chapter4 「【私見】じゃあ、歴史小説で書きやすい時代ってあるの?」
前回は時代小説を書く際に書きやすい時代を列挙しましたが、きっと歴史小説を書きたい方の中にも気の短い方はいらっしゃるんではないでしょうか。「能書きはいいから、歴史小説を書きやすい時代ってないのか!」と。繰り返しますけど、もし筆者がこのエッセイの読者だったら、間違いなく感想欄にそう書き込んでます。
そんな気の短いあなたのために、結論から言いましょう。
ありません。
いや、「ない」というより、万人に通用するようなお答えを用意できない、というのが筆者のお答えです。
どういうことか。ご説明したいと思います。
時代小説というのは小説の舞台が“過去”である小説のことでした。一方歴史小説は、歴史的事実を主題にした小説のことです。それはこの前にご説明させて頂いたと思うのですが、時代小説と歴史小説はそのアプローチが全然違うんですね。
個人的な経験をお話しさせて頂きますと、歴史小説を書く際に、まず筆者は“誰を描くか”を考えます。とうとうたる歴史の流れの中で、なんとなくきらりと光るもの。それを流れから拾い上げてみて、眺めてみます。そして「なんて美しいのだろう」と思った瞬間には、歴史小説のプロットが完成しています。
そもそも、歴史小説の主題なりえる人物と言うのは、どこか魅力的なんです。品行方正な人もいますし、ピカレスクに生きた人もいます。平穏に生きた人もいれば花火のように一瞬だけ光輝いた人もいます。賢く生きた人もいれば愚昧に生きた人もいます。時代に流された人もいれば、時代の流れを作った人もいます。
後世の我々の目に入ってくる人たちは誰もが魅力的なのです。
歴史小説を書きたいあなたは、そういう“魅力的な人”を拾い上げてこねくり回すうちに一篇が書けてしまうのです(こう言ってはなんですが、歴史小説を書きたいあなたは、きっとかなりの歴史好きとお見受けいたします。仮に歴史好きでないにしても、その片鱗はあると思います。なので魅力的なものを見つけられない、ってことはないと思います)。
そして、ここからが問題なんです。
人によって、“魅力的な人物”というものが変わってくるんです。
それはそうですよね。だって、人間には好き嫌いがあります。賢い人が好きな人がいる半面で、鼻について嫌いだ、って人もいます。その逆だってしかり。
筆者はよく幕末を書きますが、いわゆる勝者よりも敗者を書く傾向にありますし、日向を歩いた人よりも日蔭を歩いた人を書く傾向にあります。なぜなら、筆者は敗者の側から見た歴史が好きで共感できるからであり、日蔭を歩く人間の方に魅力を感じるからです。
でも、それは筆者の趣味でしかありません。
勝者の方に魅力を感じられる方がいらっしゃるのは当然のことです。日向を歩いた人間の方に惹かれるのもまた当然です。そして、そういう人物を主題にした小説をお書きの方は沢山いらっしゃいます。
ただ、それを筆者に求められても、ただ茫然としてしまうでしょう。なぜなら、筆者は勝者や日向を歩いた人間に対してあまり共感できないからです。
もう、筆者の言わんとすることがお分かりかと思います。
人によって、得意な人物や時代が出てきてしまうんです。共感という感覚というのはきわめて個人の嗜好が出やすい分野のものであるために、十人十色になってしまいがちなんです。
で、時代考証がうんぬんというよりも、むしろ“書きたいもの/人に対してどれだけ肉薄できるか”が大事な歴史物にあっては、どの時代が書きやすいとは一概には言えないのです。書く人の個性が大きく影響してしまうために。
ただ、一般論を言わせていただくと、割と“乱世”と呼ばれる時代には魅力的な人物が多く出ています。
たとえば平安末期(源平合戦の頃)、南北朝時代、応仁の乱から始まる戦国時代~安土桃山時代、幕末・明治維新。昭和……。
特に、戦国時代と幕末・明治維新は歴史小説の二枚看板でしょう。
どちらの時代も、様々な人物が現れては消え、歴史を作っています。右を見ても左を見ても(思想的な意味ではなくてね)、魅力的な人たちであふれています。
きっと、その辺りの歴史を見渡してみれば、魅力的な人物が数多く見つかると思います。
その人物をころころと心の中でこねくり回してゆくうちに、きっとあなたの頭の中にはその人物の具体的なイメージとお話のプロットが浮かんでいるものと思います。
P.S,
実は、平和な時代にも面白い人たちはたくさん登場しています。
けれど、出版されている歴史小説の多くは乱世を扱ったものが実に多いです。“読者様からの人気”という市場原理的な理由が背後にあるのかとは思います(こう言ってはなんですけど、平和な時代に生きた人間より、どこか危うげな時代に生きた人間の方が読者様側のインパクトが強いというのは首肯して頂けると思います)。
ちなみに、「なろう」様では戦国時代をモチーフにしたほうがアクセス数が多くなるようです。リニューアル前に「アクセス数TOPの作品」という欄があったのですが、連載歴史小説の一位~五位のうち三作から四作は戦国時代の歴史小説かあるいはその時代をモチーフにしておられた作品でした。
と、いうわけで、読者様を獲得したいなら戦国時代だ! と言いたいところなんですが、戦国時代ってかなり書くのが難しい時代です。そこら辺もおいおい説明させていただくこともあろうかと思います。
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