第三話 濡れた奴には福きたる?
第三話 濡れた奴には福きたる?
戦艦長門を後にして、雛光は長崎へと向かった。
長崎へは、呉から汽車に乗り、下関で降りて一泊、次の日に下関港から船で長崎へ向かった、その船上であるアクシデントが起こった。
〜日本郵船貨客船、三河丸デッキ〜
スゥゥ、ハァァ。
「やっぱり海はいいなぁ。」
雛光は深呼吸をしながら言った。
「汽車旅は早いのはいいけど、ゆっくり出来ないし、手足も伸ばせないから、結構疲れるんだよなぁ。」
今度はウーン、と背筋を伸ばす。
「ふぅ、さて、船の中で一夜を過ごしてさっき佐世保を出たから、あと三、四時間で長崎だな、女しかいないと聞いているけど、うまくやっていけるだろうか。」
「まぁ、山本長官も仰っていた通り、海兵でもうまくやっていたんだ、ここでも大丈夫だろう・・・、そろそろ船室に戻ろうかな、せっかく奮発して一等船室にしたんだし。」
雛光は船室に向かって歩き出す、しかしその時、アクシデントは起こった!
ザッパーーン!
急な高波が雛光を襲ったのだ!
「うわっ!」
手摺につかまったので事なきを得たが、今着ている軍服が見事にビショビショに濡れてしまったのである。
「お客さん!大丈夫ですか!」
それを見た船員が声をかけてくる、「あ〜あ、びしょ濡れですね、着替えなどはお持ちですか?」
「いや、無い。」
「しかし、そのままでは風邪を引かれますよ。」
「うん、どうしようか。」
「それでしたら、食堂のほうに鈴峰という者がおりますので、その者でしたらお客様にお貸しできる服が有るかもしれません。」
「フム、では行って見ることにしようかな。」
「私は所用がございますので申し訳ありませんが失礼させていただきます。」
「ああ、ありがとう。」
雛光は船員に礼を言って、食堂へ向かった。
〜三河丸、食堂〜
「すいませんが、ここに鈴峰さんという方はいますか?」雛光はカウンターの女給に話しかけた。
「はい?私が鈴峰ですが、お客様どうしたんですか?その格好。」
「高波を被ってしまって、服が濡れてしまったんだ、君を尋ねれば何か着るものを貸してくれると聞いてきたんだけど、なにか有るかな。」
「あ、はい、粗末なものしかありませんが、それでよろしければどうぞこちらへいらして下さい。」
雛光はカウンターの奥に有る給仕室まで通された。
「え〜っと、有った有った、これをどうぞ。」
「ありがとう。」
「では、着替え終わりましたらお知らせください。」
鈴峰は給仕室を出て行った。
「あれ?これ女物の着物だ、間違いやがったな、おーい、鈴峰さ〜ん、これ女物なんだけど〜。」
その声を聞いた鈴峰が不思議な顔でやってきた。
「あれ?お客様は女性ではなかったんですか?」
「俺は男だけれど・・・」
「えーーー!そんなに可愛いのに!?」
グサッ!雛光の心に50のダメージ。(残り50)
「そ、そんなに驚かなくても、軍服着ていたんだから分からなかったのか?」
「とても似合ってたから気にならなかったわ。」
グサグサッ!雛光の心に20のダメージ。(のこり30)
「でも、あなたなら何を着てもきっと女の子にしか見えないと思う。」
会心の一撃!雛光の心に1000のダメージ、雛光沈黙!
(ガーーーン!)雛光は思わず床に手とひざをついた、こんなかんじで。→orz
「・・・」(絶望中)
(あっ、私ったらいつの間にかタメ口で!)「お、お客様〜・・・か、可愛い顔なんてお得じゃありませんか!・・・」
「・・・シクシク・・・」
(さ、さらに傷つけてしまった・・・でももう一つ言わなければいけないことがっ!)
「お、お客様、真に申し訳ありませんが、当船には手違いで代えの服がこれしか・・・それと・・・船務長に問い合わせた所、なぜか洗濯はいけないそうですので、その、あの・・・」
「・・・じゃあ俺はどうしたらいいんだ?・・・」
(早く逃げたいっ、あ、そうだ!)「そっその服さしあげますので!どうぞお使いくださいっ!」
言いたいことだけ言うと、鈴峰は逃げるように去っていった。(実際に逃げたのだが。)
その場に一人残される雛光、でも着替えなければ風邪を引いてしまう、そんな雛光の決断は!
「・・・・・・しょうがない、コレを着るしかないか・・・。」
どうやら[着る]決断をしたようである。
「ウウッ、足がスースーするよっ(泣)」
ちなみに雛光の足に脛毛はない、というより髪の毛以外はほとんどツルツルである、このような事もあいまって、雛光はますます女に見えるだ。
「う〜、もうそろそろ立ち直らなければっ。」
とりあえずショックから立ち直ると決めた雛光は、とにかく自室に戻って長崎までじっとしていようときめた、女性用の着物のままで。
〜三河丸、301号室(雛光の部屋)〜
あの後なんとか人目にふれず自室に戻った雛光は、今度は長崎に着いたらどこで服を調達しようかな、と考えていた。
「さて、部屋に戻ったはいいものの、長崎からはどうしよう、やっぱり軍服が一番いいけれど、あそこに知り合いはいないしなぁ、どうしたものか。」
悩む雛光に、突然天から声がかけられた。
「小鳥雛光よ、返事をしなさい。」
「だれだっ!」
「私は天照、貴方達が天照大神とよぶものです。」
「あ、天照大神!馬鹿な事を言うな!さっさと姿を見せろ!」
すると目の前に豪華な巫女服?のようなものを着た妙齢の美女が立っていた。
「わっ、だれだ!」
「あなたが姿を見せろと言うので出てきました、本当はよほどのことが無い限り出てはこないのですが、今回は特別です。」
「え、えっと、こんな事が出来るんだったら、あなたは、いえ、貴方様はもしかして本物の天照大神様ですか!?」
「先ほどからそう申しているではありませんか。あと気軽に天照、と呼んでいただいてもよろしいのですよ?」
「とんでもない!恐れ多くてそのような事は出来ません!」
「では私からのお願いです、天照と呼んでくださいな。」
「しかし!」
雛光はそんな失礼な事は出来ないと思い、なんとかして断ろうとしたが、その時天照が少しドスの聞いた声で、
「呼べよ。」
と言った。
「えっ・・・」
一瞬、空気が凍りついた。
「あら失礼、何でもありませんわ、でもせっかく私がこう呼んでほしいのに、それを断るのも失礼なのではないのですか?」
「で、では・・・あ、天照様?」
「もっと砕けた言い方にして下さいな、そうだ、恋人と思って話してくれてもよいのですよ?」
「それはさすがに・・・で、では敬語を止めさせてもらいます。」
「あら、なかなか奥手ですね。」
「はぁ、でもどうして俺の前に現れたんで・・・現れたんだ?」
「そうですね、その理由を言う前に一つお願いがあります。」
「何です・・何かな。」
「私が貴方と話した事、またこれから私が言う事は絶対に他言しないでいただけないでしょうか。」
「はい・・・うん、そんな事だったらいいよ。」
「本当ですか?約束ですよ?」
「本当だよ、約束する。」
そう言うと、天照はなにやらニヤリとして、呪文らしきものを唱え始めた、雛光がそれを見て(天照って綺麗だなぁ)と思っていると、指先が自分の方向にむいた。
「ハッ!」
天照の気合とともに彼女の指先から光が出て、雛光の体を包む、
二,三秒ほどたってからその光は消えていき、元通りになった。
「今、何をしたの?」
「約束印を付けたのよ、右の手の甲に有るでしょ?ついでに心の中でも会話が出来るようにしておいたわ。」
「ふーん、ってあれ?口調が・・・」
約束印と言うものを付けた後、天照の口調は一気にその辺の女と変わらなくなった。
「は?口調?あ〜はいはい、あれけっこう疲れるのよね〜、やっぱり威厳って言うの?そういう風にしゃべんなきゃ部下がうるさくってさ。」
前言撤回、その辺の女よりも悪い口調になった。
「え?え?」
何が起こったか分からなくなっている雛光、そのオロオロ様子を見てPBR>「ま、これからよろしく!私あんたに付いて行くから。」
と天照は勝手についていく宣言をした。
「え!仕事は?」
「仕事?ああ、あんなのみんな部下にやらせてるのよ、大事な事だけ私達[神様]がやってるわけ。」
「そ。そんなんでいいの?」
「いいのよ。」
そう言って天照は雛光の背中に覆いかぶさってきた。
すると当然ながら雛光の背中には女性特有のふくよかな膨らみが当たるわけで、雛光は真っ赤になった。
「かっわいい〜!ねぇ、気持ち良い?もっと凄い事してあげよっか?」
「い、いいよ!そ、それより付いていくってどうやって付いてくるのさ。」
雛光は話題を変えた。
「あぁ、それなら普通の格好になってついていくんだけど?」
「俺はドンガメ乗りだよ!?汗臭いしあんなところに一般人は入れないよ!」
「そんなの他から見えないようにすればいいだけじゃない、においだってさっきの光で消臭効果ばっちりよ?それどころか良い匂いしてくるんだから。」
「え・・・でも潜水艦はせまいよ。」
「小さくなればいいじゃない、必要な時に大きくなればいいし。」
「そ、そう?」
「そうよ、あぁそうだ、さっきの恋人のことだけどホントににならない?私あんた好きよ?」
「ええっ!」
雛光はますます赤くなってフラフラしてきた。
「まあいいわ、とりあえず・・・よろしくねっ!」
「えっ。」
その時の天照の顔がとても綺麗で、雛光は返事をするのが遅れてしまった。
「よろしく!」
「・・・でさ、何であんたそんな格好してんの?」
「あっ。」
第三話、終わり
〜蛇足〜
そのころ長崎では・・・
「長官!待ってくださいよ!」
「これこれ水島君、ここでは長官ではない、高野社長と呼びたまえ、変装した意味がない。」
「しかしいつ長・・社長のお命を狙う者が来てもおかしくはないのですよ!?」
「ハッハッハ!この俺がそんなものに殺されると思うか!」
「そ、そんな事はありませんが。」
「じゃあ黙って付いて来い!」
「はっ、しかし社長、どこへ向かっているんですか?」
「特戦隊(海軍極秘特別女子潜水戦隊)だ!」
「ええっ!」
「小鳥を激励に・・・もとい女を見にいくのだ!」
「行くのだっ!・・ってスケベ心じゃないですか!」
「水島君!男はみんなスケベだ!っとついたぞ。」
「ここは・・・ずいぶんデカイ工場ですけど門が閉じていますね・・・本当にここなんですか?」
「ここだよ。」
山本は閉じている出入り口に近寄り、
「おーい開けてくれ!」
と言った。すると中から女の声がした。
「どちら様ですか。」
「山本が来たと小鳥司令に言え!そうすれば分かるから!」
「・・・ここは軍の施設ではありませんし、そのような方も来ておりません、お引取り下さい。」
「なに!そんなはずは無い、俺は連合艦隊司令長官の山本だ。」
「へんなことを言うと憲兵に電話しますよ!」
「変な事ではない!事実だ。」
このやり取りの後、しばらく山本が叫んでいると、遠くからバイクの音がしてきた。
「お、水島!小鳥の奴が来たのではないか!」
「う〜ん、あ!長官違います!憲兵です、ありゃ憲兵のサイドカーです!」
「なにぃ!逃げるぞ!」
「はい!」
二人は走った、自分のために、しかし土地勘の有る憲兵のほうが上手であり、二人はまもなく捕らえられた。
「俺は海軍大将山本五十六だ〜!」
「私は海軍少尉水島信道です!放してください!」
「だまれ!連合艦隊司令長官がこんなところをほっつき歩いているわけ無いだろうが!」
この後憲兵隊の牢屋に入れられた二人だが、ちょうど用のあった海軍士官が憲兵を尋ねてきて二人を見つけ、事なきを得た。
しかし、この事で陸軍から苦情がきて頭を悩ませるのが参謀長の宇垣なのであるが、それはまた別のお話。 |