そもそもあの引きこもり女は来てねぇじゃねぇか。つーか今回の議題はアイツの管轄内で起きてる事に関係してんだろ」

「まだ私はこの地位を誰にも譲らんよ。それに、代理が来ているではないか」


 シヴァをたしなめたのはエジプト神話の最高神だとされている太陽神・ラー。彼に指し示された、少年とも少女ともつかない者――日本神話の月の神・ツクヨミが口を開く。


「どうもすみません……姉は今日も天岩戸あまのいわとに引きこもっているので、代わりに僕が来ました」

「何で来ないんじゃ。アマちゃんとイチャイチャ出来ると聞いてワシはここに来たんじゃぞ!」


 ツクヨミの言葉に怒りを表すのは、女好きで有名なギリシア神話の最高神である天空神・ゼウス。そんな彼にツクヨミは言葉を放つ。


「ゼウスさんがまとわりつくから姉さんは嫌がって籠っちゃったんですよ! お陰で日本や僕達の管轄内の世界はしばらく曇り! ウズメさんもどうにか説得してるけど上手くいかないっていう状況ですよ! 責任をとってあなたがどうにかしてください!」

「そうか……じゃあワシが全裸で踊れば出てきてくれるかのう?」

「日本から永遠に太陽を奪うつもりですか!?」


 神妙な表情で言うゼウスにツクヨミは叫ぶ。そんな中、低い声が響く。


「変態爺も影薄も黙っていろ。気の早い奴もいることだからさっさと話を始める。知っての通り、日本では他の世界を使って実験が行われている」


 声の主は、つばの広い帽子を深く被って左眼を眼帯で覆った、理知的な雰囲気を放つ老人――北欧神話の最高神である軍神・オーディンである。 この場に集まる神々の視線が集まる。シヴァはつまらなそうに鼻を鳴らし、ゼウスとツクヨミはそれぞれ不本意そうな表情になるが、それを無視して彼は続ける。


「これに対処するべきか、放任すべきかは以前より議論が繰り返されているが……、最近はドイツでも同じ実験が始まった。それにロキが興味を持ったらしい」


 その言葉に一同はうんざりとする。北欧神話においてオーディンとロキは義兄弟の間柄であるが、後に敵対し、最終的には戦ったと語られている。そしてロキは様々な悪事を働いて欲望を満たし、神々を困らせてきた事で有名である。


「具体的には何をしているのじゃ?」


 中国神話の創造神・ジョカが質問する。中国神話には最高神という概念は無い為、取り合えずの代表としてここに来ている。そんな彼女の問に、オーディンは肩をすくめる。


「さぁな。今のところは俺にも分からん。だが、あいつが何かを企んでいるという時点でろくでもない事が起こるのは確かだ」

「それは残念じゃ。しかし確かに、何か対処はすべきかもしれんのう」

「どうせ捕らえようが殺そうが、結局は復活して別の事を企む。何をしても無駄なんだから放っておけばいい。俺の管轄内で何かやらかすって言うなら別だが」


 頭を悩ませるジョカを尻目にシヴァが言い放つ。するとオーディンは反論する。


「もう一度言っておくが、奴が何をしようとしているのかは分からない。お前の管轄内に影響が及ばんとも限らないぞ?」

「その時はその時だ。今は様子でも見張っておけば良い」

「私もシヴァに賛成だ。取り合えずは何をしているのかを探り、それが分かり次第もう一度会談を開いて対策を考えれば良い。だがオーディン、お前が勝手に行動する分には止める気はない」


 シヴァに同意するラーの言葉に他の神々も同意を示す。「勝手にしろ」というのが彼らの総意だった。オーディンはそれを予想の範囲内だと思いつつ言う。


「過半数が今は静観すべきだと判断したか。ならば私からの議題は以上だ。他に何か言いたい事がある者はいるか?」


 するとツクヨミが挙手をした。オーディンは彼に話を促す。


「では僕からは、例の世界について――」

「くどい。その話こそ既に、静観という結論が出ているだろ。お前達だけで勝手にやっていろ」


 ツクヨミの言葉をシヴァが遮る。


「しかし、あの世界で起きている事は僕達の手に余ります。その為には皆さんの協力が必要なんですよ!」

「黙れ。俺達だって色んな世界の面倒を見なくちゃいけねぇんだよ。普通は世界一つの面倒を見んのは神族は一つだけど、何故かこの世界には色んな神族が集まってやがる」


 不満を口にするシヴァ。他の神々も彼と同様に不平をツクヨミに浴びせかける。ツクヨミは、姉である日本神話の最高神・アマテラスが引きこもるのも無理はないと思った。ここに集まっているほとんどは各神話における最高神であり、誰も彼も我が強い。先程ツクヨミはゼウスのせいでアマテラスが引きこもったと言ったが、むしろゼウスはまとも、否、良心的な部類である。そんな中で、今まで沈黙を保ってきたゾロアスター教の最高神・アフラ・マズダが発言する。


「我としては、神は出来る限り直接的に他の世界への干渉は控えるべきだと考える。無論、神――例えばロキなどが何かをしでかすのであれば止めるが、基本的にその世界の災厄はその世界の人間が振り払うべきだ」


 アフラ・マズダは個性が強い最高神達の中でも独特の存在感を放っている。ツクヨミはそれに圧されそうになりながらも質問をする。


「その理屈で言えば、他の世界の人間によってもたらされる災厄はどうなるんですか?」

「簡単だ。同じく、他の世界の人間がどうにかすればいいだけのことだ」

「しかし……」

「あまり人間という存在を甘く見るものではない」


 どこか心配そうな表情のツクヨミに、憮然としてアフラ・マズダは言う。その言葉にツクヨミは黙る。他の神々も彼の言葉に納得した様子である。訪れた静寂の中でゼウスが口を開いた。


「そう言えば彼の世界――コロニー・ワールド0207とか呼ばれておったか? ――には神がおらんかったな」


 例えば日本には、タカマガハラという世界から神のみが使える繋世ゲートが存在する。タカマガハラの神は時折日本に降りて、恩恵を与える事がある。その際に確認された神が、その世界の人間に崇拝されている。他にも北欧ではアースガルズをはじめとした九つの世界への神専用繋世ゲートが存在する。


 そして、タカマガハラは神代聖騎らの生まれた日本以外にも、様々な世界と神専用繋世ゲートによって繋がっている。


 しかし、通称『コロニー・ワールド0207』に神が降り立ったという報告はない。その事についてゼウスは言及したのだ。そして彼は続ける。


「その代わりに、自らの意思では無いとは言え人間の子供達があそこに行った。そして、その世界の水準を越えた力で暴れている者もおる。これはまさに、ワシらの『降臨』じゃないか?」

「ふむ。つまり奴らを神だと言う訳か。ならば後の世では、この状況が神の時代として神話に記されているやもしれんな」


 ゼウスの言葉にラーが頷く。それを聞いたオーディンが呟く。


「神の時代……神代かみよか」


 その言葉を受けて何かを言う者はおらず、その場を沈黙が支配した。やがてこの会合は終了し、神々は解散し、各の世界へと帰っていく。その道中で、アフラ・マズダは内心で呟く。


(人間とは未知の可能性を秘めている存在。故に、例え神であろうと甘く見れば、痛い目に遭う)


 彼はゲートへと入っていく。中には様々な色の光があった。幾度も見たその景色を楽しみながら、彼は思考を続ける。


(そう。人を見下していては視野が狭くなる。如何に基本的な能力が低い相手であろうと、嘲ってはならない。精々足元を掬われないよう気を付ける事だ、神代怜悧、そして神代聖騎よ)


 意味深に彼が笑っているうちに、帰るべき世界へとたどり着いた。彼は神としての仕事をすべく、また別の世界へと向かった。

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