第二話 海軍極秘特別女子潜水戦隊司令官
第2話 海軍極秘特別女子潜水戦隊司令官
昭和十五年十月一日広島県呉軍港、「う〜ん、やっと着いた、汽車の旅は退屈だったなぁ。」
コキッコキッ 背筋を伸ばしながら雛光はいかにも疲れたというように首を鳴らす。
(さって、連合艦隊司令部といえば旗艦の長門だが、どうして行ったものか、極秘という事は一般の士官や兵達は知らないはずだから迎えでもよこしてくれるのかなぁ。ってゆうか迎えがなかったらどうやって行けばいいんだろう。)
そうぼんやりとこれからのことを考えていると、ふと声をかけられた。
「すいません、もしや貴方は小鳥大佐ではありませんか?」
純白の第2種軍装に少尉の階級章をつけた若い士官がなぜか少しにやけながらたずねてきた。
(おっ迎えかな?しかしなぜにやけているんだ?)
「うん、たしかに俺は小鳥だよ。」
そう言うと若い士官はやはりにやけ面のまま言った。
「私は貴方の案内役を仰せつかった水島信道少尉です、よろしくお願いします。」
水島と名乗った士官が敬礼する、雛光も答礼しながら、「よろしく、と言いたいところだが、なぜ君はニヤニヤしているんだ、失礼ではないか。」
「おっと、失礼いたしました、何せ長官から聞かされた顔とまさにそのままでしたので、少し驚いているのです。」
「長官とは山本五十六閣下か?長官はどのように仰ったのだ。」
「はい、失礼になるかもしれませんが、せっかくですので言わせていただきます、長官は私に貴方の案内役を命ぜられた時、<美人の女性が海軍の軍服を着ているからすぐ分かる。>と仰られ、まさかと思っていたところ本当に女性が軍服を着ているようでしたので、思わず笑いそうになってしまったのです。」
「女性が軍服を・・・」
雛光が急に肩を落としてしょんぼりしてしまったので水島は慌てて話をかえた。
「で、では早速ご案内します、司令部は旗艦の長門にありますのでそちらにご案内します。」
(は〜、女性か・・・長官もひどい事を仰る、たぶん水島君に悪気はないのだろうけど、それだけにへこむなぁ。)
〜連合艦隊旗艦戦艦長門最上甲板〜
連合艦隊旗艦長門に着いた雛光は、その圧倒的な存在感に思わず感嘆の声を上げた。
「うわぁさすがは長門だ!この41サンチ砲はわが海軍の誇りだな!」
自分の乗っている艦をほめられて気を良くしたのか、水島は意気揚々とそれに返答した。
「はい!竣工当時は世界最大。現在でもビッグ7の内の一つとしてその名は世界に轟いています。米英なんぞ目でもありません!」
(米英も目ではないか・・・その気持ちはわかるな、あんなデカイ砲を見せられると何でも打ち砕ける気がしてくる、しかしアメリカの力を侮ってはいけない、たとえ向こうが長門より小さい主砲できたとしても、数を多くすればこの艦だって沈むだろう、実戦での命中率もおそらくお偉方の算段より低いだろうし・・・だがひとたび戦争になればそんな事は言ってられないな、まぁいい、軍人の仕事は命令を忠実に実行するだけだ、それに用兵の仕方で数が小さいほうでも勝てる。)
「小鳥大佐、どうされましたか?」
急に黙り込んだ雛光を心配して水島が声をかける。
「いや・・・なんでもないよ、それよりも早く行こう。」
雛光は水島を先へと促した。そしてそんな雛光を見ていた兵達は急いで班長の下に走って行き事の次第を説明した。
「は、班長!女です、美人が軍服着て歩いてました!」
「じ、自分も見ました!あぁ綺麗だったなぁ。」
「自分もです班長!あんな美人はこの世に二人といません!あぁ一度でいいからあんな美人としゃべってみたいなぁ・・・」
「バカモン!女が軍艦に乗ってたまるか!だが俺は班長としてお前らの軍紀を引き締めるために確認に行く、お前らは自分の仕事をしろ!」
「班長、見たいなら見たいとはっきり仰ればいいのに。」
「だまれ!貴様ぁ教育してやろうか!」
「ヒッ申し訳ありません!」
そんな班長が兵に案内させてさっきの場所に行くと、もう雛光たちは行ってしまったのかそこにはいなかった。
「馬鹿野郎!誰もいねぇじゃねぇか!貴様らたるんどるぞ!海軍精神を注入してやる!」
班長は海軍精神注入棒、通称バッターで兵たちを教育した、哀れな兵たちは逆らえるはずもなく班長の心からの教育を受けるのであった」。
「ヒエ〜〜〜」
〜戦艦長門内、長官公室前〜
「水島君、何か聞こえなかったか?」
「いえ、何も聞こえませんが。」
「そうか、疲れてるのかな。」
「着きました、長官公室です、山本長官が居られるはずです。」
水島は長官公室のドアをノックした。
コンコン
「海軍少尉水島信道、ご命令により、小鳥雛光少佐をお連れしました。」
「おう、入れ。」
「失礼します」
二人は中に入った。
「オウ、お前が小鳥雛光か、うわさどうりの女顔だな、いや思ったよりも綺麗だ。」
「・・・ありがとうございます。」
雛光が少しムッとしながら言うと、山本は笑いながら
「すまんすまん、あまりにも美人なモンでな、男所帯だからどうしても反応してしまうんだよ。」
と言った、もう慣れているといえば慣れたが、やはり面と向かっていわれると気も悪くなるのである。
「まぁそうやって立っているのもなんだ、座れ。」
ちょうど足も疲れていたので、内心良かったと思いつつもその事は顔に出さず、「失礼します。」と小さく言って座り、一番の疑問を聞いてみた。
「長官、早速なのですが、私をここに呼んだわけをお聞かせください。」
そう、新鋭の潜水艦の艦長を解任されてまで徹底する命令だったのだ、早くその理由を聞いてみたいのは当然だった。山本は真面目な顔になると「ウム。」と言って話し始めた。
「小鳥君、君も最近の日米関係については知っていると思うがもはや戦争は避けることは出来ない、避けることが出来ないのであればどうにかして有利な形での早期講和を実現させるしか、日本が生き残れる道はない、そこで我々はアメリカ海軍の根拠地がある真珠湾を奇襲する作戦を考えた。」
「真珠湾を!?」
「そうだ、真珠湾だ、これを航空機で奇襲し、アメリカ太平洋艦隊を撃滅して、敵に重大なダメージを与えるのだ、しかしこれだけではアメリカ国民に厭戦気分を出させる事は出来ない、アメリカは完全な民主主義だ、国民が戦争をやめろと言えば、いかに大統領と言えどもそれは無視できないだから我々は国民への精神的ダメージも念頭に入れて作戦を考えた、しかしどんなに考えても真珠湾の戦果だけではむりだ、ハワイは本国から遠すぎるから対岸の火事ぐらいにしか思わんだろう、そこでだ、アメリカ本国を爆撃する計画が起案されたのだ。」
「アメリカ本国を爆撃ですって?そんな事が可能なのですか?いえ、それよりも艦隊撃滅に力を入れたほうが戦争遂行に有利になると思われますが。」
「ウム、俺も最初はそう思ったのだが、説明を聞いているうちにこれはいけると思ったのだ。」
「お聞かせください。」
「良かろう、まず先ほども言ったがアメリカは国民が戦争をしたくなくなったら戦争が出来ない国だ、そこを突くのだ。」
「あ、分かりました、アメリカは独立以来一度も敗戦や本土への攻撃を体験した事がない、それを利用して開戦直後に爆撃を与えればアメリカ世
論は一気に戦争反対へと傾くと言う事ですね?」
そうい言うと山本は笑みを浮かべて、
「その通りだ、さすがは海軍兵学校を首席で卒業しただけのことはあるな、いや、恐れ入ったよ。」
「ありがとうございます、しかしどこをどうやって爆撃するのですか?」
「それはだな、これを見てほしい。」
山本は極秘と書かれた一冊のノートを見せてきた、そこには見たことも聞いた事もない、巨大な潜水艦の写真と図面が載っていた。
「極秘 潜水空母、伊四〇〇型潜水艦・・・
排水量 基準:3,530トン
全長122メートル全幅12,0メートル
速力:水上26,7ノット、水中11,8ノット
航続距離 水上:18ノットで38,000海里、水中:9ノットで100海里
53サンチ魚雷発射管 艦首8門 40口径14サンチ単装砲1門 25ミリ3連装機銃3基 同単装1挺
乗員157名
特殊攻撃機『晴嵐』3機
安全潜航深度:130メートル
連続行動時間:約4ヶ月 ]
「す、素晴しい、こんな潜水艦が有るのならのってみたいものだ。」
「乗せてやるとも、いやこれに乗ってもらいたくてわざわざ呼んだのだからな。」
「本当ですか!!」
雛光は立ち上がって小躍りでもしそうだった、いや山本が苦笑しながら「座れ。」と言わなければ踊っていたろう、それほどに喜んでいたのである。
「落ち着いたか?」
「はい、でもまだどきどきしています。」
「ハッハッハ、喜んでもらえて何よりだ、さて、真面目に話すぞ。」
雛光は気を引き締めなおして「はい」と答えた。
「よろしい、では続けよう、現在この潜水艦は8隻竣工している、もちろん極秘でな、君にはこの8隻の潜水艦をまとめる司令官になり、また一緒に出撃してもらいたい、場所はサンフランシスコとサンディエゴだ。」
「し、司令官ですか?!確かにこんな素晴しい潜水艦に乗れることは非常に嬉しい限りですが、私はまだ少佐ですし、年も17ですし勤まるでしょうか。」
「階級については問題ない、君は9月20日付けで大佐に特進している、年のほうは海兵でもなんとかなったんだ、こっちでも大丈夫だろう、君の実力は清水からよき聞いておる、期待しているぞ。」
「清水中将が・・・ありがとうございます、粉骨砕身努力し、必ず成功させます!」
「よく言った、だが開戦までまだいくらか時間が有る、それまで訓練で腕を磨いてくれ、燃料弾薬は惜しみなく支給しよう。」
「ありがとうございます!」
雛光はこの世の春が着たようにウキウキしていたが、次の山本の言葉でフリーズした。
「おっと、いい忘れていたが、この潜水戦隊のものは全員女だ、軍令部も人員まではそんなに廻せられなかったんだろう、しかし全員軍令部選り抜きの美人だ、俺もこの前あってきたがあんな美人の森にお前が男一人で乗り込むのかと思ったら、うらやましすぎて涙が出そうになたっよ。」
「えっ・・・」
「どうした。具合でも悪くなったのか?」
雛光はしばらく固まった後、急に顔が真っ赤になって下を向いてしまった。
「ハッハッハッハ!そうか、そこはさすがに子供かぁ!」
山本は大笑いし、続けて言った
「良し!小鳥雛光大佐を、[海軍極秘特別女子潜水戦隊司令官]に任ずる!泊地は長崎である!以上!」
こうして雛光は海軍極秘特別女子潜水戦隊司令官となり、次の日には長崎へ向けて旅立っていった、長崎に有るという女子潜水戦隊には何が待ち受けているのだろうか。
〜蛇足〜
雛光が再び水島に連れられて長門を後にするとき、最上甲板の煙突のあたりで、時計を長官公室に忘れた事に気づいたので、戻ってほしいと水島に言うと
「あ、ならここで待っててください、私が取ってきます。」
と言って行ってしまった、ならばとぼんやりしていると、先ほどの班長が雛光を見つけた。
「おや?あれはもしかしてさっきあいつらが言っていた女じゃねえか?」
班長は確かに美人だという事を確かめると、なぜ女がここにいるのか考え始めた。
(なんであんな別嬪が軍艦にのっとるんだ?・・・あっ!そうか、高級将校たちが日ごろの鬱憤晴らしに慰安婦を呼んだに違いない、なら俺だってそのおこぼれに預かったていいはずだ。)
班長はそんな助平な妄想を決め付け、回りに人がいないのをいいことに女(雛光)を暗がりに連れ込んでおこぼれに預かろうとして、雛光に話しかけた。
「ウシシ、なぁ姉ちゃん、お偉方の魚雷はどうだった?不発だったんじゃねぇか?俺がドカ沈してやっから一緒に来いよ。」
そういわれてもまったく分からないお子様の雛光は、(なんか良くわかんないけどニヤニヤしてて気持ち悪いからシカトしよっと)と何気にひどい事を思いながら、シカトした。
そんな態度が気に食わない班長は。
「やい女!この俺を無視するたぁいい度胸だ!後でヒイヒイ泣いても許さねぇからな!」
と無理やり連れて行こうとするので、ついに雛光が感づいて怒った。
「貴様!兵の分際で何をするか!俺は女ではない!」
「なにぃ、女ぁいい加減にしねぇとひっぱたくぞ!」
班長が手を振りかぶって雛光を叩こうとした時、ちょうど時計を取ってきた水島と、ついでなので雛光を見送りに来た山本長官がその光景を見た、二人は同時に「「何をしておるか!」」と叫んだ。その声に反応した班長は一瞬のうちに顔が真っ青になり一目散に逃げ出そうとした、しかしそれは雛光によって阻止され、彼は長官の前に引き出された。
「小鳥!何をしておるのだ!」山本が聞く。
「私を長官達が呼んだ慰安婦だとおもってそのおこぼれに預かろうとしたようです。」雛光は正直に言った。
「なに!貴様!それでも海軍軍人か!」水島は班長を殴り飛ばした、
それを見て山本は、「水島!そいつを営倉にぶち込んでおけ!」と命じ、雛光に「怪我はないか。」と聞いた。
雛光は「はい大丈夫です。」と答え、「それでは。」と山本と水島に敬礼して長門を後にした。
雛光をのせた内火艇が遠ざかっていくのをみて、山本はボソッと「いいなぁハーレム。」と呟いた。それを聞いた水島は・・・何も聞かなかったことにした・・・ 終わり
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