ピンク髪との純愛SEX
彼女の髪はピンク色だった。
生まれつきそうらしい。医者はもちろん、時折海外から訪ねてくる科学者らしき人達にも、原因は分からなかった。
ただ髪の色が変わっているだけで、彼女はいたって普通の女の子だった。学校に通い勉強し友達と笑い、人並みに恋愛もした。
僕がその最後の男になれるかはまだ分からなかったが、少なくとも、最初の男にはなれそうだった。
歩けば床の軋むボロアパートの一室で、僕と彼女は布団の上に並んで座っていた。身動ぎすれば触れ合うような近さにいながら、僕らは互いに触れる事なくジッとしている。
隣に正座する彼女の、目の醒めるような濃いピンクの髪が震えたような気がした。たったそれだけの気配に、僕の心臓は鷲掴みされブルブルと震わされた。
震えるついでに口を開く。
「え、え、あぁ、シャワー、先、使う? え、シャワーだよ、ね、この場合」
この場合、という台詞でその場合を連想したのか、彼女は年齢よりも幼く見える顔を自身の髪よりもピンクに染めて俯いた。
僕はもう立ち上がれそうになかった。
「あ、ほら、いいよ、先にシャワー、ボロいけど」
促されて彼女が生まれたての小鹿のように立ち上がり、時折カクンと膝を曲げながら床をギシギシ鳴らし風呂場に向かった。
シャワーの音が響いている間、僕はこの緊張をどうにかしようと立ち上がって畳の上をうろうろ歩く。しかしこの先の事を考えるほどに膝の震えが増し、結局彼女がシャワーを終えた時には僕も生まれたての小鹿と化していた。
持参した青のパジャマを着た彼女に悟られないよう、膝が折れそうなのを我慢しながら風呂場に向かう。湯気の残る脱衣所は彼女の匂いに満たされていて、それを吸い込むと不思議と落ち着いた。
二回三回と念入りに、時間を稼ぐ悪あがきのように何度も体を洗う。タオルで体を拭いている頃にはまた緊張がぶり返してきて、膝どころか手も震える始末だった。
落ち着くのを諦めた僕がシャツとパンツを身に付け脱衣所を出た時、部屋の明かりは落とされていた。
中央に敷いていた布団の上に、彼女の影がある。脱衣所の明かりも落として、僕はその隣に腰を下ろした。
「見えない方が、あの、落ち着くね」
暗い方が助かるな、と僕は思った。
ぼんやりとしか見えない彼女が、俯いたまま細い声で言った。
「暗くすれば、髪が見えないから……」
その言葉を聞いた僕の体から、不思議なほどあっさりと緊張が抜け落ちた。
僕は明かりを点けて彼女の方を向いた。
目を丸くする彼女の髪を撫でる。
「大丈夫、綺麗だよ」
彼女は生まれつき髪がピンク色だった。
幼い頃から医者や科学者が彼女を訪れ、結局何も分からないまま変わった物を見る目を向けては彼女を傷付けた。
『変だよね、この髪』
話し終えた彼女がそう言った時に、僕はどうしようもなく彼女か愛おしくなったのだ。
「本当に?」
彼女が不安そうに言った。付き合い始めた頃から僕が髪の色を褒めると、彼女は必ずそう聞き返すのだった。僕はその度に「信じてもらえないなぁ」と笑って返していたが、
「本当に」
今日こそは、信じてもらえるだろう。
了